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番外編
番外編:バレンタインストーリー(王立図書館長シモンの場合)
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その日、アクアイル王立図書館館長のシモンが出勤すると、部下の女性陣が揃って待ち構えていた。
「おはようございます、館長。こちら、他の部署の女性陣からお預かりしました」
図書館付王宮女官のイーリンが差し出した大きな紙袋には、色とりどりの箱が詰まっており、カカオの甘い匂いが立ち上っている。
「朝から余分な仕事をさせて悪かったね。ありがとう」
内心うんざりしつつ、笑顔で紙袋を受け取るシモンに、イーリンは一際大ぶりな箱を差し出した。こげ茶色のシックな包装に有名菓子店の名前が入っている。
「こちらは、私達からです」
イーリンの左右に並ぶ女性職員が一斉に微笑んだ。
「ありがとう。大事にいただくよ」
シモンは押し抱くようにチョコレートの箱を受け取ると、館長室へ向かう。途中で一度振り返った。
「イーリン、今日は面会謝絶にするので、他にも届け物があったら、預かっておいてくださいね」
本日はバレンタイン・デーである。
シモンは館長室の片隅に積まれた木箱を見遣り、溜め息をついた。
箱が一杯になる度にイーリンが館長室に持ち込んでくるのだが、昼の段階で300個は超えているだろう。
これが真摯な愛の告白と共に手渡される本命チョコだったらまだ嬉しくもあるのだが、ほぼ全部が義理である。ノリである。イベントで盛り上がっているだけである。
何百ものチョコレートを貰える理由はひとつしかない。容姿だ。
シモンはとにかく見た目がいい。金髪碧眼でちょっと珍しいほどの美形で、スタイルもいい。もっともこれは、血筋であり種族の特徴である。彼の出身種族であるガラド族が-ある事件によりシモン以外の全員が惨殺されたものの-恒常的に美形が生まれる一族なのだ。
館長としてオンの時は、見た目を裏切らない王子様モードを発揮しているシモンであるが、オフでは性根も口も最悪な若者である。
「あー、ほんっとうっぜ。これ、どうすればいいんだよ。アガサはもういねえしなあ」
今も、一人きりの館長室で仮面を取っ払い、シモンは口汚く毒づいた。
アガサというのは、去年まで司書見習い兼館長秘書として王立図書館で働いていた12歳の少女だ。子供のくせに、聡明でよく気が付くスーパー秘書だった。
昨年のバレンタイン・デーにも文字通り山のようなチョコレートが届いたが、シモンがいちいち指示しなくとも、アガサはてきぱきとチョコレートの仕分けし、王宮都市内の孤児院へ寄付として配送する手続きを済ませていた。
「イーリンは仕事おせえし、雑務嫌がるから頼むのも面倒だわ。やっぱアガサ呼びつけるか」
ぶつぶつ呟きながら、手元の決裁書類に署名をしていると、扉がノックされた。
「こんにちは」
顔を覗かせたのは、国防省統合戦略局戦術課長のナツリ・マルークラだった。国防省のかっちりとした制服に身を包んだナツリは、いつも背筋がぴんと伸びていて、溌剌としている。
「ナツリさん。珍しいな、ここに来るなんて」
「王宮府で会議だったから、ついでに寄ってみたの。相変わらず忙しそうね」
シモンの机の未決ボックスには、決裁書類や書簡が10センチ以上重なっている。
「半分はルーティンの書類だし。忙しさもあんたほどじゃねーよ」
ナツリは極度のワーカホリックで、早朝から深夜まで馬車馬のように働いているのだ。
シモンは、アクアイル王国の敵国である砂漠の国デザイアの間諜であるが、実際は、アクアイル王国がデザイアに放った二重スパイであり、シモンへの任務指示や情報操作を担当しているのがナツリである。
特殊な関係かつ年が近いこともあり、シモンはナツリには本性を見せているし、時々食事に行ってはプライベートな話もする仲だ。
シモンは立ち上がると、例の木箱の元へナツリを招いた。
「ナツリさん、甘いの食うっけ。貰いもんだけど、好きなだけ持ってていいよ」
ナツリはまじまじと菓子箱の山を見つめている。
「お菓子屋でも開業するの?」
30代半ばでエリート官庁の課長職を射止めた彼女は、俗っぽい世事には疎い。冗談ではなく、本気で言っているのである。
「いやいやいや、今日、バレンタインだろ」
「ああ、そういえば、うちの女性職員もそわそわしてたわ」
「そんな他人事みたいな」
「他人事だもの。それにしてもこの量、相変わらずのモテぶりね」
「モテてねえし。俺に直接渡してきたわけでもねえし、義理だろ」
「あなた、顔だけはいいものね」
「うるさいわ」
軽口を叩き合ってから、シモンは口調を改めた。
「ナツリさん、カレシにチョコやんねえの」
ナツリは、クロードという7歳年下の軍人と付き合っている。この男、名門貴族の生まれで、最年少で中佐に昇任し、アクアイル王国軍が肝入りで新設した特殊遊撃隊の隊長を務め、おまけに気品と野生を併せ持った男前という、架空の人物のように出来すぎた男である。
ナツリはナツリで、その優秀さと気の強さで国防省内の有名人なので、この二人が付き合い始めた時は政府内でも軍内でも上から下まで噂が飛び交ったものだ。
ナツリは、チョコレートの詰まった木箱を見つめながら首を傾げた。
「あなたと一緒で売るほど貰ってるだろうし。あの人、甘いもの食べないからあげても迷惑になるでしょう」
それを聞いて、シモンは思いっきり眉をしかめた。
「おまえ、馬鹿なの」
「おまえって言わないでよ。それに私、馬鹿なんて人生で一回も言われたことないわ」
ナツリが反論するが、話がずれている。
「勉強と仕事はできても、恋愛偏差値低すぎだろ。悪いことは言わないから、今すぐ菓子屋行ってチョコレート買って、クロード中佐にあげてこい」
ナツリは困った顔で木箱を差した。
「これ、貰って嬉しかった?」
「全然。迷惑」
「でしょう」
「でしょうじゃねえよ!」
シモンは苛々して声を荒げる。
「どうでもいい相手に貰っても困るけど、恋人からは欲しいに決まってんだろ。ってか、くれなかったらマジでヘコむから」
ってかなんで、俺がこんなアドバイスしなきゃならねえんだよ。
「甘いもの嫌いでも?」
「味も質も関係ねえの。ナツリさん、王国軍イチのモテ男と付き合ってんだからさ。こういうイベントはちゃんと押さえとかないと、どっかの女にちょっかいかけられんぞ」
強めに攻撃すると、ナツリは明らかに怯んだ。
「それは、嫌」
「だろ。3つ先のブロックにあるショコラティエ、美味いって評判だから、行ってみろよ」
「・・・ありがとう」
ナツリは素直に礼を言うと、小走りに館長室を出ていった。
その後ろ姿を見送り、シモンは苦笑する。
さっき、「それは、嫌」と呟いたナツリは拗ねた子供のようで。普段、凛々しい表情と芯の通った声で仕事をするナツリからは想像できないほど、可愛らしかった。
シモンは、ナツリに対して恋愛感情なんて全く持っていないし、国のためならどんな汚れ仕事だって引き受ける怖い女、くらいにしか思っていないけれど。
それでも、ナツリから本命チョコを貰えるクロード中佐のことを、すこし羨ましいと思ってしまった。
夕方になって帰り支度をしていると、魔法学校の制服姿の少女がノックもそこそこに飛び込んできた。
燃えるような赤毛をおさげにし、緑色の聡明な目には、丸眼鏡をかけている。
最後に会った時より幾分身長が伸びたようだ。
「アガサ」
驚くシモンに、アガサは息を整えてから言った。
「まだいらっしゃって良かったです」
「ちょうど今帰るとこだったけど、どうしたんだ」
「去年よりも量が増えてますね。これ、必要だと思ったので」
木箱の量に感心しつつアガサが差し出したのは、大手輸送商会の伝票の束だった。見ると、送り主も宛先もすべて記載されている。
「イーリンさんはこういう仕事嫌がるでしょう。商会には明日の午後に集荷に来るよう頼んだので、木箱にこの伝票を結び付けておいてください。送り先は昨年と同じ孤児院10か所でいいですよね」
感動である。なんて気がきく奴だ。
「さんきゅーな。正直、どう処理しようかと思ってたから、助かったわ」
「どういたしまして」
アガサは真顔で頭を下げた。この少女は、どんなに褒められても、偉そうな顔やどうだ!という顔はしないのだ。
「それに、これも渡したかったので」
アガサは魔法学校の指定鞄から小箱を取り出した。菓子店のリボンがかかった箱は、見るからにチョコレートである。
「どうぞ」
シモンは両手で受け取った。思えば、今日初めて直接手渡されたチョコレートだった。
「ありがとう。義理でも嬉しいよ。これはちゃんと食う」
「義理じゃないですよ」
アガサは笑った。
「本命でもないだろ」
「勿論、本命はミスカですけど」
アガサは、同じ魔法学校の生徒の名前を照れ臭そうに口にしてから、続けた。
「これは、館長への尊敬と感謝の証です」
「俺がスパイなこと知ってるくせに、よく尊敬とか言うよなー」
また一人きりになった館長室で、シモンは悪態をつくが、その口元は緩んでいる。
まあ、なんだ、普通に嬉しかったのだ。
大人の女性から真摯な告白と共にチョコレートを渡されたり、恋人から愛の言葉と共にチョコレートを贈られるのもいいけれど。
こういうバレンタインもありだな。
満足して、アガサがくれた小箱を開け、真ん丸なチョコレートを一粒口に放り込んだ。濃厚な香りが口に広がり、冬の冷気で冷えた身体に熱を与えてくれる。
シモンは微笑んだ。
「あま」
(了)
「おはようございます、館長。こちら、他の部署の女性陣からお預かりしました」
図書館付王宮女官のイーリンが差し出した大きな紙袋には、色とりどりの箱が詰まっており、カカオの甘い匂いが立ち上っている。
「朝から余分な仕事をさせて悪かったね。ありがとう」
内心うんざりしつつ、笑顔で紙袋を受け取るシモンに、イーリンは一際大ぶりな箱を差し出した。こげ茶色のシックな包装に有名菓子店の名前が入っている。
「こちらは、私達からです」
イーリンの左右に並ぶ女性職員が一斉に微笑んだ。
「ありがとう。大事にいただくよ」
シモンは押し抱くようにチョコレートの箱を受け取ると、館長室へ向かう。途中で一度振り返った。
「イーリン、今日は面会謝絶にするので、他にも届け物があったら、預かっておいてくださいね」
本日はバレンタイン・デーである。
シモンは館長室の片隅に積まれた木箱を見遣り、溜め息をついた。
箱が一杯になる度にイーリンが館長室に持ち込んでくるのだが、昼の段階で300個は超えているだろう。
これが真摯な愛の告白と共に手渡される本命チョコだったらまだ嬉しくもあるのだが、ほぼ全部が義理である。ノリである。イベントで盛り上がっているだけである。
何百ものチョコレートを貰える理由はひとつしかない。容姿だ。
シモンはとにかく見た目がいい。金髪碧眼でちょっと珍しいほどの美形で、スタイルもいい。もっともこれは、血筋であり種族の特徴である。彼の出身種族であるガラド族が-ある事件によりシモン以外の全員が惨殺されたものの-恒常的に美形が生まれる一族なのだ。
館長としてオンの時は、見た目を裏切らない王子様モードを発揮しているシモンであるが、オフでは性根も口も最悪な若者である。
「あー、ほんっとうっぜ。これ、どうすればいいんだよ。アガサはもういねえしなあ」
今も、一人きりの館長室で仮面を取っ払い、シモンは口汚く毒づいた。
アガサというのは、去年まで司書見習い兼館長秘書として王立図書館で働いていた12歳の少女だ。子供のくせに、聡明でよく気が付くスーパー秘書だった。
昨年のバレンタイン・デーにも文字通り山のようなチョコレートが届いたが、シモンがいちいち指示しなくとも、アガサはてきぱきとチョコレートの仕分けし、王宮都市内の孤児院へ寄付として配送する手続きを済ませていた。
「イーリンは仕事おせえし、雑務嫌がるから頼むのも面倒だわ。やっぱアガサ呼びつけるか」
ぶつぶつ呟きながら、手元の決裁書類に署名をしていると、扉がノックされた。
「こんにちは」
顔を覗かせたのは、国防省統合戦略局戦術課長のナツリ・マルークラだった。国防省のかっちりとした制服に身を包んだナツリは、いつも背筋がぴんと伸びていて、溌剌としている。
「ナツリさん。珍しいな、ここに来るなんて」
「王宮府で会議だったから、ついでに寄ってみたの。相変わらず忙しそうね」
シモンの机の未決ボックスには、決裁書類や書簡が10センチ以上重なっている。
「半分はルーティンの書類だし。忙しさもあんたほどじゃねーよ」
ナツリは極度のワーカホリックで、早朝から深夜まで馬車馬のように働いているのだ。
シモンは、アクアイル王国の敵国である砂漠の国デザイアの間諜であるが、実際は、アクアイル王国がデザイアに放った二重スパイであり、シモンへの任務指示や情報操作を担当しているのがナツリである。
特殊な関係かつ年が近いこともあり、シモンはナツリには本性を見せているし、時々食事に行ってはプライベートな話もする仲だ。
シモンは立ち上がると、例の木箱の元へナツリを招いた。
「ナツリさん、甘いの食うっけ。貰いもんだけど、好きなだけ持ってていいよ」
ナツリはまじまじと菓子箱の山を見つめている。
「お菓子屋でも開業するの?」
30代半ばでエリート官庁の課長職を射止めた彼女は、俗っぽい世事には疎い。冗談ではなく、本気で言っているのである。
「いやいやいや、今日、バレンタインだろ」
「ああ、そういえば、うちの女性職員もそわそわしてたわ」
「そんな他人事みたいな」
「他人事だもの。それにしてもこの量、相変わらずのモテぶりね」
「モテてねえし。俺に直接渡してきたわけでもねえし、義理だろ」
「あなた、顔だけはいいものね」
「うるさいわ」
軽口を叩き合ってから、シモンは口調を改めた。
「ナツリさん、カレシにチョコやんねえの」
ナツリは、クロードという7歳年下の軍人と付き合っている。この男、名門貴族の生まれで、最年少で中佐に昇任し、アクアイル王国軍が肝入りで新設した特殊遊撃隊の隊長を務め、おまけに気品と野生を併せ持った男前という、架空の人物のように出来すぎた男である。
ナツリはナツリで、その優秀さと気の強さで国防省内の有名人なので、この二人が付き合い始めた時は政府内でも軍内でも上から下まで噂が飛び交ったものだ。
ナツリは、チョコレートの詰まった木箱を見つめながら首を傾げた。
「あなたと一緒で売るほど貰ってるだろうし。あの人、甘いもの食べないからあげても迷惑になるでしょう」
それを聞いて、シモンは思いっきり眉をしかめた。
「おまえ、馬鹿なの」
「おまえって言わないでよ。それに私、馬鹿なんて人生で一回も言われたことないわ」
ナツリが反論するが、話がずれている。
「勉強と仕事はできても、恋愛偏差値低すぎだろ。悪いことは言わないから、今すぐ菓子屋行ってチョコレート買って、クロード中佐にあげてこい」
ナツリは困った顔で木箱を差した。
「これ、貰って嬉しかった?」
「全然。迷惑」
「でしょう」
「でしょうじゃねえよ!」
シモンは苛々して声を荒げる。
「どうでもいい相手に貰っても困るけど、恋人からは欲しいに決まってんだろ。ってか、くれなかったらマジでヘコむから」
ってかなんで、俺がこんなアドバイスしなきゃならねえんだよ。
「甘いもの嫌いでも?」
「味も質も関係ねえの。ナツリさん、王国軍イチのモテ男と付き合ってんだからさ。こういうイベントはちゃんと押さえとかないと、どっかの女にちょっかいかけられんぞ」
強めに攻撃すると、ナツリは明らかに怯んだ。
「それは、嫌」
「だろ。3つ先のブロックにあるショコラティエ、美味いって評判だから、行ってみろよ」
「・・・ありがとう」
ナツリは素直に礼を言うと、小走りに館長室を出ていった。
その後ろ姿を見送り、シモンは苦笑する。
さっき、「それは、嫌」と呟いたナツリは拗ねた子供のようで。普段、凛々しい表情と芯の通った声で仕事をするナツリからは想像できないほど、可愛らしかった。
シモンは、ナツリに対して恋愛感情なんて全く持っていないし、国のためならどんな汚れ仕事だって引き受ける怖い女、くらいにしか思っていないけれど。
それでも、ナツリから本命チョコを貰えるクロード中佐のことを、すこし羨ましいと思ってしまった。
夕方になって帰り支度をしていると、魔法学校の制服姿の少女がノックもそこそこに飛び込んできた。
燃えるような赤毛をおさげにし、緑色の聡明な目には、丸眼鏡をかけている。
最後に会った時より幾分身長が伸びたようだ。
「アガサ」
驚くシモンに、アガサは息を整えてから言った。
「まだいらっしゃって良かったです」
「ちょうど今帰るとこだったけど、どうしたんだ」
「去年よりも量が増えてますね。これ、必要だと思ったので」
木箱の量に感心しつつアガサが差し出したのは、大手輸送商会の伝票の束だった。見ると、送り主も宛先もすべて記載されている。
「イーリンさんはこういう仕事嫌がるでしょう。商会には明日の午後に集荷に来るよう頼んだので、木箱にこの伝票を結び付けておいてください。送り先は昨年と同じ孤児院10か所でいいですよね」
感動である。なんて気がきく奴だ。
「さんきゅーな。正直、どう処理しようかと思ってたから、助かったわ」
「どういたしまして」
アガサは真顔で頭を下げた。この少女は、どんなに褒められても、偉そうな顔やどうだ!という顔はしないのだ。
「それに、これも渡したかったので」
アガサは魔法学校の指定鞄から小箱を取り出した。菓子店のリボンがかかった箱は、見るからにチョコレートである。
「どうぞ」
シモンは両手で受け取った。思えば、今日初めて直接手渡されたチョコレートだった。
「ありがとう。義理でも嬉しいよ。これはちゃんと食う」
「義理じゃないですよ」
アガサは笑った。
「本命でもないだろ」
「勿論、本命はミスカですけど」
アガサは、同じ魔法学校の生徒の名前を照れ臭そうに口にしてから、続けた。
「これは、館長への尊敬と感謝の証です」
「俺がスパイなこと知ってるくせに、よく尊敬とか言うよなー」
また一人きりになった館長室で、シモンは悪態をつくが、その口元は緩んでいる。
まあ、なんだ、普通に嬉しかったのだ。
大人の女性から真摯な告白と共にチョコレートを渡されたり、恋人から愛の言葉と共にチョコレートを贈られるのもいいけれど。
こういうバレンタインもありだな。
満足して、アガサがくれた小箱を開け、真ん丸なチョコレートを一粒口に放り込んだ。濃厚な香りが口に広がり、冬の冷気で冷えた身体に熱を与えてくれる。
シモンは微笑んだ。
「あま」
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