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すごくちゃんとしてる@チェックジャワ・ウェットランズ
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舗装されていない土道から砂埃が舞っている。
道の両側にはずらりと並ぶ貸し自転車屋。
店舗や看板の塗装は盛大に剥落しており、商売道具の自転車も年季が入っていて、錆だらけだ。
中華系の店主は着古されたU首シャツに半パン、ビーサン姿で、商売っ気の欠片もない。
真っすぐに続く道の先には、こんもりとした熱帯雨林が見える。
「ここ、シンガポールだよな」
ローカル感満載の景色に、近間保は目を瞬いた。
訪れたことはないが、マニラやバンコクの裏道はこんな感じなのではないだろうか。
チャンギ・ポイント・フェリー・ターミナルからポンポン船に乗って10分。
10分しか離れていないのに、近代都市シンガポールのイメージは微塵もない。
「シンガポール最後の秘境、プラウ・ウビンだよ」
兄の恵介が、「プラウ」とはマレー語で「島」の意味だと説明した。ウビン島というわけだ。
「すぐ北側はもうマレーシアとの国境だ。ということで、今日はサイクリングをしよう」
兄の横に立つ梶直樹が、親指で自転車を指さした。
運動できる服装をしてくるように言われた理由が分かった。
1月下旬。
土日に3日の有給をくっつけて、保はガールフレンドの椿原市子とシンガポール旅行に来ていた。
旅行3日目、シンガポールで働いている次兄とその彼氏-そう、直樹は兄の彼氏だ-は、シンガポールの別の顔を見せてやろうと、この国境の島に案内してくれた。
直樹が中国語で店主と交渉しつつ、4人はそれぞれ自転車を選ぶ。見た目はジャンクだが、問題なく動くことに安心する。
熱帯雨林へ向かう道を2列で走り出した。
南国の日差しは容赦なく紫外線を浴びせかけてくるが、森の香りと身を切る風が気持ちいい。しっとりと露をまとった森林が呼吸しているのを感じる。
軽快にペダルを漕ぎながら、保は、前を走る兄と直樹の背中を眺める。
旅行中の保と市子は有りあわせの運動着だが、兄たちは本格的なサイクリングスタイルだ。
自衛官の兄はともかく、直樹も何か運動をしているのだろう。体格が良く、引き締まった身体をしている。
「近間さん、サングラス似合いますね」
「そうか?」
「かっこいいです」
「はは、おまえもな」
漏れ聞こえる二人の会話に、保は生暖かい気持ちになる。
何をノロケあっているのだろうか。
呆れるほどのバカップルぷりである。
身内が言うのもなんだが、兄は桁外れにいい男だ。性格も外見もカッコいい上に、職業は男なら誰もが憧れる戦闘機パイロットだ。
保が10歳の時に家を出て防衛大学校に入学したが、子供の頃も今も、兄は保のヒーローだ。
その兄が、大晦日に家族全員に向かって、男の恋人がいると告白した時は、度肝を抜かれた。今日はエイプリルフールかと思ったものだ。
マジで男なんだな。
昨夜、初めて直樹に会い、まずそう思った。そして、悔しいことに納得した。
正直、兄に見合う奴なんて女でも男でも滅多にいないだろうとタカをくくっていたのだが、直樹はヒーローのごとき兄の隣にいても全く見劣りしない。
長身で男っぽいのに知的な顔立ちで、語学が堪能で、おまけに商社マンだと言う。
服装も、カジュアルでいて、金沢では絶対に売っていなさそうなオシャレさだった。
兄に選ばれたくせに、妙によそよそしい態度を取るものだから、最初は癇に障ったが、話してみると普通にいい奴だった。
高級レストランでも堂々としているし、保と市子の食事や酒にも紳士的に気を遣っていた。
気障でカッコつけた奴かと思えば、兄のことになると相当ヘタレなところも、逆に好感が持てた。
何より、兄を見る目がめちゃめちゃ優しい。相当ベタ惚れのようなのだ。
兄もそれが満更ではないらしく、見ている方が照れるくらい、見つめ合ったりテーブルの下で手を繋いだり、とにかくべたべたしていた。
「良かったね」
保の考えていることが分かったのだろう。
隣から、市子が話しかけてきた。デイトレーダーの市子は普段ほとんど運動をしないので、少し呼吸が荒くなっている。
「だな」
「恵ちゃん、昔からモテるくせにロクな女の子と付き合ってなかったもんね」
「あの見た目だからなあ。どうしたって顔から入ってくる女の方が多いし」
言い寄られて交際した相手は何人かいたが、1カ月持ったことはなかったんじゃないだろうか。ここ数年は女の話自体聞いたことがなかった。
「直樹君は、すごくちゃんとしてる」
市子が嬉しそうに言う。
ちゃんとしてる。その通りだと思う。
人の手が入っていない森林には、沢山の動物や鳥が生息している。
野生のサルにイノシシ、1メートル近くあるオオトカゲ。
発見する度に兄が指さして教えてくれる。
近間家は遺伝的に視力がいいが、兄は一際目が速い。子供の頃から、鳥でも昆虫でも、一番に見つけるのはいつも次兄だった。
サイクリング道は舗装が少なく、砂利道や獣道が多ければ、アップダウンも激しい。
1時間ほど走ると、市子が息を切らし始めた。
「じゃあ、ここで休憩な」
苦しそうな呼吸に気づいていたのだろう。
道が大きく開けた場所に出た途端、直樹が自転車を止めた。島に渡る前に購入しておいた飲み物で、水分補給する。
「市子、平気か?」
「うん、大丈夫。しんどいけど、気持ちいい」
嘘ではないのだろう。
熱帯の熱さと運動で汗をかいているが、爽やかな顔をしている。
直樹がサイクリングバックから取り出したものを市子に手渡した。
「市子ちゃん、これ舐めておいて」
ミネラルと塩分補給用のキャンディらしい。
「ありがとう。直樹君、初めて名前呼んでくれた」
市子がにっこりする。
確かに、初対面の昨夜は敬語こそ取れたが、名前までは呼んでいなかった。
「あ、えーと。椿原さんとか市子さんの方がよかった?」
「ううん。市子ちゃんがいい」
「俺は俺は?」
市子が嬉しそうなので、保も便乗する。こういうおちゃらけたノリは得意分野だ。
「え、ええっと。保君、でいいのかな」
直樹は困ったように頭を掻いている。直樹は一見ハイスペックなのに、こういうところがいい。
「もう一回」
「保君」
「へへ」
指で鼻の下をこすっていると、自転車の横でコーラを飲んでいた兄が呆れている。
「何やってんだよ。おまえら中学生カップルか」
兄は、メッシュの半袖ウェアにサイクルパンツ姿で、黒のサングラスをかけている。乗っているのは錆びだらけの自転車なのに、モデルみたいだ。
またしばらく走ると、島がぽこりと突き出した部分があり、海沿いに遊歩道が敷かれている。看板には、「Chek Jawa Wetlands」とある。
4人は自転車を置いて、ウッドデッキを歩き出した。
左手にはマングローブが広がり、鬱蒼とした茂みから無数の枝が生き物のように生えている。
右手は一面の海だ。水底の海藻の色でセピア色に輝く海面ぎりぎりを、脚の長い水鳥が滑空していく。
空は高く青く、緑は深く、太陽はぎらぎらと輝く。
ローカルの島だから観光客が少ないのか、デッキを歩くのは保たち4人だけだ。
絶景に疲れが吹き込んだのか、市子は飛び交う鳥を指さしながらデッキを駆けている。
後ろからは兄たちの話し声が聞こえてくる。
この二人はいつも何でもないことをすごく楽しそうに話している。
急に声が途絶えたので、なんとなく後ろを振り返り、保は慌てて目を逸らした。
兄と直樹が、キスをしていた。
欄干に背を預け、顔を心持ち上に向けた兄。そのサングラスを片手で押し上げながら、兄に口づける直樹。
保はデッキをばたばたと走り、市子に追いついた。
「どしたの? なんか赤いよ」
「……いや、その。恵兄と直樹、キスしてた」
それを聞いた市子は、ぷっと噴き出した。
「そりゃあ、キスくらいするでしょ。付き合ってるんだし。キスどころかエッチだってしてるでしょ」
「だよなあ」
一線を越えているだろうことは、二人の距離感を見ていれば容易に分かるが。
あの、性欲なんてありませんというような綺麗な顔をしている兄が。
想像しそうになってしまい、保はぶんぶんと首を振った。
近間家も椿原家も、子供達の恋愛にはオープンな方だ。
保と市子も、家族の前で平気で手を繋いだりハグしたり、頬にちゅーしたりするし、長男の嫁のみちるの授乳シーンだって見たことがある。
「保君、二人のキス見て、嫌だった?」
市子が直球で聞いてくる。
市子は読書家だ。それも、哲学書から少年漫画まで読む雑食。
彼女の書棚には当然のようにボーイズラブ物も混じっていて、そのせいか、市子は保より許容範囲が広い。
大晦日に兄がカミングアウトした時、市子は驚くというより興奮していた。保が兄の恋人をあっさり受け入れられたのは、市子の影響が大きい。
「いや、全然」
保は首を横に振った。
以前、街中で他人の路チューに遭遇した時はうげげと思ったものだが、兄たちのそれは、驚きこそしたが、嫌な気持ちはしなかった。
青い空とセピア色の湿地帯と恋人たち。
映画のワンシーンのようなシチュエーションだったこともあるが、何より、兄のあの表情。
普段からよく笑う快活な兄だが、あんなに幸せそうな笑みは見たことがなかった。
身内で、しかも男同士なのに、二人がいちゃついている姿は不愉快ではない。むしろ、羨ましくなるくらいだ。
「市子」
「なあに?」
「俺もちゅーしていい?」
半分冗談だったので、唇を尖らせたキス顔で近づくと、市子は笑いながら保のほっぺたを引っ張った。
「そういうのは夜までお預けです」
「いひゃいって」
じゃれ合っていると、追いついてきた兄が苦笑した。兄の横では、直樹が幸せそうな顔をしている。
「相変わらず仲いいな、お前ら」
そう言う兄に、保は心の中で突っ込んだ。
どっちがだよ。
道の両側にはずらりと並ぶ貸し自転車屋。
店舗や看板の塗装は盛大に剥落しており、商売道具の自転車も年季が入っていて、錆だらけだ。
中華系の店主は着古されたU首シャツに半パン、ビーサン姿で、商売っ気の欠片もない。
真っすぐに続く道の先には、こんもりとした熱帯雨林が見える。
「ここ、シンガポールだよな」
ローカル感満載の景色に、近間保は目を瞬いた。
訪れたことはないが、マニラやバンコクの裏道はこんな感じなのではないだろうか。
チャンギ・ポイント・フェリー・ターミナルからポンポン船に乗って10分。
10分しか離れていないのに、近代都市シンガポールのイメージは微塵もない。
「シンガポール最後の秘境、プラウ・ウビンだよ」
兄の恵介が、「プラウ」とはマレー語で「島」の意味だと説明した。ウビン島というわけだ。
「すぐ北側はもうマレーシアとの国境だ。ということで、今日はサイクリングをしよう」
兄の横に立つ梶直樹が、親指で自転車を指さした。
運動できる服装をしてくるように言われた理由が分かった。
1月下旬。
土日に3日の有給をくっつけて、保はガールフレンドの椿原市子とシンガポール旅行に来ていた。
旅行3日目、シンガポールで働いている次兄とその彼氏-そう、直樹は兄の彼氏だ-は、シンガポールの別の顔を見せてやろうと、この国境の島に案内してくれた。
直樹が中国語で店主と交渉しつつ、4人はそれぞれ自転車を選ぶ。見た目はジャンクだが、問題なく動くことに安心する。
熱帯雨林へ向かう道を2列で走り出した。
南国の日差しは容赦なく紫外線を浴びせかけてくるが、森の香りと身を切る風が気持ちいい。しっとりと露をまとった森林が呼吸しているのを感じる。
軽快にペダルを漕ぎながら、保は、前を走る兄と直樹の背中を眺める。
旅行中の保と市子は有りあわせの運動着だが、兄たちは本格的なサイクリングスタイルだ。
自衛官の兄はともかく、直樹も何か運動をしているのだろう。体格が良く、引き締まった身体をしている。
「近間さん、サングラス似合いますね」
「そうか?」
「かっこいいです」
「はは、おまえもな」
漏れ聞こえる二人の会話に、保は生暖かい気持ちになる。
何をノロケあっているのだろうか。
呆れるほどのバカップルぷりである。
身内が言うのもなんだが、兄は桁外れにいい男だ。性格も外見もカッコいい上に、職業は男なら誰もが憧れる戦闘機パイロットだ。
保が10歳の時に家を出て防衛大学校に入学したが、子供の頃も今も、兄は保のヒーローだ。
その兄が、大晦日に家族全員に向かって、男の恋人がいると告白した時は、度肝を抜かれた。今日はエイプリルフールかと思ったものだ。
マジで男なんだな。
昨夜、初めて直樹に会い、まずそう思った。そして、悔しいことに納得した。
正直、兄に見合う奴なんて女でも男でも滅多にいないだろうとタカをくくっていたのだが、直樹はヒーローのごとき兄の隣にいても全く見劣りしない。
長身で男っぽいのに知的な顔立ちで、語学が堪能で、おまけに商社マンだと言う。
服装も、カジュアルでいて、金沢では絶対に売っていなさそうなオシャレさだった。
兄に選ばれたくせに、妙によそよそしい態度を取るものだから、最初は癇に障ったが、話してみると普通にいい奴だった。
高級レストランでも堂々としているし、保と市子の食事や酒にも紳士的に気を遣っていた。
気障でカッコつけた奴かと思えば、兄のことになると相当ヘタレなところも、逆に好感が持てた。
何より、兄を見る目がめちゃめちゃ優しい。相当ベタ惚れのようなのだ。
兄もそれが満更ではないらしく、見ている方が照れるくらい、見つめ合ったりテーブルの下で手を繋いだり、とにかくべたべたしていた。
「良かったね」
保の考えていることが分かったのだろう。
隣から、市子が話しかけてきた。デイトレーダーの市子は普段ほとんど運動をしないので、少し呼吸が荒くなっている。
「だな」
「恵ちゃん、昔からモテるくせにロクな女の子と付き合ってなかったもんね」
「あの見た目だからなあ。どうしたって顔から入ってくる女の方が多いし」
言い寄られて交際した相手は何人かいたが、1カ月持ったことはなかったんじゃないだろうか。ここ数年は女の話自体聞いたことがなかった。
「直樹君は、すごくちゃんとしてる」
市子が嬉しそうに言う。
ちゃんとしてる。その通りだと思う。
人の手が入っていない森林には、沢山の動物や鳥が生息している。
野生のサルにイノシシ、1メートル近くあるオオトカゲ。
発見する度に兄が指さして教えてくれる。
近間家は遺伝的に視力がいいが、兄は一際目が速い。子供の頃から、鳥でも昆虫でも、一番に見つけるのはいつも次兄だった。
サイクリング道は舗装が少なく、砂利道や獣道が多ければ、アップダウンも激しい。
1時間ほど走ると、市子が息を切らし始めた。
「じゃあ、ここで休憩な」
苦しそうな呼吸に気づいていたのだろう。
道が大きく開けた場所に出た途端、直樹が自転車を止めた。島に渡る前に購入しておいた飲み物で、水分補給する。
「市子、平気か?」
「うん、大丈夫。しんどいけど、気持ちいい」
嘘ではないのだろう。
熱帯の熱さと運動で汗をかいているが、爽やかな顔をしている。
直樹がサイクリングバックから取り出したものを市子に手渡した。
「市子ちゃん、これ舐めておいて」
ミネラルと塩分補給用のキャンディらしい。
「ありがとう。直樹君、初めて名前呼んでくれた」
市子がにっこりする。
確かに、初対面の昨夜は敬語こそ取れたが、名前までは呼んでいなかった。
「あ、えーと。椿原さんとか市子さんの方がよかった?」
「ううん。市子ちゃんがいい」
「俺は俺は?」
市子が嬉しそうなので、保も便乗する。こういうおちゃらけたノリは得意分野だ。
「え、ええっと。保君、でいいのかな」
直樹は困ったように頭を掻いている。直樹は一見ハイスペックなのに、こういうところがいい。
「もう一回」
「保君」
「へへ」
指で鼻の下をこすっていると、自転車の横でコーラを飲んでいた兄が呆れている。
「何やってんだよ。おまえら中学生カップルか」
兄は、メッシュの半袖ウェアにサイクルパンツ姿で、黒のサングラスをかけている。乗っているのは錆びだらけの自転車なのに、モデルみたいだ。
またしばらく走ると、島がぽこりと突き出した部分があり、海沿いに遊歩道が敷かれている。看板には、「Chek Jawa Wetlands」とある。
4人は自転車を置いて、ウッドデッキを歩き出した。
左手にはマングローブが広がり、鬱蒼とした茂みから無数の枝が生き物のように生えている。
右手は一面の海だ。水底の海藻の色でセピア色に輝く海面ぎりぎりを、脚の長い水鳥が滑空していく。
空は高く青く、緑は深く、太陽はぎらぎらと輝く。
ローカルの島だから観光客が少ないのか、デッキを歩くのは保たち4人だけだ。
絶景に疲れが吹き込んだのか、市子は飛び交う鳥を指さしながらデッキを駆けている。
後ろからは兄たちの話し声が聞こえてくる。
この二人はいつも何でもないことをすごく楽しそうに話している。
急に声が途絶えたので、なんとなく後ろを振り返り、保は慌てて目を逸らした。
兄と直樹が、キスをしていた。
欄干に背を預け、顔を心持ち上に向けた兄。そのサングラスを片手で押し上げながら、兄に口づける直樹。
保はデッキをばたばたと走り、市子に追いついた。
「どしたの? なんか赤いよ」
「……いや、その。恵兄と直樹、キスしてた」
それを聞いた市子は、ぷっと噴き出した。
「そりゃあ、キスくらいするでしょ。付き合ってるんだし。キスどころかエッチだってしてるでしょ」
「だよなあ」
一線を越えているだろうことは、二人の距離感を見ていれば容易に分かるが。
あの、性欲なんてありませんというような綺麗な顔をしている兄が。
想像しそうになってしまい、保はぶんぶんと首を振った。
近間家も椿原家も、子供達の恋愛にはオープンな方だ。
保と市子も、家族の前で平気で手を繋いだりハグしたり、頬にちゅーしたりするし、長男の嫁のみちるの授乳シーンだって見たことがある。
「保君、二人のキス見て、嫌だった?」
市子が直球で聞いてくる。
市子は読書家だ。それも、哲学書から少年漫画まで読む雑食。
彼女の書棚には当然のようにボーイズラブ物も混じっていて、そのせいか、市子は保より許容範囲が広い。
大晦日に兄がカミングアウトした時、市子は驚くというより興奮していた。保が兄の恋人をあっさり受け入れられたのは、市子の影響が大きい。
「いや、全然」
保は首を横に振った。
以前、街中で他人の路チューに遭遇した時はうげげと思ったものだが、兄たちのそれは、驚きこそしたが、嫌な気持ちはしなかった。
青い空とセピア色の湿地帯と恋人たち。
映画のワンシーンのようなシチュエーションだったこともあるが、何より、兄のあの表情。
普段からよく笑う快活な兄だが、あんなに幸せそうな笑みは見たことがなかった。
身内で、しかも男同士なのに、二人がいちゃついている姿は不愉快ではない。むしろ、羨ましくなるくらいだ。
「市子」
「なあに?」
「俺もちゅーしていい?」
半分冗談だったので、唇を尖らせたキス顔で近づくと、市子は笑いながら保のほっぺたを引っ張った。
「そういうのは夜までお預けです」
「いひゃいって」
じゃれ合っていると、追いついてきた兄が苦笑した。兄の横では、直樹が幸せそうな顔をしている。
「相変わらず仲いいな、お前ら」
そう言う兄に、保は心の中で突っ込んだ。
どっちがだよ。
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