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番外編
番外編:バレンタインストーリー(白魔術士ルキアーノの場合)★
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王宮都市アクアイルの繁華街にあるロレンツォの酒場で、白魔術士ルキアーノはひとりウィスキーを傾けていた。
オシャレには一家言ある彼の今日のファッションコンセプトは、「イケてるオヤジは小物で遊ぶ」。
ネイビーのジャケットとパンツはかっちり目だが、タイは細いニット地のもので、足元はビビッドなオレンジのスニーカーだ。小粋なドレスダウンである。
数か月前であれば、好みの男-ルキアーノはゲイだ-がいないかと酒場を見回すのだが、今はもうそんなことはしない。彼には美しい恋人がいるのだ。
50歳も近い中年男がひとりでウィスキーを飲んでいるからといって、渋いシーンを想像してはいけない。彼が熱心に読みふけっているのは、月刊誌「パーティ☆マニア」のバレンタイン特集である。
「なあ、どの店のがいいと思う?」
見開きの誌面を飾る色とりどりのチョコレートを真剣に吟味するルキアーノに、マスターのロレンツォは呆れ顔だ。
「どこのだって大差ないでしょ。大事なのは気持ちよ」
「そうは言うけど、どうせならあいつが一番好きそうなチョコレートを贈りたい」
ルキアーノは、王宮都市アクアイルから遠く離れた天女の里セレスに住む恋人に思いをはせる。二回りも年下の美しい恋人。吟遊詩人の彼は、今もリュートを奏でているのだろうか。
「はいはい、ご馳走様」
肩をすくめたロレンツォは、カウンターの中から小さな箱を取り出した。こげ茶色のパッケージに白いリボンが巻かれている。
「なんだよ、これ」
「うちで特別に販売してるチョコレート。良かったら試してみない? 味も効果も保証付きよ」
「美味いのか?」
「それはもう」
自信満々である。
ルキアーノはしばし思案する。
ロレンツォは調子のいいオネエだが、商売には熱心だし、客に変なものは売りつけないだろう。
どれがいいのかよく分からない菓子屋からひとつを選ぶより、知り合いの店で購入する方がいいといえばいい。
「いくらだ」
「5千ギル」
「結構すんのな」
「質相応のお値段よ。チョコレートは9粒入ってるけど、真ん中のピンクのチョコレートは必ず彼に食べてもらってね」
妙な指示にルキアーノは首を傾げながらも頷いた。
「ああ、分かった」
「バレンタイン、楽しんで」
ロレンツォは小箱を紙袋に入れると、ウィンクをしてルキアーノを送り出した。
翌日。風の月(2月)14日。
ジョージの食堂で食事をテイクアウトし、ワインを買って、ルキアーノはうきうきと恋人の家へ向かった。
吟遊詩人リュイが住む天女の里セレスまでは、約800キロの道のりだが、ルキアーノは白魔術士なので、どんな距離も障害にならない。
移動魔法を唱えると、瞬時にリュイの家の前に到着した。
「いらっしゃい」
扉を開けてくれたリュイは、白のロングスカートに鶯色のマントを羽織っていた。吟遊詩人の衣装だ。
びっくりするくらい整った顔立ちにほっそりとした肢体。肌は白く滑らかで、唇が濡れたように赤い。
金髪の巻き毛が肩のあたりでふわふわと揺れている。
相変わらずの可愛さに今すぐにでも押し倒したい衝動にかられるが、ルキアーノはぐっと我慢して、部屋に入った。
酒と食事はテーブルに置き、チョコレートの入った紙袋を差し出す。
「なに? プレゼント?」
言いながらリュイは小箱の蓋を開けると、目を瞬いた。
「珍しいな、チョコレートなんて。どうしたんだ?」
その質問に、ルキアーノはずっこけそうになる。
「14日だろ、今日」
「そうだけど」
「バレンタインデーだろ」
「何の日?」
「あー、そっか。セレスにはそんな文化ないのか」
ルキアーノはがしがしと頭を掻いた。
セレスに住む天女は女人一族で、里も男子禁制である。
男性と恋愛をするという概念がないので、チョコレートを贈って愛を告白するというお膳立て行事は必要ないのだ。
天女と人間の間に生まれた禁忌の子であるリュイは、天女の血を引いているがれっきとした男性なので、里の中に入ることを許されていない。
彼の家は、天女の里の敷地外にある森の中の小屋で1人で住んでいる。
ルキアーノがバレンタイン・デーとは何ぞやを懇切丁寧に説明すると、リュイはおかしそうに笑った。
「それで、あんたは女性でもないのに僕にチョコレートをくれるんだ」
「愛する人に贈るんだから、おまえ以外にあげる相手なんていない」
「役割的には、僕の方があげるべきだったのかな」
リュイが首をかしげる。その様子が可愛らしくて、首筋に口づけた。
「どっちでもいいさ」
小箱には丸いチョコレートが詰まっていて、ロレンツォの言ったとおり、真ん中のチョコレートだけがピンク色だった。
ルキアーノはそのハート型の一粒をつまむと、リュイの口元に差し出した。
リュイは素直に口を開き、立ったままもぐもぐと咀嚼する。
粒が大ぶりだったのか、頬を膨らませて食べる様子はリスのようだ。
動く唇に啄むようなキスをしてから、ルキアーノはそれ以上手を出さないように、すぐに離れた。
夜は長い。
飲み食いして、お喋りをして、夜が更けてからベッドへ行って、たっぷり楽しもう。
そのつもりだったのに、1杯目のワインを飲み乾したあたりから、リュイの様子がおかしくなった。
頬が上気して、瞳は潤み、呼吸は荒い。
「なんだ、もう酔ったのか。おまえ、1杯くらいで酔うほど弱くなかっただろ」
からかうルキアーノに、リュイは眉を顰めた。
「なんか、身体、熱い。風邪かな」
「どっか痛いとこあるか? 喉とか節々とか」
「いや。しんどくもないし、咳も鼻水も全然」
顔が赤らんでいるから、熱があるのだろうかと掌をリュイの額に当てると、リュイは「ひゃっ」と妙な声を上げた。
ルキアーノはどきりとする。
この反応の仕方は、よく知っていた。ベッドの中で。
「味も効果も保証付きよ」
ロレンツォの意味深な言葉を思い出し、ルキアーノはチョコレートのパッケージに手を伸ばした。同梱の紙片に描かれている成分表示を読む。
「やっぱり…」
小さな文字の羅列の中に、ある媚薬の名前があった。
「やっぱり、何?」
リュイの声は弱々しく掠れている。
「いや、なんでもない」
「僕、少し横になる」
リュイはベッドへ向かうと、マントを外して丸くなった。涙目になって、唇を噛み、何かを我慢するように細い身体をふるふると震わせている。
その姿は壮絶に色っぽい。
ロレンツォの奴。……グッジョブ!
ルキアーノはベッドに移動すると、リュイの身体を引き起こした。後ろから覆いかぶさり、両脚の間にリュイの身体を挟む。
「なにすんだよっ」
抵抗するリュイは、下半身を庇うように身を屈めるが、しっかり反応しているのが布越しに見えている。
「つらいだろ、手伝ってやる」
ルキアーノが耳元で低く囁くと、リュイはぶるりと震えた。
吟遊詩人の衣装の裾から手を差し込み、固く立ち上がった恋人のペニスを握り込む。
先っぽは既にとろとろに濡れている。その先走りを亀頭にも竿にも塗り付けて、滑りをよくした。
右手を強めに上下させると、リュイはびくびくと震える。
「やっ、やだっ。・・・それ、やめろって」
「やじゃないだろ。こんなに完勃ちさせといて」
竿の裏筋を存分にこすった後、亀頭を押しながら人差し指で尿道を刺激する。リュイの好きなことは全部知っているのだ。
「あっ、むりむりむりっ。やだあっ。もう、俺、やばっ」
これはすぐにでもイきそうだ。媚薬のせいだろう。いつもより随分早い。
「いいよ、イって」
耳元に低く囁き、露わになっている白い首筋をがぶりと噛む。
リュイは「はあああっんっ!」と艶めかしい声を上げた。
手の中のペニスが震え、どくどくと精液が溢れ出てくる。
最後の一滴を出し切るようにしごいてやると、リュイはまた喘いだ。
ルキアーノは、手のひらに溜まった精液をリュイの股間や尻の間に塗り付けた。
「膝、立てて」
指示すると、リュイは大人しく四つん這いになる。その頭を押さえつけて枕に顔を埋めさせる。
尻だけを高く上げた姿勢は視覚効果絶大だ。
薬のせいで、リュイの下半身は熱を持っているようだ。
尻を割ると、蕾の縁は赤く染まり物欲しげに震えていた。今すぐにでも入りそうだ。
精液を塗りこめるように、指を差し入れると、驚くほどスムーズに飲み込まれていく。
中は熱くうねっていて、ほぐす必要がないくらいに柔らかい。
媚薬を飲んだからといって、触りもせずにこんなにとろけないだろう。
「これ、自分でいじったのか?」
意地悪く聞くと、リュイは枕に顔を埋めたまま呟いた。
「知るかっ」
口の悪い恋人を鳴かせるため、ルキアーノは指を増やした。
二本の指で、前立腺のしこりを何度も何度も揉むように擦り上げる。
「おまえっ、そこやめろっていつも言ってるだろっ。あっ、あん。ふ、はあっんっ!」
「やめてほしいのかいいのかどっちだよ」
絶えまない声は甘く、ずっと聞いていたい。
同じ動きを繰り返す手は段々だるくなってくるが、全く苦にならない。
自分の動きで、この美しい少年が乱れる様はなんともいいようのない満足感をもたらしてくれる。
リュイの細い腰が揺らめき出した。
「あっあっ、やだっ。またイっちゃうからっ。やああっ……」
身もだえするリュイに構わず、容赦なく中を擦り上げると、リュイのペニスからぱたぱたと液体が溢れだした。先ほどよりもずっと透明度が高く、さらっとしている。
身体を支えていられなくなったのだろう。リュイは小鹿のように足を倒すと、ベッドに崩れ落ちた。はくはくと下手な呼吸を繰り返している。
しばらくその様子を眺めていると、二度も達したというのに、リュイのものはまた緩く勃ちあがり始めた。
効果、強すぎじゃないか、これ。
顔に張り付く金色の髪をかき上げてやると、その少しの接触にも、リュイはぴくりと震える。心配になるほどの感じぶりである。
いつもは、年上のルキアーノが驚くほど性に積極的で奔放なリュイだが、今日は大人しくルキアーノのされるがままになっている。
自らルキアーノを責める余裕がないくらい、快楽が身体の中に溢れているのだろう。
ルキアーノは口元を歪める。
リュイは、まだまだ足らなくて足らなくて仕方ないという物欲しそうな目つきでルキアーノを見上げている。
正直、そそる。征服感が半端ない。
ルキアーノは指先をリュイの尻穴に滑らせると、柔らかくなった襞を丁寧になぞっていく。
「ねえっ、ルキアーノ。もう、ほしいっ……」
すり合わせる両腿の間で、屹立したペニスが揺れている。禁忌の子供として人外の美しさに恵まれたリュイは、ペニスまで上品で綺麗だ。
「欲しいのか?」
繰り返して聞くと、リュイはこくりと頷いた。
「じゃあ、自分で準備しようか」
リュイは懇願するような眼差しをしていたが、ルキアーノが動かないのを見てとると、肢体を起こし、ルキアーノの股間に顔を寄せた。
リュイのなまめかしい姿態に、ルキアーノのものはずっと固く張りつめている。先走りでてらてらとぬめる棒が、リュイの小さな口に飲み込まれていく。
「……っ」
ルキアーノは息を詰めた。
薬で朦朧としていても、絶妙な舌使いは変わらない。
射精を遅らせようと、最高レベルの黒魔術の呪文を頭の中で復習していたが、どうにも我慢できなくなって、リュイの顔を遠ざけた。
このまま顔にぶちまけるのもいいが、それよりもリュイの中の方が魅力的だ。
リュイの身体を優しく倒すと、正常位で腰を進めた。
顔が見えて、この男を抱いているのだという実感があって、ルキアーノが一番好きな体位だ。
十分にとろけていたリュイの蕾は、絡みつくようにルキアーノを飲み込んでいく。熱くて、締め付けが凄い。
気持ちよすぎて、どうにかなりそうだ。
ずっと泣いているので、リュイの目元は赤く染まり、唇はだらしなく開いている。
我慢できず、ルキアーノが激しく腰を動かすと、リュイのペニスから液体がぴっぴっと飛び出した。視覚的に、エロすぎる。
「なあ、もうイきそうだ」
ルキアーノが囁くと、リュイは少し微笑んだ。
「いいよ。中に、出して」
その甘い誘惑に、下半身に血が集まり、爆発した。
まさに天に昇るような快感だった。
ルキアーノは声を上げながら、精を出し切る。
気持ちの良すぎる長い射精が終わると、次に混み上げてきたのは猛烈な愛おしさだった。
自分の下で快感に震える恋人が、愛しくて仕方がない。
好きで好きで、胸が痛いくらいだ。
齢50にもなるというのに、ルキアーノは目頭が熱くなるのを感じる。
リュイは涙ぐむルキアーノに驚いたようだったが、男泣きには触れずに囁いた。
「来年は、俺がチョコレートをあげるから」
優しい口調に、身体がずくんと震えた。
「えっ、ちょっと待って、なんでまたっ……!」
挿れたままのルキアーノの形の変化を感じ取ったのだろう。
リュイが慌てたように腰を引く。その細腰を押さえつけ、ルキアーノはゆっくり前後に身体を動かす。
「リュイだって、まだ足らないだろう。媚薬、まだ抜けてないだろうし」
それを聞いたリュイの顔が険しくなる。
「え。何、媚薬って。あんた、まさかチョコにっ……!」
抵抗するリュイを黙らせるように腰を激しく動かすと、リュイは溜まらずまた甘い声を上げてくれる。
「やあっ、はあんんっ。こら、ちょっと待てって。やっ、あっ、ああん。……このエロ親父っ!!」
生意気な口を塞ぐと、精液とチョコレートの味がして、にがくてあまかった。
(了)
オシャレには一家言ある彼の今日のファッションコンセプトは、「イケてるオヤジは小物で遊ぶ」。
ネイビーのジャケットとパンツはかっちり目だが、タイは細いニット地のもので、足元はビビッドなオレンジのスニーカーだ。小粋なドレスダウンである。
数か月前であれば、好みの男-ルキアーノはゲイだ-がいないかと酒場を見回すのだが、今はもうそんなことはしない。彼には美しい恋人がいるのだ。
50歳も近い中年男がひとりでウィスキーを飲んでいるからといって、渋いシーンを想像してはいけない。彼が熱心に読みふけっているのは、月刊誌「パーティ☆マニア」のバレンタイン特集である。
「なあ、どの店のがいいと思う?」
見開きの誌面を飾る色とりどりのチョコレートを真剣に吟味するルキアーノに、マスターのロレンツォは呆れ顔だ。
「どこのだって大差ないでしょ。大事なのは気持ちよ」
「そうは言うけど、どうせならあいつが一番好きそうなチョコレートを贈りたい」
ルキアーノは、王宮都市アクアイルから遠く離れた天女の里セレスに住む恋人に思いをはせる。二回りも年下の美しい恋人。吟遊詩人の彼は、今もリュートを奏でているのだろうか。
「はいはい、ご馳走様」
肩をすくめたロレンツォは、カウンターの中から小さな箱を取り出した。こげ茶色のパッケージに白いリボンが巻かれている。
「なんだよ、これ」
「うちで特別に販売してるチョコレート。良かったら試してみない? 味も効果も保証付きよ」
「美味いのか?」
「それはもう」
自信満々である。
ルキアーノはしばし思案する。
ロレンツォは調子のいいオネエだが、商売には熱心だし、客に変なものは売りつけないだろう。
どれがいいのかよく分からない菓子屋からひとつを選ぶより、知り合いの店で購入する方がいいといえばいい。
「いくらだ」
「5千ギル」
「結構すんのな」
「質相応のお値段よ。チョコレートは9粒入ってるけど、真ん中のピンクのチョコレートは必ず彼に食べてもらってね」
妙な指示にルキアーノは首を傾げながらも頷いた。
「ああ、分かった」
「バレンタイン、楽しんで」
ロレンツォは小箱を紙袋に入れると、ウィンクをしてルキアーノを送り出した。
翌日。風の月(2月)14日。
ジョージの食堂で食事をテイクアウトし、ワインを買って、ルキアーノはうきうきと恋人の家へ向かった。
吟遊詩人リュイが住む天女の里セレスまでは、約800キロの道のりだが、ルキアーノは白魔術士なので、どんな距離も障害にならない。
移動魔法を唱えると、瞬時にリュイの家の前に到着した。
「いらっしゃい」
扉を開けてくれたリュイは、白のロングスカートに鶯色のマントを羽織っていた。吟遊詩人の衣装だ。
びっくりするくらい整った顔立ちにほっそりとした肢体。肌は白く滑らかで、唇が濡れたように赤い。
金髪の巻き毛が肩のあたりでふわふわと揺れている。
相変わらずの可愛さに今すぐにでも押し倒したい衝動にかられるが、ルキアーノはぐっと我慢して、部屋に入った。
酒と食事はテーブルに置き、チョコレートの入った紙袋を差し出す。
「なに? プレゼント?」
言いながらリュイは小箱の蓋を開けると、目を瞬いた。
「珍しいな、チョコレートなんて。どうしたんだ?」
その質問に、ルキアーノはずっこけそうになる。
「14日だろ、今日」
「そうだけど」
「バレンタインデーだろ」
「何の日?」
「あー、そっか。セレスにはそんな文化ないのか」
ルキアーノはがしがしと頭を掻いた。
セレスに住む天女は女人一族で、里も男子禁制である。
男性と恋愛をするという概念がないので、チョコレートを贈って愛を告白するというお膳立て行事は必要ないのだ。
天女と人間の間に生まれた禁忌の子であるリュイは、天女の血を引いているがれっきとした男性なので、里の中に入ることを許されていない。
彼の家は、天女の里の敷地外にある森の中の小屋で1人で住んでいる。
ルキアーノがバレンタイン・デーとは何ぞやを懇切丁寧に説明すると、リュイはおかしそうに笑った。
「それで、あんたは女性でもないのに僕にチョコレートをくれるんだ」
「愛する人に贈るんだから、おまえ以外にあげる相手なんていない」
「役割的には、僕の方があげるべきだったのかな」
リュイが首をかしげる。その様子が可愛らしくて、首筋に口づけた。
「どっちでもいいさ」
小箱には丸いチョコレートが詰まっていて、ロレンツォの言ったとおり、真ん中のチョコレートだけがピンク色だった。
ルキアーノはそのハート型の一粒をつまむと、リュイの口元に差し出した。
リュイは素直に口を開き、立ったままもぐもぐと咀嚼する。
粒が大ぶりだったのか、頬を膨らませて食べる様子はリスのようだ。
動く唇に啄むようなキスをしてから、ルキアーノはそれ以上手を出さないように、すぐに離れた。
夜は長い。
飲み食いして、お喋りをして、夜が更けてからベッドへ行って、たっぷり楽しもう。
そのつもりだったのに、1杯目のワインを飲み乾したあたりから、リュイの様子がおかしくなった。
頬が上気して、瞳は潤み、呼吸は荒い。
「なんだ、もう酔ったのか。おまえ、1杯くらいで酔うほど弱くなかっただろ」
からかうルキアーノに、リュイは眉を顰めた。
「なんか、身体、熱い。風邪かな」
「どっか痛いとこあるか? 喉とか節々とか」
「いや。しんどくもないし、咳も鼻水も全然」
顔が赤らんでいるから、熱があるのだろうかと掌をリュイの額に当てると、リュイは「ひゃっ」と妙な声を上げた。
ルキアーノはどきりとする。
この反応の仕方は、よく知っていた。ベッドの中で。
「味も効果も保証付きよ」
ロレンツォの意味深な言葉を思い出し、ルキアーノはチョコレートのパッケージに手を伸ばした。同梱の紙片に描かれている成分表示を読む。
「やっぱり…」
小さな文字の羅列の中に、ある媚薬の名前があった。
「やっぱり、何?」
リュイの声は弱々しく掠れている。
「いや、なんでもない」
「僕、少し横になる」
リュイはベッドへ向かうと、マントを外して丸くなった。涙目になって、唇を噛み、何かを我慢するように細い身体をふるふると震わせている。
その姿は壮絶に色っぽい。
ロレンツォの奴。……グッジョブ!
ルキアーノはベッドに移動すると、リュイの身体を引き起こした。後ろから覆いかぶさり、両脚の間にリュイの身体を挟む。
「なにすんだよっ」
抵抗するリュイは、下半身を庇うように身を屈めるが、しっかり反応しているのが布越しに見えている。
「つらいだろ、手伝ってやる」
ルキアーノが耳元で低く囁くと、リュイはぶるりと震えた。
吟遊詩人の衣装の裾から手を差し込み、固く立ち上がった恋人のペニスを握り込む。
先っぽは既にとろとろに濡れている。その先走りを亀頭にも竿にも塗り付けて、滑りをよくした。
右手を強めに上下させると、リュイはびくびくと震える。
「やっ、やだっ。・・・それ、やめろって」
「やじゃないだろ。こんなに完勃ちさせといて」
竿の裏筋を存分にこすった後、亀頭を押しながら人差し指で尿道を刺激する。リュイの好きなことは全部知っているのだ。
「あっ、むりむりむりっ。やだあっ。もう、俺、やばっ」
これはすぐにでもイきそうだ。媚薬のせいだろう。いつもより随分早い。
「いいよ、イって」
耳元に低く囁き、露わになっている白い首筋をがぶりと噛む。
リュイは「はあああっんっ!」と艶めかしい声を上げた。
手の中のペニスが震え、どくどくと精液が溢れ出てくる。
最後の一滴を出し切るようにしごいてやると、リュイはまた喘いだ。
ルキアーノは、手のひらに溜まった精液をリュイの股間や尻の間に塗り付けた。
「膝、立てて」
指示すると、リュイは大人しく四つん這いになる。その頭を押さえつけて枕に顔を埋めさせる。
尻だけを高く上げた姿勢は視覚効果絶大だ。
薬のせいで、リュイの下半身は熱を持っているようだ。
尻を割ると、蕾の縁は赤く染まり物欲しげに震えていた。今すぐにでも入りそうだ。
精液を塗りこめるように、指を差し入れると、驚くほどスムーズに飲み込まれていく。
中は熱くうねっていて、ほぐす必要がないくらいに柔らかい。
媚薬を飲んだからといって、触りもせずにこんなにとろけないだろう。
「これ、自分でいじったのか?」
意地悪く聞くと、リュイは枕に顔を埋めたまま呟いた。
「知るかっ」
口の悪い恋人を鳴かせるため、ルキアーノは指を増やした。
二本の指で、前立腺のしこりを何度も何度も揉むように擦り上げる。
「おまえっ、そこやめろっていつも言ってるだろっ。あっ、あん。ふ、はあっんっ!」
「やめてほしいのかいいのかどっちだよ」
絶えまない声は甘く、ずっと聞いていたい。
同じ動きを繰り返す手は段々だるくなってくるが、全く苦にならない。
自分の動きで、この美しい少年が乱れる様はなんともいいようのない満足感をもたらしてくれる。
リュイの細い腰が揺らめき出した。
「あっあっ、やだっ。またイっちゃうからっ。やああっ……」
身もだえするリュイに構わず、容赦なく中を擦り上げると、リュイのペニスからぱたぱたと液体が溢れだした。先ほどよりもずっと透明度が高く、さらっとしている。
身体を支えていられなくなったのだろう。リュイは小鹿のように足を倒すと、ベッドに崩れ落ちた。はくはくと下手な呼吸を繰り返している。
しばらくその様子を眺めていると、二度も達したというのに、リュイのものはまた緩く勃ちあがり始めた。
効果、強すぎじゃないか、これ。
顔に張り付く金色の髪をかき上げてやると、その少しの接触にも、リュイはぴくりと震える。心配になるほどの感じぶりである。
いつもは、年上のルキアーノが驚くほど性に積極的で奔放なリュイだが、今日は大人しくルキアーノのされるがままになっている。
自らルキアーノを責める余裕がないくらい、快楽が身体の中に溢れているのだろう。
ルキアーノは口元を歪める。
リュイは、まだまだ足らなくて足らなくて仕方ないという物欲しそうな目つきでルキアーノを見上げている。
正直、そそる。征服感が半端ない。
ルキアーノは指先をリュイの尻穴に滑らせると、柔らかくなった襞を丁寧になぞっていく。
「ねえっ、ルキアーノ。もう、ほしいっ……」
すり合わせる両腿の間で、屹立したペニスが揺れている。禁忌の子供として人外の美しさに恵まれたリュイは、ペニスまで上品で綺麗だ。
「欲しいのか?」
繰り返して聞くと、リュイはこくりと頷いた。
「じゃあ、自分で準備しようか」
リュイは懇願するような眼差しをしていたが、ルキアーノが動かないのを見てとると、肢体を起こし、ルキアーノの股間に顔を寄せた。
リュイのなまめかしい姿態に、ルキアーノのものはずっと固く張りつめている。先走りでてらてらとぬめる棒が、リュイの小さな口に飲み込まれていく。
「……っ」
ルキアーノは息を詰めた。
薬で朦朧としていても、絶妙な舌使いは変わらない。
射精を遅らせようと、最高レベルの黒魔術の呪文を頭の中で復習していたが、どうにも我慢できなくなって、リュイの顔を遠ざけた。
このまま顔にぶちまけるのもいいが、それよりもリュイの中の方が魅力的だ。
リュイの身体を優しく倒すと、正常位で腰を進めた。
顔が見えて、この男を抱いているのだという実感があって、ルキアーノが一番好きな体位だ。
十分にとろけていたリュイの蕾は、絡みつくようにルキアーノを飲み込んでいく。熱くて、締め付けが凄い。
気持ちよすぎて、どうにかなりそうだ。
ずっと泣いているので、リュイの目元は赤く染まり、唇はだらしなく開いている。
我慢できず、ルキアーノが激しく腰を動かすと、リュイのペニスから液体がぴっぴっと飛び出した。視覚的に、エロすぎる。
「なあ、もうイきそうだ」
ルキアーノが囁くと、リュイは少し微笑んだ。
「いいよ。中に、出して」
その甘い誘惑に、下半身に血が集まり、爆発した。
まさに天に昇るような快感だった。
ルキアーノは声を上げながら、精を出し切る。
気持ちの良すぎる長い射精が終わると、次に混み上げてきたのは猛烈な愛おしさだった。
自分の下で快感に震える恋人が、愛しくて仕方がない。
好きで好きで、胸が痛いくらいだ。
齢50にもなるというのに、ルキアーノは目頭が熱くなるのを感じる。
リュイは涙ぐむルキアーノに驚いたようだったが、男泣きには触れずに囁いた。
「来年は、俺がチョコレートをあげるから」
優しい口調に、身体がずくんと震えた。
「えっ、ちょっと待って、なんでまたっ……!」
挿れたままのルキアーノの形の変化を感じ取ったのだろう。
リュイが慌てたように腰を引く。その細腰を押さえつけ、ルキアーノはゆっくり前後に身体を動かす。
「リュイだって、まだ足らないだろう。媚薬、まだ抜けてないだろうし」
それを聞いたリュイの顔が険しくなる。
「え。何、媚薬って。あんた、まさかチョコにっ……!」
抵抗するリュイを黙らせるように腰を激しく動かすと、リュイは溜まらずまた甘い声を上げてくれる。
「やあっ、はあんんっ。こら、ちょっと待てって。やっ、あっ、ああん。……このエロ親父っ!!」
生意気な口を塞ぐと、精液とチョコレートの味がして、にがくてあまかった。
(了)
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続き、ありがとうございます😊
少しずつ絡まった糸が解けていくのをドキドキしながら見ています。
これからも楽しみにしています❣️
感想ありがとうございます。書き溜めていたものを、手直ししながら少しずつ投稿していますので、ごゆるりとお楽しみくださいませ。
この作品が最後です❗️
今連載中のも、楽しく読ませていただいてます。
応援してます。頑張って下さい❤️
他の作品を読ませていただき、過去作品に遡って読ませてもらっています。
文章の表現の仕方が大好きです😍
6話の最後、ミスカとアガサの表記が逆だと思います。立ち去るのはアガサですよね?
続きも楽しみに読ませていただきます❗️
polori様
感想ありがとうございます。
途中まで書きかけて、その後ずっと放置していた作品なので、感想いただけてびっくりしました!
6話の修正もご指摘ありがとうございます。早速修正させていただきました。
アクアイル王国は、風呂敷を広げ過ぎてしまって、当面更新の予定はないのですが、他の作品も覗いていただけると嬉しいです。