戦闘機乗りの劣情

ナムラケイ

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あんたの救いになりたい@夜の寝室

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「ジョー、盆休み帰省すんだろ。うちに寿司食いに来いよ、親父が奢るって言ってるからさ。絶対だぞ!」

「……ロクの交信が途絶えた」

「航空自衛隊は8日、空自小松基地所属のF-15戦闘機が墜落した現場付近で、遺体の一部を発見したと発表しました。行方の分からなかった操縦士の佐野隆也たかや1尉とみて、確認を急いでいます」

「俺、整備士、辞めます」

「主人が大変お世話になり、ありがとうございました。皆さんと飛べて幸せだと、毎日のように申しておりました」

「ロク―――――っ!!!!」




「はあっ、はあっ、はあっ……」
 額に手を当てると、じっとりと濡れていた。嫌な汗だ。
 近間は枕元の時計を見遣る。
 1時32分。
 眠りに落ちてから1時間と経っていない。
 浅い眠りに落ちては、悪夢にうなされ、目を覚ます。一晩中その繰り返しだ。
 もう5日もまともに眠れていなかった。

 体力には自信がある。
 1日や2日の徹夜は平気だし顔にも出ないが、不眠3日目には流石にクマが色濃く出ていた。
 大使館の全体ミーティングで顔を合わせた経済班の三宅里奈は、近間の顔を見てぎょっとしていた。
「近間さん、体調悪いんですか? せっかくの男前が台無し」
「大丈夫、ちょっと寝不足なだけですから」
「業務が忙しくて? それとも梶さんですか?」
 近間と直樹の関係を知っている三宅は、心配半分、好奇心半分の複雑な顔つきだった。
「想像にお任せします」
 冗談にしてしまいたくてそう言うと、三宅は思惑通りに後者だと解釈してくれた。
「ごちそうさまです。今度詳細乞う」
 軽い会話を終えてから、そっと息を吐いた。
 頭が痛い。目がしぱしぱする。


 同じ部屋で勤務している防衛駐在官の岩崎1佐は、全力で心配してくれた。
 岩崎は元々は艦艇勤務だが、同じ自衛官だから、体調不良で任務に出る危険性を身を持って知っている。
「週明けから飛行訓練だろ。大丈夫か?」
「平気です。今週、夜の会食が多かったから、疲れているだけで」
「会食なんていつものことだし、そんなので疲れるタマじゃねえだろ。・・おまえ、寝てないな」
 護衛艦の艦長として数百人の部下を指揮していた岩崎に、ごまかしは通用しない。
「最近、なんとなく寝苦しくて。医務官に睡眠導入剤貰いに行きます」
「つらかったら、明日は休めよ」
「飛行訓練で2週間も不在にするんですから、溜まってる仕事は片付けておかないと」
「無理だけはすんなよ」
 岩崎はぐしゃぐしゃと近間の髪を撫でると、それ以上は何も言わなかった。


 近間はベッドを抜け出すと、バスルームの鏡の前に立った。
 笑えるくらいひどい顔だった。
 精彩を欠いた目が黒いクマに縁どられ、頬がこけ、唇はかさついている。
 飛行訓練の開始は3日後だ。体調を整えなければならない。

「……情けないな」
 万全のコンディションで臨みたいからと、恋人に禁欲までさせているのに。
「直樹」
 愛しい人の名を呟くと心が落ち着いて、その分切なさが募った。
 週末にフラトン・ホテルで一夜を過ごしてから、直樹には会えていなかった。
 禁欲宣言以前に、互いに仕事が忙しくて会う時間が捻出できなかったのだ。
 毎日連絡はしているが、液晶上のやりとりは逆に味気ない。
「今日もお疲れ様でした。おやすみなさい。早く会いたいです」
 アプリを開くと、最後のメッセージは昨夜の午後9時過ぎだ。

 直樹の腕の中で眠りたい。
 切実にそう思った。
 直樹は人より体温が高くて、肌を合わせると、ぬくもりが流れ込んでくる。
 「子供体温だな」とか「ただでさえ暑い国なのに、余計暑くなる」とか、いつもは憎まれ口を叩くけれど、直樹の腕の中は心地が良い。
 肩幅が広くて胸板が厚くて、近間よりも体格がいいので、すっぽりと包み込まれる。
 直樹といると、たとえセックスをして疲労したわけでなくても、よく眠れる。
 
 考えていると余計に恋しくなってきた。
 睡眠導入剤は効果が無かった。
 眠れるのだが、浅い眠りはリアルすぎる夢ですぐに途切れてしまう。
 もう随分長い間ロクの夢は見ていなかったのに、今週に入ってからは毎日だ。
 飛行訓練を前にして、精神が不安定になっているのだろう。

 シンガポール赴任前、部隊で勤務していた頃はほぼ毎日のように空を飛んでいた。
 それが、もう半年も飛んでいないのだ。
 戦闘機で駆る時はいつも命懸けだ。
 地上と交信で繋がっていても、編隊を組んで飛んでいても、コックピットの中ではひとりだ。
 地上1万メートル以上を音より早く飛ぶ中で、何が起こっても、自分1人で対処しなければならない。
 滑走路に着陸する度に、今日も生きて帰ってこられたと安堵する。
 久々の飛行訓練に、気が昂っている。嬉しいし、楽しみで、興奮している。
 その分、ブランクが怖い。
 
「うちに寿司食いに来いよ、親父が奢るって言ってるからさ。絶対だぞ!」
 ロクこと佐野隆也は、近間と同じ金沢出身で、防衛大学校の同期だ。
 防大で文字通り血と涙と汗を一緒に流し、同じパイロットになり、石川県小松市の中部航空方面隊第6航空団に配属された。
 兼六園から取った「ロク」をTACネームに選ぶくらい、郷土愛に溢れた気のいい奴だった。
 同郷で同期で職種も同じ。
 仲良くならないわけがない。
 佐野の実家は寿司屋で、近間の実家も店屋だと知ると、よく寿司食いに来いと誘ってくれた。


 けれど。

「絶対だぞ!」

 夏季休暇前、そう言って任務についた佐野は、滑走路に戻ってこなかった。
 飛行中にG-LOC-重力加速度による意識の喪失―を起こし、射出座席による緊急脱出も叶わず、墜落して、死んだ。

「……ロクの交信が途絶えた」
 通信士は、ヘッドホンを耳に強く押しつけながら、世界の終わりを見たような悲壮な顔をしていた。

「俺、整備士、辞めます」
 航空事故調査委員会は整備に落ち度は無かったと結論付けたが、墜落したF-15の機付長は心労に耐え切れず、隊を去って行った。

「主人が大変お世話になり、ありがとうございました。皆さんと飛べて幸せだと、毎日のように申しておりました」
 涙も出ないほどの悲しみに打ちひしがれ、それでも、恨み言の一つも言わずに、気丈に頭を下げた細君は、まだ26歳だった。

 俺が戻ってこなかったら、あいつ、どうすんだろ。
 そう思った瞬間に、無意識に液晶の通話ボタンを押していた。
 はっとしてすぐに終了ボタンを押す。

 直樹はしっかりした奴だが、それでも5歳年下だ。
 ベッドではぐずぐずにされても、日常的に甘えることはしたくないし、あいつより大人でいたかった。
 ホットミルクでも飲もうとキッチンに向かおうとした時、スマホが着信を告げた。

 直樹だ。
 間違い電話だと言おうと決めてから、応答する。
「近間さん?」
 真夜中だというのに、しっかりした声音だった。数日ぶりに聞いた声に胸が詰まる。

「―――なおき」
「あんた、なんて声してんですか」
「通話ボタン、間違えて押しただけだから」
 用意していた台詞をなぞるが、すぐに見抜かれる。
「なわけないですよね。寝れないんですか?」
「……」
「いつから」
「……日曜」
 今日はもう木曜、いや日付が変わったから金曜だ。
「はあ? なんで早く言わないんだよ!」
 直樹は、いつも近間にはですます調で話す。滅多に聞かない乱暴な口調に、心が冷えた。
「……大丈夫だから。遅くに悪かったな、切るよ」
「待てって! ったく。俺、そっち行ってもいいですか?」
「大丈夫だから」
「あんたの大丈夫は、大丈夫じゃないから」
「………っ」
「なあ、教えて。近間さん。俺は、いた方がいいですか。いない方がいいですか」
 おかしい。なんで、直樹の方が泣きそうなんだ。
 もう、取り繕うのは無理だった。
「………いて、ほしい」
 返事はないままに、通話が切れた。


 アパートの扉を開けるなり、抱きしめられた。
 情熱的な抱擁ではなく、壊れ物を扱うような、小動物をそっと抱き上げるような抱擁だった。
「頼むから、辛いときは頼ってください」
 年下の恋人は懇願するように言った。
「生意気」
 逃げるように軽く返すと、どんと壁に押し付けられた。鼻が触れそうな距離で、真正面から視線を合わせてくる。
「俺、そんなに頼りないですか」
「そんなことない。でも、年下のおまえにそうそう甘えられないだろ」
 直樹は唇を噛んで苦しそうな顔をする。
 壁から離れ、近間の手を引いてベッドまで連れていくと、近間を座らせた。
 直樹は床に跪くと、近間の両手を握った。

 サイドランプだけ灯した薄暗い部屋で、直樹の目が真摯な光を放っている。
「俺は年下で、あんたから見たら全然ガキかもしれない。けど、付き合うってことは、年齢も立場も関係なく、対等でいるってことだと俺は思います。
 俺がつらい時、近間さんが側にいてくれて救われました。だから、あんたがつらい時は、俺があんたの救いになりたい」
 目元が熱くなったと思ったら、視界がうるんだ。
「ちょっ、近間さんっ、なんで泣くんですか」
 直樹が慌てている。
 制御できず、涙はぱたぱたと落ちるばかりだ。
「……ごめん」
 肩肘を張って、結果的に恋人を蔑ろにしていたのは自分だ。
「謝んなくていいから、泣き止んで」
「眠れなくなってから、毎日、おまえにいて欲しいと思ってた。でも、頼るのが、怖くて。おまえがいないと立ってられないようにはなりたくない」
 震えながら打ち明けると、両手を握る直樹の手に力が込められた。
「近間さん。俺たち二人とも、立派な社会人の男ですよ。毎日きちんと働いて、真っ当な社会生活を送ってる。
 ずぶずぶの依存関係になんて、なりたくてもなれないから、安心してください。弱い時は寄りかかって、元気な時は一緒に前向いて立ちましょう」
「なんか、おまえの方が年上みたいだな」
 直樹は、近間が弱っている理由を聞いてこない。近間が自分で話すまで待ってくれているのだ。

 飛行訓練が終わって無事地上に帰還したら、ロクのことを話そう。
 近間は心に決める。
 直樹が家族のことを打ち明けてくれたように。
「俺は年上の近間さんが好きですけどね。ほら、落ち着いたなら、寝ましょう」

 涙を洗い流してからベッドに入ると、直樹が後ろから抱きしめてくれる。
「おまえ、あったかいな」
「いつもは嫌がるくせに」
「嫌じゃないよ、本当は」
 囁くように言葉を交わしていると、すぐにうとうとしてきた。

「……ん」
 眠りに入ろうと吐息を吐くと、腰のあたりで直樹の股間がむくりと膨らんだ。
 その感触に眠気が飛んでしまう。
「え、直樹?」
「あー、気にしないでください」
「でもこれ」
 結構完勃ちだよな。
「あんたが変な声出すからですよ。禁欲中に抱っこしてるだけでも結構つらいのに」
 直樹がごにょごにょと言い訳している。
「挿れるの無理だけど、してやろうか?」
「してやるって?」
 からかいが混じった口調だ。
 こいつ、わざと言わせようとしてるな。
「……その、手とか、口で」
「うーん。もっと先がいいな」
「先って。え、スマタ……?」
 挿れなくても身体が疲れそうだと不安になっていると、直樹が笑った。
「すみません、冗談です。何もしませんよ。近間さんの匂い嗅いでたら、反応しただけ。今日は、俺の抱き枕になっててください」
 腿に置かれた手が、とんとんと一定のリズムを刻む。
 すぐに瞼が重くなって、近間は5日ぶりに深い眠りに落ちた。
 夢も見なかった。
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