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第六章 いつもお先に、失礼します
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「マコト、もう大丈夫だって。さっき電話して様子を聞いてみたんだけど、ぐっすり眠ったおかげでだいぶ落ち着いたって言ってた」
「……そうかよ」
デバイスを通して聞くユウの声は、わかりやすく安堵の響きを帯びていた。よっぽどマコトのことを心配していたのだろう。どこまでも律儀で世話焼きな奴だと、エリヤはあきれる。
ゴンタの店でマコトが急に眠りに落ちたときは何事かと思ったが、タイシの「記憶をすべて思い出したことで疲弊した脳が休息を欲したのだろう」という言葉を、ひとまず信用することにした。異世界の存在も事情も知らないゴンタに危うく救急車を呼ばれそうになったものの、なんとか無事にゴンタの車でマコトを自宅まで送り届けた――という、きのうの一連の出来事を思い返したエリヤは、短いため息をつく。
「でも一応、今日は家で休んでもらうことにした。ただ、話したいことがあるみたいだから、あとで皆で通信をすることになってる。エリヤはゴンタさんの店に来るだろ? 駅には来てないみたいだけど、また遅刻か? 今、どこにいるんだ?」
「外。後で連絡する」
「え、ちょっと待っ――」
「いいんですか? ユウさんからの電話を、そんなに雑に切っちまって」
電話どころかデバイス自体の電源までオフにしたエリヤの手元を、隣に立つ長身の男がひょいとのぞき込む。
「悠長に話してる時間なんかねぇだろ。っつか、なんで相手がユウだってわかった」
「秘密主義のエリさんのアドレスを知っていて、なおかつエリさんがワンコールで電話に出る相手なんてユウさん以外いねぇでしょうよ。……お、もう着きますよ。ったく、なんでただの家政夫の俺なんざ駆り出すんだか」
「昔取った杵柄を存分に振るうチャンスだろうが。せいぜい懐かしめ」
「十五年もブランクがあるってこと、忘れてねぇですよね? ――まあ、エリさんの無茶に付き合うのも仕事のうちなんで、やれる限りのことはしますけども」
男の長いため息と、目的階への到着を知らせるチャイムが重なる。タイミングを同じくして、正面の扉が音を立てて左右に分かれた。
「……そうかよ」
デバイスを通して聞くユウの声は、わかりやすく安堵の響きを帯びていた。よっぽどマコトのことを心配していたのだろう。どこまでも律儀で世話焼きな奴だと、エリヤはあきれる。
ゴンタの店でマコトが急に眠りに落ちたときは何事かと思ったが、タイシの「記憶をすべて思い出したことで疲弊した脳が休息を欲したのだろう」という言葉を、ひとまず信用することにした。異世界の存在も事情も知らないゴンタに危うく救急車を呼ばれそうになったものの、なんとか無事にゴンタの車でマコトを自宅まで送り届けた――という、きのうの一連の出来事を思い返したエリヤは、短いため息をつく。
「でも一応、今日は家で休んでもらうことにした。ただ、話したいことがあるみたいだから、あとで皆で通信をすることになってる。エリヤはゴンタさんの店に来るだろ? 駅には来てないみたいだけど、また遅刻か? 今、どこにいるんだ?」
「外。後で連絡する」
「え、ちょっと待っ――」
「いいんですか? ユウさんからの電話を、そんなに雑に切っちまって」
電話どころかデバイス自体の電源までオフにしたエリヤの手元を、隣に立つ長身の男がひょいとのぞき込む。
「悠長に話してる時間なんかねぇだろ。っつか、なんで相手がユウだってわかった」
「秘密主義のエリさんのアドレスを知っていて、なおかつエリさんがワンコールで電話に出る相手なんてユウさん以外いねぇでしょうよ。……お、もう着きますよ。ったく、なんでただの家政夫の俺なんざ駆り出すんだか」
「昔取った杵柄を存分に振るうチャンスだろうが。せいぜい懐かしめ」
「十五年もブランクがあるってこと、忘れてねぇですよね? ――まあ、エリさんの無茶に付き合うのも仕事のうちなんで、やれる限りのことはしますけども」
男の長いため息と、目的階への到着を知らせるチャイムが重なる。タイミングを同じくして、正面の扉が音を立てて左右に分かれた。
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