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3.火ノ都の麗春祭
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ヒノモトの気候は、常に春や秋のようで過ごしやすい。一部の地域は極寒だったり灼熱だったりするけど、そこへはまだ行けないので詳しいことはわからない。
ここ火ノ都に関しても、一年を通じてほとんど景観に変化はみられないらしい。「チュートリアルのために使われることが多い南側の光景がコロコロ変わったら、新規のプレイヤーが混乱するからね」と、メイくんが言っていた。なるほど、たしかに。
でも、大きな川をはさんだ向こう側。つまり今、僕とメイくんがいる北側は違う。現実世界の季節を反映したイベントが行われているので、地区全体がこれでもかというほど華やかに飾りつけられていた。
「わ、すっごい! 花がいっぱいだよ、メイくん! え、あれなに!?」
麗春祭という名前が示すとおり、今回のイベントのテーマは春だ。落ち着いた色調の年季の入った建築物を、鮮やかな花々たちが彩っている。それだけなら、まだ「現実世界にある有名テーマパークみたいだね」という感想で収まっていたところだけど、なんといってもここはヒノモト。オンラインゲームの世界だ。
ひらひらと周囲を舞うさまざまな種類の花びらは、なにかに触れる寸前に光となって消えてしまうし、花の形をした提灯を風船のように宙に浮かし続けることだってできてしまう。
超バーチャルな世界だからこそ見られる不可思議な光景を目の前にして、僕はぽかんと口を開けながらフリーズしてしまった。見かねたメイくんが「危ないよ」と言いながら首根っこを引っ張ってくれる。
「道の真ん中でボケっとしてるとぶつかる」
「あ、ごめん。びっくりしちゃって。……それにしても、本当に人が多いね」
「サービス開始してから、はじめての大型イベントだから。はりきってるんでしょ、みんな」
そう。火ノ都の北側は、南側とは比べものにならないほどたくさんのアバターたちでにぎわっていた。ヒノモトは、サーバーというものでいくつかの世界にわけられている。この場にいる人たちは、その割り当てられた世界ひとつ分のプレイヤーでしかないはずなのに、それでも結構な数だ。
そんなアバターたちのほとんどは、僕とメイくんのように今回のイベントで配布された特コスを着ているみたいだった。それぞれ個性的なカスタマイズをしているから、とても原型が同じものだとは思えない。
でも中にはあきらかに「たった今、ヒノモトをはじめました」というような初期装備のアバターもまぎれ込んでいた。チュートリアルの最中に、間違って橋を渡って来てしまったんだろうか。辺りをオロオロと見回しているその忍者に、すかさずNPCの街の人が声をかけている様子を見て、関係のない僕までほっとしてしまった。
「どうかしたの」
「いや、僕もひとりだったら絶対迷ってたなあって」
「あー、ね」
ひとりだったらチュートリアルでさえ不安だったろうし、そもそもメイくんがいなければこのゲーム自体していなかっただろう。それがいいことなのか悪いことなのかは置いておいて、今はとりあえず目の前のイベント――ひいてはヒノモトオンラインを楽しむために顔を上げる。
そんな僕の視界に、ぎゅんっと入り込む二つの影。
ここ火ノ都に関しても、一年を通じてほとんど景観に変化はみられないらしい。「チュートリアルのために使われることが多い南側の光景がコロコロ変わったら、新規のプレイヤーが混乱するからね」と、メイくんが言っていた。なるほど、たしかに。
でも、大きな川をはさんだ向こう側。つまり今、僕とメイくんがいる北側は違う。現実世界の季節を反映したイベントが行われているので、地区全体がこれでもかというほど華やかに飾りつけられていた。
「わ、すっごい! 花がいっぱいだよ、メイくん! え、あれなに!?」
麗春祭という名前が示すとおり、今回のイベントのテーマは春だ。落ち着いた色調の年季の入った建築物を、鮮やかな花々たちが彩っている。それだけなら、まだ「現実世界にある有名テーマパークみたいだね」という感想で収まっていたところだけど、なんといってもここはヒノモト。オンラインゲームの世界だ。
ひらひらと周囲を舞うさまざまな種類の花びらは、なにかに触れる寸前に光となって消えてしまうし、花の形をした提灯を風船のように宙に浮かし続けることだってできてしまう。
超バーチャルな世界だからこそ見られる不可思議な光景を目の前にして、僕はぽかんと口を開けながらフリーズしてしまった。見かねたメイくんが「危ないよ」と言いながら首根っこを引っ張ってくれる。
「道の真ん中でボケっとしてるとぶつかる」
「あ、ごめん。びっくりしちゃって。……それにしても、本当に人が多いね」
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そう。火ノ都の北側は、南側とは比べものにならないほどたくさんのアバターたちでにぎわっていた。ヒノモトは、サーバーというものでいくつかの世界にわけられている。この場にいる人たちは、その割り当てられた世界ひとつ分のプレイヤーでしかないはずなのに、それでも結構な数だ。
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でも中にはあきらかに「たった今、ヒノモトをはじめました」というような初期装備のアバターもまぎれ込んでいた。チュートリアルの最中に、間違って橋を渡って来てしまったんだろうか。辺りをオロオロと見回しているその忍者に、すかさずNPCの街の人が声をかけている様子を見て、関係のない僕までほっとしてしまった。
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「あー、ね」
ひとりだったらチュートリアルでさえ不安だったろうし、そもそもメイくんがいなければこのゲーム自体していなかっただろう。それがいいことなのか悪いことなのかは置いておいて、今はとりあえず目の前のイベント――ひいてはヒノモトオンラインを楽しむために顔を上げる。
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