58 / 77
9.レインボーのカッパ
9-9
しおりを挟む
「え?」
現実世界では一度も耳にしたことがない名前。僕とメイくんと、コロしか知らない名前。その名前を、背中にいる小学生の男の子に呼ばれたということは。
――と、いうことは?
「あ」
「ちょっ」
完全に足元への注意が疎かになった僕は、危うく階段を踏み外しそうになった。おんぶで両腕が使えないながらも必死に体勢を整えて、はあっと大きな息をはく。いろいろな意味で、心臓が口から出そうなくらいびっくりした。
「あっぶな! 言ったそばからなんなんだよ、アンタは!」
「ご、ごめんっ! え、ホントに? ホントにコロなの?」
「やめろ、こっち見んな」
亀みたいに首を伸ばして後ろを覗き込んでも、男の子が逆の方向へ顔を背けてしまって、まったく確認できない。でもそんな仕草がコロっぽくも思えて、本当に本当なんだなと実感できた。
「……うわあ、すごい。よかった、会えたあ……!」
「なんでこんなとこにいんの? ひょっとして、わざわざ俺を探しに来たとか?」
「ソ、ソウデス」と、あまり胸を張って言えることではないと思ったので控えめに答えておく。
「にしても、よくわかったな。レインボーのカッパくらいしかヒントがなかったのに」
「そのレインボーのカッパがそれだけ珍しいってことだよ。でも来てみたはいいものの、君を探す決め手にかけてて……だから、君が見つけてくれて本当によかった」
そこまで言ってから、ふと気づく。
「コロのほうこそ、よく僕ってわかったね」
「……部屋のベッドから、いつもみたいになんとなくカッパを見てたら、ものすごい勢いで走ってくる奴がいて。誰かと待ち合わせでもしてるのかと思ったけど、なんか上ばっかりキョロキョロ確認してて挙動不審だったし」
「う」
「そのまま何十分も居座り続けるから、さすがにおかしいと思ったときにヒノモトからの通知が来て」
「あ、うん。メンテ開けのお知らせだよね」
「不審者も同じタイミングでスマホを取り出すのが見えたから、ひょっとしたらこいつもヒノモトやってんのかなって」
「ああ、なるほど」
「顔はさすがにはっきりとは見えなかったけど、背格好とか雰囲気とかがハルキに似てるような気がして、だから――」
「走って追いかけてくれたんだ。……体調、悪いのに」
「いつものことだし」
いつものこと。そうか、やっぱりいつものことだったんだ。コロの軽すぎる体、細すぎる腕。その意味を、改めて理解する。
現実世界では一度も耳にしたことがない名前。僕とメイくんと、コロしか知らない名前。その名前を、背中にいる小学生の男の子に呼ばれたということは。
――と、いうことは?
「あ」
「ちょっ」
完全に足元への注意が疎かになった僕は、危うく階段を踏み外しそうになった。おんぶで両腕が使えないながらも必死に体勢を整えて、はあっと大きな息をはく。いろいろな意味で、心臓が口から出そうなくらいびっくりした。
「あっぶな! 言ったそばからなんなんだよ、アンタは!」
「ご、ごめんっ! え、ホントに? ホントにコロなの?」
「やめろ、こっち見んな」
亀みたいに首を伸ばして後ろを覗き込んでも、男の子が逆の方向へ顔を背けてしまって、まったく確認できない。でもそんな仕草がコロっぽくも思えて、本当に本当なんだなと実感できた。
「……うわあ、すごい。よかった、会えたあ……!」
「なんでこんなとこにいんの? ひょっとして、わざわざ俺を探しに来たとか?」
「ソ、ソウデス」と、あまり胸を張って言えることではないと思ったので控えめに答えておく。
「にしても、よくわかったな。レインボーのカッパくらいしかヒントがなかったのに」
「そのレインボーのカッパがそれだけ珍しいってことだよ。でも来てみたはいいものの、君を探す決め手にかけてて……だから、君が見つけてくれて本当によかった」
そこまで言ってから、ふと気づく。
「コロのほうこそ、よく僕ってわかったね」
「……部屋のベッドから、いつもみたいになんとなくカッパを見てたら、ものすごい勢いで走ってくる奴がいて。誰かと待ち合わせでもしてるのかと思ったけど、なんか上ばっかりキョロキョロ確認してて挙動不審だったし」
「う」
「そのまま何十分も居座り続けるから、さすがにおかしいと思ったときにヒノモトからの通知が来て」
「あ、うん。メンテ開けのお知らせだよね」
「不審者も同じタイミングでスマホを取り出すのが見えたから、ひょっとしたらこいつもヒノモトやってんのかなって」
「ああ、なるほど」
「顔はさすがにはっきりとは見えなかったけど、背格好とか雰囲気とかがハルキに似てるような気がして、だから――」
「走って追いかけてくれたんだ。……体調、悪いのに」
「いつものことだし」
いつものこと。そうか、やっぱりいつものことだったんだ。コロの軽すぎる体、細すぎる腕。その意味を、改めて理解する。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
コボンとニャンコ
魔界の風リーテ
児童書・童話
吸血コウモリのコボンは、リンゴの森で暮らしていた。
その日常は、木枯らしの秋に倒壊し、冬が厳粛に咲き誇る。
放浪の最中、箱入りニャンコと出会ったのだ。
「お前は、バン。オレが…気まぐれに決めた」
三日月の霞が晴れるとき、黒き羽衣に火が灯る。
そばにはいつも、夜空と暦十二神。
『コボンの愛称以外のなにかを探して……』
眠りの先には、イルカのエクアルが待っていた。
残酷で美しい自然を描いた、物悲しくも心温まる物語。
※縦書き推奨
アルファポリス、ノベルデイズにて掲載
【文章が長く、読みにくいので、修正します】(2/23)
【話を分割。文字数、表現などを整えました】(2/24)
【規定数を超えたので、長編に変更。20話前後で完結予定】(2/25)
【描写を追加、変更。整えました】(2/26)
筆者の体調を破壊()3/
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~
世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。
友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。
ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。
だが、彼らはまだ知らなかった。
ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。
敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。
果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか?
8月中、ほぼ毎日更新予定です。
(※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる