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俺のこと好きにしろよ@フラトン・ホテル
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近間は金の遣い方が綺麗だ。
ケチでも吝嗇でもないが、衣食住に必要以上に金をかけることがないし、浪費も贅沢もしない。
高級なレストランやバーに誘うと、いくら直樹が奢ると言っても、あまりいい顔をしないし、一緒に買い物に行くと、「若いうちから贅沢するな」とじじむさい説教をされることもしばしばだ。
近間が風呂の準備をしている間、直樹は部屋のバルコニーからマリーナ・エリアを眺めていた。
シンガポールの夜景は色とりどりにきらめいている。
近間が予約したフラトン・ホテルのポストマスタールームは、こっくりした卵色で統一されていて、居心地がいい。
普段贅沢をしない近間が、一泊4万円はするこの部屋を準備してくれた。その気持ちが、ただただ嬉しい。
「直樹ー、来ないなら先入ってるぞ」
近間が呼んでいる。
直樹がスーツを脱いでバスルームに入ると、近間はバスタブで気持ちよさそうに手足を伸ばしていた。
この人は本当に綺麗な身体をしている。
鍛えられた筋肉はしなやかに引き締まっていて、一切の無駄がない。肌はなめらかな象牙色で、腰は細く、股下も膝下も長い。
「なにじろじろ見てんだよ」
直樹の露骨な視線に、濡れた前髪を掻き上げながら、近間がにやっと笑う。
「んー、綺麗だなと思って」
「俺の裸なんか見慣れてるだろ」
「見飽きません。近間さん、ちょっと前ずれて」
直樹は後ろから近間を抱き込むようにして、湯船に浸かる。
「はああ」
気持ちよくて思わず息を吐くと、近間が笑った。
「オヤジくせえ」
「あんたの方が年上でしょうが」
「そうだよ。33のおっさんだからな」
「近間さんは全然おっさんなんかじゃないです。すごく、素敵です」
耳に吹き込むと、近間はぴくりと身体を震わせた。
両掌でゆるゆると胸や腹を撫でると、近間は後頭部を直樹の肩にもたせかけてくる。髪から甘い匂いがする。
「近間さんは、4兄弟って言ってましたよね」
「ああ。男4人てちょっと珍しいだろ」
「俺の周りにはいませんでしたね。皆さん、何してるんですか?」
「長男が家畜防疫官、次男の俺は自衛官、三男は国税専門官で、末っ子が消防官」
「全員公務員ですか?」
「そう。しかも全員、「官」がつく」
近間は楽しそうに笑った。お湯がちゃぷちゃぷと揺れる。
「近間さん、明るいしよく笑うから、幸せな家で育ったんだろうなって思います」
「うーん、仲はいいな、普通に。兄弟4人とも、見た目も性格もばらばらでさ。まったくキャラ違うから、喧嘩も結構するけど」
「でもそれは、いい喧嘩ですよね」
「まあな。なあ、こんな話、聞いてて楽しいか?」
「楽しいです」
これは本心だ。
近間の育った家庭を想像すると、ゆたんぽを抱えたみたいに心がじんわり温かくなる。
1年ぶりの姉との再会は、緊張して、気力と体力を削り取られた。
10代の頃の姉は今より太っていて、髪は黒くて長かったし、化粧も濃かった。
今の姉はその面影もないが、それでも、姉と会うと昔の記憶を引きずり出される。
心にも身体にも傷を抱え、ロンドンのアパートでひとりきりで膝を抱えていた時のことを。
言葉が通じず、教室の隅でぽつんと座っていた時のことを。
ロンドンの空よりもどんよりと曇った気分で、毎日を過ごしていたことを。
姉は、直樹が話しかけることを全身で拒絶していて、まるで直樹がいないかのように振る舞われたことを。
自分は、姉のことを一生許せず、うわべだけの会話を交わしていくんだろうと思っていた。
でも今日、姉に本音を話して、すこしだけ心の中に晴れやかさが生まれた。
近間が一緒にいてくれたおかげだ。
「おまえに、家族を大事にしてほしい」
近間がそう言ってくれたから。
直樹は、近間に回した腕に力を込めた。
「そういえば、消防士の末っ子が、あ、保って言うんだけど、今度彼女とシンガポールに遊びに来るって行ってたな」
近間が思い出したように言う。
「へえ、彼女と海外旅行なんてやりますね。いつですか?」
「年末だったかな。聞いとく」
「楽しみですね」
「おう」
直樹は、おしゃべりはおしまいという合図に、近間の耳をかぷりと噛んだ。
腹を抱きしめていた腕をほどき、両手で近間の乳首に触れる。すこし触れただけでぷっくりと固くなるそこを、指でつまみ、こね回す。
「……っ」
近間が身じろぎする。
お湯がぴしゃんと跳ねた。
執拗に胸だけをいじりながら、耳たぶを甘噛みする。
「近間さん、かわいい」
甘く低い声を作って耳元で囁くと、近間がふるりと震える。
「…おまえ、恥ずかしいやつだよな」
「これからもっと恥ずかしいことしますから」
「馬鹿じゃねえの」
「好きにしろって言ったの、近間さんでしょ」
透明なお湯の中で、近間の股間がすっかり立ち上がっているのが見えた。
直樹は手を伸ばすと、親指でカリの部分を押さえ、人差し指の腹で鈴口をくるくると撫でた。
ぬるりとした先走りがこぼれる。
「………はぁんっ!」
強い刺激に、近間が上げた声は、バスルームで反響して思いのほか大きく響いた。
自分の声に驚いたのか、近間は首筋を真っ赤にして俯いてしまう。
「………のぼせる。出よう」
そそくさと立ち上がろうとする近間の腰を捕らえた。
「ここでしたいです」
声が響いてエロいので。
直樹の魂胆はお見通しだったのだろう。
近間は横目で直樹を睨む。
「声響くから嫌だ」
直樹の腕から逃れると、逃げるようにバスタブを出てしまう。
二人はろくに身体も拭かずに、ベッドにもつれ込んだ。
ベッドボードにもたれて座る直樹の上にまたがるように、近間を誘導する。
その小さな顔を捕らえて、キスをした。
唇を甘く噛み、舌で口腔のすべてに触れていく。歯列をなぞり、歯茎を舐め、舌を絡める。
近間は息継ぎの合間合間に熱い息をもらした。
「近間さん、口の中、すごく感じますよね」
唇を離すと、唾液の糸が引いた。
「知るか」とかなんとか可愛くないこと言うんだろうなと思っていたのに、近間は思いがけず素直に頷いた。
「……ん。キス、気持ちい」
とろけた顔で言われ、ぞわりと背筋に痺れが走る。
まだ8割くらいの固さだった股間が一気に張りつめる。
「煽らないでください」
もっと気持ちいいと言わせたくて、さっきよりも深く、犯すようなキスをする。
口づけながら、輪っかにした指で近間のペニスをしごいてやると、喘ぎながら腰を揺らめかせている。
「っ、は…あ…」
他の男を抱いたことがないから確証はないけれど、近間は感じやすい方だと思う。
女の子みたいに、いかにもな高い喘ぎ声を上げたりしないから。
この人が声を漏らす時は、本当に気持ちよくて我慢ができない時なんだと、余計に分かる。
「きもちいい?」
「……ん、うん。でも、も、いいから」
絶対気持ちいいはずなのに、近間はいやいやをするように、首を横に振っている。
「なんで。気持ちいいんですよね?」
「…っ、だから、やだ。まだ、イきたくない」
「イっていいですよ」
「だめ」
近間は膝に力を込めて身体を離すと、そのまま下の方に移動した。
「え。近間さん?」
直樹のペニスに手を添えた近間は、一度ちらりと直樹に目線を投げてから、竿の部分をべろりと舐めた。
熱く柔らかい感触に、快感が走り抜ける。
うわ。
この人、ほんとに、なんなんだよ。
手のひらでタマを揉まれ、舌で、裏筋を下から上に丁寧に舐め上げている。
近間の髪と直樹のペニスの間で、赤い舌がちろちろと見え隠れするのが、際限なくいやらしい。
当たり前だが、男同士なのでどこが弱いかは知り尽くしている。正直、これまでにされたどんなフェラよりも、イイ。
熱い粘膜で全部が包み込まれ、唇でしごかれる。
近間のふわふわの髪を撫でながら、直樹は高まる射精感を必死でやり過ごす。
別に早漏ではないが、近間が口淫してくれているという事実だけで達しそうだ。
「……っ、近間さん、やばいです、さすがに」
「いーよ、イって」
咥えたまま、近間が言う。挑発するように直樹を見上げている。
男のモノを咥えている姿までカッコいいとか、本当にこの人は、ありえない。
魅力的な誘惑に心はぐらぐら揺れたが、直樹は両手で近間の頭をそっと離した。
一方的に奉仕されるより、この人と身体の全部で繋がりたかった。
「え。なんで。よくなかった?」
近間が眉を下げる。口の周りは唾液でべたべただ。
「すげーよかったです。ってか、視覚的にヤバかったです」
「じゃあなんで」
直樹は近間の腕を掴んで引き寄せると、ベッドに転がし、マウントを取った。
汗ばむ身体をぎゅっと抱きしめ、思いが伝わるように、心を込めて囁く。
「近間さんとひとつになりたい。繋がって、一緒にイきたいです」
「……うん。…俺も」
近間は両手を直樹の首に回すと、自ら脚を開いた。
大きく開かれた股の間では、ペニスが屹立している。
色が薄くてすらりとした綺麗な性器だ。
その下では、ピンク色の後腔がひくひくと震えている。
直樹がどれほど気にしないと言っても、近間はセックスの前にはきちんと準備をしてくれる。
今日も、風呂の準備をしながら自分でほぐしてくれたのだろう。
ローションを垂らした中指をつぷりと差し入れると、指は吸い込まれるように穴に滑り込んだ。
中は既に熱くとろけている。
指を二本に増やし、内壁をこすると、中が絡みつくように蠢いた。
「ふっ、うん………あ、や、っう」
指を動かす度に、甘い声が漏れる。 二本の指で前立腺を揉むように押すと、近間の腰が浮いた。
「………はうっ!」
ひと際高い声が漏れ、近間の性器の先からぴゅっと液体が飛び出た。
近間を見ると、目尻に涙を溜めている。長い睫毛がふるりと揺れた。
直樹は唾を飲み込む。
これは、やばい。
「その、ちょっと我慢できないです。ほんとは、もっとほぐしたいんだけど」
「いいからっ……もう、はやく、いれろよ」
近間の顔はもうぐずぐずに溶けていて、きっと理性なんてとっくに飛んでいる。
直樹は手早くコンドームをつけると、一気に近間の中へ押し入った。
「………っ」
衝撃が大きかったのだろう。
近間はぎゅっと目をつぶって、呼吸を止めている。
その表情さえ色っぽくて、直樹は思わず腰を動かしてしまう。
狭い肉壁に擦られて、びりびりと快感が走る。
「はあっ、あっああっ!」
激しく奥をつかれ、近間が身体を仰け反らせる。滑らかな肌が上気している。
「……ごめん、近間さん。俺、止められないです」
優しくしてあげたかったけれど、快感を追い求めて腰が勝手に動いてしまうのだ。
謝りながら腰を振る直樹に、近間が微笑んだ。その額に汗が光っている。
「…好きにしろって言っただろ…」
上半身を倒し、近間に覆いかぶさってキスをした。
汗で濡れた互いの胸と腹をぴたりと合わせ、本能のままに腰を動かしあった。
「……ふあっ、あん、ああんっ……」
近間の喘ぎと肌がぶつかり合う音が部屋に響く。
快楽に溺れながら、直樹はなんだか泣きたくなった。
本当に好きな人とするセックスは、こんなにも気持ちよく、満たされる。
17歳の時に初めてしてから、10年間で数えきれないほどのセックスをしてきた。
心の底にそっとしまっておきたい思い出も、丸めて投げ捨ててしまいたい思い出もある。
けれど、近間とのセックスは間違いなく特別だ。
こんなにも特別で、大事なセックスは、後にも先にもないだろう。
「近間さん」
自分の下で、恥じらいなんて捨て去って乱れているこの人が。
やさしくて強いこの人が、好きで好きで胸が痛くて、泣きたくなる。
「………っ、なお、き。も、いきそ」
近間ははくはくと下手な呼吸をしながら、訴える。
「うん、俺も」
目を見つめながら中の一番いいところをついてやると、近間は叫ぶように直樹の名を呼んだ。
二人の腹の間にとぷとぷと精液が吐き出される。
意識を手放したのか、近間は瞳を閉じ、両腕がぱたりとベッドに落ちる。
意識を失っても、中はまだ直樹をきゅうきゅうと締め付けていて。それが愛おしくて仕方がない。
好きです、近間さん。
直樹は気の遠くなるような気持ちよさの中で、精を吐き出した。
近間は10分ほどで目を覚まし、今はぼんやりと天井を見上げている。
直樹は右手で肘枕をついて、左手で近間のやわらかな髪を梳いた。
「近間さん、今日は本当にありがとう」
「うん」
「俺さ、いつか姉さんを許せる気がしています」
「気負うなよ。10年後とか20年後とかに、許せてればいいだろ」
「先、長いですね」
直樹はすこし笑う。
「それでもまだ人生の半分だろ」
「……その時も、俺の隣にいてくれますか」
「おまえが飽きなければな」
「飽きません、絶対」
直樹が確信を持って即答すると、近間は天井を見上げたまま、その瞳をこわばらせた。
それから、直樹に聞こえないくらいの小さな声で、呟いた。
「ないんだよ、絶対なんて」
ケチでも吝嗇でもないが、衣食住に必要以上に金をかけることがないし、浪費も贅沢もしない。
高級なレストランやバーに誘うと、いくら直樹が奢ると言っても、あまりいい顔をしないし、一緒に買い物に行くと、「若いうちから贅沢するな」とじじむさい説教をされることもしばしばだ。
近間が風呂の準備をしている間、直樹は部屋のバルコニーからマリーナ・エリアを眺めていた。
シンガポールの夜景は色とりどりにきらめいている。
近間が予約したフラトン・ホテルのポストマスタールームは、こっくりした卵色で統一されていて、居心地がいい。
普段贅沢をしない近間が、一泊4万円はするこの部屋を準備してくれた。その気持ちが、ただただ嬉しい。
「直樹ー、来ないなら先入ってるぞ」
近間が呼んでいる。
直樹がスーツを脱いでバスルームに入ると、近間はバスタブで気持ちよさそうに手足を伸ばしていた。
この人は本当に綺麗な身体をしている。
鍛えられた筋肉はしなやかに引き締まっていて、一切の無駄がない。肌はなめらかな象牙色で、腰は細く、股下も膝下も長い。
「なにじろじろ見てんだよ」
直樹の露骨な視線に、濡れた前髪を掻き上げながら、近間がにやっと笑う。
「んー、綺麗だなと思って」
「俺の裸なんか見慣れてるだろ」
「見飽きません。近間さん、ちょっと前ずれて」
直樹は後ろから近間を抱き込むようにして、湯船に浸かる。
「はああ」
気持ちよくて思わず息を吐くと、近間が笑った。
「オヤジくせえ」
「あんたの方が年上でしょうが」
「そうだよ。33のおっさんだからな」
「近間さんは全然おっさんなんかじゃないです。すごく、素敵です」
耳に吹き込むと、近間はぴくりと身体を震わせた。
両掌でゆるゆると胸や腹を撫でると、近間は後頭部を直樹の肩にもたせかけてくる。髪から甘い匂いがする。
「近間さんは、4兄弟って言ってましたよね」
「ああ。男4人てちょっと珍しいだろ」
「俺の周りにはいませんでしたね。皆さん、何してるんですか?」
「長男が家畜防疫官、次男の俺は自衛官、三男は国税専門官で、末っ子が消防官」
「全員公務員ですか?」
「そう。しかも全員、「官」がつく」
近間は楽しそうに笑った。お湯がちゃぷちゃぷと揺れる。
「近間さん、明るいしよく笑うから、幸せな家で育ったんだろうなって思います」
「うーん、仲はいいな、普通に。兄弟4人とも、見た目も性格もばらばらでさ。まったくキャラ違うから、喧嘩も結構するけど」
「でもそれは、いい喧嘩ですよね」
「まあな。なあ、こんな話、聞いてて楽しいか?」
「楽しいです」
これは本心だ。
近間の育った家庭を想像すると、ゆたんぽを抱えたみたいに心がじんわり温かくなる。
1年ぶりの姉との再会は、緊張して、気力と体力を削り取られた。
10代の頃の姉は今より太っていて、髪は黒くて長かったし、化粧も濃かった。
今の姉はその面影もないが、それでも、姉と会うと昔の記憶を引きずり出される。
心にも身体にも傷を抱え、ロンドンのアパートでひとりきりで膝を抱えていた時のことを。
言葉が通じず、教室の隅でぽつんと座っていた時のことを。
ロンドンの空よりもどんよりと曇った気分で、毎日を過ごしていたことを。
姉は、直樹が話しかけることを全身で拒絶していて、まるで直樹がいないかのように振る舞われたことを。
自分は、姉のことを一生許せず、うわべだけの会話を交わしていくんだろうと思っていた。
でも今日、姉に本音を話して、すこしだけ心の中に晴れやかさが生まれた。
近間が一緒にいてくれたおかげだ。
「おまえに、家族を大事にしてほしい」
近間がそう言ってくれたから。
直樹は、近間に回した腕に力を込めた。
「そういえば、消防士の末っ子が、あ、保って言うんだけど、今度彼女とシンガポールに遊びに来るって行ってたな」
近間が思い出したように言う。
「へえ、彼女と海外旅行なんてやりますね。いつですか?」
「年末だったかな。聞いとく」
「楽しみですね」
「おう」
直樹は、おしゃべりはおしまいという合図に、近間の耳をかぷりと噛んだ。
腹を抱きしめていた腕をほどき、両手で近間の乳首に触れる。すこし触れただけでぷっくりと固くなるそこを、指でつまみ、こね回す。
「……っ」
近間が身じろぎする。
お湯がぴしゃんと跳ねた。
執拗に胸だけをいじりながら、耳たぶを甘噛みする。
「近間さん、かわいい」
甘く低い声を作って耳元で囁くと、近間がふるりと震える。
「…おまえ、恥ずかしいやつだよな」
「これからもっと恥ずかしいことしますから」
「馬鹿じゃねえの」
「好きにしろって言ったの、近間さんでしょ」
透明なお湯の中で、近間の股間がすっかり立ち上がっているのが見えた。
直樹は手を伸ばすと、親指でカリの部分を押さえ、人差し指の腹で鈴口をくるくると撫でた。
ぬるりとした先走りがこぼれる。
「………はぁんっ!」
強い刺激に、近間が上げた声は、バスルームで反響して思いのほか大きく響いた。
自分の声に驚いたのか、近間は首筋を真っ赤にして俯いてしまう。
「………のぼせる。出よう」
そそくさと立ち上がろうとする近間の腰を捕らえた。
「ここでしたいです」
声が響いてエロいので。
直樹の魂胆はお見通しだったのだろう。
近間は横目で直樹を睨む。
「声響くから嫌だ」
直樹の腕から逃れると、逃げるようにバスタブを出てしまう。
二人はろくに身体も拭かずに、ベッドにもつれ込んだ。
ベッドボードにもたれて座る直樹の上にまたがるように、近間を誘導する。
その小さな顔を捕らえて、キスをした。
唇を甘く噛み、舌で口腔のすべてに触れていく。歯列をなぞり、歯茎を舐め、舌を絡める。
近間は息継ぎの合間合間に熱い息をもらした。
「近間さん、口の中、すごく感じますよね」
唇を離すと、唾液の糸が引いた。
「知るか」とかなんとか可愛くないこと言うんだろうなと思っていたのに、近間は思いがけず素直に頷いた。
「……ん。キス、気持ちい」
とろけた顔で言われ、ぞわりと背筋に痺れが走る。
まだ8割くらいの固さだった股間が一気に張りつめる。
「煽らないでください」
もっと気持ちいいと言わせたくて、さっきよりも深く、犯すようなキスをする。
口づけながら、輪っかにした指で近間のペニスをしごいてやると、喘ぎながら腰を揺らめかせている。
「っ、は…あ…」
他の男を抱いたことがないから確証はないけれど、近間は感じやすい方だと思う。
女の子みたいに、いかにもな高い喘ぎ声を上げたりしないから。
この人が声を漏らす時は、本当に気持ちよくて我慢ができない時なんだと、余計に分かる。
「きもちいい?」
「……ん、うん。でも、も、いいから」
絶対気持ちいいはずなのに、近間はいやいやをするように、首を横に振っている。
「なんで。気持ちいいんですよね?」
「…っ、だから、やだ。まだ、イきたくない」
「イっていいですよ」
「だめ」
近間は膝に力を込めて身体を離すと、そのまま下の方に移動した。
「え。近間さん?」
直樹のペニスに手を添えた近間は、一度ちらりと直樹に目線を投げてから、竿の部分をべろりと舐めた。
熱く柔らかい感触に、快感が走り抜ける。
うわ。
この人、ほんとに、なんなんだよ。
手のひらでタマを揉まれ、舌で、裏筋を下から上に丁寧に舐め上げている。
近間の髪と直樹のペニスの間で、赤い舌がちろちろと見え隠れするのが、際限なくいやらしい。
当たり前だが、男同士なのでどこが弱いかは知り尽くしている。正直、これまでにされたどんなフェラよりも、イイ。
熱い粘膜で全部が包み込まれ、唇でしごかれる。
近間のふわふわの髪を撫でながら、直樹は高まる射精感を必死でやり過ごす。
別に早漏ではないが、近間が口淫してくれているという事実だけで達しそうだ。
「……っ、近間さん、やばいです、さすがに」
「いーよ、イって」
咥えたまま、近間が言う。挑発するように直樹を見上げている。
男のモノを咥えている姿までカッコいいとか、本当にこの人は、ありえない。
魅力的な誘惑に心はぐらぐら揺れたが、直樹は両手で近間の頭をそっと離した。
一方的に奉仕されるより、この人と身体の全部で繋がりたかった。
「え。なんで。よくなかった?」
近間が眉を下げる。口の周りは唾液でべたべただ。
「すげーよかったです。ってか、視覚的にヤバかったです」
「じゃあなんで」
直樹は近間の腕を掴んで引き寄せると、ベッドに転がし、マウントを取った。
汗ばむ身体をぎゅっと抱きしめ、思いが伝わるように、心を込めて囁く。
「近間さんとひとつになりたい。繋がって、一緒にイきたいです」
「……うん。…俺も」
近間は両手を直樹の首に回すと、自ら脚を開いた。
大きく開かれた股の間では、ペニスが屹立している。
色が薄くてすらりとした綺麗な性器だ。
その下では、ピンク色の後腔がひくひくと震えている。
直樹がどれほど気にしないと言っても、近間はセックスの前にはきちんと準備をしてくれる。
今日も、風呂の準備をしながら自分でほぐしてくれたのだろう。
ローションを垂らした中指をつぷりと差し入れると、指は吸い込まれるように穴に滑り込んだ。
中は既に熱くとろけている。
指を二本に増やし、内壁をこすると、中が絡みつくように蠢いた。
「ふっ、うん………あ、や、っう」
指を動かす度に、甘い声が漏れる。 二本の指で前立腺を揉むように押すと、近間の腰が浮いた。
「………はうっ!」
ひと際高い声が漏れ、近間の性器の先からぴゅっと液体が飛び出た。
近間を見ると、目尻に涙を溜めている。長い睫毛がふるりと揺れた。
直樹は唾を飲み込む。
これは、やばい。
「その、ちょっと我慢できないです。ほんとは、もっとほぐしたいんだけど」
「いいからっ……もう、はやく、いれろよ」
近間の顔はもうぐずぐずに溶けていて、きっと理性なんてとっくに飛んでいる。
直樹は手早くコンドームをつけると、一気に近間の中へ押し入った。
「………っ」
衝撃が大きかったのだろう。
近間はぎゅっと目をつぶって、呼吸を止めている。
その表情さえ色っぽくて、直樹は思わず腰を動かしてしまう。
狭い肉壁に擦られて、びりびりと快感が走る。
「はあっ、あっああっ!」
激しく奥をつかれ、近間が身体を仰け反らせる。滑らかな肌が上気している。
「……ごめん、近間さん。俺、止められないです」
優しくしてあげたかったけれど、快感を追い求めて腰が勝手に動いてしまうのだ。
謝りながら腰を振る直樹に、近間が微笑んだ。その額に汗が光っている。
「…好きにしろって言っただろ…」
上半身を倒し、近間に覆いかぶさってキスをした。
汗で濡れた互いの胸と腹をぴたりと合わせ、本能のままに腰を動かしあった。
「……ふあっ、あん、ああんっ……」
近間の喘ぎと肌がぶつかり合う音が部屋に響く。
快楽に溺れながら、直樹はなんだか泣きたくなった。
本当に好きな人とするセックスは、こんなにも気持ちよく、満たされる。
17歳の時に初めてしてから、10年間で数えきれないほどのセックスをしてきた。
心の底にそっとしまっておきたい思い出も、丸めて投げ捨ててしまいたい思い出もある。
けれど、近間とのセックスは間違いなく特別だ。
こんなにも特別で、大事なセックスは、後にも先にもないだろう。
「近間さん」
自分の下で、恥じらいなんて捨て去って乱れているこの人が。
やさしくて強いこの人が、好きで好きで胸が痛くて、泣きたくなる。
「………っ、なお、き。も、いきそ」
近間ははくはくと下手な呼吸をしながら、訴える。
「うん、俺も」
目を見つめながら中の一番いいところをついてやると、近間は叫ぶように直樹の名を呼んだ。
二人の腹の間にとぷとぷと精液が吐き出される。
意識を手放したのか、近間は瞳を閉じ、両腕がぱたりとベッドに落ちる。
意識を失っても、中はまだ直樹をきゅうきゅうと締め付けていて。それが愛おしくて仕方がない。
好きです、近間さん。
直樹は気の遠くなるような気持ちよさの中で、精を吐き出した。
近間は10分ほどで目を覚まし、今はぼんやりと天井を見上げている。
直樹は右手で肘枕をついて、左手で近間のやわらかな髪を梳いた。
「近間さん、今日は本当にありがとう」
「うん」
「俺さ、いつか姉さんを許せる気がしています」
「気負うなよ。10年後とか20年後とかに、許せてればいいだろ」
「先、長いですね」
直樹はすこし笑う。
「それでもまだ人生の半分だろ」
「……その時も、俺の隣にいてくれますか」
「おまえが飽きなければな」
「飽きません、絶対」
直樹が確信を持って即答すると、近間は天井を見上げたまま、その瞳をこわばらせた。
それから、直樹に聞こえないくらいの小さな声で、呟いた。
「ないんだよ、絶対なんて」
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