戦闘機乗りの劣情

ナムラケイ

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抱きたいです@近間の部屋

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 五和商事と言えば、戦前から続く日本が誇る財閥系総合商社だ。
 そんな一流企業に就職できるのだから当然頭はいいし、英国帰国子女で、英語と中国語が堪能で、自信家で偉そうな素振りが時々あるものの、長身で男らしい顔つきで、話が上手い。
 5歳年上の近間から見ても、梶直樹は同性が嫉妬するようなできた男である。
 そんなヤツが。
 東南アジア有数のショッピングとグルメの街、オーチャード・エリア。
 その目抜き通りのオーチャード・ロードから少し離れた場所に、近間の住むQUE Twin Peaksアパートメントはある。
 部屋の玄関で、自分より大柄な直樹に抱きしめられながら、近間は思う。
 なんの酔狂で、俺なんか。
 直樹が近間に恋愛感情を抱いていることは、露骨な言動の端々から嫌というほど分かっている。
 分かっているけれど、それがいつまで続くものなのかは、分からない。
 まだ二十代だし。飽きたら、離れていくんだろうし。
 それでも今は。
 近間は、直樹の背中に手を伸ばし、シャツを握りしめる。
 こいつと一緒にいたい。

 一緒にいるのが当たり前のように自然で、楽に呼吸ができる。いつまでもずっと話していたい一方で、会話がなくても、直樹の存在が近くにあるだけで心地が良い。
 両親と4人兄弟という大家族で生まれ育ち、防衛大学校でも部隊勤務でもプライバシーなんてないも同然の共同生活を送っていた。
 だから、誰かと一緒にいることは苦にならないし、こいつとは気が合うなとか、こいつは一緒にいて楽だなとか、そういう相手はこれまでにもいた。
 だけど、直樹は違う。
 同性だけど、キスをして抱きしめ合って、もっと近づいて近づかれたいと思っている時点で、これは間違いなく恋だ。

 顔を寄せている直樹の胸元や首筋から、香水が混じった匂いが立ち上っている。
 甘くはない。同じオスの匂いだ。
 しばらく抱き合いながら、頬にキスをしあったり、腕や背中を撫でたりしていた。固くなった互いの股間がごりりと擦り合い、情欲が高まる。
「近間さん」
 耳元に囁きが落ちる。
「ん?」
「俺、近間さんのこと、抱きたいです」
 低く甘いその要求に、ぞくりと背筋が震えた。
 求められている。そのことが、素直に嬉しい。
「うん。そのつもりで、部屋に呼んだから」
 近間は顔を上げて伝えてから、肩をすくめてみせた。
「それに、抱いて欲しいって言われても、ちょっと困るし」
 冗談めかしたその台詞は、直樹のキスに飲み込まれた。

 とはいえ、女性ではないので、雰囲気のままベッドになだれ込むわけにはいかない。
 直樹に先にシャワーを浴びさせ、これでも飲んで待ってろと冷えた缶ビールを渡してから、近間はバスルームに入った。
 あらかじめネットで調べた手順で身体を清めていく。
 恥ずかしいような情けないような気分で、正直気が滅入るが、扉ひとつ隔てた向こうに直樹がいるのだと思うと、それだけで身体が火照った。

 近間は戦闘機乗りだ。
 高度1万メートル以上を音よりも早く飛ぶ。飛行中にかかる重力加速度、体重の6倍の圧力に耐えられるように、パイロットはプロスポーツ選手にも引けを取らないくらいに身体を鍛えている。
 なのに。セックスの時の体力は、別物らしい。
 直樹に与えられるもどかしい刺激で、ベッドについた両膝は笑ってしまっていて、もう自重を支えきれそうにない。
 近間は、直樹の両肩に乗せている手の指先に力を込めた。
「近間さん、つらい?」
 その声音の優しさとは裏腹に、直樹の指先は容赦なく近間の後孔をいじめている。
「……それ、もうっ、いいから……。おまえ、しつこいよ」
 近間はベッドに座った直樹の身体と向かい合う姿勢で、膝立ちしていた。
 直樹は両手で近間の尻たぶを開き、右手の人差し指でねちっこくアナルをほぐしている。
 ローションを垂らした人差し指の先を、ぬぷぬぷと中にうずめては、ゆっくりと引き抜く。時折、指の腹で襞を伸ばし、ふにふにとこねまわす。
 その動作をかれこれ30分は続けているのだ。
「……っ、もうっ、やめろ、って……」
「近間さんこっちは初めてですよね。痛くしたくないから、ちゃんとほぐさないと。ここ、どんな感じですか? 痛くない? 気持ちいい?」
「分かんなっ……」
 初めての感覚だから、気持ちいいのかどうなのか判断がつかない。
 浅いところばかりいじられて、むずがゆさと物足りなさで、どうにかなりそうだ。
 いっそもっと乱暴に奥まで入れてほしいくらいだ。
「分からない? でも、ちゃんと勃ってますよ」
 指摘されて視線を落とすと、そそり立った二人の性器が見えた。どちらも固く張りつめて、天を向いている。
 初めてまともに目にした直樹のペニスに、近間は羞恥を覚える。
 エラがしっかりと張って、幹も太く、血管が浮いた男性的な性器だ。近間のものよりも大きい。
 刺激の足りなさを埋めようと、自身のペニスに手を伸ばそうとしたら、その手を直樹に捕らえられた。
「駄目」
「……なんっで」
「あとで舐めてあげますから。もう少し我慢してください」
 あまりの発言に、近間は反射的に直樹と視線を合わせた。欲にまみれた熱っぽい目に、近間自身が映っている。
 直樹の、厚めの唇。その中の味も温度も、もうとっくに知っている。あの口で、舐められたら。
 期待で、また下半身に熱が溜まる。
 その拍子に、震えていた膝ががくりと落ちた。
「体勢、変えますね」 
 直樹は素早く動き、近間をうつ伏せにした。
 尻たぶが再び開かれ、クーラーの冷気があたる。ひくりと、アナルがひくついたのが自分でも分かった。
「近間さん、こんなとこまで綺麗なんですね」
 直樹がうっとりと言う。
 排泄器官に綺麗も汚いもない。いや寧ろ汚いだろう。
 温かい空気が当たったと思ったら、厚く柔らかいものが後孔を這った。
「ちょっ、おまえ、何してっ! やめろって、きたないっ……」
「キレイにしてくれたんでしょ」
「……そこで喋んなっ」
「はは、すみません」
 ぬちぬちと中を犯していた舌が離れると、また指が侵入してきた。さっきまでとは違い、ゆっくりと奥まで入ってくる。
 違和感に、思わず枕を抱き込んで顔を埋めた。
「近間さんの中、すごい柔らかくて、熱いです」
「なんでもかんでも口に出すなよ、帰国子女っ。……はあっ」
 抗議すると、仕返しとばかりに指で内壁をすられた。思わず高い声が漏れる。
 直樹は指の抜き差しを繰り返す。入ってくる時より、出て行く時の方が、ぞわりと背筋に来る。
 ただ排泄器官の内壁をこすられているだけなのに。
 なんだよこれ。やばい、気持ちいい。
 快楽を逃そうと、枕を掴む指に力を入れていると、後ろから髪を優しく梳かれた。
 その心地よさに目を細めたところで、指が2本に増やされる。強まった圧迫感に、息がつまる。腹筋がぴくぴくと震える。
 苦しい。気持ちいいのに、苦しい。イきたい。
 射精感は高まっているのに、刺激が足りない。
 近間は腰を揺らめかせた。
 先走りでどろどろになっている性器がシーツとこすれている。
 腰を揺らしていると、直樹の両手に腰を押さえつけられた。
「やっ……なんで」
「こら。床オナ禁止」
「おまえ、ひどい……」
「うん、ごめんね。ひどいやつで」
 そう言った直樹の顔からは、いつもの余裕が抜け落ちていて、苦しそうだ。男らしい顔立ちが眉を顰めているのが、妙に色っぽい。
 穴の中では、3本に増やした指がばらばらと動かされる。
 直樹の思うがままにされているという興奮と、羞恥と気持ちよさで、もう頭が朦朧としている。
 飲み込め切れなかった唾液が口から流れ出て、枕にシミを作る。
 ブラインドの隙間から、オレンジ色の光が差し込み、ベッドに縞模様を描く。シンガポールの夕陽は、日本より色濃く、鮮やかだ。
 行き場のない欲望が身体の中で逆巻いて、生理的な涙さえ出てきた。
「そろそろ、いいかな」
 直樹が呟き、指が抜かれる。広がった部分は簡単には狭まらず、まだ何かが入っているようだ。
 ローションと一緒にサイドボードに準備していたコンドームに直樹が手を伸ばすのが、気配で分かった。封を切る音と、ゴムをかぶせる音。
 うつぶせのままで待っていると、身体を仰向けにひっくり返された。
 上気した直樹の顔は欲にまみれていて、獲物を狙う獣のようだ。近間は肉食獣に襲われているような錯覚に陥る。
 直樹のペニスは大きく屹立していて、あれが入ってくるのかと思うと、正直怖かった。
 でも、口には出さない。
 怖いなんて言ったら、こいつはきっと続きをしないだろう。ひどいやつなんて自分で言いながら、本当に近間が怖がるようなことはしない男だ。

「近間さん」
 正面から目を合わせて、直樹が呼んだ。
「ん」
「本当に、いいですか?」
「なに、いまさら。散々、好きにしただろ」
 そう言うと、触れるだけの優しいキスが降ってきた。
「挿れたら、近間さん、もう、俺のものですよ」
 真摯な口調だった。だから、近間も真剣に頷いた。
「うん」
「近間さんが嫌だって言っても、もう離してあげられないかも」
 直樹の瞳が苦しそうに歪む。手を伸ばして、その頬をするりと撫でた。
「分かってる。いいよ、直樹」
 名前を呼ぶと、直樹はごくりと喉を鳴らした。

 熱い楔が慎重に中を進んでくる。
 一番太いカリの部分さえ入れば、後はスムーズだった。
 信じられないほどの圧迫感と、足らなかったものが埋められる感覚で、目の前がちかちかする。胸が詰まる。
 苦しいのに、気持ちいい。直樹を包み込もうと、中が蠢いているのが自分でも分かる。
「っ、近間さん、ナカ、熱くて、めちゃめちゃ気持ちいー」
 直樹の声がどこか遠くで聞こえる。
 返事をしない近間に気づいた直樹が、唇に触れてきた。
「近間さん。息止めないで」
「え」
「息、ちゃんと吐いて。声も出して。そしたら楽になるから」
 言われて、意識的に息を吐いたら、身体の力が抜けて楽になる。
「はっ、はっ、はあっ……ん」
「そう、上手。動きますね」
 顔の横に置いていた両手に、直樹の両手が絡んでくる。熱くて太いものが、出たり入ったりする度に、快感が電流のように走る。
 自分が自分じゃないようだった。
 でも、怖さはなくて、ただ直樹と繋がっていることが心を温かくする。
 クーラーが効いた部屋なのに、二人とも汗だくだった。頭や額に、直樹の汗がぱたぱたと落ちてくる。
「近間さん、エロい。腰、動いてますよ」
「……だって、気持ちいっ」
「ごめん近間さん、俺、もうそんなに持たないかも。舐めてあげるのは、また今度ね」
 直樹の手が近間のペニスを掴み、カリの部分を擦った。先走りを塗り広げ、鈴口をいじる。
 直接的な刺激に、近間は腰を浮かせた。
「……っ……やば、イきそっ」
 後ろを突かれながら、ペニスをしごかれ、快楽が絶頂に押し上げられる。
「うん、いいよ、イって」
 直樹が微笑みながら見つめてくる。
「顔、見んなっ」
 理性の欠片がそう叫ばせた。
 達する時の顔とか、自分でもどんな顔をしているか知らないのに。
 両手で顔を覆うが、すかさず直樹の左手が伸びてきて、両手首を頭上でまとめられてしまう。
「駄目。ちゃんと見せてください」
「っ、おまえ、本当」
「うん、ひどくてごめんね」
 最奥をずんと暴かれると同時に、直樹の指が強く動き、頭が真っ白になった。
「はあっ、直樹っ、あっああっ!」
 気の遠くなるような気持ちよい射精だった。吐精しながら、自分の中が直樹を締め付けるのを感じる。
 近間を凝視していた直樹がびくりと震えた。次いで、ゴム越しにどくどくと精が吐き出される。
 熱くてどろどろで、もう溶けそうだ。

 射精が終わり、二人は目を合わせる。微笑み合って、同時に深い息を吐いた。
 とんでもない充足感だ。
 近間が瞼を閉じようとすると、中で直樹のものがまた質量を取り戻した。近間は焦る。
「え、おまえ、なんで」
「だって、こんな色っぽい近間さん見てたら、おさまるわけない」
 まさかこいつまたやる気か。
 そう思った矢先に、身体の中から直樹が去っていった。抜かれる感触にぶるりと身体がふるえる。
「したいけど、初めてだし、今日はもうおしまい」
 近間の頭をひと撫でしてから立ち上がると、直樹は外したゴムをゴミ箱に捨て、バスルームへ去っていく。
 すぐシャワーとか、俺が女だったらルール違反だぞ。それに、女でなくても、もうちょっと一緒にベッドにいてもいいと思う。
 心の中で苦情を申し立てていると、直樹はタオル片手に戻ってきた。
 シャワーを浴びたわけではないらしい。タオルはお湯で濡らしてあって、汗と精液でべたべたになった近間の身体を拭いてくれた。
「おまえ、出来たやつだよな」
「スパダリですから」
「なにそれ」
「知らないならいいです」
 直樹は、もう1枚のタオルで自分の身体も簡単に拭ってから、シーツに入ってきた。
「ん」
 腕を広げられたので、素直にその中に納まる。
 火照った肌は、強めのクーラーですぐにさらさらになる。会話はせずに、全裸のまま抱き合っていた。
 脚をからませあう。柔らかいままの互いの性器が触れているのが心地よくて、近間はそのまま眠りに落ちた。
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