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Yukito: 月がきれいだ。★
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夕食はコンビニのハムサンドイッチを食べたきりだった。
問われてそう答えると、風呂に入ってる間に空乃はにゅうめんを茹でてくれた。梅干しとオクラが入った麵は温いのにさっぱりと美味しく、胃にすんなり収まった。
「空乃、さっき何してたんだ」
「さっきって?」
急須のほうじ茶を注ぎながら、空乃が首を傾げる。
「なんか、踊ってたみたいな動きだったけど」
「あ、あー。あれは」
言葉を濁している。なんだか言い辛そうだ。
「いや、言いたくなければ、別に」
「踊ってた」
「え」
本当に踊っていたのか。
「文化祭で、うちのクラス、執事&メイド喫茶やんだよ。そのショータイムで、ダンスがあってさ」
空乃は照れるように頬を掻いている。
「執事とメイド」
今時の文化祭ってそんなオタクちっくな出し物するのか。行人が高校生の頃には無かった選択肢だ。
「そ。男子が執事で、女子がメイドのコスプレして給仕すんの。しかも大正時代風」
妙に凝った設定に、行人はくすくすと笑う。
「おまえの執事服、見たいかも」
「来れば? 保護者も来るから、ユキちゃん来ても目立たねえよ」
「考えとく。でもおまえ、そういうの冷めた感じでスルーしそうなのに、練習とかしちゃうんだな」
「まあ、どうせやるからにはちゃんとキメたいじゃん。ああいうのって、恥ずかしがってる方が恥ずかしいし、祭りなんだしさ」
「俺、おまえのそういうとこ好きだよ」
ハスに構えて白けているより、一生懸命練習して盛り上げようとする方が、格好いいと思う。
褒めると、空乃は何故かテーブルに頭をぶつけている。
「どうした」
「…ユキちゃん、無意識にそういう誘うみたいなこと言うよな」
「みたいな、っていうか、誘ってる」
行人は眼鏡を外し、テーブルの上の空乃の手を指先で撫でた。
今夜は誘おうと残業しながら決めていた。さっき風呂に入った時、準備もした。
「…は?」
「空乃と、したい。空乃は?」
空乃は目に見えて赤くなって、狼狽している。
「そりゃしてえけど。したくないわけないけど。けどユキ、疲れてるだろ」
「疲れてるから。チャージしたい。エナジーが必要」
「エナジーって。俺、エナジーになんの?」
「すごく、なる」
手をつないだまま答えると、空乃は嬉しそうに笑った。
「んじゃ、布団行く?」
行人のTシャツを脱がせながら、空乃が気遣わしげに言う。
「ユキ、やっぱ顔色悪い」
「ちょっと寝不足なだけだ」
「眠くなったら、寝ていいから」
「寝ないよ」
囁くように言葉を交わす。
一糸まとわぬ姿になって、布団の中で脚を絡ませる。それだけでドキドキして、すぐに勃起した。
「ユキ。可愛い」
互いのものを擦り合いながら、キスを交わす。
空乃は優しい。
丁寧な手つきで触れながら、行人の様子を確認するように、視線を合わせ、汗ばんだ髪を掻き上げてくれる。
緩やかで、慈しみ合うようなセックスだった。
「ユキ、触るだけにしとく?」
問われて、行人はふるふると首を振る。
「挿れて、ほしい」
「分かった」
空乃がふくむように笑い、混じり合った二人分の白濁をすくう。ぬめりをまとって差し込まれた指に、身体がうずく。ぞくぞくする。
「ローション、足すな」
手のひらで温められたローションで下半身がぬるぬるにされる。気持ちよくて、声が漏れる。
「……んっ、ふ」
「ふは、ユキちゃんの声、眠そう」
「眠くないって…ん、んっ」
前も後ろも入念に触られて、身体と一緒に心もほどけていく。
触られながら、行人は空乃の唇に手を伸ばした。指先で唇をなぞり、歯列を辿る。
行人の指を迎え入れるように口を開く空乃の表情は17歳とは思えないほど色っぽくて、男くさい。
舌の裏を指先でくすぐると、気持ちよさそうに顔を歪め、指を捉えられた。
「こーら、ユキ。遊ばない」
「ふふ」
いつの間にか指は三本に増えていて、腸の奥が熱を持っている。
正常位かなと思っていたら、身体をうつ伏せにされた。
「バック?」
「寝バックな。ユキがそのまま寝てもいいように」
「さすがに最中では寝ないって……あっ」
覆い被さるようにして、空乃が中に入ってくる。
久しぶりに感じる圧迫感に身体がぶるりと震えた。
ゆるゆると動く腰にじんわりと快感が襲ってくる。うつぶせのまま、行人はシーツを握りしめた。
あたたかくて、苦しくて、気持ちいい。
「ユキ、すっげえ気持ちいい。大好きだ」
空乃の甘い囁きが降ってきて、鼓膜に流れ込む。
「ん。俺も、好き」
ゆっくりと規則正しく、浅いところから、深いところまで。
身体のあちこちがクリームみたいにとろけていて、激しく突かれたわけでもないのに、すぐに達してしまった。射精の反動で中がぐっと締まったのが自分でも分かって、空乃がびくびくと震える。
ゴム越しに温かな精液が注ぎ込まれる。気持ちいい。
今日、君とセックスできて良かった。
シャワーで身体を清めてから、新しいシーツを敷いて、布団にくるまった。
「今日、泊まって行っていいか?」
「それ、まっぱで布団に入ってから聞く? 元々、帰す気ないって」
「なんか、おまえと一緒の方がよく眠れる気がする」
「また、あんたはそういうことをさらっと」
空乃はぶつぶつ言っている。
ほとんど声は上げなかったけれど、窓を開け放したままだった。
古びた木枠の窓。網戸越しに見える空は満月の光で青く澄み渡っている。光のカーテンが降り注いでいるみたいな明るさだ。
寝転んだまま月を眺める行人を、空乃が背中から抱きしめてくる。
「月がきれいだ」
知ってるかなと思いながらぽつりと言うと、空乃は少し考えるそぶりをしてから、耳元で囁いた。
「時間よ止まれ、汝は美しい」
「なに、それ」
「忘れた。どっかの偉い人の言葉」
「ふうん」
死んでもいいよ、って言ってくれるかと思った。
不満が伝わったのか、空乃は行人の頭を撫でてくる。
「ユキを一人にしないって約束したからさ。死んでもいいわ、なんて言ってやらない」
その思いやりに、目元が熱くなる。
「うん、ありがと」
空乃は体温が高くて、包まれていると眠気が襲ってくる。
うとうとしていると、うなじにキスの雨が降ってきた。
それが心地よくて、行人は寝返りを打って空乃の胸にすり寄った。
「ユキ、おやすみ」
「おやすみ、空乃」
問われてそう答えると、風呂に入ってる間に空乃はにゅうめんを茹でてくれた。梅干しとオクラが入った麵は温いのにさっぱりと美味しく、胃にすんなり収まった。
「空乃、さっき何してたんだ」
「さっきって?」
急須のほうじ茶を注ぎながら、空乃が首を傾げる。
「なんか、踊ってたみたいな動きだったけど」
「あ、あー。あれは」
言葉を濁している。なんだか言い辛そうだ。
「いや、言いたくなければ、別に」
「踊ってた」
「え」
本当に踊っていたのか。
「文化祭で、うちのクラス、執事&メイド喫茶やんだよ。そのショータイムで、ダンスがあってさ」
空乃は照れるように頬を掻いている。
「執事とメイド」
今時の文化祭ってそんなオタクちっくな出し物するのか。行人が高校生の頃には無かった選択肢だ。
「そ。男子が執事で、女子がメイドのコスプレして給仕すんの。しかも大正時代風」
妙に凝った設定に、行人はくすくすと笑う。
「おまえの執事服、見たいかも」
「来れば? 保護者も来るから、ユキちゃん来ても目立たねえよ」
「考えとく。でもおまえ、そういうの冷めた感じでスルーしそうなのに、練習とかしちゃうんだな」
「まあ、どうせやるからにはちゃんとキメたいじゃん。ああいうのって、恥ずかしがってる方が恥ずかしいし、祭りなんだしさ」
「俺、おまえのそういうとこ好きだよ」
ハスに構えて白けているより、一生懸命練習して盛り上げようとする方が、格好いいと思う。
褒めると、空乃は何故かテーブルに頭をぶつけている。
「どうした」
「…ユキちゃん、無意識にそういう誘うみたいなこと言うよな」
「みたいな、っていうか、誘ってる」
行人は眼鏡を外し、テーブルの上の空乃の手を指先で撫でた。
今夜は誘おうと残業しながら決めていた。さっき風呂に入った時、準備もした。
「…は?」
「空乃と、したい。空乃は?」
空乃は目に見えて赤くなって、狼狽している。
「そりゃしてえけど。したくないわけないけど。けどユキ、疲れてるだろ」
「疲れてるから。チャージしたい。エナジーが必要」
「エナジーって。俺、エナジーになんの?」
「すごく、なる」
手をつないだまま答えると、空乃は嬉しそうに笑った。
「んじゃ、布団行く?」
行人のTシャツを脱がせながら、空乃が気遣わしげに言う。
「ユキ、やっぱ顔色悪い」
「ちょっと寝不足なだけだ」
「眠くなったら、寝ていいから」
「寝ないよ」
囁くように言葉を交わす。
一糸まとわぬ姿になって、布団の中で脚を絡ませる。それだけでドキドキして、すぐに勃起した。
「ユキ。可愛い」
互いのものを擦り合いながら、キスを交わす。
空乃は優しい。
丁寧な手つきで触れながら、行人の様子を確認するように、視線を合わせ、汗ばんだ髪を掻き上げてくれる。
緩やかで、慈しみ合うようなセックスだった。
「ユキ、触るだけにしとく?」
問われて、行人はふるふると首を振る。
「挿れて、ほしい」
「分かった」
空乃がふくむように笑い、混じり合った二人分の白濁をすくう。ぬめりをまとって差し込まれた指に、身体がうずく。ぞくぞくする。
「ローション、足すな」
手のひらで温められたローションで下半身がぬるぬるにされる。気持ちよくて、声が漏れる。
「……んっ、ふ」
「ふは、ユキちゃんの声、眠そう」
「眠くないって…ん、んっ」
前も後ろも入念に触られて、身体と一緒に心もほどけていく。
触られながら、行人は空乃の唇に手を伸ばした。指先で唇をなぞり、歯列を辿る。
行人の指を迎え入れるように口を開く空乃の表情は17歳とは思えないほど色っぽくて、男くさい。
舌の裏を指先でくすぐると、気持ちよさそうに顔を歪め、指を捉えられた。
「こーら、ユキ。遊ばない」
「ふふ」
いつの間にか指は三本に増えていて、腸の奥が熱を持っている。
正常位かなと思っていたら、身体をうつ伏せにされた。
「バック?」
「寝バックな。ユキがそのまま寝てもいいように」
「さすがに最中では寝ないって……あっ」
覆い被さるようにして、空乃が中に入ってくる。
久しぶりに感じる圧迫感に身体がぶるりと震えた。
ゆるゆると動く腰にじんわりと快感が襲ってくる。うつぶせのまま、行人はシーツを握りしめた。
あたたかくて、苦しくて、気持ちいい。
「ユキ、すっげえ気持ちいい。大好きだ」
空乃の甘い囁きが降ってきて、鼓膜に流れ込む。
「ん。俺も、好き」
ゆっくりと規則正しく、浅いところから、深いところまで。
身体のあちこちがクリームみたいにとろけていて、激しく突かれたわけでもないのに、すぐに達してしまった。射精の反動で中がぐっと締まったのが自分でも分かって、空乃がびくびくと震える。
ゴム越しに温かな精液が注ぎ込まれる。気持ちいい。
今日、君とセックスできて良かった。
シャワーで身体を清めてから、新しいシーツを敷いて、布団にくるまった。
「今日、泊まって行っていいか?」
「それ、まっぱで布団に入ってから聞く? 元々、帰す気ないって」
「なんか、おまえと一緒の方がよく眠れる気がする」
「また、あんたはそういうことをさらっと」
空乃はぶつぶつ言っている。
ほとんど声は上げなかったけれど、窓を開け放したままだった。
古びた木枠の窓。網戸越しに見える空は満月の光で青く澄み渡っている。光のカーテンが降り注いでいるみたいな明るさだ。
寝転んだまま月を眺める行人を、空乃が背中から抱きしめてくる。
「月がきれいだ」
知ってるかなと思いながらぽつりと言うと、空乃は少し考えるそぶりをしてから、耳元で囁いた。
「時間よ止まれ、汝は美しい」
「なに、それ」
「忘れた。どっかの偉い人の言葉」
「ふうん」
死んでもいいよ、って言ってくれるかと思った。
不満が伝わったのか、空乃は行人の頭を撫でてくる。
「ユキを一人にしないって約束したからさ。死んでもいいわ、なんて言ってやらない」
その思いやりに、目元が熱くなる。
「うん、ありがと」
空乃は体温が高くて、包まれていると眠気が襲ってくる。
うとうとしていると、うなじにキスの雨が降ってきた。
それが心地よくて、行人は寝返りを打って空乃の胸にすり寄った。
「ユキ、おやすみ」
「おやすみ、空乃」
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