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それどう見ても猫ですよ@SQ635
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今夜は天気も良く快適なフライトだ。
途中乱気流が予測されているが、今はほとんど揺れもないので、サービスもしやすい。
総理大臣がシンガポールを訪問していたため、今日の昼過ぎに政府専用機が離陸するまでは空港がざわついていたが、夕方には平常を取り戻していた。
シンガポール航空キャビンアテンダントの三沢琴子は、同僚のアンジーと共にワゴンを押していく。
エコノミークラスの最前列でワゴンを止め、イヤホンをして映画を楽しんでいる乗客に順番に声をかける。
「Would you like something to drink?」
客のオーダー通りに、カップに氷を入れオレンジジュースを注ぎ、アサヒスーパードライはプルタブを引き抜きカップを添え、ハイボールはウィスキーと氷を入れたカップにソーダを注いでステアする。
CA歴6年。
注文の記憶も様々なドリンクのサービス要領も、考える前に身体が反射的に動いてくれる。
22時55分シンガポール発羽田空港行きのSQ635便。
今日は空席も多いのでサービスの時間にも余裕がある。
琴子はアンジーと視線を合わせて、ワゴンを座席2列分動かした。
次は日本語と英語のどちらで話すべきかと乗客の顔を確認して、琴子はどきりとする。
うわ、この人、カッコいい!
45列通路側の席の青年客は、眉がきりりとした男らしい顔つきで、高価そうなチェック柄のネルシャツを着ている。
座っていても分かるほどの長身だ。エコノミークラスのピッチは広くないので、長い脚を窮屈そうにさせている。
「お客様、お飲み物はいかがですか?」
琴子は平常心を装った。顔色は変えない。笑顔は崩さない。声のトーンも上げない。
だってプロだから。
青年は読んでいた英語の経済紙を閉じた。
「トマトジュースにウォッカを入れたものをお願いします」
つまりブラッディ・マリーだ。
日本人の男性客でビールを頼まないのは珍しい。オシャレな人は注文までオシャレだ。
「塩胡椒はお付けしますか?」
「お願いします」
差し出したカクテルを受け取った左手は、薬指にまだ新しそうな指輪が輝いていて、なんとなくがっかりしてしまう。
「お連れ様はいかがなさいますか?」
琴子は青年に小声で尋ねた。
青年のがっしりした肩には、中央席の客がもたれ掛かって眠っている。
顎下まで毛布にくるまっていて顔は髪に隠れているが、体格からして男性だ。
「近間さん、飲み物、どうしますか?」
青年は囁くように問いかけた。
ん……と甘えるような声を出して、寝ていた客は身じろぎした。
毛布が胸元までずり落ちて、顔が露わになる。
ぱちぱちと瞬きをしてから、青年を見て、なぜだか嬉しそうに微笑んだ。
「起こしてすみません。何か飲みます?」
「いらない。メシもいい。まだ眠い」
「じゃあ、水だけ貰っておきますね」
「ん。さんきゅ」
男はふわんと笑うと、青年の胸元に鼻を擦りつけるようにして、また寝入ってしまう。
その仕草とふわふわの真っ黒な髪が黒猫を連想させる。
会話を聞いていた琴子は、ミネラルウォーターのペットボトルを2本差し出した。
「ありがとう。俺も眠りたいので、食事は飛ばしてください」
「かしこまりました」
メモにチェックを入れてから、琴子はまたワゴンを動かす。サービスを続けるが、心臓はどきどきしている。
何あれ何あれ、何あの人。
イケメンどころの騒ぎじゃない。なんだかもう造り物みたいな美形だった。
そういえばCAの1人が、搭乗チェック時にものすごぐキュートな男がいたと騒いでいた気がする。
そのCAの「キュート」や「ホット」はいつも基準が低めなので気にもかけていなかったのだが。
多くのエアラインでは、旅客機の後方部にパイロットや客室乗務員用の仮眠室が設計されている。
休憩時間、仮眠用ベッドの上で脚を伸ばしたCA達の話題は、もっぱら45列の二人組と、スマホでエロゲーをしているビジネスクラスの男と、機内食のお代わりを要求したエコノミークラスの肥満男の話だった。
世の中には色々な男がいるものだ。
仮眠室の隠し窓からは客室全体が見渡せるようになっている。
コールボタンがいくつも点いており、サービスが間に合っていないようなので、琴子は休憩を早めに切り上げた。
コールボタンを押した乗客の対応を終えて、機内を確認しながら通路を歩く。
時刻は日本時間午前3時過ぎ。45列の二人は目覚めたらしく、一冊の雑誌を覗き込みながら小声で談笑している。
琴子はそっと話しかけた。
「お客様。お食事はいつでもお持ちできますので、お声がけくださいね」
「いえ、食事は結構です。ありがとうございます」
青年が答え、その横から黒猫さんが言った。
「今の時間でも、温かいお茶って頂けますか?」
こちらの都合を気にした丁寧な訊き方に琴子は嬉しくなる。
CAをウェイトレスと勘違いしている乗客は意外に多い。
ワゴンサービス中に通路を歩こうとしたり、食事の片付けが終わった後でビールが欲しいとコールボタンで呼びつけたり。
「ございます。少々お待ちください」
一度キャビンへ戻り、日本茶を用意する。
「熱いのでお気をつけください」
黒猫さんはカップを受け取ると、琴子の胸元の名札を見た。
一重で切れ長のアーモンドアイは、暗い機内でもきらきらしている。
本当に綺麗だな、この人。
「ありがとう。三沢さん」
「恐れ入ります」
「三沢さんって、いい名前ですね」
「え、あ、ありがとうございます」
とりあえず礼を言っておくが、苗字を褒められたことは初めてなので、正直意味が分からない。数多くはないが、珍しくもない苗字だ。
会釈をしてキャビンへ戻りながら、琴子は腕時計を見る。そろそろシートベルト着用サインが点くはずだ。
コックピットからの連絡を受け、アンジーがアナウンス用の受話器を手に取った。
「皆様。ただいまシートベルト着用サインが点灯しました。化粧室のご利用はお控え下さい。毛布をご利用の方は……」
琴子は歩きながらシートベルトや荷物入れを確認していく。
これから通過する沖縄上空で大きな乱気流が発生しているのだ。
すぐに機体はがたがたと振動を始めた。
保安要員である琴子達は平気だが、強めの揺れに、乗客の中には不安そうな顔をしている人もいる。
「ただいま乱気流の影響で揺れが強くなっておりますが、航空機の安全な飛行には影響がありませんので、ご安心ください」
アナウンスが終わった瞬間、機体ががくんと揺れた。
一瞬の無重力感覚に小さな悲鳴が上がる。
ついで、子供が泣き叫ぶ声が機内に響き渡った。
45列の4歳の男の子だ。
「さっくん、大丈夫よ。大丈夫だから。静かにしようねー」
隣に座るまだ若い母親が必死に宥めているが、泣き止む気配はない。
びえええええん、ぎぇええええええっ!!
ガラスを引っ掻くような金切声に、周囲の客はあからさまに迷惑そうな顔をしており、舌打ちさえ聞こえる。
「ほーらほら、さっくん、お願いだから泣き止んで、ね」
子供の泣き声は続けば続くほど機内の雰囲気を悪くする。
おろおろしている母親も気の毒でならない。
宥めに行ってあげたいが、今は、機長からCAも着席するよう指示が出ている。
早く揺れが収まるといいのだけれど。
不意に、黒猫さんが通路側に身を乗り出して男の子の方に手を伸ばした。
「これ、なーんだ?」
手のひらの中のものを何か見せている。
泣き続けていた男の子が、興味を引かれたのか、ぱたりと泣き止んだ。
子供特有の水気を湛えた大きな目が、黒猫さんの手を凝視している。
「さっくん、なんだろうねえ」
母親は安堵したように、重ねて問いかけた。
黒猫さんの手には立体的に折りたたまれたタオルハンカチが乗っている。
男の子は涙を擦りながら、元気よく答えた。
「バナナ!」
「ぴんぽん!」
黒猫さんはにっこり笑って、タオルハンカチをほどくと、違う形に折り始める。
「じゃあ、これはなーんだ」
琴子は目を凝らす。なんだろう、耳が飛び出ているから、猫だろうか。
「んー、んーと、ネコさん!」
「ぶー。これはウサギさんです」
黒猫さんの返答に、さっくんはほっぺたを膨らませた。
「えー、お耳長くないもん、ネコさんだよ」
その通りである。申し訳ないが、遠目にもまったくウサギには見えない。
「これはウサギさんです」
もう一度言う黒猫さんに、隣の青年が苦笑している。
「近間さん、それどう見ても猫ですよ」
「え、マジか。んー、じゃあ、正解! 実はネコさんでした」
さっくんは弾けるように笑った。
「やったあ! ねえ、次はなに、なに?」
「そうだなあ、じゃあ次はあ」
あたたかいやり取りに、張りつめていた機内の雰囲気が和らいでいる。
舌打ちしていた乗客も微笑ましい表情になっている。
「ありがとうございます」
頬を染めながら何度も礼を言う若い母親に、二人は大したことじゃないですと恐縮しているが、十分大したことだと琴子は思う。
航空機は無事に着陸し、扉が解放された。
琴子は扉前に並んで、乗客を見送る。ひとりひとりにお声がけし、頭を下げる。
足早に去って行く人、挨拶を返してくれる人。様々なお客様がいるが、この瞬間が働いている中で一番好きだ。
「ご搭乗ありがとうございました」
琴子が挨拶すると、青年と黒猫さんは揃って会釈をして、「ありがとうございました」と返してくれた。
「俺、がくんって揺れた時、結構怖かったです」
「俺も」
「近間さんもですか?」
「そりゃあ、あんだけ揺れたら普通に怖いよ。自分が操縦してる時は全然怖くないけど」
「そうなんですね」
喋りながら、仲良く並んで機体を降りていく二人の後ろ姿に、琴子はもう一度丁寧に頭を下げた。
「ご搭乗ありがとうございました。どうぞこの先もお気をつけて」
途中乱気流が予測されているが、今はほとんど揺れもないので、サービスもしやすい。
総理大臣がシンガポールを訪問していたため、今日の昼過ぎに政府専用機が離陸するまでは空港がざわついていたが、夕方には平常を取り戻していた。
シンガポール航空キャビンアテンダントの三沢琴子は、同僚のアンジーと共にワゴンを押していく。
エコノミークラスの最前列でワゴンを止め、イヤホンをして映画を楽しんでいる乗客に順番に声をかける。
「Would you like something to drink?」
客のオーダー通りに、カップに氷を入れオレンジジュースを注ぎ、アサヒスーパードライはプルタブを引き抜きカップを添え、ハイボールはウィスキーと氷を入れたカップにソーダを注いでステアする。
CA歴6年。
注文の記憶も様々なドリンクのサービス要領も、考える前に身体が反射的に動いてくれる。
22時55分シンガポール発羽田空港行きのSQ635便。
今日は空席も多いのでサービスの時間にも余裕がある。
琴子はアンジーと視線を合わせて、ワゴンを座席2列分動かした。
次は日本語と英語のどちらで話すべきかと乗客の顔を確認して、琴子はどきりとする。
うわ、この人、カッコいい!
45列通路側の席の青年客は、眉がきりりとした男らしい顔つきで、高価そうなチェック柄のネルシャツを着ている。
座っていても分かるほどの長身だ。エコノミークラスのピッチは広くないので、長い脚を窮屈そうにさせている。
「お客様、お飲み物はいかがですか?」
琴子は平常心を装った。顔色は変えない。笑顔は崩さない。声のトーンも上げない。
だってプロだから。
青年は読んでいた英語の経済紙を閉じた。
「トマトジュースにウォッカを入れたものをお願いします」
つまりブラッディ・マリーだ。
日本人の男性客でビールを頼まないのは珍しい。オシャレな人は注文までオシャレだ。
「塩胡椒はお付けしますか?」
「お願いします」
差し出したカクテルを受け取った左手は、薬指にまだ新しそうな指輪が輝いていて、なんとなくがっかりしてしまう。
「お連れ様はいかがなさいますか?」
琴子は青年に小声で尋ねた。
青年のがっしりした肩には、中央席の客がもたれ掛かって眠っている。
顎下まで毛布にくるまっていて顔は髪に隠れているが、体格からして男性だ。
「近間さん、飲み物、どうしますか?」
青年は囁くように問いかけた。
ん……と甘えるような声を出して、寝ていた客は身じろぎした。
毛布が胸元までずり落ちて、顔が露わになる。
ぱちぱちと瞬きをしてから、青年を見て、なぜだか嬉しそうに微笑んだ。
「起こしてすみません。何か飲みます?」
「いらない。メシもいい。まだ眠い」
「じゃあ、水だけ貰っておきますね」
「ん。さんきゅ」
男はふわんと笑うと、青年の胸元に鼻を擦りつけるようにして、また寝入ってしまう。
その仕草とふわふわの真っ黒な髪が黒猫を連想させる。
会話を聞いていた琴子は、ミネラルウォーターのペットボトルを2本差し出した。
「ありがとう。俺も眠りたいので、食事は飛ばしてください」
「かしこまりました」
メモにチェックを入れてから、琴子はまたワゴンを動かす。サービスを続けるが、心臓はどきどきしている。
何あれ何あれ、何あの人。
イケメンどころの騒ぎじゃない。なんだかもう造り物みたいな美形だった。
そういえばCAの1人が、搭乗チェック時にものすごぐキュートな男がいたと騒いでいた気がする。
そのCAの「キュート」や「ホット」はいつも基準が低めなので気にもかけていなかったのだが。
多くのエアラインでは、旅客機の後方部にパイロットや客室乗務員用の仮眠室が設計されている。
休憩時間、仮眠用ベッドの上で脚を伸ばしたCA達の話題は、もっぱら45列の二人組と、スマホでエロゲーをしているビジネスクラスの男と、機内食のお代わりを要求したエコノミークラスの肥満男の話だった。
世の中には色々な男がいるものだ。
仮眠室の隠し窓からは客室全体が見渡せるようになっている。
コールボタンがいくつも点いており、サービスが間に合っていないようなので、琴子は休憩を早めに切り上げた。
コールボタンを押した乗客の対応を終えて、機内を確認しながら通路を歩く。
時刻は日本時間午前3時過ぎ。45列の二人は目覚めたらしく、一冊の雑誌を覗き込みながら小声で談笑している。
琴子はそっと話しかけた。
「お客様。お食事はいつでもお持ちできますので、お声がけくださいね」
「いえ、食事は結構です。ありがとうございます」
青年が答え、その横から黒猫さんが言った。
「今の時間でも、温かいお茶って頂けますか?」
こちらの都合を気にした丁寧な訊き方に琴子は嬉しくなる。
CAをウェイトレスと勘違いしている乗客は意外に多い。
ワゴンサービス中に通路を歩こうとしたり、食事の片付けが終わった後でビールが欲しいとコールボタンで呼びつけたり。
「ございます。少々お待ちください」
一度キャビンへ戻り、日本茶を用意する。
「熱いのでお気をつけください」
黒猫さんはカップを受け取ると、琴子の胸元の名札を見た。
一重で切れ長のアーモンドアイは、暗い機内でもきらきらしている。
本当に綺麗だな、この人。
「ありがとう。三沢さん」
「恐れ入ります」
「三沢さんって、いい名前ですね」
「え、あ、ありがとうございます」
とりあえず礼を言っておくが、苗字を褒められたことは初めてなので、正直意味が分からない。数多くはないが、珍しくもない苗字だ。
会釈をしてキャビンへ戻りながら、琴子は腕時計を見る。そろそろシートベルト着用サインが点くはずだ。
コックピットからの連絡を受け、アンジーがアナウンス用の受話器を手に取った。
「皆様。ただいまシートベルト着用サインが点灯しました。化粧室のご利用はお控え下さい。毛布をご利用の方は……」
琴子は歩きながらシートベルトや荷物入れを確認していく。
これから通過する沖縄上空で大きな乱気流が発生しているのだ。
すぐに機体はがたがたと振動を始めた。
保安要員である琴子達は平気だが、強めの揺れに、乗客の中には不安そうな顔をしている人もいる。
「ただいま乱気流の影響で揺れが強くなっておりますが、航空機の安全な飛行には影響がありませんので、ご安心ください」
アナウンスが終わった瞬間、機体ががくんと揺れた。
一瞬の無重力感覚に小さな悲鳴が上がる。
ついで、子供が泣き叫ぶ声が機内に響き渡った。
45列の4歳の男の子だ。
「さっくん、大丈夫よ。大丈夫だから。静かにしようねー」
隣に座るまだ若い母親が必死に宥めているが、泣き止む気配はない。
びえええええん、ぎぇええええええっ!!
ガラスを引っ掻くような金切声に、周囲の客はあからさまに迷惑そうな顔をしており、舌打ちさえ聞こえる。
「ほーらほら、さっくん、お願いだから泣き止んで、ね」
子供の泣き声は続けば続くほど機内の雰囲気を悪くする。
おろおろしている母親も気の毒でならない。
宥めに行ってあげたいが、今は、機長からCAも着席するよう指示が出ている。
早く揺れが収まるといいのだけれど。
不意に、黒猫さんが通路側に身を乗り出して男の子の方に手を伸ばした。
「これ、なーんだ?」
手のひらの中のものを何か見せている。
泣き続けていた男の子が、興味を引かれたのか、ぱたりと泣き止んだ。
子供特有の水気を湛えた大きな目が、黒猫さんの手を凝視している。
「さっくん、なんだろうねえ」
母親は安堵したように、重ねて問いかけた。
黒猫さんの手には立体的に折りたたまれたタオルハンカチが乗っている。
男の子は涙を擦りながら、元気よく答えた。
「バナナ!」
「ぴんぽん!」
黒猫さんはにっこり笑って、タオルハンカチをほどくと、違う形に折り始める。
「じゃあ、これはなーんだ」
琴子は目を凝らす。なんだろう、耳が飛び出ているから、猫だろうか。
「んー、んーと、ネコさん!」
「ぶー。これはウサギさんです」
黒猫さんの返答に、さっくんはほっぺたを膨らませた。
「えー、お耳長くないもん、ネコさんだよ」
その通りである。申し訳ないが、遠目にもまったくウサギには見えない。
「これはウサギさんです」
もう一度言う黒猫さんに、隣の青年が苦笑している。
「近間さん、それどう見ても猫ですよ」
「え、マジか。んー、じゃあ、正解! 実はネコさんでした」
さっくんは弾けるように笑った。
「やったあ! ねえ、次はなに、なに?」
「そうだなあ、じゃあ次はあ」
あたたかいやり取りに、張りつめていた機内の雰囲気が和らいでいる。
舌打ちしていた乗客も微笑ましい表情になっている。
「ありがとうございます」
頬を染めながら何度も礼を言う若い母親に、二人は大したことじゃないですと恐縮しているが、十分大したことだと琴子は思う。
航空機は無事に着陸し、扉が解放された。
琴子は扉前に並んで、乗客を見送る。ひとりひとりにお声がけし、頭を下げる。
足早に去って行く人、挨拶を返してくれる人。様々なお客様がいるが、この瞬間が働いている中で一番好きだ。
「ご搭乗ありがとうございました」
琴子が挨拶すると、青年と黒猫さんは揃って会釈をして、「ありがとうございました」と返してくれた。
「俺、がくんって揺れた時、結構怖かったです」
「俺も」
「近間さんもですか?」
「そりゃあ、あんだけ揺れたら普通に怖いよ。自分が操縦してる時は全然怖くないけど」
「そうなんですね」
喋りながら、仲良く並んで機体を降りていく二人の後ろ姿に、琴子はもう一度丁寧に頭を下げた。
「ご搭乗ありがとうございました。どうぞこの先もお気をつけて」
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