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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話

フェアリーガーデン 新店舗オープン

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以前、「終わったらまたおいで」
そう言われていたのをスイは忘れていなかった。
スイが喜ぶお礼をくれるとそう言ったハーヴェイ。
何をくれるんだろう…そう思って室内に入ったのだが、 ガランとした部屋に目を見開いた。
ダンボールが積み重なり片付けられているのだ。

「………ハーヴェイさん、 引越しするの?」

「まぁね。散らかっててごめん、 座って」

ソファを指さされ、 指示通り座る。
小さなテーブル1つ置かれたそこにココアが置かれた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

片付けている為、 他に椅子がなくスイの隣に座ったハーウェイ。
肩がふれあい、 スイはドキリと胸を高鳴らせる。
チラッとハーヴェイを見ると、 綺麗な所作でココアを飲んでいる所だった。

「最近、 エルフの里もようやく落ち着いてきてね。食料問題はあるけどそれはどうする事も出来ないから……衰弱していたエルフの皆も少しずつだけど回復してきたし……」

話を聞きながらお茶請けに貰った蜂蜜ビスケットを出す。
へぇ、 これはスズメバチのだね?
そう言って1枚口に入れたハーヴェイは優しく笑った。
スイもつられて1枚。

「!!美味しい……」

濃厚でいてしつこくない蜂蜜とメープルシロップが混ざったようなビスケット。
中に蜜をこれでもかと練り込んでいるため口溶けが滑らかだ。

んー……と幸せに浸っているスイを見てハーヴェイはクスリと笑った。

「スイ」

「はい?」

「お礼、 受け取ってくれる?」

「あ、はい!なんですか?」

「俺」

「え?」

「だから、 俺」

頬杖をつき下からスイを覗き見るハーヴェイは極上の笑みを浮かべていた。
スイ、 パニック

「は?え?いや、 はぅあ!?」

「っ!」

笑いだしたハーヴェイは口元を手で抑えながら肩を震わせる。

「っ!はぁ……笑った」

「ハーヴェイさん!?冗談やめてくださいよ!!」

「冗談ではないんだけどね」

「は!?」

「フェアリーロードの奏者スイさん」

「………え?」

「フェアリーガーデンの一角を借りて道具屋を開きたいんだ。いつでも俺に会えるし、 エルフの回復薬を買えるよ」

ふわりと笑うハーヴェイ。
それはスイにとって物凄く魅力的な事だった。
回復魔法が使えないスイは回復薬しか使えない。
そんなスイの近くに回復量の高い物をいつでも買えるのだ。
なにより

「毎日ハーヴェイさんと一緒にいてウハウハ!?」

「っ!……そう…だね」

プルプル震えて笑うハーヴェイにスイは、 はふはふと妄想を膨らます。
しかし、 ピタリと止まった。

「あの、 なんでフェアリーロードやフェアリーガーデンを知ってるんですか?」

「なんでだと思う?」

「……わからない」

「そっか、 なら内緒」

「えー……どっちにしてもリーダーに聞かないと私の一存では決めれない」

「そうだよね。」

頷くが、 ハーヴェイはニコニコと笑っている。
まるでそれが決定事項とでも言うように。

「とりあえず、 リーダーのカガリさんに聞いてみる」

「うん、 一緒にフェアリーガーデンで働けるのを楽しみにしてるよ」

「一緒に……はぁはぁ」

スイ、 顔がヤバい。
そんなスイの口にビスケットを詰め込んだハーヴェイ。
一気に甘さが口に広がり、 別な意味で顔が緩んだ。

「あまぁーい、 しあわせぇぇ」









フェアリーガーデン

ハーヴェイの元から久々にクランハウスに戻ってきたスイ。
クールタイムがある為、 蜂さん移動は出来ないので自力での帰還である。

ガチャりと音を立てて開けた先には増えているペットがキャンキャンと泣き、 スイを見つけたもふもふが駆け寄ってきた。
仕切り越しにジャンプするもふもふを抱き上げてギュー

「ただいま!遅くなってごめんね」

「ひゃぁぁあん!!」

テンション高く鼻を噛むもふもふ、 通常運転である。

「あら、 おかえりー」

「セラさん!ただいまです!」

「クエストしてたんだって?今度は私とも行こうね」

「はい!!」

宿のカウンターに立つセラニーチェが、 フリフリとてを振りながら言った。
それに元気よく頷いた時、 カウンターの隣に別のカウンターがある事に気付く。
後ろには棚がズラリと並んでいて、 スイはおや?と首を傾げた。
1度もふもふを戻してセラニーチェが居るカウンターに近づくスイ。

「セラさん?このカウンターは……」

「ああ、 これ?これは……」

セラニーチェが言いかけた時、 スイ達クラメンの部屋がある方の扉が開いた。
ん?とそちらを見ると、 そこには大きなダンボールを運ぶカガリ。
その後ろには同じくダンボールを持つタクと

「ハーヴェイさん!?」

そう、 ハーヴェイの姿があったのだ。
おなじくダンボールを持つハーヴェイはスイに気付きニッコリと笑った。

「おー、 スイ!帰ってたかー」

カガリは空いているカウンターにダンボールをドン!と置いて腰に手を当てる。
その隣に同じくタクも置き伸びをした。

「え?え?なに?なんで!?」

思わず敬語も忘れるスイ。
そんなスイちゃんも素敵だー!!と両手を上げて叫ぶタクは放置されてカガリは答えた。

「え?お前のクエストクリア報酬でエルフの薬剤師か?ゲットしたんだろ?」

「!?………その話、 店舗出して良いかカガリさんに聞こうと思って急いで来たのですけど…」

「マジか、 決定事項かと思ってたわ。だって引越し荷物ごと来たしさ」

「はい!?」

驚きカウンター内に入って回復薬を並べるハーヴェイを見る。
ふふっと笑うハーヴェイに、 ああ、 なるほど、決定事項なのかと頷いた。

こうして、 フェアリーガーデンに新たなエルフの道具屋さんがオープン。
通常より回復量の高いエルフの回復薬を求めてフェアリーガーデンはより一層賑わいをみせるのだった。
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