ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Sorano: ハグ以上のこと、したい。★

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 午後11時過ぎ。
 コーポアマノ203号室には、時計の針と空乃のシャープペンシルの音が静かに響く。
 行人が文庫本をめくる音も時々混ざる。
 11月も終わりに近づき、気温がぐんと下がった。
 空乃と行人はコタツに斜向かいに座り、絶賛受験勉強と読書中である。

 学校が終わったらまっすぐ帰宅し、行人の部屋で夕食の支度をして、行人の帰りが早ければ一緒に食べ、遅い時はひとりで食べる。片付けを終えたらすぐに勉強。
 その間、行人はヘッドホンで音楽を聴くか、本を読んでいる。時々、空乃のためにお茶を煎れてくれたりする。
 受験勉強が追い込みに入ってきて、最近はこんな感じで夜を過ごしている。
 静かな、二人だけの時間。
 夜、一緒に外食したり、部屋で映画やテレビを見ながら喋る時間は減ったけれど、これはこれで悪くない。

 大して勉強しなくても良い成績を取れる要領の良い空乃であるが、受験勉強は結構ハマっている。
 難しい問題に頭を悩ませるのは楽しいし、出題者の意地悪さに気づいて笑ってしまうこともある。

 赤本の古文を解き終えて、天板に肘をついて本を読む行人をちらりと見る。
 半纏を着込んだ行人はいつもよりシルエットが丸っこくて可愛い。
 洗い立ての髪はさらさらで、頬も首筋も白くて清潔だ。
 文字を追って動く薄い瞼と、まつげ。全部、好きだ。

 やりてえ。
 あー、なんか勃ちそう。

 むらむらを解消しようと赤本に目を落とすが、次の科目を始める気にはならず、テキストを閉じた。
 空乃の動作に、行人が顔を上げた。
「終わったのか?」
「ん。今日の分は終了」
「おつかれ。もう遅いし、寝ようか」
「12時になったら寝る」
 空乃は一旦コタツから出て行人の背後に回り込んだ。
 後ろから行人を抱きしめて、広げた両脚をコタツに突っ込む。

「うわ、ユキちゃんもこもこ」
「半纏だからな」
 目の前の首筋にちゅっと口づけると、行人が抗議の声を上げる。
「空乃」
「ん?」
「すんのは週末だけの約束だろ」
 ぴしりと言われて、空乃は眉を下げる。
 受験の天王山と言われる夏休み以降、勉強に影響が出てはいけないと行人は平日セックス自粛令を勝手に発令してしまった。
 夜更かしくらいで成績が下がるような空乃ではないが、行人が本気で応援してくれているのが分かるので、しぶしぶ受け入れている。

 空乃は行人の髪に鼻をうずめた。
 シャンプーのジャスミンの香りと行人の匂いがする。
「だから、今はハグだけ」
「本当にハグだけだからな」
「あー、やっぱちゅーも」
「駄目」
「なんで」
「止まらなくなるだろ」
「ユキちゃんが?」
「君がだろ」
 夜に、くすくす笑いながら交わす会話は楽しい。
 勉強で尖っていた脳がゆるゆる溶けていく感覚がする。
 空乃は、文庫本を持ったままの行人の手元を覗き込んだ。
「何読んでんの?」
「スパイ小説」
「面白い?」
「うん。今、イスラエルの情報機関のダブルスパイがカルト教団の美人教祖を口説いてるとこ」
「ふは。すげえ設定だな。何て言って口説いてんの?」
 空乃は本を覗き込み、台詞を音読する。

「アン、僕は永久に君の信者だ。
 信者ってどんだけだよ、ああ、相手がカルト教団だからか。アンって教祖にしては平凡な名前だな」
「馬鹿なことを言わないで、ジョナサン。
 ジョナサンってスパイっぽくねえ名前だな。あなたと私は生きる世界が違うのよ。いや、ある意味一緒の世界じゃねえか」
「そんなことはない。君のためなら、僕は組織を捨てる。
 おいおい、そんな簡単に仕事捨てたら駄目だろ」
「そこまで私を思ってくれているの? 
 お姉さん、こいつ無職になんだぞ、スパイとか再就職も危ねえだろ。大丈夫かよ」
「そうだよ、僕の天使。君だけを愛している。だから僕のために教団を捨ててくれ。僕と一緒に祖国イスラエルへ行こう。
 あー、そういう流れなわけね」

 声色を変えて読み続ける空乃の腕の中で、行人が震えている。
「おまっ…、くくっ、突っ込みながら読むなよ」
 余程面白かったのか、目尻に涙を浮かべて笑っている。
「突っ込みどころ満載だろ。ユキって、読書のジャンル底なしだよな」
「良い師匠がいるからな」
 師匠とは、行人の弟嫁の市子いちこのことだ。
 自宅でデイトレーダーをしている市子は少年漫画から哲学書まで読む本の虫で、行人に様々な本を薦めてくれるらしい。
 空乃はいたずら心で、声を低くして行人の耳に吹き込んだ。
「僕の天使。君だけを愛している」
 また爆笑されるかと思ったが、行人はびくりと震えたきり固まったままだ。
「ユキちゃん?」
 覗き込むと頬に朱が走っている。
 マジか。
「ユキ。照れてんの?」
 耳元で囁くと、行人が振り向いた。
「そういうこと、そういう声で言うなっ」
 睨み付けてくる目は潤んでいる。
 行人は経験豊富なくせに変なところで初心(ウブ)だったりするが、あんなクサい台詞に効果があるとは想定外だった。
 サンキュー、ジョナサン。イスラエルでアンと幸せになれよ。

「ユキちゃん、ハグ以上のこと、したい」
「…駄目だ」
 行人は拒否するが、腕の中の身体はさっきより熱を持っている。
 腰に回していた手をスウェットの中に忍び込ませると、行人の股間は緩く勃ちあがっている。
「ユキ、ちょっと勃ってる」
「ちょっとだからすぐ治まる!」
「うん、でも、俺は無理」
 空乃は座ったまま行人の腰を引き寄せた。
空乃の方は完全に勃起している。背骨に押しつけられた固さに、行人の首が更に赤くなる。
「煽っても、しないからな」
「先に煽ったのはどっちだよ」
「煽ってない」
「無自覚タチ悪い」
「明日、模試なんだろ。さっさと寝るぞ」
「じゃあ」
 逃れようとする行人を強く抱きしめ、懇願するように言った。
「よく眠れるように、抜き合いっこだけしよ」

 色褪せた畳に敷いた電気カーペット。
 コタツの上には赤本と大学ノート、文庫本「教祖を追え!」。竹カゴに入ったミカン。飲みかけの湯飲み。
 日常のモノが溢れる居間で晒された下半身に空乃は生唾を飲み込んだ。
 最後まではしないという戒めを込めて、布団には移動せず、上も着たままだ。
 ロンT1枚で下半身丸出しの男なんて滑稽なはずなのに、行人がするとエロさしかない。
「ユキちゃん、こっち」
 膝立ちの行人の両手を取り、自分の肩に乗せる。
 何年着ているか忘れるくらい着ているというロンTは首回りがてろんと伸びていて、鎖骨が露わになっている。
長めの裾からはすっかり勃ち上がった行人自身が見え隠れしていて、スカートの中を覗こうとしゃがみたくなる男子の気分だ。

「空乃、下、寒い」
「すぐ熱くなるから」
 冷えた太ももを撫でると、行人が吐息を漏らした。
 向かい合わせになって、互いの脚を開いて絡ませるように座る。
 行人は細いし白いけど、女っぽいわけじゃないし、どこもかしこも立派な男性だ。
 空乃はゲイではないし、他の男を性的に見ることはできない。行人だけだ。
 同じ男なのに、欲しくて欲しくてどうしょうもなくなる。
 こんな衝動、行人に会うまで知らなかった。

「ユキ、触るな」
「ん」
 こくりと頷く行人のペニスに触れながら、唇に軽く口づけた。
 舌を入れたら最後、そのまま押し倒さない自信がないので、触れるだけのキスを繰り返す。
 じんと唇が痺れて気持ちがいい。
 行人の指が空乃のモノに絡められる。
 細やかな指使いでいじられ、思わず声が漏れた。
 腹の立つことに、行人は手淫もフェラも上手だ。
 その技術を与えた何人もの男を想像するといまだに頭が沸騰しそうになるし、苛々する。
 それでも、その過去も含めて、全部、空乃が好きになった行人だ。

「濡れてきた。カウパー、すげえ量」
 行人は敏感だ。軽く扱いただけで、先走りが溢れてくる。
「そういうこと、言うな。…あ、…んっ」
 亀頭に塗り込めるようにして先を刺激すると、行人が甘く鳴く。
 擦る度に腰が震えているのが愛おしい。
 行人が完勃ちしたのを確認すると、空乃は両手を離した。腰を突き出すようにして、後ろ手を着いた。
「ユキ。自分のと一緒に擦って」
「え、俺が?」
「そ。ユキが俺のでオナってイくとこ、見たい」
 ストレートな物言いに行人がさっと赤くなる。
「変態」
「なんとでも」
「恥ずかしいから、嫌だ。しようって言ったのは空乃なんだから、君がすればいいだろ」
「俺がしてもいいけど、そしたらユキが泣いてお願いしても、朝までイかせてやらないけど」
「…なっ…最悪」
「はは。ユキちゃんの悪態って可愛いだけだから」

 観念したのか、行人は互いの股間の位置を合わせるようにして、空乃の上に跨がり直した。
 行人の手が二本の竿を包み込む。精液はすぐに乾くので、ローションを垂らした。
 ひんやりしたローションはすぐに温まり、ぬるぬる感が快感を増幅させる。
 静かな部屋に、くちゅくちゅとやらしい音が響く。
「…ん、あっ、ん」
 行人の甘い声も捨てがたいけれど、汚れるからと理由をつけて、Tシャツの裾を咥えさせてみた。
 行人は眉根を寄せて、咥えたシャツを唾液で濡らしながら、二本のペニスを扱いている。
 白く平たい腹とその前で揺れる性器の色との対比が艶めかしい。
 声が出せない分、快楽が身体の中に溜まっていくのだろう。挿入されているかのように腰を前後に揺らめかしている。
 目の毒すぎる扇情的な情景に、空乃の空乃は爆発寸前だ。
 一緒に達したかったので、行人のタイミングまで保たせようと奥歯を噛みしめる。
 マジ、この記憶だけで何回でもヌけるわ。
「すげえ、エロい。写真撮りてえ」
 呟くと、行人が睨みつけてくる。律儀にシャツを咥えているので喋れないのだ。
 涙目で睨み付けられても嗜虐心を煽るだけだって、あんたも男なら分かれよ。
「…っ、…」
 戯れに腰や背骨を愛撫すると、行人はびくびくと震える。
 本当に感じやすくて、可愛い。
 行人のつま先がぴんと張り詰めている。もうすぐイきそうなのだ。
 なのに扱く手の力は弱まっている。
 疲れたのか、感じすぎて力が入らないのかもしれない。
 空乃は行人の唇を開くと、シャツを取り去った。つっと唾液の糸が引いた唇に軽く口づける。
「ユキ、ありがと。交代な」
 できる限り優しく言うと、行人は脱力したように両腕を空乃の首に回してくる。
「早く、イかせろ。も、限界」
「仰せのままに」
 どちらの性器もどろどろで亀頭は濃い紅色に膨らんでいる。
 二本合わせて強めに擦り上げるとすぐに強い波が襲ってくる。
「あー、イく、イく」
「んっ…空乃、ああっ…」
 ほぼ同時に達してから、精で汚れた腹を気にすることもなく、強く抱きしめ合った。


 シャワーを浴びて寝支度をし、布団にくるまった。
 電気紐を引いて常夜灯だけを灯す。
「あのシャツ、もう駄目だな」
 橙色の闇の中で行人が呟く。
 行人のロンTは白濁まみれで無残な状態になっていた。
「洗えば平気っしょ」
「見る度にさっきのこと思い出しそうだから着たくない」
「要らないなら俺に頂戴」
「何に使うんだよ」
「ユキちゃんが出張中のオカズ…痛えっ」
 布団の中で脛を蹴られた。
「却下。処分する」
「お詫びに、今度新しい部屋着買ってきます」
「受験終わって、バイト再開してからでいいよ」
「ういっす」
「空乃」
「ん?」
「模試、頑張れよ」
「ヨユー。試験中にユキの痴態思い出さない限りは」
「馬鹿言ってないで寝ろよ。おやすみ」
「ん、おやすみ。ユキ」
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