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第2章:鳥の羽ばたく、海の彼方へ
Sing a song.
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閉じられた扉の前で、セイジは喉に詰めていた息を吐きだした。
腹の底とこめかみと、握りしめた右手が熱い。
衝動的に人を殴り飛ばしたいと思ったことなんて初めてで、自分の中にこれほど爆発的で凶暴な感情があったことに自分自身が一番驚いた。
「親の脛を齧ってるガキ」
挑発に乗ったら負けだという大人びた思想で言い返さなかったわけじゃない。事実だから言い返せなかっただけだ。
水田。最初に見た時から気に食わない男だった。先生に親し気に話しかけるのも、先生を食事だの芝居だのにしつこく誘っているのも。
先生の治療をしてくれたことには感謝するが、あんなふうに服を脱がせるなんて。
駄目だ。思考が醜くなってしまう。
セイジは意識して背筋を伸ばし、深呼吸をした。握りしめていた手から力を抜く。
今は、幼稚な嫉妬よりも先生のことだ。
押領司先生はソファに寝そべったまま軽く目を閉じていた。痛みが続いているのだろう。眉間に皺が寄っている。
声を落として「先生」と呼びかけると、薄く瞼が開かれた。
真っ黒な目はいつもより水気が多く、濡れたように潤んでいる。
高く上げた左足首に巻かれた白布が痛々しい。
「先生、ベッドに行きましょう」
「ここでいいよ」
「ここで寝たら風邪を引きますよ。捻挫にも良くありません」
痛みに響かないように小さな声でゆっくり諭すと、先生は渋々というように上体を起こした。
「分かった。部屋に行くから、肩を貸してくれ」
「貸しません」
怪訝な顔をする先生の身体の下に両腕を差し込んで、そのまま抱き上げた。
先生が身じろぎするので、脚にかけていたジャケットが落ちてしまう。
「セイジ、何するんだ。下ろせ」
「動くと落ちますよ。脚を引きずって歩くよりもこの方が早いでしょう」
先生は華奢に見えるが成人男性一人分の体重は正直きつい。平静を装いつつ、ぐらつかないように腕と腰に力を入れて脚を踏ん張った。
「先生の部屋、二階ですよね」
「二階の突き当りの、水色の扉」
諦めたのか先生は大人しく答えた。剥き出しの太腿から無理矢理目を逸らして、階段を昇る。先生の髪が頬に触れてくすぐったい。
先生をベッドに下ろして着物に着替えさせ終わると、上腕がぷるぷる震えていた。明日から真面目に筋トレをしようと心に誓う。
ベッドに入ると少し落ち着いたのか、先生はセイジに視線を向けた。
「俺が捻挫をしたこと、梅子に聞いたのか?」
「梅子ちゃんは急用が出来たとしかいいませんでしたよ」
「じゃあどうしてここに?」
「今朝焼いたケーキが、俺史上最高傑作だったので。うちに来られないのなら、後で食べてもらおうと思って持ってきたんです」
窓際には椅子があったけれど、ベッドの横に膝をついて先生と視線を合わせた。
「……ねえ先生、どうして怪我をしたんだって言ってくれなかったんですか」
先生は視線を天井に向け、「心配をかけたくなかったんだよ」と呟いた。
「俺は、先生のことを心配したいです。先生が怪我をしているのに、俺じゃなくてあのおっさんが側にいるとか、すげえ嫌でした」
「水田先生はお医者様だよ」
「分かっています。すみません」
「それから、汚い言葉を使っては駄目だよ。君の英語はとても綺麗なんだから、日本語も同じように、ね」
優しい説教をくれる先生の頬は、先ほどより赤みが指していた。瞳も潤んだままだし、熱が出ているのかもしれない。
「先生、少し額を触りますね」
断ってから掌を額に当てると、じんわり熱を持って皮膚も汗をかいている。触れ合う皮膚の温度差にか、先生はふうっと息を吐いた。
「君の手、冷たくて気持ちいい」
「なら良かったです」
「水田さんの時は嫌だったのに」
「は?」
汚い言葉は駄目だと言われたばかりなのに、思わず品のない返しをしてしまった。
「どういうことですか」
「さっき、先生が足をさすってくれてたんだけど、それがちょっと嫌だったんだ」
あの男。やっぱりぶっ飛ばしておけば良かった。
「先生。あの人には気を付けてください」
「気を付ける? 何をだよ」
「先生のことを邪な目で見ています」
「水田先生には婚約者がいらっしゃるし、俺は男だよ」
先生は呆れたように苦笑するが、何も分かっていないのは先生の方だ。
「俺は男だけど、男の先生が好きですよ」
「そんな酔狂は君だけだ」
本当に俺だけならどんなにいいことか。
そう独り言ちて、セイジはカーテンを閉めた。
「先生、もう休んでください。熱が上がりますよ」
先生は瞼を閉じたが、いつまで経っても眠れないようだった。
先生の部屋は窓が大きくて、本棚には外国の本が沢山並んでいる。なんとなくシンプルな部屋をイメージしていたが、想像とは違って装飾品の多い部屋だった。散らかっているわけではないが、壁には絵や地図が飾られているし、棚や机には異国風のランプや置物、小箱なんかが並んでいる。
港町の部屋は静かで、窓が大きい分、打ち付ける雨音もよく響いた。夜はまだ遠く、部屋はぼんやりと明るい。
側にいない方が眠れるのかなと席をはずそうとしたら、中弥は目を閉じたまま言った。
「セイジ、何か、歌を歌ってくれないか?」
「歌ですか?」
「雨音は嫌いなんだ。雨の日は頭が痛くなるから。今日もそれで脚立から落ちた」
「何か、レコードをかけましょうか」
「蓄音機なんて高価なもの、うちにはないよ」
「すみません。ええと、じゃあ、どんな歌がいいですか」
「楽しい曲がいいな」
少し考えてから、「あんたがたどこさ、ひごさ、ひごどこさ」と出だしを歌うと、先生はぱっと目を開けてこちらを見た。きょとんとした様子が可愛らしい。
「え? おかしかったですか?」
「いや、悪い、何もおかしくない。選曲が意外すぎて」
「すみません、しんどい時は母国語の歌の方がいいかと思ったんですけど、日本の歌はあまり知らなくて」
先生は優しい声で「ありがとう」と言った。それから、続きを歌ってとも。
あんたがたどこさ ひごさ ひごどこさ 熊本さ 熊本どこさ せんばさ
せんばやまには狸がおってさ それをりょうしがてっぽうでうってさ 煮てさ 焼いてさ 食ってさ それをこのはでちょいとかぶせ・・
耳で覚えた歌だから歌詞や音程が正しいのか不安だったが、なんとか最後まで歌い切った。
「ありがとう。どこで覚えたんだ?」
「母が、よく歌っていたので」
「夫人が? 信じられないな」
先生はおそらくグレナリー夫人のことを思い浮かべているのだろう。
「先生。今度、この歌の意味を教えてくれませんか」
「意味を知らないで歌ってたのか?」
「耳で覚えただけなので。猟師の歌だということは分かるんですけど」
「猟師? ああ、狸だもんな」
「さ、今度こそちゃんと寝てください」
それから、知っている童謡を何曲か口ずさんでいるうちに、先生の呼吸が寝息に変わった。
すうすうと規則正しい呼吸。痛みが引いているのか、寝顔が穏やかなことに安心する。
先生の側にいると心地が良い。先生が笑うのを見ると、胸がぎゅっと掴まれる感じがする。その度に、好きだなと思う。
触れて抱きしめてキスをして全身でその素肌に触れたい。時々、無性にそういう衝動に駆られる。
自分が焼いた菓子を先生が口に運ぶ時や、テキストをなぞる先生の指の先、その小さな爪に陽の光が当たった時なんかに。不意に。
枕の上、艶のある黒髪が鼓動に合わせて小刻みに動いている。
髪を梳いて額を撫でたいけれど、起こしたくはない。
頬の皮膚は薄そうで、少しだけ開いた唇は小さくて。
キス、したいな。いつもみたいに頬や額への戯れではなく、唇に。したら起きるだろうか。起きたら怒られるだろうか。
セイジはベッドをきしませないように慎重に顔を近づける。
至近距離まで近づくと先生の匂いが分かった。
抱き上げた時も感じた匂い。ミルクのようにかすかに甘く、なんだか可愛らしい感じの匂い。
先生の鼻から漏れる呼吸が鼻先に触れてくすぐったい。
「ん……」
先生が声を漏らした。起こしたかと思って慌てて顔を離すが、寝息は規則正しいままだ。
寝言かな。
「……ん、たぬ、き」
思わず吹き出しそうになった。声を漏らさないように口を押えて笑う。
狸って。どんな夢を見ているんだか。歌の影響を受けすぎだ。
ベッドの横でうとうとしていると、いつの間にか朝になっていたらしい。
控えめなノックの音がしたので扉を開けると、洋装にエプロン姿の梅子が立っていた。セイジの姿を認めると、目を丸くしてその場でぴょんと跳ねた。
「セイジ君!」
「おはよう、梅子ちゃん」
「びっくりしたあ。どうしてここに?」
顛末を離すと、梅子は、あらそうだったのあらあらそうと中年のご婦人のような相槌を打った。
梅子は梅子で、中弥のことが心配でいつもの出勤時間よりも早めに来たのだと言う。
中弥はまだ眠っていたのでそのまま寝かせておくことにした。階下に降りると、梅子は熱い紅茶を煎れて、トーストと目玉焼きの朝食を振舞ってくれた。
「セイジ君、一晩中、中弥君の部屋いたの?」
「うん。先生の寝顔を見てたら、俺もいつの間にか寝ちゃってた」
「セイジ君が部屋に入ることに、中弥君は何も言わなかった?」
「何もって?」
質問の意味が分からずにいると、梅子はにんまりと笑った。
「中弥君はね、自分の部屋に他の人を入れたことないのよ。私や叔父様だって入ったことないのに」
「それって、どういうこと?」
「さあねー、中弥君に聞いてみれば?」
はぐらかして、梅子は目玉焼きをトーストに乗せてかぶりついた。
いつの間にか雨はやんでいて、濡れた窓の向こうに虹が見えた。
腹の底とこめかみと、握りしめた右手が熱い。
衝動的に人を殴り飛ばしたいと思ったことなんて初めてで、自分の中にこれほど爆発的で凶暴な感情があったことに自分自身が一番驚いた。
「親の脛を齧ってるガキ」
挑発に乗ったら負けだという大人びた思想で言い返さなかったわけじゃない。事実だから言い返せなかっただけだ。
水田。最初に見た時から気に食わない男だった。先生に親し気に話しかけるのも、先生を食事だの芝居だのにしつこく誘っているのも。
先生の治療をしてくれたことには感謝するが、あんなふうに服を脱がせるなんて。
駄目だ。思考が醜くなってしまう。
セイジは意識して背筋を伸ばし、深呼吸をした。握りしめていた手から力を抜く。
今は、幼稚な嫉妬よりも先生のことだ。
押領司先生はソファに寝そべったまま軽く目を閉じていた。痛みが続いているのだろう。眉間に皺が寄っている。
声を落として「先生」と呼びかけると、薄く瞼が開かれた。
真っ黒な目はいつもより水気が多く、濡れたように潤んでいる。
高く上げた左足首に巻かれた白布が痛々しい。
「先生、ベッドに行きましょう」
「ここでいいよ」
「ここで寝たら風邪を引きますよ。捻挫にも良くありません」
痛みに響かないように小さな声でゆっくり諭すと、先生は渋々というように上体を起こした。
「分かった。部屋に行くから、肩を貸してくれ」
「貸しません」
怪訝な顔をする先生の身体の下に両腕を差し込んで、そのまま抱き上げた。
先生が身じろぎするので、脚にかけていたジャケットが落ちてしまう。
「セイジ、何するんだ。下ろせ」
「動くと落ちますよ。脚を引きずって歩くよりもこの方が早いでしょう」
先生は華奢に見えるが成人男性一人分の体重は正直きつい。平静を装いつつ、ぐらつかないように腕と腰に力を入れて脚を踏ん張った。
「先生の部屋、二階ですよね」
「二階の突き当りの、水色の扉」
諦めたのか先生は大人しく答えた。剥き出しの太腿から無理矢理目を逸らして、階段を昇る。先生の髪が頬に触れてくすぐったい。
先生をベッドに下ろして着物に着替えさせ終わると、上腕がぷるぷる震えていた。明日から真面目に筋トレをしようと心に誓う。
ベッドに入ると少し落ち着いたのか、先生はセイジに視線を向けた。
「俺が捻挫をしたこと、梅子に聞いたのか?」
「梅子ちゃんは急用が出来たとしかいいませんでしたよ」
「じゃあどうしてここに?」
「今朝焼いたケーキが、俺史上最高傑作だったので。うちに来られないのなら、後で食べてもらおうと思って持ってきたんです」
窓際には椅子があったけれど、ベッドの横に膝をついて先生と視線を合わせた。
「……ねえ先生、どうして怪我をしたんだって言ってくれなかったんですか」
先生は視線を天井に向け、「心配をかけたくなかったんだよ」と呟いた。
「俺は、先生のことを心配したいです。先生が怪我をしているのに、俺じゃなくてあのおっさんが側にいるとか、すげえ嫌でした」
「水田先生はお医者様だよ」
「分かっています。すみません」
「それから、汚い言葉を使っては駄目だよ。君の英語はとても綺麗なんだから、日本語も同じように、ね」
優しい説教をくれる先生の頬は、先ほどより赤みが指していた。瞳も潤んだままだし、熱が出ているのかもしれない。
「先生、少し額を触りますね」
断ってから掌を額に当てると、じんわり熱を持って皮膚も汗をかいている。触れ合う皮膚の温度差にか、先生はふうっと息を吐いた。
「君の手、冷たくて気持ちいい」
「なら良かったです」
「水田さんの時は嫌だったのに」
「は?」
汚い言葉は駄目だと言われたばかりなのに、思わず品のない返しをしてしまった。
「どういうことですか」
「さっき、先生が足をさすってくれてたんだけど、それがちょっと嫌だったんだ」
あの男。やっぱりぶっ飛ばしておけば良かった。
「先生。あの人には気を付けてください」
「気を付ける? 何をだよ」
「先生のことを邪な目で見ています」
「水田先生には婚約者がいらっしゃるし、俺は男だよ」
先生は呆れたように苦笑するが、何も分かっていないのは先生の方だ。
「俺は男だけど、男の先生が好きですよ」
「そんな酔狂は君だけだ」
本当に俺だけならどんなにいいことか。
そう独り言ちて、セイジはカーテンを閉めた。
「先生、もう休んでください。熱が上がりますよ」
先生は瞼を閉じたが、いつまで経っても眠れないようだった。
先生の部屋は窓が大きくて、本棚には外国の本が沢山並んでいる。なんとなくシンプルな部屋をイメージしていたが、想像とは違って装飾品の多い部屋だった。散らかっているわけではないが、壁には絵や地図が飾られているし、棚や机には異国風のランプや置物、小箱なんかが並んでいる。
港町の部屋は静かで、窓が大きい分、打ち付ける雨音もよく響いた。夜はまだ遠く、部屋はぼんやりと明るい。
側にいない方が眠れるのかなと席をはずそうとしたら、中弥は目を閉じたまま言った。
「セイジ、何か、歌を歌ってくれないか?」
「歌ですか?」
「雨音は嫌いなんだ。雨の日は頭が痛くなるから。今日もそれで脚立から落ちた」
「何か、レコードをかけましょうか」
「蓄音機なんて高価なもの、うちにはないよ」
「すみません。ええと、じゃあ、どんな歌がいいですか」
「楽しい曲がいいな」
少し考えてから、「あんたがたどこさ、ひごさ、ひごどこさ」と出だしを歌うと、先生はぱっと目を開けてこちらを見た。きょとんとした様子が可愛らしい。
「え? おかしかったですか?」
「いや、悪い、何もおかしくない。選曲が意外すぎて」
「すみません、しんどい時は母国語の歌の方がいいかと思ったんですけど、日本の歌はあまり知らなくて」
先生は優しい声で「ありがとう」と言った。それから、続きを歌ってとも。
あんたがたどこさ ひごさ ひごどこさ 熊本さ 熊本どこさ せんばさ
せんばやまには狸がおってさ それをりょうしがてっぽうでうってさ 煮てさ 焼いてさ 食ってさ それをこのはでちょいとかぶせ・・
耳で覚えた歌だから歌詞や音程が正しいのか不安だったが、なんとか最後まで歌い切った。
「ありがとう。どこで覚えたんだ?」
「母が、よく歌っていたので」
「夫人が? 信じられないな」
先生はおそらくグレナリー夫人のことを思い浮かべているのだろう。
「先生。今度、この歌の意味を教えてくれませんか」
「意味を知らないで歌ってたのか?」
「耳で覚えただけなので。猟師の歌だということは分かるんですけど」
「猟師? ああ、狸だもんな」
「さ、今度こそちゃんと寝てください」
それから、知っている童謡を何曲か口ずさんでいるうちに、先生の呼吸が寝息に変わった。
すうすうと規則正しい呼吸。痛みが引いているのか、寝顔が穏やかなことに安心する。
先生の側にいると心地が良い。先生が笑うのを見ると、胸がぎゅっと掴まれる感じがする。その度に、好きだなと思う。
触れて抱きしめてキスをして全身でその素肌に触れたい。時々、無性にそういう衝動に駆られる。
自分が焼いた菓子を先生が口に運ぶ時や、テキストをなぞる先生の指の先、その小さな爪に陽の光が当たった時なんかに。不意に。
枕の上、艶のある黒髪が鼓動に合わせて小刻みに動いている。
髪を梳いて額を撫でたいけれど、起こしたくはない。
頬の皮膚は薄そうで、少しだけ開いた唇は小さくて。
キス、したいな。いつもみたいに頬や額への戯れではなく、唇に。したら起きるだろうか。起きたら怒られるだろうか。
セイジはベッドをきしませないように慎重に顔を近づける。
至近距離まで近づくと先生の匂いが分かった。
抱き上げた時も感じた匂い。ミルクのようにかすかに甘く、なんだか可愛らしい感じの匂い。
先生の鼻から漏れる呼吸が鼻先に触れてくすぐったい。
「ん……」
先生が声を漏らした。起こしたかと思って慌てて顔を離すが、寝息は規則正しいままだ。
寝言かな。
「……ん、たぬ、き」
思わず吹き出しそうになった。声を漏らさないように口を押えて笑う。
狸って。どんな夢を見ているんだか。歌の影響を受けすぎだ。
ベッドの横でうとうとしていると、いつの間にか朝になっていたらしい。
控えめなノックの音がしたので扉を開けると、洋装にエプロン姿の梅子が立っていた。セイジの姿を認めると、目を丸くしてその場でぴょんと跳ねた。
「セイジ君!」
「おはよう、梅子ちゃん」
「びっくりしたあ。どうしてここに?」
顛末を離すと、梅子は、あらそうだったのあらあらそうと中年のご婦人のような相槌を打った。
梅子は梅子で、中弥のことが心配でいつもの出勤時間よりも早めに来たのだと言う。
中弥はまだ眠っていたのでそのまま寝かせておくことにした。階下に降りると、梅子は熱い紅茶を煎れて、トーストと目玉焼きの朝食を振舞ってくれた。
「セイジ君、一晩中、中弥君の部屋いたの?」
「うん。先生の寝顔を見てたら、俺もいつの間にか寝ちゃってた」
「セイジ君が部屋に入ることに、中弥君は何も言わなかった?」
「何もって?」
質問の意味が分からずにいると、梅子はにんまりと笑った。
「中弥君はね、自分の部屋に他の人を入れたことないのよ。私や叔父様だって入ったことないのに」
「それって、どういうこと?」
「さあねー、中弥君に聞いてみれば?」
はぐらかして、梅子は目玉焼きをトーストに乗せてかぶりついた。
いつの間にか雨はやんでいて、濡れた窓の向こうに虹が見えた。
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