【二部開始】魔王と勇者のカスガイくん~腐男子が転生して推しカプの子どもになりました~

森原ヘキイ

文字の大きさ
上 下
7 / 57
第一部 第一章 カスガイくんは、魔王と勇者の子どもになりたい

1-7 願い事は口に出さなきゃ叶わないからね

しおりを挟む
「……ここからどうする」
「んー。さっきも言ったけど、壁登りはやっぱりパスしたいなあ。遺跡の入り口に直結する都合のいい隠し扉がないか探してみようよ」
「また無茶を言う」
「願い事は口に出さなきゃ叶わないからね」

 いつの間にかスノードームは消えていた。ダイヤモンドダストという天然のシャンデリアのもと、ジュリオが軽快なステップを踏みながら穴の端まで移動する。ぺたぺたと壁を触っては耳を押し当てたりしているところを見ると、本当に隠し扉のようなものを探し出すつもりらしい。

「勇者は一度決めたら梃子でも動かない。こちらもしばらく付き合う必要がありそうだ」

 まるで自分に言い聞かせるように亮太へ説明すると、ロミットはジュリオとは反対の壁際へと歩き出した。
(そういえば『極マリ』の大佐も、ジュリオのフリーダムっぷりには手を焼いてたっけ)
 それでも好きなように行動させていたあたり、なんだかんだ大佐はジュリオに甘くて、だからこそ亮太はロミジュリというカップリングの存在を確信したのだった。そんな推しカプの初心を思い出して両方の口角を一度に急上昇させた亮太に、大佐が「歯が痛いのか?」と声をかけてくる。心配してもらえた! 優しい! うれしい!
 
「いえ、大丈夫です! えー、こほんこほん。あの、隠し扉がもし本当にあったとして、簡単に見つかるものなんですか?」
「人の手による建造物であれば、何らかの綻びや痕跡は探せるだろう。だが、ここは旧時代の遺跡だ。ある程度の規則性は存在するが、次元がねじれているので物理法則や一般常識といったものがそのまま通じるとはかぎらない。何の予兆もなく壁が扉になることがあれば、その逆もまたあり得る」
「なるほど!」(わからん!)と、心の中でこっそり付け足す。

 旧時代の遺跡? 次元がねじれている? 夢にしては設定が複雑で、ついていくのが難しい。
 とにかく、この遺跡とやらが不思議な場所だということだけはわかった。何かの弾みで、うっかり壁に扉ができたとしてもおかしくはないらしい。何でもありだなんていかにも夢っぽいなあと思いながら、亮太は大佐の腕の中からそっと手を伸ばす。

「わっ」

 亮太が小さな手のひらを水晶の壁に押し当てた、まさにその場所から光の幾何学模様が浮かび上がった。そのままゆっくりと円状に壁を伝っていく。まるで一滴の水が落とし込まれた水面のように。
 スライムたちが登場した壁の穴が開いたときも、こんな模様が現れたような気がする。触れると反応する仕組みなのだろうかとジュリオを振り向くも、さんざんペタペタされている向こうの壁には何の変化もない。不思議に思いながら、大佐を見上げる。

「こっちの壁だけキラキラするんでしょうか」
「……さて」

 相変わらず、何を考えているのかわからない無表情がかっこいい。「別の場所にも触ってみてくれ」と言われたので、恐れ多くも大佐に上下や横に移動してもらいながら縦横無尽に触り続ける。そのたびに、光の輪が広がっては消えていった。けれど、それ以上の変化はみられない。

「隠し扉ありませんね」
「お前が思う『隠し扉』とは、どんなものだ」
「え?」

 哲学の問題か何かだろうか。不思議な問いかけをされて、亮太は目を瞬く。
 隠し扉とは何か。そのまんま、隠している扉だ。人目につかないように、壁と一体化している扉。ふとテレビの番組か何かで見た忍者屋敷を思い浮かべる。
(確か『どんでん返し』だったっけ)
 壁に溶け込んでいるドアの端を押すと、くるっと回転して向こう側に行くことができるカラクリのことだ。けれどあんな和風レトロなものが、こんな西洋風かつ近未来的な遺跡の落とし穴の中にあるとは思えな――。

「ほわっ?」

 壁にあてていた手に軽く体重を込めながら考え込んでいた亮太の上半身が、突然がくんと傾く。すかさず大佐が抱えなおしてくれたお陰で、落下の危険は免れた。「ありがとうございます」と礼を述べたあとで、いったい何が起こったのかと壁面に視線を向ける。すると。

「なんかズレてませんか?」

 ズレる。そんな言い方が適切がどうかはわからないが、亮太にはそう見えた。継ぎ目のなかった水晶の壁の一部分――ちょうど亮太が触れていた場所を囲うように、大きな四角い亀裂が走っている。それこそ、大人一人が通過できる扉のような大きさだ。そのドアの片側が、亮太の重みを受けてわずかに壁の内側へと押し込まれている。まさに、どんでん返しが開く直前のように。

「か、回転扉です! ありました!」
「勇者」

 あわわわと驚く亮太に構わず、ロミットがジュリオを振り返る。

「えっ、本当に見つけたの? あはは、すっごい!」

 すぐさまうれしそうに駆け寄ってきたジュリオが、大佐の後ろからひょいと壁を覗き込んだ。「これが扉? どうやって開くの?」と疑問の声をあげたジュリオの腰をロミットが無言で引き寄せる。そうして左手に亮太、右手にジュリオを抱えたまま、何のためらいもなく肩口から回転扉に突っ込んでいった。
「ひょあああ!」という亮太の叫びは、もちろん視界がぐるりと回ったからではない。突然のロミジュリ展開によるうれしい悲鳴だ。
(え、いま、腰を抱いてましたよね? 全員で回転扉をくぐるためとはいえ、そんなにスマートに? ジュリオも全く抵抗しなかったけど、ひょっとして慣れてるの? この二人、実はもうくっついてたりしない?)
 などと混乱しているうちに、目の前の風景が一瞬で変わっていた。閉鎖的な空間から、開放的な空間へ。新鮮な空気の流れを感じた亮太は、慌てて深呼吸する。混乱のため大量の酸素を欲していた脳の「かたじけない……!」という感謝の声が聞こえたような気がした。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...