13 / 77
3.火ノ都の麗春祭
3-1
しおりを挟む
ヒノモトの気候は、常に春や秋のようで過ごしやすい。一部の地域は極寒だったり灼熱だったりするけど、そこへはまだ行けないので詳しいことはわからない。
ここ火ノ都に関しても、一年を通じてほとんど景観に変化はみられないらしい。「チュートリアルのために使われることが多い南側の光景がコロコロ変わったら、新規のプレイヤーが混乱するからね」と、メイくんが言っていた。なるほど、たしかに。
でも、大きな川をはさんだ向こう側。つまり今、僕とメイくんがいる北側は違う。現実世界の季節を反映したイベントが行われているので、地区全体がこれでもかというほど華やかに飾りつけられていた。
「わ、すっごい! 花がいっぱいだよ、メイくん! え、あれなに!?」
麗春祭という名前が示すとおり、今回のイベントのテーマは春だ。落ち着いた色調の年季の入った建築物を、鮮やかな花々たちが彩っている。それだけなら、まだ「現実世界にある有名テーマパークみたいだね」という感想で収まっていたところだけど、なんといってもここはヒノモト。オンラインゲームの世界だ。
ひらひらと周囲を舞うさまざまな種類の花びらは、なにかに触れる寸前に光となって消えてしまうし、花の形をした提灯を風船のように宙に浮かし続けることだってできてしまう。
超バーチャルな世界だからこそ見られる不可思議な光景を目の前にして、僕はぽかんと口を開けながらフリーズしてしまった。見かねたメイくんが「危ないよ」と言いながら首根っこを引っ張ってくれる。
「道の真ん中でボケっとしてるとぶつかる」
「あ、ごめん。びっくりしちゃって。……それにしても、本当に人が多いね」
「サービス開始してから、はじめての大型イベントだから。はりきってるんでしょ、みんな」
そう。火ノ都の北側は、南側とは比べものにならないほどたくさんのアバターたちでにぎわっていた。ヒノモトは、サーバーというものでいくつかの世界にわけられている。この場にいる人たちは、その割り当てられた世界ひとつ分のプレイヤーでしかないはずなのに、それでも結構な数だ。
そんなアバターたちのほとんどは、僕とメイくんのように今回のイベントで配布された特コスを着ているみたいだった。それぞれ個性的なカスタマイズをしているから、とても原型が同じものだとは思えない。
でも中にはあきらかに「たった今、ヒノモトをはじめました」というような初期装備のアバターもまぎれ込んでいた。チュートリアルの最中に、間違って橋を渡って来てしまったんだろうか。辺りをオロオロと見回しているその忍者に、すかさずNPCの街の人が声をかけている様子を見て、関係のない僕までほっとしてしまった。
「どうかしたの」
「いや、僕もひとりだったら絶対迷ってたなあって」
「あー、ね」
ひとりだったらチュートリアルでさえ不安だったろうし、そもそもメイくんがいなければこのゲーム自体していなかっただろう。それがいいことなのか悪いことなのかは置いておいて、今はとりあえず目の前のイベント――ひいてはヒノモトオンラインを楽しむために顔を上げる。
そんな僕の視界に、ぎゅんっと入り込む二つの影。
ここ火ノ都に関しても、一年を通じてほとんど景観に変化はみられないらしい。「チュートリアルのために使われることが多い南側の光景がコロコロ変わったら、新規のプレイヤーが混乱するからね」と、メイくんが言っていた。なるほど、たしかに。
でも、大きな川をはさんだ向こう側。つまり今、僕とメイくんがいる北側は違う。現実世界の季節を反映したイベントが行われているので、地区全体がこれでもかというほど華やかに飾りつけられていた。
「わ、すっごい! 花がいっぱいだよ、メイくん! え、あれなに!?」
麗春祭という名前が示すとおり、今回のイベントのテーマは春だ。落ち着いた色調の年季の入った建築物を、鮮やかな花々たちが彩っている。それだけなら、まだ「現実世界にある有名テーマパークみたいだね」という感想で収まっていたところだけど、なんといってもここはヒノモト。オンラインゲームの世界だ。
ひらひらと周囲を舞うさまざまな種類の花びらは、なにかに触れる寸前に光となって消えてしまうし、花の形をした提灯を風船のように宙に浮かし続けることだってできてしまう。
超バーチャルな世界だからこそ見られる不可思議な光景を目の前にして、僕はぽかんと口を開けながらフリーズしてしまった。見かねたメイくんが「危ないよ」と言いながら首根っこを引っ張ってくれる。
「道の真ん中でボケっとしてるとぶつかる」
「あ、ごめん。びっくりしちゃって。……それにしても、本当に人が多いね」
「サービス開始してから、はじめての大型イベントだから。はりきってるんでしょ、みんな」
そう。火ノ都の北側は、南側とは比べものにならないほどたくさんのアバターたちでにぎわっていた。ヒノモトは、サーバーというものでいくつかの世界にわけられている。この場にいる人たちは、その割り当てられた世界ひとつ分のプレイヤーでしかないはずなのに、それでも結構な数だ。
そんなアバターたちのほとんどは、僕とメイくんのように今回のイベントで配布された特コスを着ているみたいだった。それぞれ個性的なカスタマイズをしているから、とても原型が同じものだとは思えない。
でも中にはあきらかに「たった今、ヒノモトをはじめました」というような初期装備のアバターもまぎれ込んでいた。チュートリアルの最中に、間違って橋を渡って来てしまったんだろうか。辺りをオロオロと見回しているその忍者に、すかさずNPCの街の人が声をかけている様子を見て、関係のない僕までほっとしてしまった。
「どうかしたの」
「いや、僕もひとりだったら絶対迷ってたなあって」
「あー、ね」
ひとりだったらチュートリアルでさえ不安だったろうし、そもそもメイくんがいなければこのゲーム自体していなかっただろう。それがいいことなのか悪いことなのかは置いておいて、今はとりあえず目の前のイベント――ひいてはヒノモトオンラインを楽しむために顔を上げる。
そんな僕の視界に、ぎゅんっと入り込む二つの影。
0
あなたにおすすめの小説
マジカル・ミッション
碧月あめり
児童書・童話
小学五年生の涼葉は千年以上も昔からの魔女の血を引く時風家の子孫。現代に万能な魔法を使える者はいないが、その名残で、時風の家に生まれた子どもたちはみんな十一歳になると必ず不思議な能力がひとつ宿る。 どんな能力が宿るかは人によってさまざまで、十一歳になってみなければわからない。 十一歳になった涼葉に宿った能力は、誰かが《落としたもの》の記憶が映像になって見えるというもの。 その能力で、涼葉はメガネで顔を隠した陰キャな転校生・花宮翼が不審な行動をするのを見てしまう。怪しく思った涼葉は、動物に関する能力を持った兄の櫂斗、近くにいるケガ人を察知できるいとこの美空、ウソを見抜くことができるいとこの天とともに花宮を探ることになる。
野良犬ぽちの冒険
KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる?
ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。
だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、
気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。
やさしい人もいれば、こわい人もいる。
あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。
それでも、ぽちは 思っている。
──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。
すこし さみしくて、すこし あたたかい、
のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。
ボクはスライム
バナナ男さん
絵本
こんな感じだったら楽しいなと書いてみたので載せてみましたઽ( ´ω`)ઽ
凄く簡単に読める仕様でサクッと読めますのでよかったら暇つぶしに読んでみて下さいませ〜・:*。・:*三( ⊃'ω')⊃
【完】888字物語
丹斗大巴
児童書・童話
どこからでも読み始められる888字完結型のショートショート集。
・888字でコワイ話
・888字でミステリ
・888字でふしぎ
とっても怖~いお話もあります。
夜トイレに行けなくなっちゃうかも…!?
その怪談、お姉ちゃんにまかせて
藤香いつき
児童書・童話
小学5年生の月森イチカは、怖がりな妹・ニコのために、学校でウワサされる怪談を解いてきた。
「その怪談、お姉ちゃんにまかせて」
そのせいで、いつのまにか『霊感少女』なんて呼ばれている。
そんな彼女の前に現れたのは、学校一の人気者——会長・氷室冬也。
「霊感少女イチカくん。学校の七不思議を、きみの力で解いてほしい」
怪談を信じないイチカは断るけれど……?
イチカと冬也の小学生バディが挑む、謎とホラーに満ちた七不思議ミステリー!
童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)
カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ……
誰もいない野原のステージの上で……
アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ———
全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。
※高学年〜大人向き
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる