戦闘機乗りの劣情

ナムラケイ

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人前に出せません@玄関ロビー

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「それ、何回目だよ。いい加減飽きるだろ」
 うつぶせの姿勢で腕に頬を預けながら、近間は、隣で寝そべっている直樹に抗議した。
 当の直樹は、上半身をベッドボードに預け、熱心にスマホに見入っている。
 イヤホンをしていないので、音声が丸聞こえだ。
 聞き慣れない自分の声が漏れてきて、近間は居心地が悪いことこの上ない。
「飽きません。だって、近間さんですよ」
 直樹は視線を画面に留めたまま、真顔で答えている。
 繰り返し見ているのは、飛行訓練中の近間の画像だ。
 訓練中にシンガポール空軍の仲間に撮影してもらった動画である。

 今は土曜日の午前8時過ぎ。
 昨夜は直樹が近間の部屋に泊まった。
 朝起きて、ベッドの中でじゃれ合いながら話しているうちに、訓練映像の話になり、見たい見たいと騒ぐ直樹にスマホを貸してやると、食いつくように動画に夢中になってしまった。
 もう10回以上は見てるよな、それ。
 放置されて少々退屈な近間である。 

「そんな面白いか?」
「面白いっていうか、パイロットの近間さんがカッコいいです」
 こちらを見ようともしない。
 夢中になっている対象は自分とはいえ、何となく面白くない。
 朝食でも作ろうと思うが、下半身はじんわりと痺れていて、立つのが億劫だ。
 それで、悪戯心が芽生えた。
 近間はタオルケットの下でそっと脚を伸ばし、直樹のくるぶしを爪先で撫でた。
「ちょっと近間さん、悪戯禁止ですよ」
 くすぐったいのか、直樹は身をよじるが、変わらず動画を見続けている。
「んー。だって、直樹が相手してくれないからさ」
「構ってほしいんですか?」
 爪先を動かしながら、直樹の方を見て肘枕をし、肩までかぶっていたタオルケットを少し捲った。
 胸元が露わになる。
「そんなの見てなくても、本物が横にいるだろ」
 情事の時にしか出さないかすれ声を作ると、ようやく直樹はこっちを見た。
 その視線が、近間の顔から首筋、胸元にあからさまに移動する。
 胸には、昨夜の名残りが花びらのように散っているはずだ。
 直樹の喉がごくりと動くのが見えた。
 その喉元に唇を近づけ、とびきりの甘え声で囁いた。
「な、構ってよ」
「……あー、もう。煽ったのそっちですからね!」
 直樹はスマホをサイドボードに置くと、近間の身体に腕を伸ばした。

 
 昨日は飛行訓練の最終日で、近間は夕方にアパートに帰宅した。
 制服プレイは脇に置いておいて、焼肉でも食べに行こうと直樹の会社の近くで待ち合わせたのだが。
 久しぶりに顔を合わせたら、早く二人きりでいちゃいちゃしたくなってしまい、結局夕食は中華をテイクアウトして、足早に近間の部屋に向かうことになった。
 1週間の禁欲と2週間の飛行訓練の後だ。
 食事もそこそこに、二人は3週間ぶりのセックスに耽溺した。

 ついばむようなキスが肩に降ってきて、指で後孔をなぞられる。
 近間はぴくりと身体を震わせた。
 昨夜散々いじられた入口はふっくりと赤みを帯びていて、いつもより敏感になっている。
 中指の先がつぷりと入ってきた。
 何度も直樹を受け入れたそこは、まだやわらかく溶けていて、誘うように指を飲み込んでいく。
「すごい、近間さんの中、絡みついてきますよ」
 すぐに指を二本に増やし、直樹が囁く。
「……っ、言うなよ、そういうこと」
 近間は枕に顔をうずめた。
 二本の指が、中の壁を揉むように擦っていく。
 気持ちいい。気持ちいいのに、足りなくてもどかしい。
 触って欲しいのは、もっとお腹側の、違うところだ。
 近間は腰を揺らめかせる。
 固くなったペニスがシーツに擦れて、声が漏れそうになる。
「なおっき……中の、いつものとこ、触って……」
「いつものとこって?」
 触れそうで触れないぎりぎりのところを掠めながら、直樹が訊く。
 分かっているのに、わざとだ。
 セックスの時、こいつは時々意地悪になる。
「………っ」
「言わないと触ってあげませんよ?」
 三本に増やされた指がばらばらに動かされ、くちゅくちゅと音を立てる。
 かと思えば、一気に指が抜かれ、また奥まで突き立てられる。
「やあっ……ああんっ」
「ほら、どこ触ってほしいの?」
「…んっ……ぜんりつ、せんっ」
 顔は見えないのに直樹が微笑むのが空気の震えで分かった。
「すげえ可愛い」
 頭を撫でられると同時に、望んでいた部分をピンポイントで強く押された。
 そのまま、指で揉むように刺激される。
「……あっ、あっ、やだっ。も、いきそ……」
「いいよ、イって」
 くにくにと何度も前立腺を擦られ、押し寄せる射精感から逃げられない。
「……あ、あ、……あああっ!」
 ペニスがどくどくと震え、腹とシーツの間が濡れていく。
 昨夜、もう何も出なくなるほど何度もイったのに、まだ出るものがあるのか。
 朦朧とする頭で不思議に思う。
「気持ちよかった?」
 聞かれて、こくりと頷いた。
 気持ちいい。身体にまったく力が入らず、雲の上にいるみたいだ。
 そのまままどろみそうになっていると、直樹に耳たぶを噛まれた。
「寝ちゃだめですよ、近間さん」
「でも、ねむい」
「煽ったのそっちなんだから、最後まで付き合ってください」
 言うなり、直樹は近間の身体に覆いかぶさってくる。
 うつぶせのまま股を広げられ、その間に直樹の両脚が入ってくる。
 腕立て伏せするような姿勢で、直樹は性器を近間のアナルに触れさせた。
 先っぽの感触だけで、完全に勃起しているのが分かる。これから侵入してくる大きさと熱さを想像し、唾を飲み込んだ。
 近間のナカは直樹の形を覚えていて、一番太いカリの部分もぬるりと飲み込んだ。
「ふうっん……」
 足りないものを満たされるような充足感に、吐息が漏れた。
 直樹の下生えが尻に触れるまで腰が進んできた。全部挿れてしまうと、近間の中を味わうように、動かずにじっとしている。
 その指先が、触れるか触れないかの距離で近間の背筋をつうっと撫でた。
 予想していなかった愛撫に腰が揺らめいた。
「近間さん、こんなとこも気持ちいーんだ。ほんと、敏感」
 直樹が含み笑いをし、調子に乗って何度も背筋をなぞる。その度に、腰が魚のように跳ねた。
「……誰のせいだよ」
「うん、俺のせいだよね」
 直樹は近間の身体を上から抱き込むように覆い被さった。
 乗っかられているのに重さを感じないのは、鍛えた体幹で自重を支えてくれているからだ。
 身体の後ろ側全部に直樹の体温が伝わってきて、心地いい。
 動かないまま挿れられていると、内壁はすこしの動きも拾おうとして敏感になる。
 耳を甘く食まれたり、首筋にキスをされたり、それだけで直樹のモノをきゅうきゅうと締め付けてしまう。
「なおき、俺、なんか、また、イきそ……」
「まだ動いてないですよ」
「……でも、も、気持ちよくて」
「挿れただけでイっちゃうとか、どんだけ感じやすいんですか」
 責めるような口調だが、どこか嬉しそうでもある。
「だからっ、おまえのせいだろ……あっううんっ」
「やらしい近間さん、本当可愛い」
「……っるさい…………ああっ!」
 視界がちかちかとスパークした。反射で爪先がぴんと伸びる。
 ものすごい快感が頭のてっぺんまで突き抜けて、それから、突き落とされるような開放感に襲われた。
 その浮遊感は、操縦中のマイナスGとどこか似ている。
 ナカがぎゅうっとしまるのが自分でも分かった。
「うわ、締めすぎ……」
 背後で直樹が呻く。
 気持ちいい。気持ちよくてどうにかなりそうだ。
 なのに、射精感がない。
「はあっ、はあっ……ん」
 シーツに股間をすりつけると、まだ勃ったままだ。新たな精が吐き出された感触もない。
 絶頂感は変わらず続いていて、身体が痙攣するように震えている。
 戸惑っている近間の髪に、直樹はキスを落とした。
「近間さん、また、ドライでイった?」
「……ドライ? んだよそれ」
「射精しないでイくこと」
「……うそだろ」
 なんだよそれ。
 男なのに、そんなことあるのか。
 恥ずかしいような情けないような気分だが、絶え間ない快感にそれ以上の思考が停止する。
「嘘じゃないですよ。近間さん、昨日もそうでしたよ。5回目した時、ずっとドライでイきっぱなしみたいになってて、最後気絶してました。覚えてない?」
 言いながら、直樹がゆるゆると腰を動かしだす。
 イったばかりの敏感な身体は、すぐに反応してしまう。
 爪先まで電流が走るような感覚。
「………覚えてない……あ、やっ、やだあっ」
 生理的な涙が滲む。口がうまく閉じられなくて、飲み込めない唾液が枕にシミを作った。
「すっげえ、しまる……」
 直樹の声にも余裕がない。
 そのことが嬉しい。
 ピストンが速度を増し、一番奥までぐちゃぐちゃに掻きまわされる。
「はあんっ、ああっ、ん、も、むりっ……」
「……ゴムしてないから、直前に、抜きますね」
 頭がくらくらする。
 なんで、抜くなんて言うんだ。
 達する時の直樹の熱と震えを感じたいのに。
 近間は背後を振り返って、直樹を見た。視界が涙で滲んでいる。
 カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。
「……そのまま、出して、いいから」
「こら。そういう可愛い顔でねだらないでください」
「でも、ほんと、いいから」
「そういうわけにいかないでしょ」
 直樹は苦しそうに顔を歪めると、数回腰を激しく振った。
 直後、ずるりと抜ける感覚がして、近間はその刺激でまたイってしまう。
 背中にぱたぱたと温かいものが降り注ぐ。
 その感触すら気持ちよくて、近間はうっとりと目を閉じた。

 
 ようやくベッドから起き出せたのは、昼過ぎだった。
 シャワーを浴びて、服を着る。
 休日によく来ているポロシャツでは首元のキスマークが隠れず、3回も着替える羽目になった。
 いい社会人が何をやっているんだかと自分でも呆れるが、心はむずがゆいほどに幸福感に満たされている。無数のキスのせいで、唇は熱を持っていて変な感じだ。
 部屋を出て、エレベーターに乗る。
「何食べたいです?」
 直樹に訊かれ、
「バクテー」
 と即答した。運動したからか、なんだか塩気があるものが食べたい。
「じゃあ、松發肉骨茶(ソンファ・バクテー)にしましょうか。すぐそこのセンター・ポイントに店入ってましたよね」
「土曜だから、混んでるだろうけど」
「待ってればいいですよ」
 エレベーターを降りると、玄関ロビーには大西勇馬がいた。トートバッグを肩から下げていて、出かけるところのようだ。
「こんにちは」
 礼儀正しく挨拶をする男子中学生に、二人も「こんにちは」と返す。
「この前、すごくカッコよかったです!」
 勇馬は両手を握りしめると、興奮した表情で近間を見上げてきた。
 近間が操縦する戦闘機を、直樹と一緒に見に来てくれたのだ。
 中学生の男の子に喜んでもらえるなんて、有り難いことだ。パイロット冥利に尽きる。
「サンキュ」
 近間が微笑むと、途端に勇馬は真っ赤になった。
 ぺこりと頭を下げると、足早にエントランスを出ていく。首の後ろまで赤い。
「何赤くなってんだろ」
 首を傾げていると、直樹に腕を掴まれた。そのまま、エレベーターに引きずり込まれる。
「なに。忘れ物?」
「やっぱ外出禁止。昼飯は俺が作ります」
 直樹が階数ボタンを押し、エレベーターは上昇し始める。
「え、なんで。今、めっちゃバクテーの胃になってるんだけど」
 胡椒たっぷりのスープで白飯をかき込みたい。あの店は茶もうまい。
「近間さん、今ものすごいエロい顔してます。色気が半端ないです」
 大真面目に断言する直樹に、近間は呆れるしかない。
「はあ? 何言ってんの、おまえ」
「ついさっきまでエッチしてましたって顔してるんですよ、あんた。俺にしか分からないだろうから、外出ても大丈夫かなって思ったんですけど。  男子中学生まで誘惑してるようじゃ、人前に出せません」
「おまえ、本当、俺のことになるとどうかしてるよな」
「近間さんが自覚なさすぎなんです」
 こういう時の直樹は言い出したら聞かないのだ。
 近間は諦めて、直樹に従うことにする。
 まあ、バクテーは家でも作れるし。
 過保護にされて、それを嬉しいと思ってしまっているんだから、俺だって大概どうかしてるか。
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