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Sorano: 年上、最高ですね。
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無事に東京大学に合格した翌週の3月19日。
三沢空乃は18年の短い生涯で一番と言えるくらい緊張していた。
行人と初めての旅行で、初めての北陸新幹線。
普通ならテンションあげあげなシチュエーションだが、胃の中で蝶々がばたばたしているように落ち着かない。目にも美味そうな金沢名物蟹百万石弁当も全く味がしなかった。
「ごめんな、緊張させて」
おまけに、行人に申し訳なさそうな顔までさせてしまった。
家族に紹介してほしいと思っていたのに、いざその時が来るとみっともないくらい怖じ気づいてしまっている。度胸も男気もあるつもりだったけど。
「ちっせー男だよな、俺」
ぼそりと呟くと、行人が手を握ってくる。
「緊張しない方がおかしいだろ。嫌だと思ったら、直前でも止めていいんだからな」
「それだけはぜってえしねえ」
空乃は手を握り返して、流れゆく車窓に目をやった。
広がる水田が鏡のように空を映しこんでいる。
天の空も地上の空も全く同じだ。ありのままにしか映らない。
半人前でも、今の俺は俺でしかなくて。その俺をユキは選んでくれた。
変にカッコつけたりせず、きちんと向かい合おうと決めた。
ホテルで着替えてから教会に到着すると、聖堂には参列客が集まりはじめていて華やかな雰囲気だった。
行人は輪の中に入っていくと、ご両親や兄弟に空乃を紹介した。
「お隣に住んでる三沢君。よく一緒に遊んでるんだ。金沢来たことないって言うから、旅行がてら一緒に来てもらった」
ご両親に長男夫妻と息子、四男夫妻と赤ん坊。
突然現れた男子高校生(もう卒業したが)を見ても、みんな嬉しそうににこにこしている。
善良で、一目で仲が良いことが分かる家族。
行人はこじらせ系だけど、芯が通った真面目な性格だし、根本的に人に優しい。良い土壌で育まれたことが、この人達を見ていると分かる。
「初めまして。三沢空乃です。本日はおめでとうございます」
ただの友達としての紹介なのに、緊張で声が上擦った。
頭を下げると、ポニーテールが印象的な四男の嫁が、
「やだ、この子可愛いー」
と呟き、旦那に窘められている。
「遠いところまでようこそお越しくださいました。行人がお世話になっています」
綺麗な所作でお辞儀をした行人の母は、当然年配だがかなりの美人だ。
「いえ、お世話になっているのは俺の方です」
「金沢、楽しんでらしてくださいね。行人、恵介と直樹君、控室にいるから挨拶していらっしゃい」
母親の丁寧な挨拶に、空乃の胸はちくりと痛む。
行人の希望とはいえ、本当のことを言えなくてごめんなさい。
礼拝堂の脇の廊下は初春の冷気でひんやりとしている。
モザイク模様のタイルに二人の革靴がこつこつと音を立てる。
「ユキの家族、すげえ仲良さそうだな」
「他の家族がどうかあまり知らないけど、仲は良いな。お盆とか正月とか、全員集合すると盛り上がって五月蠅い」
久々の里帰りに、行人は嬉しそうだ。
行人のスーツは珍しく明るめのグレーだ。三つ揃えで、ネクタイの代わりにチーフを指しているのが洒落ている。
空乃も新調したばかりのスーツ姿を着てみたが、この前まで学ランを着ていた身としては、どうも着心地が悪い。年の差を感じるのはこういう時だ。
「てか女性陣美人揃いな」
「家族揃ってメンクイなんだろ」
「それ、暗に俺の顔褒めてくれてる?」
まぜっかえすと、行人が急に赤面する。
この人の照れポイントは時々謎だ。自分で振り込んで自分で照れているのが面白い。
「おまえの顔は好きだよ」
早口で言い、空乃が喜ぶ間もなく、行人は控室の扉をノックした。
「行人! よく来たな」
花が咲くような笑顔で出迎えてくれた行人の兄は、ちょっとびっくりするくらいの美形だった。
純白のフロックコートに身を包んだ立ち姿は、王子様が三次元に現れたようだ。
甘い顔立ちだが、眉は凜々しく、目が鋭く輝いていることに空乃は好感を持つ。修羅場をくぐっている人間は肌で分かる。
「恵兄、おめでとう。なんか眩しい格好だな」
「せっかくだから、純白にしてみた」
「似合いすぎてて怖い。直樹君、久しぶり。今日はおめでとう」
「ありがとうございます。披露宴、良いワイン揃えたんで楽しみにしててください」
パートナーの梶直樹も、恵介とデザイン違いの白のフロックコートだ。
長身で、この人は絶対女にモテそうだなと思う。
空乃が挨拶のタイミングを見計らっていると、行人が空乃の背に手をあてて、少し押し出すようにした。
「恵兄、直樹君。彼が、三沢空乃君。俺の彼氏。空乃、兄の恵介と、パートナーの梶直樹さん」
俺の彼氏。
当然のようにさらりと紹介されて、すっと頭がクリアになった。
あんなに緊張していたのが嘘みたいに、お腹のもやもや感が一瞬で無くなる。
行人の言葉は魔法の呪文みたいだ。
「三沢空乃です。この度は、ご結婚おめでとうございます。それから、梶さん、誕生日おめでとうございます」
心を込めて祝いの言葉を述べると、直樹がきょとんとした顔になった。
「あ、そっか、俺、誕生日か」
その隣で恵介がふはっと笑う。
「忘れるなよ。式の日、おまえの誕生日に合わせたのに」
「すみません、式のことばかり考えてて、本当に忘れてました」
「じゃあ、プレゼント要らないんだな」
「要ります! 近間さんがくれるものなら何でも全力で欲しいです」
男の空乃から見ても男ぶりの良い二人が、バカップルのようにじゃれあっている。
「梶さんって、なんか犬っぽいすね」
思わず正直な感想が口から漏れた。
それを訊いた近間兄弟は爆笑している。
「三沢君、初対面で直樹を見抜くとは見所があるな」
「空乃も大概犬っぽいけどな」
「俺は近間さんのためならイヌにでもネコにでもなります」
直樹が大真面目で言い、恵介の笑いに拍車がかかる。顔に似合わず笑い上戸だ。
「何だよそれ、下ネタ? 三沢君の前でR-18はやめろよな」
恵介の発言に、事前情報が無かったのか直樹がぎょっとしている。
「え。三沢君、何歳?」
「18です。今月高校卒業して、4月から大学生っす」
答えると、直樹ががしりと両腕を掴んでくる。
「行人君と何歳差?」
「14、かな」
「俺ら5歳だけだけど。年上の男っていいよな」
などとマジな顔で訊いてくる。
この人は、カッコいいのにいちいち間が抜けていて面白い。
空乃は真顔で答えた。
「年上、最高ですね。ちな、R-18はしっかりやってるんで、気にしないでください」
白状すると、行人に後頭部をぱしりと叩かれた。
「痛い…」
「身内に性生活をべらべら喋るんじゃない」
「性生活って、その単語の方が生々しいだろ」
「うるさい。ほら、もう、行くぞ」
顔を赤くして急き立てる行人に、恵介が真面目な顔つきで言った。
「行人。三沢君を1分だけ借りていいかな」
控室の外に出て二人きりになるなり、恵介は空乃を見つめた。
気圧されるような存在感がある人だが、視線が柔らかなので、もう緊張はしない。
「ピアス、すごいね」
いきなり指摘されて、思わず耳たぶに触れた。
ピアスは、行人に貰ったオニキスの一粒玉以外全部外してきたけれど、沢山開けた穴はまだ塞がっていない。穴だらけの耳は、自衛官のこの人には特にみっともなく見えるのだろう。
「アクセ、好きなんで」
嘘やごまかしが通じる相手ではなさそうなので、正直に答える。
「髪も、染めた?」
「っす。ずっと金髪で、けど、そういうのはもう高校で卒業しようと思って」
「ケンカも?」
恵介の視線は空乃の手を向いている。観察力が高い人だ。
髪はどうしたって自然の黒ではないし、指や間接や手の甲には人を殴った名残がある。
「ケンカは、ユキちゃんと会ってすぐにやめました」
「ユキちゃん、ね」
「あ、すみません。いつもそう呼んでて」
「いや、いいよ。あいつが、ユキちゃん」
何がツボにハマったのか、恵介は嬉しそうに微笑んだ。
この人は人形みたいに整った容姿をしているけれど、きっと誰よりも人間くさくて、家族というものを大事にしている。
「俺は、君がどういう人であれ全く構わないんだ。ただ、行人を大事にしてくれれば」
恵介は空乃と視線を合わせて続けた。教会の廊下は静寂に満ちていて、恵介の声は心に直接届くようだ。
「この先、我慢できないくらい嫌なことや腹が立つことや、落ち込むことが沢山あるだろうけど、できる限り、行人に優しくしてやってほしい。行人はゲイであることで随分苦しんだろうし。それに、あいつは何も話さなかったけど、多分、大学の時にすごく辛い経験をしている。だから、こんなことを頼むなんて面倒な兄だと思うだろうけど、どうか、行人を大事にしてほしい」
行人は幸せだ。兄弟にこんなに温かく見守られて。
空乃は鼻の奥が痛くなるのを感じる。姿勢を正して、恵介を見据える。
「俺、その大学の時の話をユキちゃんから聞いて、もう絶対にあんな思いはさせないって心に決めてます。約束します。絶対大事にするし、傷つけるようなことしません。っていうか、俺、これでもめちゃめちゃ尽くしてるんで」
最後は少し冗談めかした。
三食作って、掃除して、髪を乾かしてやって、マッサージして。エッチは優しく丁寧に時に激しく。
献身っていうのは、そういうひとつひとつの行為のことではなくて、その根っこにあるしてあげたいっていう気持ちのことだ。
それを聞いて、恵介はすっと頭を下げた。
「行人を、よろしくお願いします」
「俺の方こそ、よろしくお願いします。今日は本当に、おめでとうございます。正直、すげえ羨ましいっす」
同じように礼をしてそう言うと、恵介は、ありがとうと答えて華やかに笑った。
三沢空乃は18年の短い生涯で一番と言えるくらい緊張していた。
行人と初めての旅行で、初めての北陸新幹線。
普通ならテンションあげあげなシチュエーションだが、胃の中で蝶々がばたばたしているように落ち着かない。目にも美味そうな金沢名物蟹百万石弁当も全く味がしなかった。
「ごめんな、緊張させて」
おまけに、行人に申し訳なさそうな顔までさせてしまった。
家族に紹介してほしいと思っていたのに、いざその時が来るとみっともないくらい怖じ気づいてしまっている。度胸も男気もあるつもりだったけど。
「ちっせー男だよな、俺」
ぼそりと呟くと、行人が手を握ってくる。
「緊張しない方がおかしいだろ。嫌だと思ったら、直前でも止めていいんだからな」
「それだけはぜってえしねえ」
空乃は手を握り返して、流れゆく車窓に目をやった。
広がる水田が鏡のように空を映しこんでいる。
天の空も地上の空も全く同じだ。ありのままにしか映らない。
半人前でも、今の俺は俺でしかなくて。その俺をユキは選んでくれた。
変にカッコつけたりせず、きちんと向かい合おうと決めた。
ホテルで着替えてから教会に到着すると、聖堂には参列客が集まりはじめていて華やかな雰囲気だった。
行人は輪の中に入っていくと、ご両親や兄弟に空乃を紹介した。
「お隣に住んでる三沢君。よく一緒に遊んでるんだ。金沢来たことないって言うから、旅行がてら一緒に来てもらった」
ご両親に長男夫妻と息子、四男夫妻と赤ん坊。
突然現れた男子高校生(もう卒業したが)を見ても、みんな嬉しそうににこにこしている。
善良で、一目で仲が良いことが分かる家族。
行人はこじらせ系だけど、芯が通った真面目な性格だし、根本的に人に優しい。良い土壌で育まれたことが、この人達を見ていると分かる。
「初めまして。三沢空乃です。本日はおめでとうございます」
ただの友達としての紹介なのに、緊張で声が上擦った。
頭を下げると、ポニーテールが印象的な四男の嫁が、
「やだ、この子可愛いー」
と呟き、旦那に窘められている。
「遠いところまでようこそお越しくださいました。行人がお世話になっています」
綺麗な所作でお辞儀をした行人の母は、当然年配だがかなりの美人だ。
「いえ、お世話になっているのは俺の方です」
「金沢、楽しんでらしてくださいね。行人、恵介と直樹君、控室にいるから挨拶していらっしゃい」
母親の丁寧な挨拶に、空乃の胸はちくりと痛む。
行人の希望とはいえ、本当のことを言えなくてごめんなさい。
礼拝堂の脇の廊下は初春の冷気でひんやりとしている。
モザイク模様のタイルに二人の革靴がこつこつと音を立てる。
「ユキの家族、すげえ仲良さそうだな」
「他の家族がどうかあまり知らないけど、仲は良いな。お盆とか正月とか、全員集合すると盛り上がって五月蠅い」
久々の里帰りに、行人は嬉しそうだ。
行人のスーツは珍しく明るめのグレーだ。三つ揃えで、ネクタイの代わりにチーフを指しているのが洒落ている。
空乃も新調したばかりのスーツ姿を着てみたが、この前まで学ランを着ていた身としては、どうも着心地が悪い。年の差を感じるのはこういう時だ。
「てか女性陣美人揃いな」
「家族揃ってメンクイなんだろ」
「それ、暗に俺の顔褒めてくれてる?」
まぜっかえすと、行人が急に赤面する。
この人の照れポイントは時々謎だ。自分で振り込んで自分で照れているのが面白い。
「おまえの顔は好きだよ」
早口で言い、空乃が喜ぶ間もなく、行人は控室の扉をノックした。
「行人! よく来たな」
花が咲くような笑顔で出迎えてくれた行人の兄は、ちょっとびっくりするくらいの美形だった。
純白のフロックコートに身を包んだ立ち姿は、王子様が三次元に現れたようだ。
甘い顔立ちだが、眉は凜々しく、目が鋭く輝いていることに空乃は好感を持つ。修羅場をくぐっている人間は肌で分かる。
「恵兄、おめでとう。なんか眩しい格好だな」
「せっかくだから、純白にしてみた」
「似合いすぎてて怖い。直樹君、久しぶり。今日はおめでとう」
「ありがとうございます。披露宴、良いワイン揃えたんで楽しみにしててください」
パートナーの梶直樹も、恵介とデザイン違いの白のフロックコートだ。
長身で、この人は絶対女にモテそうだなと思う。
空乃が挨拶のタイミングを見計らっていると、行人が空乃の背に手をあてて、少し押し出すようにした。
「恵兄、直樹君。彼が、三沢空乃君。俺の彼氏。空乃、兄の恵介と、パートナーの梶直樹さん」
俺の彼氏。
当然のようにさらりと紹介されて、すっと頭がクリアになった。
あんなに緊張していたのが嘘みたいに、お腹のもやもや感が一瞬で無くなる。
行人の言葉は魔法の呪文みたいだ。
「三沢空乃です。この度は、ご結婚おめでとうございます。それから、梶さん、誕生日おめでとうございます」
心を込めて祝いの言葉を述べると、直樹がきょとんとした顔になった。
「あ、そっか、俺、誕生日か」
その隣で恵介がふはっと笑う。
「忘れるなよ。式の日、おまえの誕生日に合わせたのに」
「すみません、式のことばかり考えてて、本当に忘れてました」
「じゃあ、プレゼント要らないんだな」
「要ります! 近間さんがくれるものなら何でも全力で欲しいです」
男の空乃から見ても男ぶりの良い二人が、バカップルのようにじゃれあっている。
「梶さんって、なんか犬っぽいすね」
思わず正直な感想が口から漏れた。
それを訊いた近間兄弟は爆笑している。
「三沢君、初対面で直樹を見抜くとは見所があるな」
「空乃も大概犬っぽいけどな」
「俺は近間さんのためならイヌにでもネコにでもなります」
直樹が大真面目で言い、恵介の笑いに拍車がかかる。顔に似合わず笑い上戸だ。
「何だよそれ、下ネタ? 三沢君の前でR-18はやめろよな」
恵介の発言に、事前情報が無かったのか直樹がぎょっとしている。
「え。三沢君、何歳?」
「18です。今月高校卒業して、4月から大学生っす」
答えると、直樹ががしりと両腕を掴んでくる。
「行人君と何歳差?」
「14、かな」
「俺ら5歳だけだけど。年上の男っていいよな」
などとマジな顔で訊いてくる。
この人は、カッコいいのにいちいち間が抜けていて面白い。
空乃は真顔で答えた。
「年上、最高ですね。ちな、R-18はしっかりやってるんで、気にしないでください」
白状すると、行人に後頭部をぱしりと叩かれた。
「痛い…」
「身内に性生活をべらべら喋るんじゃない」
「性生活って、その単語の方が生々しいだろ」
「うるさい。ほら、もう、行くぞ」
顔を赤くして急き立てる行人に、恵介が真面目な顔つきで言った。
「行人。三沢君を1分だけ借りていいかな」
控室の外に出て二人きりになるなり、恵介は空乃を見つめた。
気圧されるような存在感がある人だが、視線が柔らかなので、もう緊張はしない。
「ピアス、すごいね」
いきなり指摘されて、思わず耳たぶに触れた。
ピアスは、行人に貰ったオニキスの一粒玉以外全部外してきたけれど、沢山開けた穴はまだ塞がっていない。穴だらけの耳は、自衛官のこの人には特にみっともなく見えるのだろう。
「アクセ、好きなんで」
嘘やごまかしが通じる相手ではなさそうなので、正直に答える。
「髪も、染めた?」
「っす。ずっと金髪で、けど、そういうのはもう高校で卒業しようと思って」
「ケンカも?」
恵介の視線は空乃の手を向いている。観察力が高い人だ。
髪はどうしたって自然の黒ではないし、指や間接や手の甲には人を殴った名残がある。
「ケンカは、ユキちゃんと会ってすぐにやめました」
「ユキちゃん、ね」
「あ、すみません。いつもそう呼んでて」
「いや、いいよ。あいつが、ユキちゃん」
何がツボにハマったのか、恵介は嬉しそうに微笑んだ。
この人は人形みたいに整った容姿をしているけれど、きっと誰よりも人間くさくて、家族というものを大事にしている。
「俺は、君がどういう人であれ全く構わないんだ。ただ、行人を大事にしてくれれば」
恵介は空乃と視線を合わせて続けた。教会の廊下は静寂に満ちていて、恵介の声は心に直接届くようだ。
「この先、我慢できないくらい嫌なことや腹が立つことや、落ち込むことが沢山あるだろうけど、できる限り、行人に優しくしてやってほしい。行人はゲイであることで随分苦しんだろうし。それに、あいつは何も話さなかったけど、多分、大学の時にすごく辛い経験をしている。だから、こんなことを頼むなんて面倒な兄だと思うだろうけど、どうか、行人を大事にしてほしい」
行人は幸せだ。兄弟にこんなに温かく見守られて。
空乃は鼻の奥が痛くなるのを感じる。姿勢を正して、恵介を見据える。
「俺、その大学の時の話をユキちゃんから聞いて、もう絶対にあんな思いはさせないって心に決めてます。約束します。絶対大事にするし、傷つけるようなことしません。っていうか、俺、これでもめちゃめちゃ尽くしてるんで」
最後は少し冗談めかした。
三食作って、掃除して、髪を乾かしてやって、マッサージして。エッチは優しく丁寧に時に激しく。
献身っていうのは、そういうひとつひとつの行為のことではなくて、その根っこにあるしてあげたいっていう気持ちのことだ。
それを聞いて、恵介はすっと頭を下げた。
「行人を、よろしくお願いします」
「俺の方こそ、よろしくお願いします。今日は本当に、おめでとうございます。正直、すげえ羨ましいっす」
同じように礼をしてそう言うと、恵介は、ありがとうと答えて華やかに笑った。
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