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6.橋の上のコロウ

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 そんなことを考えている間に、いつの間にか川に沿って火ノ都の外までやってきたらしい。周囲に誰もいないことを確認すると、鬼面は芝の生えた地面に僕を立たせるように降ろしてくれた。

「あ、ありが――」
「アンタ、水に飛び込むのが好きなのかよ。フツー、あの場面であんなことするか?」

  どうやら逃げている間も、よっぽど腹に据えかねていたらしい。覆い被さるように詰め寄ってくる鬼面の迫力に気圧けおされて、僕は思わず後ずさってしまった。

 「で、でもその、お、追われてたから……」
 「俺はな。アンタは関係ないだろ」 
「いや、そうなんですけど、でも、あのときはああしたほうがいいと思いまして……」
 「はあ? なんで?」 

 なんで。なんでだろう。ほとんど考えなしに動いてしまったので、言葉にするのは難しい。なので、相手の印象を率直に答えることにした。

「そんなに悪い人じゃないかもしれないと思ったから?」 
「は?」

 首をかしげる僕と合わせ鏡になったかのように、鬼面も同じ方向へ首をかたむける。ぽかーん、という大きくてマヌケな文字が、お互いの間に見えたような気がした。

「……ま、いいや。それで? なにをどうしたら、そんなに悪い人じゃなさそうな人を橋から体当たりして突き落とそうって結論になるんだ?」
 「あの数の警察から逃げ切るには、川に飛び込んで岸まで泳ぐしかないかなと思って」 
「アンタも一緒に? 俺だけ突き飛ばせばよかったのに」

 俺だけ突き飛ばせばよかった。 
 鬼面のその言葉には、きっと悪気も深い意味もない。それはわかっている。けれど、僕の胸にはどうしようもなく重く響き渡った。
 全身の血が一気に引いて、心臓が鈍い音を立てる。目の奥と頭の奥が白く光る。忘れていたものを思い出しそうで、思い出せない。いや、思い出したくない。 
 ――なにがよかったって言うんだ。
 なにも、のに。

「……あー、違う。別にアンタに文句が言いたかったわけじゃないんだって」

 いつの間にか地面に視線を落としたまま黙り込んでしまっていた僕の頭のてっぺんに、鬼面の困ったような声が落ちてくる。

「本題は、こっち。これを渡そうと思って、アンタを探してたんだよ。なのに、全然どこにもいねぇから」
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