55 / 57
第二部 第四章 カスガイくんは、旅行の準備を一緒にしたい
4-9 だれなんですかそのひとーーーー!!
しおりを挟む
「そういうことだから、マオくん製のスノードームに閉じ込められちゃった君は、もう魔法は使えませーん! このまま第三総括のところに強制送還しまーす!」
『なんでやねん! せっかくここまで来たのに! まだ遊んでへんやんか!』
水晶くんが、じたじたともがいている。いや、姿は見えないのだが、不思議とそんな気配がした。まるで子どもみたいだと、ぼんやり思ったところで、ある疑問が頭をよぎる。
「そのひとは悪いひとなんですか?」
「ん?」
久しぶりに会ったマオに気を取られすぎてすっかり放置してしまっていたが、そもそも水晶くんはなぜスノードームに閉じ込められているのだろう。しかも『強制送還』なんて物騒なワードまでついてきている。この情報だけで考えれば、まるで凶悪犯のようだ。けれどイリスには、とてもそんなふうには見えなかった。
「そのひとが何か悪いことをしたから、ソワレさんたちが捕まえに来たんですか?」
尋ねたソワレだけでなく、その隣のマオや、イリスの両脇に立つ勇者組にも注目されながら、イリスは首を傾げた。
「んんん? そう言われると、そんなこともないような気がしてきちゃった! えっとね、どうしよう。この子はまだ、良いことと悪いことの区別がついてないって言えばいいのかな。なんといっても、生まれたてホヤホヤだから!」
「えっ」
『そんくらいわかっとるわ、ぼけソワレ! ガキ扱いすんなや!』
「つまり魔物の赤ちゃんってことですか?」
『誰が赤ちゃんやねん! ……って、お前のほうがよっぽど赤ちゃんみたいなサイズやないか、おチビ! どついたろか!』
「おチビじゃないですぅ。パパとママがつけてくれた、イリスっていう最高に最強な名前があるんですぅ」
イリスが両手を腰に当てながらマウント気味に自己紹介すると、ややあってスノードームから、『パパとママ……?』という怪訝な声が上がった。
「そうですよ。水晶くんのパパとママは、どこにいるんですか?」
『誰が水晶くんやねん。そんなもん、おらへんわ』
「え」
ひょっとしてデリケートな話題だっただろうか。焦ったイリスは、助けを求めるように正面の魔王組を見上げる。しかし、ソワレは相変わらずの笑顔であり、マオもまた、いつもの怜悧な美貌を崩すことなく静かに口を開いた。
「魔物は有性生殖による親子関係を持たない。特定の環境下で自発的に形成される生命体だ」
「えっと? ということは?」
首を勢いよく横に倒したイリスを見て、ソワレが人差し指を空に向けながらくるくると回す。
「さっき眞素の話をしたでしょ? 実はボクたち魔物も、簡単に言えば眞素から生まれるんだよね。イリスくんは、精霊って知ってるかな?」
「はい、知ってます!」
ホンキバタンの執事とウサギのぬいぐるみを思い出しながら、イリスはこくこくと頷く。家に帰ったら、きょうの戦利品とユラの勇姿について彼らに事細かく報告しなければ。
「その精霊も眞素と何かの強い思念が合わさって生まれる存在だから、魔物と似ているといえば似ているかもしれないね」
「ほ、ほえー」
イリスの脳内で、マオとギルモンテの長い影がぴったりと重なる。魔物と精霊が生まれる仕組みがほとんど同じだなんて。あの二人が、ほぼ同じ存在だなんて。
「この世界って、とってもとっても不思議です……!」
思わず口をついて出たイリスの言葉に、マオをのぞく四人が笑う。水晶くんの声もまざっていたことがうれしくてスノードームに視線を向ければ、『ニヤニヤすんなや、おチビ!』と、威嚇されてしまった。おチビじゃないもん。
「そういうことだから、第三総括がこの子の親代わりみたいなものかな。これから人間と共生するために必要な知識や技術をお勉強しなきゃいけないんだけど、この子はすぐにふらふらいなくなっちゃうんだよね」
なまじ魔力が強いから逃げるのも上手でさ、とソワレがスノードームを突っつく。
「水晶くんは、なんでいなくなっちゃうんですか?」
『そんなん遊びたいからに決まってるやろ』
(あっ、アウトドア派なひとだ!)
イリス――というか、春日井亮太は当然のごとくインドア派なので、休みの日に外出する人の気持ちがよくわからなかったりする。わざわざ人込みの中に紛れ込みに行くのって疲れない? 家で映画を観てゲームをして漫画を読んでたほうがよくない?
そんな考え方を譲る気は全くないが、とりあえず今は目の前の水晶くんに寄り添うことにしよう。なるほど、遊びたいからショッピングモールにまで来てしまったのか。ずっと勉強ばかりしていたら飽きる気持ちは確かに理解できる。
でも善悪の判断や人間に対しての接し方を知らないうえに魔力まで強いとなると、どこでどんなトラブルを起こすかわからない。だから魔物たちをまとめている第三総括は、双子たちに頼んで水晶くんを連れ戻さざるを得ないのだ。
(うん、それぞれの事情があるんだよね)
そのうえで、何かいい案はないだろうか。なんかこう、みんながそれぞれちょっとずつハッピーになれるようなアイディアは――。
「あ」
ぽんっと、両手を打つ。
「じゃあ今度、ぼくたちのおうちや、おばあちゃんのカフェに遊びに来てください!」
「えっ」
双子と水晶くんの声が、きれいにハモったのがおかしかった。なんやねん、仲良しやないか。
「パパがいれば魔法が使えないから万が一のことがあっても平気ですし、ママだってとっても強くて速いから水晶くんがどんなに暴れたって大丈夫ですし、おばあちゃんも厳しいけど優しいから色んなこと教えてくれますし、ギルモンテさんもタフィーさんもお客さんはきっとオールビッグウェルカムです!」
途中からユラを見つめながら力説すれば、「イリスとも、きっといい友達になれるね」と、うれしそうに微笑んでくれた。
(お友達!)
それは気づかなかった。そうか、きっとロキくんみたいないい友達に――いや、ロキくんは天敵だった! ユラは絶対に渡さないから!
『……遊びに行ってもいいの?』
「イリスと第三総括がいいなら、いいんじゃない?」
なぜか急に殊勝なことを言い出した水晶くんに笑いかけてから、ユラがマオに目配せする。それを受けたマオも、「ああ」と、当たり前のように首を縦に振った。
「ありがとうございます! パパ、ママ!」
「あはは、よかったじゃーん! ぼくたちから必死に逃げ回った甲斐があったねー!」と、興味深げに成り行きを見守っていたマチネが、ツインテールを振りながら笑う。
『……うん』
おかしい。水晶くんが、やけに素直だ。そして、標準語である。本人もそのことに気づいたのか、『まあ、行ったってもええけどな! お前らがどーしてもっちゅうんならな!』と、慌てて取り繕った。なんだ、ちゃんとかわいいところもあるじゃん。
「うんうん、お勉強する目的ができてよかったねー! 帰って第三総括に許可をもらって、ちゃんと準備をしてから遊びに行こうねー!」
占い師のように水晶くんを撫で回すソワレを見ながら、イリスはその場で飛び跳ねてしまいたくなった。なんでだろう、すっごくうれしい。
イリスの最大の関心は、もちろん推しカプであるマオとユラに向けられている。けれど、その二人が存在する世界のことも、もっと知りたいと思う。二人が存在する世界に住んでいるひとたちのことを、もっともっと知りたいと思う。
「パパ!」
第三総括のお仕事については、とりあえずひと段落ついたようなので、イリスはそのまま勢いよくマオに抱きついた。完全に機会を逸していたが、ようやく触れることができる。マオにずっと会いたいと思っていた気持ちがあふれ出し、大胆にも引き締まった腹筋に頬擦りまでしてしまった。
「買い物は楽しかったか?」
「はい! 今度はパパも一緒にお買い物しましょうね! 絶対ですよ!」
「ああ、わかった」
イリスの頭を優しくなでるマオの視線が、ふと背中で止まる。「先ほどからずっと気になっていたのだが、その背負っているものは……」
「あ! そうですそうですそうでした! ママがミニゲームでゲットしてくれたんです! おばあちゃんみたいで、とってもかわいいですよね!」
そういえば、ずっとタコリュックを担いだままだった。せっかく思い出したので、ついでに触手をうねうねと動かしてみる。マチネが簡易模倣具だと言っていたが、どうやらイリスが念じると勝手に動く仕組みになっているらしい。
イリスの言葉に「ああ」とうなずくマオの隣で、ソワレが「うんうん、やっぱりそれ取れたんだー! じゃあこっちで正解だったね、マオくん!」と笑いながら、近くのベンチにスノードームを置いた。ごとんっという重い音と、ぎゃあっという悲鳴が上がったことも気にせず、あらかじめ置かれていた白い袋を開け始める。大丈夫かな、水晶くん。
「はい、イリスくんにプレゼント!」
「えっ」
「あ」
イリスと一緒に、ユラも驚きの声を上げる。ソワレから袋から取り出して差し出してきたものは、小さな白い羽がついたピンク色の――そう、なんとあの天使リュックだった。
「え、どうしたんですか!? これって、あのボール投げの景品ですよね?」
「そうそう! 難易度『極楽』とはいうけど、それなりに難しいコースを三回連続で成功させたんだよ! ――マオくんがっ!」
「えっ」
ボクは途中で失敗しちゃったんだよね、と言いながらソワレがマオに顔を向けたので、イリスも同じようにマオを見上げる。目が合うと、小さく頷いてくれた。
「悪魔のリュックは勇者が手に入れるだろうと思った」
「ふあっ! ありがとうございます! これもすごくかわいいと思っていたので、とってもうれしいです!」
言いながら、リュックを全力で抱き締める。柔らかすぎる感触を顔面で堪能しながら「日替わりで使います! どっちも大事に使います!」と、もごもご叫んだ。
両親それぞれからの贈り物に前後を挟まれるなんて、滅多にできない経験だ。イリスの昂る気持ちに反応したのか、天使の羽と悪魔の触手がそれぞれパタパタニョロニョロと忙しく動き始める。
――そんなご機嫌なイリスは、気づかなかった。何やらソワレがこそこそと近づいてきて、耳元でそっとささやこうとすることに。
「そういえば、マオくんね。ほかにプレゼントを買ってたよ」
「えっ」
「なんかねなんかね、故郷で帰りを待ってるひとに渡すんだって!」
「えっえっえっ?」
あまりの衝撃で、ソワレの言葉が左の耳から右の耳に光速で抜けていく。え、なに? なんていったの? プレゼントを? なんで? どうして? っていうか、っていうか!
「だ、だ、だ、だ、だれなんですかそのひとーーーー!!」
思いっきりのけぞったせいで仰向けに倒れそうになったイリスの背中を、タコリュックの足が地面を押し返しながら支えてくれた。
『なんでやねん! せっかくここまで来たのに! まだ遊んでへんやんか!』
水晶くんが、じたじたともがいている。いや、姿は見えないのだが、不思議とそんな気配がした。まるで子どもみたいだと、ぼんやり思ったところで、ある疑問が頭をよぎる。
「そのひとは悪いひとなんですか?」
「ん?」
久しぶりに会ったマオに気を取られすぎてすっかり放置してしまっていたが、そもそも水晶くんはなぜスノードームに閉じ込められているのだろう。しかも『強制送還』なんて物騒なワードまでついてきている。この情報だけで考えれば、まるで凶悪犯のようだ。けれどイリスには、とてもそんなふうには見えなかった。
「そのひとが何か悪いことをしたから、ソワレさんたちが捕まえに来たんですか?」
尋ねたソワレだけでなく、その隣のマオや、イリスの両脇に立つ勇者組にも注目されながら、イリスは首を傾げた。
「んんん? そう言われると、そんなこともないような気がしてきちゃった! えっとね、どうしよう。この子はまだ、良いことと悪いことの区別がついてないって言えばいいのかな。なんといっても、生まれたてホヤホヤだから!」
「えっ」
『そんくらいわかっとるわ、ぼけソワレ! ガキ扱いすんなや!』
「つまり魔物の赤ちゃんってことですか?」
『誰が赤ちゃんやねん! ……って、お前のほうがよっぽど赤ちゃんみたいなサイズやないか、おチビ! どついたろか!』
「おチビじゃないですぅ。パパとママがつけてくれた、イリスっていう最高に最強な名前があるんですぅ」
イリスが両手を腰に当てながらマウント気味に自己紹介すると、ややあってスノードームから、『パパとママ……?』という怪訝な声が上がった。
「そうですよ。水晶くんのパパとママは、どこにいるんですか?」
『誰が水晶くんやねん。そんなもん、おらへんわ』
「え」
ひょっとしてデリケートな話題だっただろうか。焦ったイリスは、助けを求めるように正面の魔王組を見上げる。しかし、ソワレは相変わらずの笑顔であり、マオもまた、いつもの怜悧な美貌を崩すことなく静かに口を開いた。
「魔物は有性生殖による親子関係を持たない。特定の環境下で自発的に形成される生命体だ」
「えっと? ということは?」
首を勢いよく横に倒したイリスを見て、ソワレが人差し指を空に向けながらくるくると回す。
「さっき眞素の話をしたでしょ? 実はボクたち魔物も、簡単に言えば眞素から生まれるんだよね。イリスくんは、精霊って知ってるかな?」
「はい、知ってます!」
ホンキバタンの執事とウサギのぬいぐるみを思い出しながら、イリスはこくこくと頷く。家に帰ったら、きょうの戦利品とユラの勇姿について彼らに事細かく報告しなければ。
「その精霊も眞素と何かの強い思念が合わさって生まれる存在だから、魔物と似ているといえば似ているかもしれないね」
「ほ、ほえー」
イリスの脳内で、マオとギルモンテの長い影がぴったりと重なる。魔物と精霊が生まれる仕組みがほとんど同じだなんて。あの二人が、ほぼ同じ存在だなんて。
「この世界って、とってもとっても不思議です……!」
思わず口をついて出たイリスの言葉に、マオをのぞく四人が笑う。水晶くんの声もまざっていたことがうれしくてスノードームに視線を向ければ、『ニヤニヤすんなや、おチビ!』と、威嚇されてしまった。おチビじゃないもん。
「そういうことだから、第三総括がこの子の親代わりみたいなものかな。これから人間と共生するために必要な知識や技術をお勉強しなきゃいけないんだけど、この子はすぐにふらふらいなくなっちゃうんだよね」
なまじ魔力が強いから逃げるのも上手でさ、とソワレがスノードームを突っつく。
「水晶くんは、なんでいなくなっちゃうんですか?」
『そんなん遊びたいからに決まってるやろ』
(あっ、アウトドア派なひとだ!)
イリス――というか、春日井亮太は当然のごとくインドア派なので、休みの日に外出する人の気持ちがよくわからなかったりする。わざわざ人込みの中に紛れ込みに行くのって疲れない? 家で映画を観てゲームをして漫画を読んでたほうがよくない?
そんな考え方を譲る気は全くないが、とりあえず今は目の前の水晶くんに寄り添うことにしよう。なるほど、遊びたいからショッピングモールにまで来てしまったのか。ずっと勉強ばかりしていたら飽きる気持ちは確かに理解できる。
でも善悪の判断や人間に対しての接し方を知らないうえに魔力まで強いとなると、どこでどんなトラブルを起こすかわからない。だから魔物たちをまとめている第三総括は、双子たちに頼んで水晶くんを連れ戻さざるを得ないのだ。
(うん、それぞれの事情があるんだよね)
そのうえで、何かいい案はないだろうか。なんかこう、みんながそれぞれちょっとずつハッピーになれるようなアイディアは――。
「あ」
ぽんっと、両手を打つ。
「じゃあ今度、ぼくたちのおうちや、おばあちゃんのカフェに遊びに来てください!」
「えっ」
双子と水晶くんの声が、きれいにハモったのがおかしかった。なんやねん、仲良しやないか。
「パパがいれば魔法が使えないから万が一のことがあっても平気ですし、ママだってとっても強くて速いから水晶くんがどんなに暴れたって大丈夫ですし、おばあちゃんも厳しいけど優しいから色んなこと教えてくれますし、ギルモンテさんもタフィーさんもお客さんはきっとオールビッグウェルカムです!」
途中からユラを見つめながら力説すれば、「イリスとも、きっといい友達になれるね」と、うれしそうに微笑んでくれた。
(お友達!)
それは気づかなかった。そうか、きっとロキくんみたいないい友達に――いや、ロキくんは天敵だった! ユラは絶対に渡さないから!
『……遊びに行ってもいいの?』
「イリスと第三総括がいいなら、いいんじゃない?」
なぜか急に殊勝なことを言い出した水晶くんに笑いかけてから、ユラがマオに目配せする。それを受けたマオも、「ああ」と、当たり前のように首を縦に振った。
「ありがとうございます! パパ、ママ!」
「あはは、よかったじゃーん! ぼくたちから必死に逃げ回った甲斐があったねー!」と、興味深げに成り行きを見守っていたマチネが、ツインテールを振りながら笑う。
『……うん』
おかしい。水晶くんが、やけに素直だ。そして、標準語である。本人もそのことに気づいたのか、『まあ、行ったってもええけどな! お前らがどーしてもっちゅうんならな!』と、慌てて取り繕った。なんだ、ちゃんとかわいいところもあるじゃん。
「うんうん、お勉強する目的ができてよかったねー! 帰って第三総括に許可をもらって、ちゃんと準備をしてから遊びに行こうねー!」
占い師のように水晶くんを撫で回すソワレを見ながら、イリスはその場で飛び跳ねてしまいたくなった。なんでだろう、すっごくうれしい。
イリスの最大の関心は、もちろん推しカプであるマオとユラに向けられている。けれど、その二人が存在する世界のことも、もっと知りたいと思う。二人が存在する世界に住んでいるひとたちのことを、もっともっと知りたいと思う。
「パパ!」
第三総括のお仕事については、とりあえずひと段落ついたようなので、イリスはそのまま勢いよくマオに抱きついた。完全に機会を逸していたが、ようやく触れることができる。マオにずっと会いたいと思っていた気持ちがあふれ出し、大胆にも引き締まった腹筋に頬擦りまでしてしまった。
「買い物は楽しかったか?」
「はい! 今度はパパも一緒にお買い物しましょうね! 絶対ですよ!」
「ああ、わかった」
イリスの頭を優しくなでるマオの視線が、ふと背中で止まる。「先ほどからずっと気になっていたのだが、その背負っているものは……」
「あ! そうですそうですそうでした! ママがミニゲームでゲットしてくれたんです! おばあちゃんみたいで、とってもかわいいですよね!」
そういえば、ずっとタコリュックを担いだままだった。せっかく思い出したので、ついでに触手をうねうねと動かしてみる。マチネが簡易模倣具だと言っていたが、どうやらイリスが念じると勝手に動く仕組みになっているらしい。
イリスの言葉に「ああ」とうなずくマオの隣で、ソワレが「うんうん、やっぱりそれ取れたんだー! じゃあこっちで正解だったね、マオくん!」と笑いながら、近くのベンチにスノードームを置いた。ごとんっという重い音と、ぎゃあっという悲鳴が上がったことも気にせず、あらかじめ置かれていた白い袋を開け始める。大丈夫かな、水晶くん。
「はい、イリスくんにプレゼント!」
「えっ」
「あ」
イリスと一緒に、ユラも驚きの声を上げる。ソワレから袋から取り出して差し出してきたものは、小さな白い羽がついたピンク色の――そう、なんとあの天使リュックだった。
「え、どうしたんですか!? これって、あのボール投げの景品ですよね?」
「そうそう! 難易度『極楽』とはいうけど、それなりに難しいコースを三回連続で成功させたんだよ! ――マオくんがっ!」
「えっ」
ボクは途中で失敗しちゃったんだよね、と言いながらソワレがマオに顔を向けたので、イリスも同じようにマオを見上げる。目が合うと、小さく頷いてくれた。
「悪魔のリュックは勇者が手に入れるだろうと思った」
「ふあっ! ありがとうございます! これもすごくかわいいと思っていたので、とってもうれしいです!」
言いながら、リュックを全力で抱き締める。柔らかすぎる感触を顔面で堪能しながら「日替わりで使います! どっちも大事に使います!」と、もごもご叫んだ。
両親それぞれからの贈り物に前後を挟まれるなんて、滅多にできない経験だ。イリスの昂る気持ちに反応したのか、天使の羽と悪魔の触手がそれぞれパタパタニョロニョロと忙しく動き始める。
――そんなご機嫌なイリスは、気づかなかった。何やらソワレがこそこそと近づいてきて、耳元でそっとささやこうとすることに。
「そういえば、マオくんね。ほかにプレゼントを買ってたよ」
「えっ」
「なんかねなんかね、故郷で帰りを待ってるひとに渡すんだって!」
「えっえっえっ?」
あまりの衝撃で、ソワレの言葉が左の耳から右の耳に光速で抜けていく。え、なに? なんていったの? プレゼントを? なんで? どうして? っていうか、っていうか!
「だ、だ、だ、だ、だれなんですかそのひとーーーー!!」
思いっきりのけぞったせいで仰向けに倒れそうになったイリスの背中を、タコリュックの足が地面を押し返しながら支えてくれた。
10
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる