Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう

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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話

休憩と涙の旅立ち

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「…………これで、 終わりですよね」

ハーヴェイの自宅に戻りソファに沈むように座るリィン。
はぁ……と深く息を吐き出した。
そんなリィンの前にカチャリと音を立てて置かれたティーカップ。
ストロベリーティらしく甘い香りが漂ってくる。
手を辿り上を見ると微笑んでいるスイの姿。
その腕はやはりなかった。

「ありがとうございます…スイさん、 腕どうなさったんですか?」

疲れて聞いていなかったスイの腕を見ながら言った。

「あぁ、 疫病にかかった人の回復方法を探すのに精霊にあげましたー」

「????」

意味がわからないと首を傾げるリィンに、 
ハーヴェイはおやつを並べながら口を開いた。

「等価交換だよ。情報を聞き出す為の腕質」

「え?ん?腕質?」

『ふふっ言い方…まあ仕方なかったとは言えあの時は物凄ーくカッとなったわぁ』

「簡単に言うと、 治し方や昔の話する代わりに龍倒せ。 でも今は人が死んじゃうから先に治し方教えて!じゃあ、 腕置いてけ。そうしたら教えてあげる。必ず戻ってこい。 って感じ」

ファーレンが向かいに座って甘々ココアを飲みながら教えてくれる。

腕や足など部分欠損は教会に行って頼む事で欠損は治るが、 これはイベント中での出来事な為行っても治らない。
スイが今まで通りハープやヴァイオリンを引き続けるにはどうしても精霊から取り返さないといけないのだ。

補足だが教会で欠損を治す時、 寄付としてお金を取られる。
金額の指示はないが、 低いと何かのバッドステータスが着いた状態で腕が付けられ逆に寄付金が高いといい状態で欠損を治してくれるのだ。
教会、 金にガメツイ。

バッドステータス暗闇(視界が暗くなり見えない)や、帯電(常にバチバチとしていて髪が逆立ち残念な姿に。雷を常に纏っているので人との触れ合い時、 他人に継続ダメージを与える)など、 笑えないバッドステータスばかりである。
これがゲーム時間1週間続くのだ。この間はなにをしても治ることはない。
ログインしている時間を計測する為、 リアルにいる場合はカウントされない。
結果、 地獄である。


こうして、 次に向かう場所は巨兎族に決定。
そして龍討伐である。
その間の小休止をしているのだ。


「でも良かったですよね。 私たちに伝染らなくて。伝染っていたら動けませんでしたし!」

リィンが真っ平らな胸に手を当てて言う。クリスティーナとファーレンが頷く中、 スイは背もたれに体を預けたまま上を見た。
そしてその体勢のまま顔だけ隣にいるリィンに向ける。

「…………仮説ですよ?もしかしたら…昔から受けてる予防接種のどれかが効果を発揮したとかじゃないですか?」

「予防接種…ですか?」

ゲームを始める前等で体のデータを取る際に細胞レベルまで調べられる。
すなわち抗体なども調べられるのだ。
その何かが反応した可能性はないだろうか。

『ありえない事はなさそうね、 ここの運営の事だし。』

「だからプレイヤーは大丈夫だったのかなー」

ココアにたっぷりの生クリームを乗せて飲むスイはスプーンで生クリームを掬いあむっ!と食べた。






♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

『よーし!いくわよー!!』

「しくしくしくしくしくしくしくしくしく」

スイ達はエルフの里の入口に立っていた。
これからスイの腕を返してもらうのと龍討伐に向けて出発するのだ。
疫病の阻止をクリアしたスイ達は無事にハーヴェイから回復薬を購入できる事になり、 たんまりと購入する。
クリア報酬で纏まった金額も手に入れスイとファーレンは借金返済!!借金返済!!と喜んでいる。

そんなスイが泣いているのは、 龍討伐でエルフの里を出る事について。
そう、 ハーヴェイはついて行かないのだ。
これからはエルフのみんなや里の立て直しで走り回らなくてはいけない。
感謝して作り置きした回復薬の3分の2は売ってくれたが、 スイが頼んでも一緒に行くことはできなかった。
その為ハーヴェイの腕に自分の腕を絡めてしくしくしくと泣いているのだ。

『…………スイ、 もーいいでしょー?何分そうしてる気よー』

「一生でもいーいー」

『出来るわけないでしょー』

「ここに永住するー」

『…………ごめんね、 ハーヴェイさん』

「うん、 慣れたよ」

絡みついて離れないスイをそのままにちょっと呆れながらも優しく笑っているハーヴェイ。
リィンはまた頬を膨らましているのだ。

「無事龍退治終わったらまたおいでよ。 その時に……そうだな、 なんかスイが喜ぶような事考えておくよ」

「本当!?」

「うん」

「わかった!!龍すぐにぶっ飛ばしてくる!!」

うぉー!!と一気に力が入るスイに、 ファーレンは単純だなー……でも本当にぶっ飛ばしかねないからなぁ…と呟いた。


こうして駄々をこねるスイをなだめ透かして出発したのは、 エルフの里入口についてから30分後のことだった。

「……………スイさん」

「はい?」

「………………手」

「ん?」

リィンがギュッとスイの手を握ってきた。
お?とリィンを見る3人。

「私が手を握ってあげますから、 ハーヴェイさんは諦めましょう、 ね?」

「………………はぁーい」

可愛い見た目のリィンが初めて、 ほんのちょっとだけ、 ほんとーーにちょっとだけ男らしく見えた瞬間。
スイは目をパチパチと瞬きしてからクスリと笑い大人しくリィンの手をとったのだった。












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