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第七章 罪の記憶よ、はじめまして
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無理、と。本来ならば否定的でネガティブなイメージがつきまとう言葉が、このときばかりはユウの胸に安堵と幸福を届けてくれる。「……そっか」というユウの小さな呟きだけで笑顔の気配を感じ取ったのか、エリヤは振り向きもせず、先ほどよりも早足で階段を上り始めた。
「大体、オマエは人のことをとやかく言える立場なのかよ。コスプロへの乗り込み、オレがやらなかったらオマエが先にやってただろうが」
「えっ」
必死にエリヤの後を追いかけていたユウが、びくっと肩を跳ね上げた。事実を言い当てられて混乱している間に、美しすぎる探偵が簡単すぎる推理を披露してくれる。
「ビュッフェで動画を見たときのオマエの態度。アイドルなんかに興味ねぇ癖に、コスプロの名前には反応してただろうが。あれで、オレも思い出した。数か月前、街中でおかしな奴に声を掛けられたこと。あのときは、オマエも名刺を貰ってたよな?」
――アイドルになりませんか? お二人の笑顔、とっても素敵です!
エリヤの異常なオーラは強烈に人を惹きつけるが、同時に強烈に人を委縮させる。そのため、普通の人間が彼に近づくことは難しい。けれど、そこは芸能事務所のスカウトマン。なかなかの胆力の持ち主だったようで、仲間を探して街中を歩いていたエリヤとユウに真っ正面から声をかけてきた。お二人、とは言っていたものの、ユウは自分に関してはエリヤのついでのような感覚で処理されているのだと思っていた。差し出された名刺も儀礼的に受け取るだけで「いつでも連絡お待ちしています」という話を真に受けたりはしなかった。
けれど、六人目の仲間かもしれない少女が、そのコスモスプロダクションに所属していると聞いてしまった、あの瞬間。行動力がないはずの自分の中で、珍しいほど大胆な選択肢が生まれた。それは責任感であり、なによりも罪悪感に背中を押されてのことだったのだと、今ならわかる。
「オマエやほかの連中のほうが、オレよりよっぽど自己犠牲が好きだろうが。そのうえオレと違って無策で、リカバリーも下手だ。危なっかしいって自覚を持ちやがれ」
要するに、そのうちユウがひとりで黙って事務所に突入するということがわかっていたから、エリヤは先手を打ってあんな無茶な真似をしたのだ。全て自分のせいだったと気づいてしまったユウは、お湯が沸いたやかんの如く騒ぎ立てていたことが急に恥ずかしくなり、謝罪も謝辞も告げられないまま黙り込む。
「大体、オマエは人のことをとやかく言える立場なのかよ。コスプロへの乗り込み、オレがやらなかったらオマエが先にやってただろうが」
「えっ」
必死にエリヤの後を追いかけていたユウが、びくっと肩を跳ね上げた。事実を言い当てられて混乱している間に、美しすぎる探偵が簡単すぎる推理を披露してくれる。
「ビュッフェで動画を見たときのオマエの態度。アイドルなんかに興味ねぇ癖に、コスプロの名前には反応してただろうが。あれで、オレも思い出した。数か月前、街中でおかしな奴に声を掛けられたこと。あのときは、オマエも名刺を貰ってたよな?」
――アイドルになりませんか? お二人の笑顔、とっても素敵です!
エリヤの異常なオーラは強烈に人を惹きつけるが、同時に強烈に人を委縮させる。そのため、普通の人間が彼に近づくことは難しい。けれど、そこは芸能事務所のスカウトマン。なかなかの胆力の持ち主だったようで、仲間を探して街中を歩いていたエリヤとユウに真っ正面から声をかけてきた。お二人、とは言っていたものの、ユウは自分に関してはエリヤのついでのような感覚で処理されているのだと思っていた。差し出された名刺も儀礼的に受け取るだけで「いつでも連絡お待ちしています」という話を真に受けたりはしなかった。
けれど、六人目の仲間かもしれない少女が、そのコスモスプロダクションに所属していると聞いてしまった、あの瞬間。行動力がないはずの自分の中で、珍しいほど大胆な選択肢が生まれた。それは責任感であり、なによりも罪悪感に背中を押されてのことだったのだと、今ならわかる。
「オマエやほかの連中のほうが、オレよりよっぽど自己犠牲が好きだろうが。そのうえオレと違って無策で、リカバリーも下手だ。危なっかしいって自覚を持ちやがれ」
要するに、そのうちユウがひとりで黙って事務所に突入するということがわかっていたから、エリヤは先手を打ってあんな無茶な真似をしたのだ。全て自分のせいだったと気づいてしまったユウは、お湯が沸いたやかんの如く騒ぎ立てていたことが急に恥ずかしくなり、謝罪も謝辞も告げられないまま黙り込む。
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