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見習い官僚シマ、仕事とは何かを考える。2
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「こちらがスピリッツの制服デザインとサンプルです」
国防省後方戦略局需品調達課被服担当の横には、制服を着せたトルソーが2台置かれている。
平時用は、白の詰襟に真紅のマント。作戦時用は、フードも上衣もパンツもロングブーツもマントも全身黒ずくめだ。
会議室のメインテーブルには、軍司令部と国防省、財務省の関係課長がずらりと座り、バックシートにはシマのような下っ端事務官が控えている。
「真っ黒すぎやしないかね」
まず意見を述べたのは軍司令部の大佐だ。
「身を隠すことを第一に考えております。夜の闇の中では姿を全く悟られません」
「砂漠や昼間の戦闘では逆に目立つんじゃないか」
会議室中から口々に意見が飛ぶ。
「色もだが、あまり見た目がよくないな。パーティの忍者の衣装のようだ」
「確かに。我が王国軍が誇る特殊部隊だ。華麗さにもこだわるべきだ」
「いやいや、華麗さは平時用だけで十分でしょう」
「そもそも式典出席やオフィスワークがないスピリッツに、平時用制服が必要なのかね」
被服担当は慌てながらひとつひとつに回答しようとするが、意見が飛び交い収拾がつかなくなっている。
シマの前に座るナツリは、足を組んだままつまらなさそうに書類を捲っている。
横に座るサイガに小声で尋ねた。
「スピリッツの制服を決めるのに、どうして本人達がいないんですか? もう人選終わってますよね」
「メンバー構成は秘密事項だしな。そもそも正式に人事発令が出るまでは呼べないんだと」
「自分が着るわけでもない人達が会議室でわあわあ言ってても仕方ないですよね。実際にスピリッツの隊員に試着してもらって、意見を出して貰った方が、早いし本当に必要なものが作れると思いますけど」
「そうは言ってもな。お偉方はなんにでも口出したがるから」
こそこそ話をしていたら、ナツリがくるりと振り返った。
あ、無駄話してたってまた怒られちゃう。
身構えたが、ナツリは面白そうな顔をしている。
「意見があるなら挙手しなさい」
シマは慌てて首を振る。
「すみません。ただの思いつきです」
「思いつきでも意見でしょう」
「そんな、これ、課長級会議ですし。私語をしてすみませんでした」
「ナントカ級だなんて関係ないわ。会議は参加者の知識と経験と思考を総動員して、最善の決定を下す場。出席を許された者すべてに発言する権利がある。意見の価値は発言者の役職に左右されない。それが会議よ」
それだけ言うと、ナツリは前を向いた。
背筋が伸びたその背は、さあどうするの?と問いかけている。
シマは膝の上で拳を握った。
こんな場所で、新人が意見なんてできるわけない。
でも。
その拳に、サイガが自分の拳をぶつけてきた。
「働け」
シマは顔を上げる。
サイガは正面を向いたままだ。
働け。―――――働く。
右手が自然に挙がった。
「戦術課のシマです」
立ち上がると、会議室中が自分に注目した。
喉が渇いて、舌が口の中で張り付きそうだ。
「提案ですが、実際にスピリッツの隊員の方々に試着していただき、意見を聞くのはどうでしょう。実際着るわけでもない私たちが、ここでああだこうだ言っていても、現場のニーズと乖離するだけだと思うんです。服って、見た目と着心地が随分違ったりしますし。動きやすさとか、通気性とか速乾性とか、着てみないと分かりません。先ほど大佐が仰られた色についても、スピリッツの活動が予想される環境下での擬態効果を実地確認するべきです」
一気に話した。
ナツリはああ言ったが、入省1年目の事務官が課長級会議で意見を述べるなど普通はない。
場は静まりかえったままだ。
シマは居たたまれずその場に立ち尽くす。
「というのが、戦術課としての提案ですが、いかがでしょう」
静寂を切り裂くように、ナツリが凛とした声で引き継いでくれた。
課としての意見だと課長が認めたことで、そこかしこで小声の相談が始まる。
「スピリッツの人選は終了しているんですよね」
被服担当が口火を切った。
課長のナツリではなく、シマを見ていた。
「あ、はい。勿論です」
シマは慌てて答えた。
「隊長以外の隊員名は秘密事項だと聞いていますが、試着のために、彼らを発令前に召集することに問題はありませんか?」
「はい。但し、秘密保全上、国防省内で隊員名を知ることができるのは当課と人事課のみです。このため、試着は当課でハンドリングさせていただき、需品調達課さんには後日結果をお知らせするという形がよろしいかと思います」
今度は、自分でも驚くほど落ち着いて答えることができた。
「こちらとしてはそれで構いません。ただ、発注期限があるため試着は来週中にお願いしたい。出来ますか?」
来週中。
この忙しいのに。
また職場という名の宿屋にお泊りの日々だ。
しかも自分で忙しさの種を蒔いてしまった。
でも。
「やります」
シマは宣言した。
こうした方がいいと思った。だから、やるだけだ。
「あー、もう忙しくて死にそう」
食べかけのライスボールを握ったまま、シマは食堂のテーブルで突っ伏す。
「そんなにですか?」
「また新しい仕事振られてさー」
「まあまあ、お昼食べれてるうちは大丈夫ですよ。時間的にも精神的にも」
慰めてくれるエミリは、白目が青白いほど光っていて、肌もつやつやしている。たっぷり睡眠を取った顔だ。
2日間かけたスピリッツの制服試着が昨日無事終了し、今は報告書を作成中だ。この報告書を受け、需品調達課がデザインを練り直すことになっている。
特殊部隊に選抜されたとあって、スピリッツの隊員達はいずれも刃のような鋭さを持っていた。肉体も顔つきも、そんじょそこらの軍人とは全然違う。
そして、率直で正直な彼らは盛大に意見や要望をぶちかましてくれた。
同じような意見は集約し、分かりやすく読みやすく報告書にまとめるのは、結構骨が折れる。
「課長級会議で意見した1年生がいるって、あんた省内で有名になってるよ」
ビアンカは面白がっている。
「各方面から散々言われてる。特に同期の男子なんて、目立って出世でも狙ってんのかーだって。馬鹿みたい」
シマは憤慨してライスボールにかぶりついた。
ふんわり握られたお米の甘味を、海の香りがする塩が引き立てている。
アクアイル王国がある光の大国の東にある島国、東の国の料理だ。
十数年前、ある事件により東の国は滅亡してしまったが、その独特の料理は、高タンパクでヘルシーということで、王宮都市アクアイルでちょっとしたブームになっている。
「仕事では男の方が嫉妬深いからな」
ビアンカが笑い飛ばすと、エミリがおっとりと言った。
「課長級くらいなんてことないですよー。ナツリ課長なんて、1年目の時に大臣にいきなり物申したんですって」
シマはぎょっとする。
「なにその話!」
「有名な逸話ですよー。雪の月が大寒波でめちゃめちゃ寒かった時ありましたよね。あのとき、氷の国フロストベルクから氷牙竜の群れがアクアイル領内に流れ込んでくる事件が発生したので、旅の冒険者に駆逐を依頼したんですけれど」
その事件なら、シマも新聞で読んだ記憶がある。
当時、王国軍の任務は外国軍との戦闘のみであり、モンスターの駆逐はクエストとして旅の冒険者たちに依頼するのが常だったが、この事件をきっかけに、大規模なモンスター討伐作戦には王国軍も関与できることになったのだ。
「氷牙竜の数が尋常じゃなくて、数々のパーティがHPゼロになってアクアイルの教会になだれ込む騒ぎになって。その間にも氷牙竜はどんどん国境を越えてくるし。大臣と局長連中が会議室で、ロクな解決策も出ない対策会議を延々繰り返してた時、記録係で同席してたナツリ課長がバックシートからいきなり発言したんですって」
シマは妙に納得する。
新人だろうが何だろうが、課長ならやりかねない。
その場の光景が目に浮かぶようだ。
「今すぐ氷牙竜の討伐に王国軍を派遣するべきです。本来任務だの法律だの言っている間に、何百人の国民と冒険者を犠牲にするんですか。前例がないなら今回を前例にすればいい。持てる力はさっさと使いましょう」
エミリのナツリの物まねは秀逸だ。
ビアンカが天井を仰ぐ。
「うわー、命知らずだなー。下手したら大目玉じゃん、それ。まあでも、実はみんなが心の中で思ってたけど、上や横の反応気にして口に出来なかったことを、ナツリ課長が言っちゃったってだけのことなのか」
「そのとおり。ナツリ課長、それがきっかけで、大臣に可愛がられるようになったんですって」
エミリの話を聞き終えたシマは、立ち上がった。
「シマさん、もう行くんですか? お昼休憩、まだ十分ありますよ」
なんだか身体がうずうずする。
これは、やる気っていうやつだろうか。
なんだか分からないけれど、ナツリ課長みたいな働き方をしたいと思った。
二人に向かって大きな声で言った。
「働いてくる!」
そして熱の月。
アクアイル王国軍特殊部隊「スピリッツ」は無事発足した。
といっても、秘密特殊部隊なので、華々しい式典があるわけでもない。
国防大臣から粛々と辞令が手渡されただけだ。
出張で訪れたキララ残丘の模擬訓練場で、スピリッツの訓練を眺めていると。
砂漠の砂がむくりと動き、一人の男が近づいてきた。
作戦服の迷彩柄は見事に砂漠に溶け込み、そこにいることに気づかなかった。
筋肉質な体に生真面目そうな顔が、いかにも軍人といった風情だ。
そういえば、この人、試着の時にいたな、と思い出す。
「この服、俺らに試着してほしいって言い出したの、あなたなんだって?」
「はい。その節は貴重なご意見いただきありがとうございました」
シマは頭を下げた。
「いや、こちらこそ、ありがとう。これまで、制服って出来上がったものを支給されるだけだったから、正直言いたい事たくさんあったんだ。今回は、俺らの要望全部飲んでくれて感謝してる。これ、めっちゃ着心地いいし、動きやすいよ」
心の中に、ぽっとあたたかいものが灯った気がした。
嬉しい。
そっか。褒められるのって、嬉しいんだ。
シマは心から笑って言った。
「それが、私の仕事ですから」 (了)
国防省後方戦略局需品調達課被服担当の横には、制服を着せたトルソーが2台置かれている。
平時用は、白の詰襟に真紅のマント。作戦時用は、フードも上衣もパンツもロングブーツもマントも全身黒ずくめだ。
会議室のメインテーブルには、軍司令部と国防省、財務省の関係課長がずらりと座り、バックシートにはシマのような下っ端事務官が控えている。
「真っ黒すぎやしないかね」
まず意見を述べたのは軍司令部の大佐だ。
「身を隠すことを第一に考えております。夜の闇の中では姿を全く悟られません」
「砂漠や昼間の戦闘では逆に目立つんじゃないか」
会議室中から口々に意見が飛ぶ。
「色もだが、あまり見た目がよくないな。パーティの忍者の衣装のようだ」
「確かに。我が王国軍が誇る特殊部隊だ。華麗さにもこだわるべきだ」
「いやいや、華麗さは平時用だけで十分でしょう」
「そもそも式典出席やオフィスワークがないスピリッツに、平時用制服が必要なのかね」
被服担当は慌てながらひとつひとつに回答しようとするが、意見が飛び交い収拾がつかなくなっている。
シマの前に座るナツリは、足を組んだままつまらなさそうに書類を捲っている。
横に座るサイガに小声で尋ねた。
「スピリッツの制服を決めるのに、どうして本人達がいないんですか? もう人選終わってますよね」
「メンバー構成は秘密事項だしな。そもそも正式に人事発令が出るまでは呼べないんだと」
「自分が着るわけでもない人達が会議室でわあわあ言ってても仕方ないですよね。実際にスピリッツの隊員に試着してもらって、意見を出して貰った方が、早いし本当に必要なものが作れると思いますけど」
「そうは言ってもな。お偉方はなんにでも口出したがるから」
こそこそ話をしていたら、ナツリがくるりと振り返った。
あ、無駄話してたってまた怒られちゃう。
身構えたが、ナツリは面白そうな顔をしている。
「意見があるなら挙手しなさい」
シマは慌てて首を振る。
「すみません。ただの思いつきです」
「思いつきでも意見でしょう」
「そんな、これ、課長級会議ですし。私語をしてすみませんでした」
「ナントカ級だなんて関係ないわ。会議は参加者の知識と経験と思考を総動員して、最善の決定を下す場。出席を許された者すべてに発言する権利がある。意見の価値は発言者の役職に左右されない。それが会議よ」
それだけ言うと、ナツリは前を向いた。
背筋が伸びたその背は、さあどうするの?と問いかけている。
シマは膝の上で拳を握った。
こんな場所で、新人が意見なんてできるわけない。
でも。
その拳に、サイガが自分の拳をぶつけてきた。
「働け」
シマは顔を上げる。
サイガは正面を向いたままだ。
働け。―――――働く。
右手が自然に挙がった。
「戦術課のシマです」
立ち上がると、会議室中が自分に注目した。
喉が渇いて、舌が口の中で張り付きそうだ。
「提案ですが、実際にスピリッツの隊員の方々に試着していただき、意見を聞くのはどうでしょう。実際着るわけでもない私たちが、ここでああだこうだ言っていても、現場のニーズと乖離するだけだと思うんです。服って、見た目と着心地が随分違ったりしますし。動きやすさとか、通気性とか速乾性とか、着てみないと分かりません。先ほど大佐が仰られた色についても、スピリッツの活動が予想される環境下での擬態効果を実地確認するべきです」
一気に話した。
ナツリはああ言ったが、入省1年目の事務官が課長級会議で意見を述べるなど普通はない。
場は静まりかえったままだ。
シマは居たたまれずその場に立ち尽くす。
「というのが、戦術課としての提案ですが、いかがでしょう」
静寂を切り裂くように、ナツリが凛とした声で引き継いでくれた。
課としての意見だと課長が認めたことで、そこかしこで小声の相談が始まる。
「スピリッツの人選は終了しているんですよね」
被服担当が口火を切った。
課長のナツリではなく、シマを見ていた。
「あ、はい。勿論です」
シマは慌てて答えた。
「隊長以外の隊員名は秘密事項だと聞いていますが、試着のために、彼らを発令前に召集することに問題はありませんか?」
「はい。但し、秘密保全上、国防省内で隊員名を知ることができるのは当課と人事課のみです。このため、試着は当課でハンドリングさせていただき、需品調達課さんには後日結果をお知らせするという形がよろしいかと思います」
今度は、自分でも驚くほど落ち着いて答えることができた。
「こちらとしてはそれで構いません。ただ、発注期限があるため試着は来週中にお願いしたい。出来ますか?」
来週中。
この忙しいのに。
また職場という名の宿屋にお泊りの日々だ。
しかも自分で忙しさの種を蒔いてしまった。
でも。
「やります」
シマは宣言した。
こうした方がいいと思った。だから、やるだけだ。
「あー、もう忙しくて死にそう」
食べかけのライスボールを握ったまま、シマは食堂のテーブルで突っ伏す。
「そんなにですか?」
「また新しい仕事振られてさー」
「まあまあ、お昼食べれてるうちは大丈夫ですよ。時間的にも精神的にも」
慰めてくれるエミリは、白目が青白いほど光っていて、肌もつやつやしている。たっぷり睡眠を取った顔だ。
2日間かけたスピリッツの制服試着が昨日無事終了し、今は報告書を作成中だ。この報告書を受け、需品調達課がデザインを練り直すことになっている。
特殊部隊に選抜されたとあって、スピリッツの隊員達はいずれも刃のような鋭さを持っていた。肉体も顔つきも、そんじょそこらの軍人とは全然違う。
そして、率直で正直な彼らは盛大に意見や要望をぶちかましてくれた。
同じような意見は集約し、分かりやすく読みやすく報告書にまとめるのは、結構骨が折れる。
「課長級会議で意見した1年生がいるって、あんた省内で有名になってるよ」
ビアンカは面白がっている。
「各方面から散々言われてる。特に同期の男子なんて、目立って出世でも狙ってんのかーだって。馬鹿みたい」
シマは憤慨してライスボールにかぶりついた。
ふんわり握られたお米の甘味を、海の香りがする塩が引き立てている。
アクアイル王国がある光の大国の東にある島国、東の国の料理だ。
十数年前、ある事件により東の国は滅亡してしまったが、その独特の料理は、高タンパクでヘルシーということで、王宮都市アクアイルでちょっとしたブームになっている。
「仕事では男の方が嫉妬深いからな」
ビアンカが笑い飛ばすと、エミリがおっとりと言った。
「課長級くらいなんてことないですよー。ナツリ課長なんて、1年目の時に大臣にいきなり物申したんですって」
シマはぎょっとする。
「なにその話!」
「有名な逸話ですよー。雪の月が大寒波でめちゃめちゃ寒かった時ありましたよね。あのとき、氷の国フロストベルクから氷牙竜の群れがアクアイル領内に流れ込んでくる事件が発生したので、旅の冒険者に駆逐を依頼したんですけれど」
その事件なら、シマも新聞で読んだ記憶がある。
当時、王国軍の任務は外国軍との戦闘のみであり、モンスターの駆逐はクエストとして旅の冒険者たちに依頼するのが常だったが、この事件をきっかけに、大規模なモンスター討伐作戦には王国軍も関与できることになったのだ。
「氷牙竜の数が尋常じゃなくて、数々のパーティがHPゼロになってアクアイルの教会になだれ込む騒ぎになって。その間にも氷牙竜はどんどん国境を越えてくるし。大臣と局長連中が会議室で、ロクな解決策も出ない対策会議を延々繰り返してた時、記録係で同席してたナツリ課長がバックシートからいきなり発言したんですって」
シマは妙に納得する。
新人だろうが何だろうが、課長ならやりかねない。
その場の光景が目に浮かぶようだ。
「今すぐ氷牙竜の討伐に王国軍を派遣するべきです。本来任務だの法律だの言っている間に、何百人の国民と冒険者を犠牲にするんですか。前例がないなら今回を前例にすればいい。持てる力はさっさと使いましょう」
エミリのナツリの物まねは秀逸だ。
ビアンカが天井を仰ぐ。
「うわー、命知らずだなー。下手したら大目玉じゃん、それ。まあでも、実はみんなが心の中で思ってたけど、上や横の反応気にして口に出来なかったことを、ナツリ課長が言っちゃったってだけのことなのか」
「そのとおり。ナツリ課長、それがきっかけで、大臣に可愛がられるようになったんですって」
エミリの話を聞き終えたシマは、立ち上がった。
「シマさん、もう行くんですか? お昼休憩、まだ十分ありますよ」
なんだか身体がうずうずする。
これは、やる気っていうやつだろうか。
なんだか分からないけれど、ナツリ課長みたいな働き方をしたいと思った。
二人に向かって大きな声で言った。
「働いてくる!」
そして熱の月。
アクアイル王国軍特殊部隊「スピリッツ」は無事発足した。
といっても、秘密特殊部隊なので、華々しい式典があるわけでもない。
国防大臣から粛々と辞令が手渡されただけだ。
出張で訪れたキララ残丘の模擬訓練場で、スピリッツの訓練を眺めていると。
砂漠の砂がむくりと動き、一人の男が近づいてきた。
作戦服の迷彩柄は見事に砂漠に溶け込み、そこにいることに気づかなかった。
筋肉質な体に生真面目そうな顔が、いかにも軍人といった風情だ。
そういえば、この人、試着の時にいたな、と思い出す。
「この服、俺らに試着してほしいって言い出したの、あなたなんだって?」
「はい。その節は貴重なご意見いただきありがとうございました」
シマは頭を下げた。
「いや、こちらこそ、ありがとう。これまで、制服って出来上がったものを支給されるだけだったから、正直言いたい事たくさんあったんだ。今回は、俺らの要望全部飲んでくれて感謝してる。これ、めっちゃ着心地いいし、動きやすいよ」
心の中に、ぽっとあたたかいものが灯った気がした。
嬉しい。
そっか。褒められるのって、嬉しいんだ。
シマは心から笑って言った。
「それが、私の仕事ですから」 (了)
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