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第一部 第一章 カスガイくんは、魔王と勇者の子どもになりたい
1-8 負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くってことにしようよ
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「ここって遺跡に入って最初のホールだよね? うっそ、本当に入り口まで直結してるめちゃくちゃ都合のいい隠し扉だったってこと?」
弾むようなジュリオの声に促されて、視線をぐるりと動かす。造りや材質だけに着目すると、亮太が最初にいた場所とそれほどの違いはなさそうだった。けれど、こちらのほうが遙かに広い。小さな学校の体育館くらいなら、余裕でひとつは入りそうだ。
後ろを振り向くと、そこにはもう回転扉はおろか、落とし穴の壁すら存在しなかった。ホールの中央付近で、三人だけがぽつりと取り残されている。あの扉は物理的にどこかとどこかをつなげていたわけではなく、何らかの不思議な力で全く別の場所にワープさせるための装置だったのだろうか。とある未来のネコ型ロボットが使う、移動式ドアみたいに。
「ここはそういう場所だ。何が起きても不思議ではない」
「わかってるけどさ、報告では空間固着率は高いって話だったじゃない。そんなにおかしな変化はないってさ。でも、これだとちょっと話が違いすぎる」
「スタッフの調査に不備があったと?」
「まさか。俺が言いたいのは、万全な調査でも見逃すようなイレギュラーが発生してるんじゃないかってこと」
何やら難しい話を続けるロミジュリだが、亮太の関心は全く別のところにあった。
(ああ、もう大佐はジュリオの腰を放しちゃったんだ。もっと二人がくっついてるとこ見たかったな。網膜にくっきり焼き付けておきたかったな)
そんな不埒な思考に浸っていたところに、当の二人の視線が同時に向けられたものだから、「えっ、あのっ」と、亮太は過剰にうろたえてしまった。
(まさか心の中の声を口に出していた!? 僕、そういうとこたまにあるらしいし!)
「その話は戻ってからだ」
「そうだね。まずは、お客さんの相手をしないと」
「……ふぅ、えっ?」
どうやら心中を悟られたわけではなかったらしい。ホッと胸を撫で下ろした亮太だが、すぐにジュリオの言葉の意味を図りかねて首を傾げる。そこにぬっと差す、大きな影。
「ご、ご、ゴーレムです!」
この夢はダンジョンといいスライムといい、亮太のそんなに詳しくないゲーム知識をフルに生かせる設定になっているらしい。まさしくゴーレムとしか言いようのない巨大なモンスターが、どこからともなく三人の前に立ちはだかった。
ざっと四メートルはあるだろうか。ゴーレムといえば岩の巨人というビジュアルが一般的だが、目の前のゴーレムは少し違った。この遺跡と同じ、水晶のような鉱石で作られている。全体的に細身で足も長い。ゴーレムの中でもかなりのイケメンなのではないだろうか。洗練されたデザインに定評のあった『極マリ』のマリアロイド――パイロットが搭乗するロボット――に少しだけ似ているかもしれない。
「汝、覚悟ヲ有スル者カ」
「しゃ、しゃべりました!」
「うんうん、いいよいいよ。言葉を話せる守護者にも、二種類あってね。ひとつは、プログラムされた言葉を状況に合わせて伝えるだけのタイプ。もうひとつは、自分の意思を持って自由に話すことができるタイプ。割合的に後者のほうが圧倒的に強いから、俺としてはそっちであってほしいなあ」
もう待ちきれないとばかりに、ジュリオは説明の途中からゴーレムの元へ歩き出している。ステップでも踏みそうな勢いで、あまりにも無防備に近づいていくものだから、亮太もついつい普通に見送ってしまった。
けれど、お客さん――もとい、ゴーレムのほうは完全に臨戦体制だ。ルンルンなジュリオを油断なく見据えている。その圧倒的温度差で、見ているこちらが風邪を引きそうだった。
「あのさ。君の言う覚悟とやらがよくわかんないから、とりあえず戦ってみない? で、負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くってことにしようよ」
「え?」
推しがゴーレムに向けて大きく両手を広げながら、嬉々としてそんな提案をするものだから、亮太は目を剥いてしまった。背中を向けているので確かめようがないが、ジュリオはきっと笑っている。スライムの雨を心待ちにしていたときのような、あどけなさ全開の笑顔で。
「えっと……?」と、どうしたらいいのかわからなくなった亮太は、助けを求めるように大佐へと視線を移した。
あんな大きなモンスターにジュリオが勝てるわけがない。少なくとも亮太が知っている『極マリ』のジュリオでは無理だ。たとえロボットの操縦が天才的だったとしても、軍人としての戦闘経験がそこそこあったとしても、マリアロイドを素手で倒すことのできるパイロットなど存在しないのだから。
それでも。
「問題ない」
ロミットが、そういえばあしたの天気は晴れだったかもしれないなあ、みたいな軽いテンションで断言したので「ああそうか、これも大丈夫なんだ」と、亮太はつられるように納得してしまった。大佐の言葉には、それこそ魔法のような不思議な説得力がある。ひょっとしたら本当に魔法なのかもしれなかった。
とにかく、どうやらジュリオは問題なく勝てるらしい。それなら亮太は、大佐の腕の中から大人しく状況を見守るだけだ。
弾むようなジュリオの声に促されて、視線をぐるりと動かす。造りや材質だけに着目すると、亮太が最初にいた場所とそれほどの違いはなさそうだった。けれど、こちらのほうが遙かに広い。小さな学校の体育館くらいなら、余裕でひとつは入りそうだ。
後ろを振り向くと、そこにはもう回転扉はおろか、落とし穴の壁すら存在しなかった。ホールの中央付近で、三人だけがぽつりと取り残されている。あの扉は物理的にどこかとどこかをつなげていたわけではなく、何らかの不思議な力で全く別の場所にワープさせるための装置だったのだろうか。とある未来のネコ型ロボットが使う、移動式ドアみたいに。
「ここはそういう場所だ。何が起きても不思議ではない」
「わかってるけどさ、報告では空間固着率は高いって話だったじゃない。そんなにおかしな変化はないってさ。でも、これだとちょっと話が違いすぎる」
「スタッフの調査に不備があったと?」
「まさか。俺が言いたいのは、万全な調査でも見逃すようなイレギュラーが発生してるんじゃないかってこと」
何やら難しい話を続けるロミジュリだが、亮太の関心は全く別のところにあった。
(ああ、もう大佐はジュリオの腰を放しちゃったんだ。もっと二人がくっついてるとこ見たかったな。網膜にくっきり焼き付けておきたかったな)
そんな不埒な思考に浸っていたところに、当の二人の視線が同時に向けられたものだから、「えっ、あのっ」と、亮太は過剰にうろたえてしまった。
(まさか心の中の声を口に出していた!? 僕、そういうとこたまにあるらしいし!)
「その話は戻ってからだ」
「そうだね。まずは、お客さんの相手をしないと」
「……ふぅ、えっ?」
どうやら心中を悟られたわけではなかったらしい。ホッと胸を撫で下ろした亮太だが、すぐにジュリオの言葉の意味を図りかねて首を傾げる。そこにぬっと差す、大きな影。
「ご、ご、ゴーレムです!」
この夢はダンジョンといいスライムといい、亮太のそんなに詳しくないゲーム知識をフルに生かせる設定になっているらしい。まさしくゴーレムとしか言いようのない巨大なモンスターが、どこからともなく三人の前に立ちはだかった。
ざっと四メートルはあるだろうか。ゴーレムといえば岩の巨人というビジュアルが一般的だが、目の前のゴーレムは少し違った。この遺跡と同じ、水晶のような鉱石で作られている。全体的に細身で足も長い。ゴーレムの中でもかなりのイケメンなのではないだろうか。洗練されたデザインに定評のあった『極マリ』のマリアロイド――パイロットが搭乗するロボット――に少しだけ似ているかもしれない。
「汝、覚悟ヲ有スル者カ」
「しゃ、しゃべりました!」
「うんうん、いいよいいよ。言葉を話せる守護者にも、二種類あってね。ひとつは、プログラムされた言葉を状況に合わせて伝えるだけのタイプ。もうひとつは、自分の意思を持って自由に話すことができるタイプ。割合的に後者のほうが圧倒的に強いから、俺としてはそっちであってほしいなあ」
もう待ちきれないとばかりに、ジュリオは説明の途中からゴーレムの元へ歩き出している。ステップでも踏みそうな勢いで、あまりにも無防備に近づいていくものだから、亮太もついつい普通に見送ってしまった。
けれど、お客さん――もとい、ゴーレムのほうは完全に臨戦体制だ。ルンルンなジュリオを油断なく見据えている。その圧倒的温度差で、見ているこちらが風邪を引きそうだった。
「あのさ。君の言う覚悟とやらがよくわかんないから、とりあえず戦ってみない? で、負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くってことにしようよ」
「え?」
推しがゴーレムに向けて大きく両手を広げながら、嬉々としてそんな提案をするものだから、亮太は目を剥いてしまった。背中を向けているので確かめようがないが、ジュリオはきっと笑っている。スライムの雨を心待ちにしていたときのような、あどけなさ全開の笑顔で。
「えっと……?」と、どうしたらいいのかわからなくなった亮太は、助けを求めるように大佐へと視線を移した。
あんな大きなモンスターにジュリオが勝てるわけがない。少なくとも亮太が知っている『極マリ』のジュリオでは無理だ。たとえロボットの操縦が天才的だったとしても、軍人としての戦闘経験がそこそこあったとしても、マリアロイドを素手で倒すことのできるパイロットなど存在しないのだから。
それでも。
「問題ない」
ロミットが、そういえばあしたの天気は晴れだったかもしれないなあ、みたいな軽いテンションで断言したので「ああそうか、これも大丈夫なんだ」と、亮太はつられるように納得してしまった。大佐の言葉には、それこそ魔法のような不思議な説得力がある。ひょっとしたら本当に魔法なのかもしれなかった。
とにかく、どうやらジュリオは問題なく勝てるらしい。それなら亮太は、大佐の腕の中から大人しく状況を見守るだけだ。
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