68 / 77
10.火車
10-7
しおりを挟む
コロは、なにも答えない。答えられないほど、発作が苦しいのかもしれない。けれど、まだそこにいてくれる。僕の話を、黙って聞いてくれている。
「運転手さんは、猫を避けようとしてとっさにハンドルを切ってしまったんだって。『一生かけて償います』って、泣きながら土下座をしたその人を、お母さんは許した。僕だって、運転手さんが本当に優しい人なんだってことはわかったよ。でも、でも、やっぱりおかしいよ。なんで春花だったの? 僕だって猫のことは大好きだけど、助けようとした運転手さんの判断は間違ってなかったと思うけど、でも、でもさ」
そこまで一息に言い切ってから、ぐっと下唇をかむ。右肩が急に重くなったような気がして、これ以上の言葉を出すことをためらってしまう。でも、それは逃げだ。僕はもう、逃げたくない。
「春花を殺すくらいなら、猫を殺してほしかった」
そんなひどいことを考えてしまう自分のことが、僕はずっと大嫌いだった。
僕の言葉を理解しているのか、していないのか。猫又が優しく体をこすりつけてくる。その温もりに、どうしようもなく胸が痛んだ。
「春花が死ぬくらいなら、僕が死ねばよかったんだ」
ずっとずっと言ってしまいたかったけど、誰にも言えなかった。なんでも話をするお母さんにも――お母さんにだけは、絶対に言えなかった。
「……だからヒノモトでのアンタは、女の子になってるのか」
コロに言われて、ようやく気づく。いや、本当はもうずっと前から気づいていたのかもしれない。
どうして自分が女の子になっているのか。自分が本当に心から望んだ姿が、どうして自分にそっくりだったのか。
「アンタは女の子になりたかったんじゃなくて、春花に生きててほしかったんだな」
どうしても認められなかった答えを、コロが形にしてくれた。
一度ぎゅっと強く目を閉じ、大きく息を吸い込んでから、僕はうなずく。
「運転手さんは、猫を避けようとしてとっさにハンドルを切ってしまったんだって。『一生かけて償います』って、泣きながら土下座をしたその人を、お母さんは許した。僕だって、運転手さんが本当に優しい人なんだってことはわかったよ。でも、でも、やっぱりおかしいよ。なんで春花だったの? 僕だって猫のことは大好きだけど、助けようとした運転手さんの判断は間違ってなかったと思うけど、でも、でもさ」
そこまで一息に言い切ってから、ぐっと下唇をかむ。右肩が急に重くなったような気がして、これ以上の言葉を出すことをためらってしまう。でも、それは逃げだ。僕はもう、逃げたくない。
「春花を殺すくらいなら、猫を殺してほしかった」
そんなひどいことを考えてしまう自分のことが、僕はずっと大嫌いだった。
僕の言葉を理解しているのか、していないのか。猫又が優しく体をこすりつけてくる。その温もりに、どうしようもなく胸が痛んだ。
「春花が死ぬくらいなら、僕が死ねばよかったんだ」
ずっとずっと言ってしまいたかったけど、誰にも言えなかった。なんでも話をするお母さんにも――お母さんにだけは、絶対に言えなかった。
「……だからヒノモトでのアンタは、女の子になってるのか」
コロに言われて、ようやく気づく。いや、本当はもうずっと前から気づいていたのかもしれない。
どうして自分が女の子になっているのか。自分が本当に心から望んだ姿が、どうして自分にそっくりだったのか。
「アンタは女の子になりたかったんじゃなくて、春花に生きててほしかったんだな」
どうしても認められなかった答えを、コロが形にしてくれた。
一度ぎゅっと強く目を閉じ、大きく息を吸い込んでから、僕はうなずく。
0
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】花屋の花子さん
●やきいもほくほく●
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞 『奨励賞』受賞しました!!!】
旧校舎の三階、女子トイレの個室の三番目。
そこには『誰か』が不思議な花を配っている。
真っ赤なスカートに白いシャツ。頭にはスカートと同じ赤いリボン。
一緒に遊ぼうと手招きする女の子から、あるものを渡される。
『あなたにこの花をあげるわ』
その花を受け取った後は運命の分かれ道。
幸せになれるのか、不幸になるのか……誰にも予想はできない。
「花子さん、こんにちは!」
『あら、小春。またここに来たのね』
「うん、一緒に遊ぼう!」
『いいわよ……あなたと一緒に遊んであげる』
これは旧校舎のトイレで花屋を開く花子さんとわたしの不思議なお話……。
レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか
宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。
公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。
あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。
溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。
アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。
十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。
しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。
全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。
「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」
果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?
そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか?
レイルークは誰の手(恋)をとるのか。
これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分)
⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。
物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。
『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。
ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。
一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。
もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。
かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。
野良犬ぽちの冒険
KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる?
ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。
だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、
気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。
やさしい人もいれば、こわい人もいる。
あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。
それでも、ぽちは 思っている。
──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。
すこし さみしくて、すこし あたたかい、
のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。
ボクはスライム
バナナ男さん
絵本
こんな感じだったら楽しいなと書いてみたので載せてみましたઽ( ´ω`)ઽ
凄く簡単に読める仕様でサクッと読めますのでよかったら暇つぶしに読んでみて下さいませ〜・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃
童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)
カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ……
誰もいない野原のステージの上で……
アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ———
全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。
※高学年〜大人向き
その怪談、お姉ちゃんにまかせて
藤香いつき
児童書・童話
小学5年生の月森イチカは、怖がりな妹・ニコのために、学校でウワサされる怪談を解いてきた。
「その怪談、お姉ちゃんにまかせて」
そのせいで、いつのまにか『霊感少女』なんて呼ばれている。
そんな彼女の前に現れたのは、学校一の人気者——会長・氷室冬也。
「霊感少女イチカくん。学校の七不思議を、きみの力で解いてほしい」
怪談を信じないイチカは断るけれど……?
イチカと冬也の小学生バディが挑む、謎とホラーに満ちた七不思議ミステリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる