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電話でしませんか?@エンポリウム・スイーツ
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年が明けて1月3日。
長男の陽一郎一家は一足先に東京へ戻って行った。
四男の保は彼女の市子の実家に泊まりに行っていて、家には両親と近間と三男の行人の4人きりだ。
おしゃべりな女性陣2人とムードメーカーの保が去ると、近間家は一気に静けさを取り戻した。
滞在4日目ともなればご馳走は出てこない。
一汁三菜の夕食を終えて、一家は地酒を飲みながら麻雀に興じた。
直樹のことを打ち明けてからも、家族の態度は全く変わらない。寧ろ自然に直樹の話題を出してくるくらいだ。
そのことを、心から有り難く思う。
夜9時になると、明日から店を開けるという両親が寝支度を始めたので、近間と行人もそれぞれ自室に引き上げた。
直樹は今朝からバンコク出張で、昼頃にホテルにチェックインしたとワッツアップが来ていた。
エンポリウム・スイーツという高級ホテルらしい。
仕事仲間が撮ったものか、豪奢なロビーに立つ直樹の写真が添付されていた。気取ったポーズにカメラ目線だったので、思わず笑ってしまう。
着いてそうそう繊維工場の視察と会議があると言っていたが、もうホテルに戻っているだろうか。
ああ、でも接待受けたりしてんのかな。
少し迷ったが、酒の勢いも手伝って電話をかけてみる。
案の定繋がらない。6コール鳴らしてから、電話を切った。
バンコクの接待って凄そうだよな。
在タイ日本大使館の防衛駐在官も、夜のバンコクはうはうはだとか言ってたし。接待だと、直樹もそういう店行ったりすんのかな。
考えているともやもやしてきて、布団の上で枕を抱きしめたとき、スマホが震えた。
「すみません、シャワー浴びてて」
直樹の声が飛び込んでくる。
「どこのシャワー?」
「どこって、ホテル以外どこにシャワーがあるんですか?」
「ゴーゴーなんとかとか」
ぼそりと言うと、電話の向こうで直樹が笑った。
「近間さん、酔ってます?」
「酔ってない。地酒は飲んだけど」
「それ、酔ってるって言うんですよ。あんた、日本酒弱いじゃないですか」
直樹の声が心地よくて、近間は枕を抱きしめたまま布団の上に転がった。
窓の外では、結晶の形が見えるほど大粒の雪がしんしんと降っているが、部屋はぬくぬくと暖かい。
「うん、じゃあ酔ってる」
「はは、素直ですね。ねえ近間さん、俺、あんたと付き合い始めてからは、仕事の付き合いでもそういう店は断ってますから。安心してください」
「客の心象悪くなったりしないのか」
「そんなことで機嫌損ねるような半端な仕事してませんから」
「すげえ自信」
そこで会話が途切れた。 互いの息遣いがだけが聞こえる。
目を閉じると、遠くにいる恋人がすぐそばにいるように錯覚する。
恋をしたのが、電話がある時代で良かった。
「早く帰って来いよ」
「それはこっちの台詞です」
「だな」
夜の家は声が響きやすい。くすくすと声を潜めて笑い合った。
「近間さん、今、なにしてます?」
「布団の中で、もうすぐ寝るところ」
「まだ10時ですよ」
「早寝早起きなんだよ」
「近間さん」
直樹の声が甘やかで低いものに変わる。どくんと心臓が鳴った。
「なんだよ」
「電話でしませんか?」
「……っ、……ふうんっ」
「そう、良くなって来たでしょ? じゃあ、指、もう1本増やしてみましょうか」
「そんな、むりっ……」
「無理じゃないですよ。いつも俺の挿れてるんだから、1本じゃ足りないでしょ。……ほら、一度中指抜いて、人差し指と一緒に、ね」
ひどいことを指示しているのに、イヤホンから流れる声は蕩けるように優しい。
近間はワセリンを掬い取ると、二本の指をゆっくりと後孔に差し込んだ。
「……はっ、ん……あんっ」
「そう、上手ですね」
姿は見えなくても、声だけで様子が分かるのだろう。
直樹の低い囁きに脳が甘く痺れる。
酒の力も相まってか、腸壁は熱くとろけていて、抜き差しする指に絡みついてくる。
まだ10分も経っていないだろうに、抽挿を繰り返す指がだるくなってきた。
痛い思いをさせたくないからと、直樹はいつもしつこいくらい時間をかけて後ろをほぐしてくれる。
あいつ、こんなだるいこと延々やってくれてたんだな。
直樹の前戯を思い出すと、腰がずんと重くなった。
自室の畳に敷いた布団の中で、近間は下半身だけ裸になって自慰に耽っていた。
枕元には、ローション代わりに使っているワセリンとティッシュの箱。
両親の部屋は階下だが、行人は隣の部屋だ。行人は麻雀の最中から結構酔っていたし、隣からは物音一つ聞こえないから、もう眠っているのだろう。
念のためにと、声消しにつけたテレビはニューイヤーズコンサートの再放送を流している。
電話越しに同性で年下の恋人から意地悪な命令をされ、右手の指を自分の尻に突っ込んでいる。
これ、親が見たら泣くな。
冷静にそんなことを思えたのは、そこまでだった。
「じゃあ次は、前立腺触ってみましょうか」
楽しそうな声がイヤホンから流れてくる。
顔のすぐそばに置いたスマホの画面は、刻々と通話時間を刻んでいる。
「え」
「近間さんの好きなところ。もう、物足りなくなってるでしょう?」
直樹の言う通りだ。
指二本を咥え込んでいる中はきゅうきゅうと動いているが、まだ、刺激が足りない。気持ちよさより、もどかしさの方が勝っている。
中を探るように、深さや向きを変えてみるが、見つけ出せない。
「……分かんないっ」
「俺の指の動き、思い出して」
直樹の、指。
節くれ立っていて、爪の先まで手入れされたあの長い指。
目を閉じて、その指に中を掻き回されるところを想像する。
背筋がぞくりと震えた。
「腹側の指半ばくらいの場所を探ってみてください。感触違うところがありますから」
言われた通りに指先を動かすと、しこりのようなものに触れた。瞬間、腰が跳ねた。
「ふあっ!」
少し触れただけなのに、電流のような快感が背筋を走り抜けた。
張りつめていたペニスが、更に大きく膨らんだのが分かる。
「そう、そこ」
よくできましたと直樹が褒める。
「今のいいとこ、もっと触ってみてください」
「……え、そんなの、むりっ」
あんな強すぎる快感、ひとりでなんて耐えられない。
「どうして?」
「だって、……怖い。おまえがいないのに、おかしくなるの、嫌だ」
急に心細くなって、ぼろぼろと涙が零れた。
身体は更なる刺激を求めているのに、ひとりで快楽の海に溺れるのは怖い。
海の向こうで、直樹がひゅっと息を呑むのが分かった。
「あー、もう! あんたって人は、本当に……」
「……なに?」
「可愛い」
艶めいた恋人の声にぞくりとする。
「……馬鹿」
「うん。近間さんが好きすぎて馬鹿になりそうです。じゃあ、一緒にイきましょうか。それなら怖くないでしょ」
「ん」
「指、抜いていいですよ。左手じゃしごきにくいでしょ」
抜いた指はふやけて白くなっていた。
両手で触れたペニスは腹に付きそうなほど屹立して、先走りを垂らしている。
亀頭を揉むと気持ちよさで頭がくらくらする。
「なおき、おまえも、勃ってんの?」
「近間さんのエロい声聞いてて、勃たないわけないでしょ。さっきから、ずっと、ぎんぎんですよっ……」
声が荒いのは、直樹も自身のものを扱いているからだろう。
その様子を想像するだけで達しそうだった。
「なあ、俺、もう……」
「俺もですよ。一緒にイきましょう……っ」
数秒間、互いに無言で性器を強く扱く。
「……っ、近間さんっ」
直樹が絶頂を迎える声を聞いた瞬間、近間も弾けた。
「……あ、直樹っ……はあっ!」
まぶたの裏が、銀世界のように真っ白になった。
夢も見ないほど深く眠って、朝6時にすっきり目覚めた。
年始に飲み食いしすぎたので、今朝は距離を走ろうと決める。
軽くシャワーを浴びてからジャージに着替え、台所で水を飲んでいると、行人が降りてきた。
「おはよう」
気恥ずかしさを隠して挨拶をする。
「おはよう」
答える行人は、パジャマ姿で髪を下ろしていて普段より子供っぽい。
戸棚からコップを出し、水道水を注いでいる。
「眼鏡、ずれてるぞ」
手を伸ばして、行人の眼鏡の位置を直してやる。まだ目が眠そうだ。
「ありがと」
「休みなんだから、まだ寝てろよ」
「ん、水飲んだらまた寝る」
「眠れなかったのか? 目赤いぞ」
「……誰のせいだと」
行人が小声で呟いた。
心なしか顔が赤い。
一息に水を飲み乾すと、行人は近間の肩を叩いた。
「恵兄、もうちょっと声気をつけろよ」
「え」
「おやすみ」
近間の返事を待たずに、行人は階段を上がっていく。
思わずその場にしゃがみ込んだ。
「まじかよ」
長男の陽一郎一家は一足先に東京へ戻って行った。
四男の保は彼女の市子の実家に泊まりに行っていて、家には両親と近間と三男の行人の4人きりだ。
おしゃべりな女性陣2人とムードメーカーの保が去ると、近間家は一気に静けさを取り戻した。
滞在4日目ともなればご馳走は出てこない。
一汁三菜の夕食を終えて、一家は地酒を飲みながら麻雀に興じた。
直樹のことを打ち明けてからも、家族の態度は全く変わらない。寧ろ自然に直樹の話題を出してくるくらいだ。
そのことを、心から有り難く思う。
夜9時になると、明日から店を開けるという両親が寝支度を始めたので、近間と行人もそれぞれ自室に引き上げた。
直樹は今朝からバンコク出張で、昼頃にホテルにチェックインしたとワッツアップが来ていた。
エンポリウム・スイーツという高級ホテルらしい。
仕事仲間が撮ったものか、豪奢なロビーに立つ直樹の写真が添付されていた。気取ったポーズにカメラ目線だったので、思わず笑ってしまう。
着いてそうそう繊維工場の視察と会議があると言っていたが、もうホテルに戻っているだろうか。
ああ、でも接待受けたりしてんのかな。
少し迷ったが、酒の勢いも手伝って電話をかけてみる。
案の定繋がらない。6コール鳴らしてから、電話を切った。
バンコクの接待って凄そうだよな。
在タイ日本大使館の防衛駐在官も、夜のバンコクはうはうはだとか言ってたし。接待だと、直樹もそういう店行ったりすんのかな。
考えているともやもやしてきて、布団の上で枕を抱きしめたとき、スマホが震えた。
「すみません、シャワー浴びてて」
直樹の声が飛び込んでくる。
「どこのシャワー?」
「どこって、ホテル以外どこにシャワーがあるんですか?」
「ゴーゴーなんとかとか」
ぼそりと言うと、電話の向こうで直樹が笑った。
「近間さん、酔ってます?」
「酔ってない。地酒は飲んだけど」
「それ、酔ってるって言うんですよ。あんた、日本酒弱いじゃないですか」
直樹の声が心地よくて、近間は枕を抱きしめたまま布団の上に転がった。
窓の外では、結晶の形が見えるほど大粒の雪がしんしんと降っているが、部屋はぬくぬくと暖かい。
「うん、じゃあ酔ってる」
「はは、素直ですね。ねえ近間さん、俺、あんたと付き合い始めてからは、仕事の付き合いでもそういう店は断ってますから。安心してください」
「客の心象悪くなったりしないのか」
「そんなことで機嫌損ねるような半端な仕事してませんから」
「すげえ自信」
そこで会話が途切れた。 互いの息遣いがだけが聞こえる。
目を閉じると、遠くにいる恋人がすぐそばにいるように錯覚する。
恋をしたのが、電話がある時代で良かった。
「早く帰って来いよ」
「それはこっちの台詞です」
「だな」
夜の家は声が響きやすい。くすくすと声を潜めて笑い合った。
「近間さん、今、なにしてます?」
「布団の中で、もうすぐ寝るところ」
「まだ10時ですよ」
「早寝早起きなんだよ」
「近間さん」
直樹の声が甘やかで低いものに変わる。どくんと心臓が鳴った。
「なんだよ」
「電話でしませんか?」
「……っ、……ふうんっ」
「そう、良くなって来たでしょ? じゃあ、指、もう1本増やしてみましょうか」
「そんな、むりっ……」
「無理じゃないですよ。いつも俺の挿れてるんだから、1本じゃ足りないでしょ。……ほら、一度中指抜いて、人差し指と一緒に、ね」
ひどいことを指示しているのに、イヤホンから流れる声は蕩けるように優しい。
近間はワセリンを掬い取ると、二本の指をゆっくりと後孔に差し込んだ。
「……はっ、ん……あんっ」
「そう、上手ですね」
姿は見えなくても、声だけで様子が分かるのだろう。
直樹の低い囁きに脳が甘く痺れる。
酒の力も相まってか、腸壁は熱くとろけていて、抜き差しする指に絡みついてくる。
まだ10分も経っていないだろうに、抽挿を繰り返す指がだるくなってきた。
痛い思いをさせたくないからと、直樹はいつもしつこいくらい時間をかけて後ろをほぐしてくれる。
あいつ、こんなだるいこと延々やってくれてたんだな。
直樹の前戯を思い出すと、腰がずんと重くなった。
自室の畳に敷いた布団の中で、近間は下半身だけ裸になって自慰に耽っていた。
枕元には、ローション代わりに使っているワセリンとティッシュの箱。
両親の部屋は階下だが、行人は隣の部屋だ。行人は麻雀の最中から結構酔っていたし、隣からは物音一つ聞こえないから、もう眠っているのだろう。
念のためにと、声消しにつけたテレビはニューイヤーズコンサートの再放送を流している。
電話越しに同性で年下の恋人から意地悪な命令をされ、右手の指を自分の尻に突っ込んでいる。
これ、親が見たら泣くな。
冷静にそんなことを思えたのは、そこまでだった。
「じゃあ次は、前立腺触ってみましょうか」
楽しそうな声がイヤホンから流れてくる。
顔のすぐそばに置いたスマホの画面は、刻々と通話時間を刻んでいる。
「え」
「近間さんの好きなところ。もう、物足りなくなってるでしょう?」
直樹の言う通りだ。
指二本を咥え込んでいる中はきゅうきゅうと動いているが、まだ、刺激が足りない。気持ちよさより、もどかしさの方が勝っている。
中を探るように、深さや向きを変えてみるが、見つけ出せない。
「……分かんないっ」
「俺の指の動き、思い出して」
直樹の、指。
節くれ立っていて、爪の先まで手入れされたあの長い指。
目を閉じて、その指に中を掻き回されるところを想像する。
背筋がぞくりと震えた。
「腹側の指半ばくらいの場所を探ってみてください。感触違うところがありますから」
言われた通りに指先を動かすと、しこりのようなものに触れた。瞬間、腰が跳ねた。
「ふあっ!」
少し触れただけなのに、電流のような快感が背筋を走り抜けた。
張りつめていたペニスが、更に大きく膨らんだのが分かる。
「そう、そこ」
よくできましたと直樹が褒める。
「今のいいとこ、もっと触ってみてください」
「……え、そんなの、むりっ」
あんな強すぎる快感、ひとりでなんて耐えられない。
「どうして?」
「だって、……怖い。おまえがいないのに、おかしくなるの、嫌だ」
急に心細くなって、ぼろぼろと涙が零れた。
身体は更なる刺激を求めているのに、ひとりで快楽の海に溺れるのは怖い。
海の向こうで、直樹がひゅっと息を呑むのが分かった。
「あー、もう! あんたって人は、本当に……」
「……なに?」
「可愛い」
艶めいた恋人の声にぞくりとする。
「……馬鹿」
「うん。近間さんが好きすぎて馬鹿になりそうです。じゃあ、一緒にイきましょうか。それなら怖くないでしょ」
「ん」
「指、抜いていいですよ。左手じゃしごきにくいでしょ」
抜いた指はふやけて白くなっていた。
両手で触れたペニスは腹に付きそうなほど屹立して、先走りを垂らしている。
亀頭を揉むと気持ちよさで頭がくらくらする。
「なおき、おまえも、勃ってんの?」
「近間さんのエロい声聞いてて、勃たないわけないでしょ。さっきから、ずっと、ぎんぎんですよっ……」
声が荒いのは、直樹も自身のものを扱いているからだろう。
その様子を想像するだけで達しそうだった。
「なあ、俺、もう……」
「俺もですよ。一緒にイきましょう……っ」
数秒間、互いに無言で性器を強く扱く。
「……っ、近間さんっ」
直樹が絶頂を迎える声を聞いた瞬間、近間も弾けた。
「……あ、直樹っ……はあっ!」
まぶたの裏が、銀世界のように真っ白になった。
夢も見ないほど深く眠って、朝6時にすっきり目覚めた。
年始に飲み食いしすぎたので、今朝は距離を走ろうと決める。
軽くシャワーを浴びてからジャージに着替え、台所で水を飲んでいると、行人が降りてきた。
「おはよう」
気恥ずかしさを隠して挨拶をする。
「おはよう」
答える行人は、パジャマ姿で髪を下ろしていて普段より子供っぽい。
戸棚からコップを出し、水道水を注いでいる。
「眼鏡、ずれてるぞ」
手を伸ばして、行人の眼鏡の位置を直してやる。まだ目が眠そうだ。
「ありがと」
「休みなんだから、まだ寝てろよ」
「ん、水飲んだらまた寝る」
「眠れなかったのか? 目赤いぞ」
「……誰のせいだと」
行人が小声で呟いた。
心なしか顔が赤い。
一息に水を飲み乾すと、行人は近間の肩を叩いた。
「恵兄、もうちょっと声気をつけろよ」
「え」
「おやすみ」
近間の返事を待たずに、行人は階段を上がっていく。
思わずその場にしゃがみ込んだ。
「まじかよ」
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