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王子様は元気ですか?@セブンイレブン
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「いらっしゃいませー」
「3ドル25セントです」
「ありがとうございましたー」
夕食時のセブンイレブンは仕事帰りのビジネスマンや学生で混雑している。
新人バイトのエマは、入れ替わり立ち替わりやって来るお客さんにてんてこ舞いだ。
ようやくレジの列を捌き切ると、エマは隣のレジで光熱費の支払処理をしているメイメイに声をかけた。
「メイメイ、あたし補充に回るね。レジ並び出したら呼んで」
「オッケー」
メイメイは高校の同級生だが、コンビニバイト歴2年の達人だ。今も、エマの三倍速で次々と仕事をこなしている。
菓子コーナーの在庫状況を確認していると、自動ドアが開いて新しいお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー」
声をかけながら客の顔を確認し、エマは首を傾げた。
背が高く、高価そうなスーツを着た若い男だ。
おしゃれでカッコいいのに、両手にパン屋とドラッグストアのビニール袋を提げているのが、ミスマッチで微笑ましい。
息は切れていないが、額には汗の玉が浮いている。走ってきたのだろうか。
「メイメイ、あのお客さん、どっかで見たことない?」
レジに戻って小声で訊くと、メイメイはすぐに答えた。
「前にお茶してた時に相席した、イケメン2人組の片割れでしょ? たまにこの店来るよ」
あ、そうだ!
エマはぱちんと両手のひらを合わせた。
あの王子様みたいな美形日本人の連れだ。
あの時は、この日本人が中国語がぺらぺらだとは思いも寄らなかったから、本当に恥をかいた。
男はサニタリーコーナーに直行すると、すぐに商品を選び取り、レジに向かってきた。
メイメイは別の客の対応をしているので、エマは急いでレジに入った。
「お次のお客様どうぞ」
「お願いします」
男がカウンターに置いた商品を見て、エマは目を瞬いた。
コンドーム一箱。3個入りで日本製の高いやつ。それだけ。
なんて男らしい買い物だ。
エマは渾身の努力でポーカーフェイスを保ちながら、箱をバーコードリーダーにかざす。
ただの商品だと分かっていても、箱に触れる瞬間、妙にどきどきしてしまった。
レジの液晶を確認し、男は紙幣をカウンターに置いた。
「袋もお釣りも結構です」
そんな間さえも惜しいというように、コンドームの箱を掴んで立ち去ろうとする男を、エマは思わず引き止めた。
「あの、王子様は元気ですか?」
男はきょとんとしたが、エマの顔を見つめると破顔した。
「あ、あの時の女子高生」
「はい!」
覚えていてくれたことが嬉しくて、エマは元気よく返事をする。
「もう卒業して、4月から大学生です」
「それはおめでとう。王子様は元気だよ。馬には乗ってないみたいだけど」
男はいたずらっぽく笑ってから、きまり悪そうに頭を掻いた。
「ごめんね、女の子にこういうのレジ打たせて」
「仕事だから平気です。お買い上げありがとうございました。あの、頑張ってください」
最後の一言はつい口が滑ったのだ。
男はぶはっと吹き出し、エマは自分の台詞の意味に気付いた。一気に顔が熱くなる。
「ごめんなさい!」
謝るエマの横では、盗み聞きしていたらしいメイメイが、笑いを堪えようと変顔になっている。
男はひとしきり笑うと、きりっとした顔で宣言した。
「うん、頑張るよ。これでも必死だからね」
「ねえねえ、これからあの王子様と待ち合わせかな」
男が帰った後、エマが話しかけると、メイメイは思いっきり眉をひそめた。
「あれを買って行ったんだから、彼女とデートに決まってるじゃない」
「あ、そっか」
そう言われればそのとおりだが。
でも、あの人がこれから会う相手はあの王子様な気がする。そうに違いない。
今度は、お二人でのご来店をお待ちしております。
エマは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。
「3ドル25セントです」
「ありがとうございましたー」
夕食時のセブンイレブンは仕事帰りのビジネスマンや学生で混雑している。
新人バイトのエマは、入れ替わり立ち替わりやって来るお客さんにてんてこ舞いだ。
ようやくレジの列を捌き切ると、エマは隣のレジで光熱費の支払処理をしているメイメイに声をかけた。
「メイメイ、あたし補充に回るね。レジ並び出したら呼んで」
「オッケー」
メイメイは高校の同級生だが、コンビニバイト歴2年の達人だ。今も、エマの三倍速で次々と仕事をこなしている。
菓子コーナーの在庫状況を確認していると、自動ドアが開いて新しいお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませー」
声をかけながら客の顔を確認し、エマは首を傾げた。
背が高く、高価そうなスーツを着た若い男だ。
おしゃれでカッコいいのに、両手にパン屋とドラッグストアのビニール袋を提げているのが、ミスマッチで微笑ましい。
息は切れていないが、額には汗の玉が浮いている。走ってきたのだろうか。
「メイメイ、あのお客さん、どっかで見たことない?」
レジに戻って小声で訊くと、メイメイはすぐに答えた。
「前にお茶してた時に相席した、イケメン2人組の片割れでしょ? たまにこの店来るよ」
あ、そうだ!
エマはぱちんと両手のひらを合わせた。
あの王子様みたいな美形日本人の連れだ。
あの時は、この日本人が中国語がぺらぺらだとは思いも寄らなかったから、本当に恥をかいた。
男はサニタリーコーナーに直行すると、すぐに商品を選び取り、レジに向かってきた。
メイメイは別の客の対応をしているので、エマは急いでレジに入った。
「お次のお客様どうぞ」
「お願いします」
男がカウンターに置いた商品を見て、エマは目を瞬いた。
コンドーム一箱。3個入りで日本製の高いやつ。それだけ。
なんて男らしい買い物だ。
エマは渾身の努力でポーカーフェイスを保ちながら、箱をバーコードリーダーにかざす。
ただの商品だと分かっていても、箱に触れる瞬間、妙にどきどきしてしまった。
レジの液晶を確認し、男は紙幣をカウンターに置いた。
「袋もお釣りも結構です」
そんな間さえも惜しいというように、コンドームの箱を掴んで立ち去ろうとする男を、エマは思わず引き止めた。
「あの、王子様は元気ですか?」
男はきょとんとしたが、エマの顔を見つめると破顔した。
「あ、あの時の女子高生」
「はい!」
覚えていてくれたことが嬉しくて、エマは元気よく返事をする。
「もう卒業して、4月から大学生です」
「それはおめでとう。王子様は元気だよ。馬には乗ってないみたいだけど」
男はいたずらっぽく笑ってから、きまり悪そうに頭を掻いた。
「ごめんね、女の子にこういうのレジ打たせて」
「仕事だから平気です。お買い上げありがとうございました。あの、頑張ってください」
最後の一言はつい口が滑ったのだ。
男はぶはっと吹き出し、エマは自分の台詞の意味に気付いた。一気に顔が熱くなる。
「ごめんなさい!」
謝るエマの横では、盗み聞きしていたらしいメイメイが、笑いを堪えようと変顔になっている。
男はひとしきり笑うと、きりっとした顔で宣言した。
「うん、頑張るよ。これでも必死だからね」
「ねえねえ、これからあの王子様と待ち合わせかな」
男が帰った後、エマが話しかけると、メイメイは思いっきり眉をひそめた。
「あれを買って行ったんだから、彼女とデートに決まってるじゃない」
「あ、そっか」
そう言われればそのとおりだが。
でも、あの人がこれから会う相手はあの王子様な気がする。そうに違いない。
今度は、お二人でのご来店をお待ちしております。
エマは誰にも聞こえないようにそっと呟いた。
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