Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう

文字の大きさ
上 下
182 / 214
第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話

穢れた龍 3

しおりを挟む
今までの攻撃は爪、 尻尾、 破壊光線、 そして魔法。
空を自由に飛び、 腐食した肉片が落ちるのを避けながらも龍の動きを見つめ続けたファーレンは龍の動きに規則性があることに気付いた。

爪や尻尾は通常攻撃。
破壊光線は1割ずつ削れる度に攻撃が繰り出されていた。
そして今回の魔法を撃ってから龍はスイたちの動きを見るかのように一切の攻撃を止める。

そして、 龍の口が開いた。
攻撃に備えて構えた4人だったが、

《…………なぜ》

「え?」

《…………………なぜ、 兄上ばかりなのだ。兄上の幼少期、 体が弱かったからみんな兄上を見るのが今の僕ならわかるけど……でも、 僕だって見て欲しかったのに。父上、 母上………兄上………もっともっと、 僕を見てよ……………僕を……見てよ!!》

まるで悲鳴の様な咆哮と共に響く青年の声。
身体中に悲しい、 寂しい、 虚しい、 なんでなんでなんで…………………………
ぐちゃぐちゃになった感情がスイ達に襲いかかる。
受け止めきれないその感情に、 自分達の気持ちも落ち着くことは無い。

バッドステータス、 混乱





龍は、 初めて触れたあの弟の感情を取り込んでいた。
今穢れた龍は、 あの弟なのだ。

触れ合いが極端に少なく、 親の愛を兄弟の愛を受けられずに育った哀れな青年はその心を成長させることなく疫病を蔓延させた。
ただ一心に、 見つめ続けられた兄が自分を見れば満たされるのではないか。
誰にも言えない気持ちを、 感情を抱えて反発していた。


「っ……………どうなってるの?」

頭を抑えて言うクリスティーナに、 ファーレンは唇を強く噛んだ。

「っ……ティアーズ!」

「………あ」

リィンが杖を地面に叩きつけ唱えたのは状態異常回復。
ただし、 50%の成功率である。
ファーレンとリィンが復活、 スイ号泣中。
泣き崩れるスイに抱き着き一緒に泣くクリスティーナ。

カオスである。


«グルルルルルル………»

龍が唸りを上げて4人を見ている。
ファーレンは盾を自律起動させて剣を握り龍を睨みつけた。
リィンはバリアを張り、 状態異常回復ティアーズのクールタイムが終わるのを待つ。
早く…早く……と願いながら。

そして、龍が動き出した。
体をくねらせ腐肉を飛び散り咆哮を上げながら、 ファーレンへと突進する。
盾の熊は手をパシィィンと打ち鳴らし、 ファーレンに代わって龍の突進を抑える。
その隙に龍の片目を抉るように剣を突きつけたファーレン。
かなり効いたのか悲鳴をあげて体をしならせた。

「うわっ!!」

剣が刺さったままのファーレンも一緒に振り回され腐肉が体に着く。
ジュっ……と音を立てて溶ける新しい装備に内心叫び声を上げるが、 これが以前と同じ物なら今より3倍のダメージはあっただろう。

「っ!あ………」

リィンはファーレンに回復を掛けようとする。
しかし、 ヒールでは追いつかないダメージに下唇を噛みながら唱える準備をした時だった。
ある呪文アイコンが点滅していた。

「っ!よし!ヒーリングライト!!」

「ありがとうございます!!」

仲間単体の体力中回復、 さらにリジェネと光の加護、 付与がつく。
ファーレンの体力が半分以上一気に回復して、 その後もジワジワと回復を続け体が発光している。
土壇場になってそれを覚えたリィン、 習得条件は住民250人の回復。
通常の中回復魔法は、 スキルでも派生でも習得出来るが中回復とリジェネと光の加護、 付与は特殊スキル扱いなのだろう。
今回の疫病イベントが無ければリィンのヒーリングライトの習得は無かっただろう。

だがしかし、 これによりタゲ取りしてしまったリィンに龍の視線が向く。

「やばっ!!」

ファーレンはそれに気付き剣を手放しジャンプして地面に着地、 そのままでは間に合わないと分かり挑発をしながら強く強く願った。

「…………真実の姿よ、 具現化せよ!!」

ファーレンの胸が光り、 それは全身を一気に包んだ。
そして光が収まった時、 ファーレンの姿は無く1匹の巨大な熊へと姿を変えている。
その巨体からは想像もつかないスピードでリィンを守るべく走るファーレンだが、 龍のターゲットは挑発したにも関わらずリィンから外れる事は無かった。

それ程までに、 リィンの使ったヒーリングライトの力は強く敵の気を引いてしまったのだ。

リィンは冷や汗を掻きながらバリアと光の加護を全員に掛け、 クールタイムが終わったティアーズを直ぐに唱える。

「リィンさん!やめて!!タゲ取ってる状態で魔法連発したら逸らせない!!」

ファーレンが必死に挑発を重ねがけしながら言うが、 リィンは冷や汗をかき青ざめた顔をしながらも笑っていた。
眼前に来る龍を見ながら杖を構えて、 笑っているのだ。

「…………あれ」

「…………………ん?」

スイとクリスティーナがティアーズによって状態異常を回復、 目を瞬かせた2人はリィンと龍の姿を捉える。


「え!?」

「まじか!!」

2人も直ぐに羽ばたき、 貝殻を浮かせてリィンの元に向かうがそれも間に合わないのはリィン本人が1番よくわかっていた。

「………あと、 お願いします!!」

杖を掲げてそう言うリィンは小さくある呪文を唱えた。
リィンの体が、杖の先端が光出す。
ベータ版の時も今回も忘れずリィンが習得した魔法。

「タダでなんか、 殺らせてあげませんから!」

そう叫んだ時に爆発が起きる。
僧侶が唯一習得出来る最大威力の攻撃魔法

「っ!……………………じば…………く?」

スイがそこに居たはずのリィンの姿を探すがどこにも居ない。
呆然と呟き、 フワフワと羽ばたいているだけだ。
それはクリスティーナも、 ファーレンも同じである。

龍はリィンの自爆に巻き込まれレッドゾーンまで体力ゲージを削っていた。










第3の街、 噴水広場。

光の柱を立てながらリィンは姿を現した。
そう、 死に戻りである。
はぁ……吐息を吐き出してステータスを見るとどれも数値が下がっていた。
死に戻りによるペナルティだ。

「なんどもやる魔法では無いですね」

やれやれ、 と息を吐き出したリィン。
この自爆は今回のように避けようの無いタゲ取りをしてしまった時用の最終手段として習得したものだった。
ベータ版含めて使用した回数3回。
爆発に巻き込まれる恐怖は最初の1回だけだった。
なぜなら、体が光った瞬間死に戻りしているからだ。

「……………最後までお付き合い出来なくて残念です。……頑張ってくださいね、 スイさん、 クリスティーナさん、 ファーレンくん」

青空を見ながら小さく微笑みそう言ったリィンは、 今まさに戦っている3人に思いを馳せた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

処理中です...