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14:花火の夜★
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居間の振り子時計が19時を告げると同時に、どん!っと空を揺るがす音が炸裂して、まだ昼の名残を残す夏空に、大輪の花が咲き乱れた。
光の花は一瞬で広がり、空に溶けるように消えていく。
航平は次々に異なる形で輝きを放つ夜空を見上げ、感嘆の声を上げた。
「すっげー、なんか、手延ばせば届きそうだな!」
打ち上げ場所までは結構な距離があるはずなのに、カラフルな火花が家の中まで飛び込んできそうだ。花火が打ちあがる度に、庭も縁側もガラス窓も色を変えていく。
隣に座る有馬を見遣ると、まるで初めて花火を見る子供の用に夢中で空を見つめている。花火の光はその瞳にも映り込み、きらめいている。
最初は、才能にも容姿にも恵まれた羨ましい男だと単純に思っていたけれど、それは外側に過ぎないのだと今は分かる。
視線に気づいたのか、有馬がくすぐったそうに笑う。
「なに? 見惚れてた?」
「自分で言うなよ」
「航平。今日、どうして誘ってくれたの?」
「有馬、最近忙しかったんだろ。広報から、あんたが疲れてるって聞いたから、気晴らしになればと思ってさ」
「航平は、優しいね」
有馬はじりりとにじり寄ると、覗き込むようにキスをしてきた。
ちゅっと強めに唇を吸われる。
「おい」
「なに?」
「ナチュラルにしてくんじゃねえよ」
「ナチュラルに受け入れてくれるからさ」
「調子乗んな」
「嫌じゃないんでしょ?」
「嫌じゃねえけど」
「じゃあ、もう少しだけ、ね」
有馬はねだるようにそう言うと、今度は深く唇を合わせてきた。
肩を抱かれ、抗議しようと開いた唇の隙間から舌が入り込んでくる。
舌の熱さと感触に、ぞくりと背筋が震えた。
いつもしていた別れ際のキスは、挨拶半分恋情半分の軽いやつだった。
このキスは、全然違う。
有馬は航平の髪を梳きながら、舌で遠慮なく口腔をさぐってくる。
触れ合う唇も、どんどん熱くなる口の中も、甘く痺れていく。
「…んっ」
上顎を舐められ、思わず声が漏れた。
「ここ、気持ちいいいよね」
キスの合間に囁いて、有馬は同じところを舌でしつこく責めてくる。
男としてやられっぱなしは気に食わないが、応じることも拒否することもできなくて、ただ貪られている。
なのに、気持ちいい。
気持ちいいと自覚した途端、一気に下半身に熱が溜まった。
「っ、やめろっ!」
さすがにまずいと有馬の手首を掴んで引きはがす。
「どうしたの? 気持ちよくなかった?」
「…もうやめろ。これ以上すると、色々やばい」
「色々?」
有馬がわざとらしく首を傾げる。
それから、ああそういうことか、とさも今気づいたかのように白々しく笑った。その唇は唾液で濡れている。
「それなら、もう勃ってるでしょ」
航平に有無を言わす隙を与えず、有馬の指が浴衣の裾をめくった。
ボクサーパンツの中心は無様に盛り上がっていて、航平は思わず顔をそむけた。
神宮外苑花火大会では約1万発の花火が打ち上げられる。炸裂音もまばゆい光も止むことがなく、室内を明るく照らしている。
有馬は航平を居間に連れ込むと、縁側との間を仕切る襖をすらりと閉めた。
腰が引けて尻もちをついた姿勢の航平の前で、有馬は片膝をついた。
「な、に」
「触るだけだから」
真面目な顔で何を言い出す。
「いや、触るだけでも駄目だろ。つか、トイレどっちだよ」
「教えない。抜きたいなら、俺が抜いてあげる」
人差し指が布越しに膨らみをなぞる。
「おい、やめろって」
「やめない。ただの性欲処理でしょ、気にしないで。汚れるから脱がすよ」
有馬は断言すると、強引に航平の下着を剥ぎ取った。
クーラーで冷えた空気が触れたのも束の間、有馬の手のひらが包み込む。
先走りを塗りこめるようにしながら、好き勝手に触られて、知らずに声が漏れる。
「っあ、やめ、んんっ!」
目を閉じようと思うのに閉じると逆に怖い気がして、目の前の有馬の顔ばかり見ていた。
力加減も動きも予測がつかなくて、不安なのに熱はどんどん溜まっていく。
「有馬、も、やだって」
「なに、イきそう? 早くない?」
「っ、あんたのせいだろうが…あ、あっ」
指先に力を籠めると、ざりりと畳が剥がれ、草の青い匂いが立った。
「良かった。気持ちよさそう」
言いながら、有馬は一旦手を止めて体勢を変えた。
航平を畳に押し倒すと、浴衣の裾をはだけて腰をまたいだ。
「な、に」
日常で男に見下ろされるシチュエーションなんてない。
え、なにされんの、俺。
「大丈夫。嫌なことも痛いこともしないし、怖くないから」
怯む航平に、有馬がゆっくりと言った。安心させるように、深く静かな声で。
あ、こいつ、声もいいんだな。
当たり前か、テレビでニュース読んでたんだから、ボイストレーニングとかして…。
場違いなことを考えたせいで、反応が遅れた。
有馬が自分の浴衣の帯を解いて、前をはだけている。
鍛えられた男らしい裸体の中心は、航平同様にそそり立っている。
これまた人の股間を凝視する機会などないので、自分の体勢も忘れてまじまじと見てしまった。
俺よりデカいっつうか、長い、のか? じゃなくて!
「あんた、なんでパンツ穿いてねえんだよ!」
「え、突っ込むとこそこ? だって浴衣だから。ライン出るでしょ」
「女子かよ」
「うるさいなあ。ちょっとはムード出してよ」
有馬はするりと浴衣を脱いで、髪を搔きあげた。
襖越しの花火の光が肌を染める。航平を射抜こうとするような瞳は情欲が揺らめいていて。
その色気に、思わず喉を鳴らした。
有馬は凄絶に微笑んで、腰を落とす。互いの陰茎が触れあい、航平は息を吐いた。
光の花は一瞬で広がり、空に溶けるように消えていく。
航平は次々に異なる形で輝きを放つ夜空を見上げ、感嘆の声を上げた。
「すっげー、なんか、手延ばせば届きそうだな!」
打ち上げ場所までは結構な距離があるはずなのに、カラフルな火花が家の中まで飛び込んできそうだ。花火が打ちあがる度に、庭も縁側もガラス窓も色を変えていく。
隣に座る有馬を見遣ると、まるで初めて花火を見る子供の用に夢中で空を見つめている。花火の光はその瞳にも映り込み、きらめいている。
最初は、才能にも容姿にも恵まれた羨ましい男だと単純に思っていたけれど、それは外側に過ぎないのだと今は分かる。
視線に気づいたのか、有馬がくすぐったそうに笑う。
「なに? 見惚れてた?」
「自分で言うなよ」
「航平。今日、どうして誘ってくれたの?」
「有馬、最近忙しかったんだろ。広報から、あんたが疲れてるって聞いたから、気晴らしになればと思ってさ」
「航平は、優しいね」
有馬はじりりとにじり寄ると、覗き込むようにキスをしてきた。
ちゅっと強めに唇を吸われる。
「おい」
「なに?」
「ナチュラルにしてくんじゃねえよ」
「ナチュラルに受け入れてくれるからさ」
「調子乗んな」
「嫌じゃないんでしょ?」
「嫌じゃねえけど」
「じゃあ、もう少しだけ、ね」
有馬はねだるようにそう言うと、今度は深く唇を合わせてきた。
肩を抱かれ、抗議しようと開いた唇の隙間から舌が入り込んでくる。
舌の熱さと感触に、ぞくりと背筋が震えた。
いつもしていた別れ際のキスは、挨拶半分恋情半分の軽いやつだった。
このキスは、全然違う。
有馬は航平の髪を梳きながら、舌で遠慮なく口腔をさぐってくる。
触れ合う唇も、どんどん熱くなる口の中も、甘く痺れていく。
「…んっ」
上顎を舐められ、思わず声が漏れた。
「ここ、気持ちいいいよね」
キスの合間に囁いて、有馬は同じところを舌でしつこく責めてくる。
男としてやられっぱなしは気に食わないが、応じることも拒否することもできなくて、ただ貪られている。
なのに、気持ちいい。
気持ちいいと自覚した途端、一気に下半身に熱が溜まった。
「っ、やめろっ!」
さすがにまずいと有馬の手首を掴んで引きはがす。
「どうしたの? 気持ちよくなかった?」
「…もうやめろ。これ以上すると、色々やばい」
「色々?」
有馬がわざとらしく首を傾げる。
それから、ああそういうことか、とさも今気づいたかのように白々しく笑った。その唇は唾液で濡れている。
「それなら、もう勃ってるでしょ」
航平に有無を言わす隙を与えず、有馬の指が浴衣の裾をめくった。
ボクサーパンツの中心は無様に盛り上がっていて、航平は思わず顔をそむけた。
神宮外苑花火大会では約1万発の花火が打ち上げられる。炸裂音もまばゆい光も止むことがなく、室内を明るく照らしている。
有馬は航平を居間に連れ込むと、縁側との間を仕切る襖をすらりと閉めた。
腰が引けて尻もちをついた姿勢の航平の前で、有馬は片膝をついた。
「な、に」
「触るだけだから」
真面目な顔で何を言い出す。
「いや、触るだけでも駄目だろ。つか、トイレどっちだよ」
「教えない。抜きたいなら、俺が抜いてあげる」
人差し指が布越しに膨らみをなぞる。
「おい、やめろって」
「やめない。ただの性欲処理でしょ、気にしないで。汚れるから脱がすよ」
有馬は断言すると、強引に航平の下着を剥ぎ取った。
クーラーで冷えた空気が触れたのも束の間、有馬の手のひらが包み込む。
先走りを塗りこめるようにしながら、好き勝手に触られて、知らずに声が漏れる。
「っあ、やめ、んんっ!」
目を閉じようと思うのに閉じると逆に怖い気がして、目の前の有馬の顔ばかり見ていた。
力加減も動きも予測がつかなくて、不安なのに熱はどんどん溜まっていく。
「有馬、も、やだって」
「なに、イきそう? 早くない?」
「っ、あんたのせいだろうが…あ、あっ」
指先に力を籠めると、ざりりと畳が剥がれ、草の青い匂いが立った。
「良かった。気持ちよさそう」
言いながら、有馬は一旦手を止めて体勢を変えた。
航平を畳に押し倒すと、浴衣の裾をはだけて腰をまたいだ。
「な、に」
日常で男に見下ろされるシチュエーションなんてない。
え、なにされんの、俺。
「大丈夫。嫌なことも痛いこともしないし、怖くないから」
怯む航平に、有馬がゆっくりと言った。安心させるように、深く静かな声で。
あ、こいつ、声もいいんだな。
当たり前か、テレビでニュース読んでたんだから、ボイストレーニングとかして…。
場違いなことを考えたせいで、反応が遅れた。
有馬が自分の浴衣の帯を解いて、前をはだけている。
鍛えられた男らしい裸体の中心は、航平同様にそそり立っている。
これまた人の股間を凝視する機会などないので、自分の体勢も忘れてまじまじと見てしまった。
俺よりデカいっつうか、長い、のか? じゃなくて!
「あんた、なんでパンツ穿いてねえんだよ!」
「え、突っ込むとこそこ? だって浴衣だから。ライン出るでしょ」
「女子かよ」
「うるさいなあ。ちょっとはムード出してよ」
有馬はするりと浴衣を脱いで、髪を搔きあげた。
襖越しの花火の光が肌を染める。航平を射抜こうとするような瞳は情欲が揺らめいていて。
その色気に、思わず喉を鳴らした。
有馬は凄絶に微笑んで、腰を落とす。互いの陰茎が触れあい、航平は息を吐いた。
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