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第四章 ケーキと優しさ、いただきます
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てっきりケーキを食べたいのだとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。小さくうなずいた子どもは、持っていた紙切れを広げてタイシに向けた。
「さっき、あっちできれいなお兄ちゃんたちにもらった」
それは、ゴンタの店のチラシだった。時代遅れもはなはだしい、手作り感満載のアナログさが逆に目を引く。エリヤとユウが今もせっせと配っているはずのそれには、ただいま絶賛予約受付中のクリスマスケーキが写っていた。そしてその上には、確かに人形のような菓子がちょこんと座っている。マジパンか、メレンゲか。それともシュガードールだっただろうか。スイーツ方面に詳しくないタイシには、はっきりと断定できない。
「ずっと前に、パパが買ってきてくれたケーキの上にいた子に似てる」
「ふむ」
どこにでもあるような人形なら「気のせいだ」とも「ほかの店のケーキと間違えている」などと言って子どもを追い払うこともできただろう。けれど、その飾りは実に特徴的だった。デフォルメされた丸いフォルムは素朴だが、グラデーションの美しい彩りが施されているため、和菓子のような品の良さがある。
「店の名前は覚えているか?」
「わかんない」
難しい名前をつけるのは、洋菓子店の常だ。ゴンタの店名もその部類だと、目の前の店の看板を見上げながら思う。子どもが一度聞いただけでは、まず覚えられないに違いない。
「だが、この人形のことは覚えていたのだな?」
「うん。だってかわいいし、うれしかったから」
「うれしい?」
ずっと硬い表情だった子どもの顔が、その言葉通り、うれしそうにほぐれる。「パパとママにそっくりな人形だったんだよ。お店の人が写真を見て、さささって作ってくれたんだって」
「……ふむ」
ケーキの味は決して悪くない。けれど、子どもにとってはその上にある砂糖菓子と、そのエピソードに対する思い入れのほうが強かったのだろう。ケーキを囲んだ家族団らんの様子を熱心に話し始める子どもを眺めながら、タイシは口の端をにっとつり上げた。
「さっき、あっちできれいなお兄ちゃんたちにもらった」
それは、ゴンタの店のチラシだった。時代遅れもはなはだしい、手作り感満載のアナログさが逆に目を引く。エリヤとユウが今もせっせと配っているはずのそれには、ただいま絶賛予約受付中のクリスマスケーキが写っていた。そしてその上には、確かに人形のような菓子がちょこんと座っている。マジパンか、メレンゲか。それともシュガードールだっただろうか。スイーツ方面に詳しくないタイシには、はっきりと断定できない。
「ずっと前に、パパが買ってきてくれたケーキの上にいた子に似てる」
「ふむ」
どこにでもあるような人形なら「気のせいだ」とも「ほかの店のケーキと間違えている」などと言って子どもを追い払うこともできただろう。けれど、その飾りは実に特徴的だった。デフォルメされた丸いフォルムは素朴だが、グラデーションの美しい彩りが施されているため、和菓子のような品の良さがある。
「店の名前は覚えているか?」
「わかんない」
難しい名前をつけるのは、洋菓子店の常だ。ゴンタの店名もその部類だと、目の前の店の看板を見上げながら思う。子どもが一度聞いただけでは、まず覚えられないに違いない。
「だが、この人形のことは覚えていたのだな?」
「うん。だってかわいいし、うれしかったから」
「うれしい?」
ずっと硬い表情だった子どもの顔が、その言葉通り、うれしそうにほぐれる。「パパとママにそっくりな人形だったんだよ。お店の人が写真を見て、さささって作ってくれたんだって」
「……ふむ」
ケーキの味は決して悪くない。けれど、子どもにとってはその上にある砂糖菓子と、そのエピソードに対する思い入れのほうが強かったのだろう。ケーキを囲んだ家族団らんの様子を熱心に話し始める子どもを眺めながら、タイシは口の端をにっとつり上げた。
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