5 / 90
メシ行きませんか@それぞれの部屋
しおりを挟む
アパートに戻ると、近間は汗に濡れた服を洗濯籠に投げ、シャワールームへ飛び込んだ。
走っている時は無心だったが、ぬるま湯に打たれていると急にどきどきしてきた。
本当はかっこつけなんだろうに、スーツと革靴で全力疾走してきて、なんだか必死そうな直樹を見ているうちに、思わず言ってしまった。
「じゃあ、付き合う?」と。
そう言った時の直樹の顔といったらなかった。
近間はシャワールームでひとり微笑む。
まさか、Yesの答えが返ってくるとは思っていなかった。いや、Yesが返ってくると予感していたから言ってしまったのかもしれない。
過ぎてしまっては、その時の予感なんて思い出せないものだ。
直樹は、ゲイというわけではなさそうだった。三宅里奈と話していた空気でなんとなく分かる。
近間も、別に男が好きなわけではない。過去付き合った人は全員女性だった。
目立つ容姿のおかげで、異性にモテるのは自覚しているが、最近は誰かと付き合いたいという欲望なんてなかった。
女の子は可愛くてやわらかいし、セックスは気持ちいいとも思うけど、そこに至るまでのあれやこれやの手順は時に面倒だし。
最後に付き合った女性は、自衛官の任務の秘密主義と変則的な勤務時間を理解してくれず、喧嘩別れした。
直樹は、なんだろう。なんだか、面白いと思ってしまったのだ。
リア充感満載のエリート商社マンのくせに、どっか抜けていてヘタレだし。
気が強そうで肩肘張っているのに、それが徹底されてない。
シャワールームを出ると、たっぷりの水を飲んだ。
バスタオルで乱暴に髪を拭いていると、リビングのテレビ台に置いたままだった紙片が目に入る。直樹の名刺だ。
全裸のまま、思い立ってスマホを手に取った。
3コールで相手は出た。
「近間さん?」
もしもしも省いた直樹の第一声に、近間は吹き出す。
「おまえ、それ違う相手だったらどうすんだよ」
「違いませんでした。なんとなく、近間さんが電話くれる気がしてたので」
自信満々である。
「これ、俺の番号だから、登録しとけよ」
「はい、速攻でします」
「ん。じゃあな」
「えっ、あ、ちょっと待ってください!」
電話を切ろうとすると、直樹の慌てたような声が飛び込んできた。
「あの、メシ行きませんか?」
近間は、椅子の上のビジネスバッグから手帳を引きずり出す。
全裸の男が両手にスマホと手帳ってシュールな絵だなと思いながら。
夜は会食やレセプションや宴会で予定が詰まっているし、昼休憩は1時間なので余裕がない。
「あー、今週来週は無理っぽいな」
「そうですか……」
落ち込んでいる様子が目に浮かぶようだ。ふと思い立った。
「なあ、おまえ、明日の昼って大使館に来られるか?」
「大丈夫ですけど」
「じゃ、12時に来いよ。一緒に昼飯食おう」
「はい。嬉しいです。楽しみです」
途端に声が明るくなった。分かりやすい奴だ。
「はは。じゃあな、おやすみ」
「おやすみなさい」
電話を切ると、近間はタンクトップとハーフパンツを着てから、キッチンで冷蔵庫の扉を開いた。
あいつ、どんな食い物好きなんだろうな。ってか、名前と年齢と職業以外、あいつのこと何にも知らないわ。
これから沢山のことを知っていくのだと思うと、妙にうきうきした。
走っている時は無心だったが、ぬるま湯に打たれていると急にどきどきしてきた。
本当はかっこつけなんだろうに、スーツと革靴で全力疾走してきて、なんだか必死そうな直樹を見ているうちに、思わず言ってしまった。
「じゃあ、付き合う?」と。
そう言った時の直樹の顔といったらなかった。
近間はシャワールームでひとり微笑む。
まさか、Yesの答えが返ってくるとは思っていなかった。いや、Yesが返ってくると予感していたから言ってしまったのかもしれない。
過ぎてしまっては、その時の予感なんて思い出せないものだ。
直樹は、ゲイというわけではなさそうだった。三宅里奈と話していた空気でなんとなく分かる。
近間も、別に男が好きなわけではない。過去付き合った人は全員女性だった。
目立つ容姿のおかげで、異性にモテるのは自覚しているが、最近は誰かと付き合いたいという欲望なんてなかった。
女の子は可愛くてやわらかいし、セックスは気持ちいいとも思うけど、そこに至るまでのあれやこれやの手順は時に面倒だし。
最後に付き合った女性は、自衛官の任務の秘密主義と変則的な勤務時間を理解してくれず、喧嘩別れした。
直樹は、なんだろう。なんだか、面白いと思ってしまったのだ。
リア充感満載のエリート商社マンのくせに、どっか抜けていてヘタレだし。
気が強そうで肩肘張っているのに、それが徹底されてない。
シャワールームを出ると、たっぷりの水を飲んだ。
バスタオルで乱暴に髪を拭いていると、リビングのテレビ台に置いたままだった紙片が目に入る。直樹の名刺だ。
全裸のまま、思い立ってスマホを手に取った。
3コールで相手は出た。
「近間さん?」
もしもしも省いた直樹の第一声に、近間は吹き出す。
「おまえ、それ違う相手だったらどうすんだよ」
「違いませんでした。なんとなく、近間さんが電話くれる気がしてたので」
自信満々である。
「これ、俺の番号だから、登録しとけよ」
「はい、速攻でします」
「ん。じゃあな」
「えっ、あ、ちょっと待ってください!」
電話を切ろうとすると、直樹の慌てたような声が飛び込んできた。
「あの、メシ行きませんか?」
近間は、椅子の上のビジネスバッグから手帳を引きずり出す。
全裸の男が両手にスマホと手帳ってシュールな絵だなと思いながら。
夜は会食やレセプションや宴会で予定が詰まっているし、昼休憩は1時間なので余裕がない。
「あー、今週来週は無理っぽいな」
「そうですか……」
落ち込んでいる様子が目に浮かぶようだ。ふと思い立った。
「なあ、おまえ、明日の昼って大使館に来られるか?」
「大丈夫ですけど」
「じゃ、12時に来いよ。一緒に昼飯食おう」
「はい。嬉しいです。楽しみです」
途端に声が明るくなった。分かりやすい奴だ。
「はは。じゃあな、おやすみ」
「おやすみなさい」
電話を切ると、近間はタンクトップとハーフパンツを着てから、キッチンで冷蔵庫の扉を開いた。
あいつ、どんな食い物好きなんだろうな。ってか、名前と年齢と職業以外、あいつのこと何にも知らないわ。
これから沢山のことを知っていくのだと思うと、妙にうきうきした。
1
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
春ですね~夜道で出会った露出狂をホテルに連れ込んでみたら~
夏芽玉
BL
4月、第3週目の金曜日。職場の歓迎会のせいで不本意にも帰りが遅くなってしまた。今日は行きつけのハプバーのイベント日だったのに。色んなネコとハプれるのを楽しみにしていたのに!! 年に1度のイベントには結局間に合わず、不貞腐れながら帰路についたら、住宅街で出会ったのは露出狂だった。普段なら、そんな変質者はスルーの一択だったのだけど、イライラとムラムラしていたオレは、露出狂の身体をじっくりと検分してやった。どう見ても好みのど真ん中の身体だ。それならホテルに連れ込んで、しっぽりいこう。据え膳なんて、食ってなんぼだろう。だけど、実はその相手は……。変態とSMのお話です。
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる