ヤンキーDKの献身

ナムラケイ

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Sorano: ある意味、熱。

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 1日の授業を終えた後の教室には、開放感と気怠さが漂っている。校庭では、早々とホームルームを終えた生徒達が部活の準備を始めている。
 窓の外は夕焼けでオレンジ色に染まっていて、空乃は射し込む西日に目を細めた。

「面倒だと思われたら、もう君が来ないんじゃないかと思って」

 アジアンカフェの夕焼け色のランプの下で、そう言った行人の不安げな顔が蘇る。
 告白も同然の言葉をあんな頼りげな顔で言われてみろ。
 店の中じゃなければ押し倒していたところだ。

「あー、もう、なんなんだよ、あの人!」
 机に突っ伏して、空乃は脚をばたばたと動かした。
「三沢ー、ホームルーム中だぞ、静かにしろー」
 教壇に立つ担任の多田塚先生、ことヅカセンの叱責が飛ぶ。
「さーせん」
 おざなりに謝っていると、前の席からプリントが回ってきた。見ると、進路希望調査だ。
「来月の三者面談で使うから、親御さんともよく相談して書いてくれ」
 ヅカセンが書き方を説明している。
 大学名、学部、学科、試験科目を第3希望まで書く形式だ。祥英高校は都内有数の進学校なので、生徒の9割以上が大学に進学する。
 空乃はプリントの空欄に目を落とした。
 薄っぺらい紙1枚。そこに書き込まれる将来。

 空乃には、なりたい職業も行きたい大学も特にない。
 そこそこ器用なだけで、突出して秀でたものや好きなことや才能があるわけではない。
 お勉強はそれなりに出来るので、早慶か一橋あたりに入って、商社とか広告代理店とか銀行とかに就職すんだろうなと漠然と思っている。
 行人のように毎日スーツを着て出勤するのは、早くても6年後だ。
 そう考えると、年の差は大きいはず。
 なのに、あの人を見ていると、全く年上って気がしない。
 っつーか、可愛いし。

「三沢、何ニヤついてるんだ」 
 進路希望調査を眺めたまま行人のことを考えていると、ヅカセンが丸めたプリントを頭に当ててきた。
「別にニヤついてねーよ」
「喧嘩するなとは言わんが、進路の事も考えろよ」
 ヅカセンは三十代後半の数学教師だ。くだけていて、流行りの予備校講師並みにエンターテインな授業をするので人気が高い。
「先生、そこは、喧嘩ダメゼッタイって言うとこでしょ」
 みのりがすかさず突っ込むと、クラスに控え目な笑いがさざめいた。
 爆笑にならないのは、クラスメイトの中には、空乃のことを怖がって敬遠している奴らもいるからだ。
 空乃はみのりに、うるせーよと軽く返してから、多田塚に向き直った。
「ヅカセン」
「多田塚先生と呼べ」
「多田塚センセイ、国税専門官って難しいん?」
 想定外の質問だったのだろう。多田塚は珍獣でも発見したようにまじまじと空乃を見た。
「おまえの頭なら楽勝だろうよ。本気で詳しく聞きたいなら、後で時間取ってやるけど、まずは大学を決めろよ」
「っす」
「やけに従順だな。熱でもあんのか?」
 失礼にも心配そうに訊いてくる多田塚に、空乃は呟いた。
「……ある意味、熱っすね」
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