Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう

文字の大きさ
上 下
173 / 214
第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話

ダークフェアリーライト……

しおりを挟む
「なんか、 釈然としねー」

『あの兄弟のこと?』

「そう! 兄にコンプレックスあったってことだろ? それでもさ、 兄を殺したいって思うもんかな」

「…………どうだろうね。 兄弟でも分かり合えない人だっているだろうし。実際のやりとりとか見てたわけじゃないから憶測しか浮かばない」

やったことはもちろん良くない。
何度も何度も兄に対して剣を向けているし、 封印された祠を壊してる。
剣を交える時、 何度も話をしてるだろう。
それでも、 周りの人々は憎めない、 嫌えないと言っていた。
悪い人と簡単に片付けていいのだろうか。

だが、 もう過ぎた話だ。
今更どうする事も出来ないのだ。

「………よく、 わかんねぇ」

『たぶん、 誰にもわからないのよ。当事者の2人だけが真実をしってるのでしょうね。まあ、 今はもう闇の中だけど』

「それよりも、 もう少しスピード上げない?暗くなってきた。モンスター出ても嫌だし」

『賛成』

「ハーヴェイさん、 大丈夫ですか?」

「…………え?なに?」

「スピード、上げようと思うんですけど…いいですか?」

「あぁ、大丈夫だよ。」

心ここに在らずのハーヴェイにスイは眉を寄せてから体調は大丈夫?と聞く。
困ったように笑うハーヴェイは大丈夫ではないかな……と小さく呟いた。

ハーヴェイは第2段階だった。
しかし、 限りなく第3段階に近かった。
現在第3段階になっているハーヴェイの体は悲鳴を上げ始めている。
押し寄せる体のだるさに、 内部からジワジワと出血が始まっているのだ。
痛みがない分、 動くことが出来る。
だが、 出来るからこそ体に負荷が掛かり出血を早めていた。
まだ体外に溢れ出てはいないが、 時間の問題だろう。
体外に出血したら、 ハーヴェイは第4段階になってしまう。

「…………急ごう」

ギュッと抱きしめる腕に力を入れてスピードを上げるスイ。

「…………………スイ、 苦しい……てか、痛い」

「ぎゃー!すいません!!」

力を入れた事でハーヴェイの肋骨に大ダメージを与えるスイ。
ミシミシと音がなってるのは気の所為ではないだろう。
そんな2人を白い目で見るクリスティーナ。

『イチャイチャしてる暇ないからね!』

「イチャイチャどころか絞め殺されそうだけど?」

「しません!そんなこと!!」

ハーヴェイはそんな会話になんとか混ざりながらも力の入らない自分を片腕で支えるスイに複雑な心境だった。





♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢








「おまたせ、 長」

既に隠しきれないほどにアザが広がっているハーヴェイに、 エイファンはおかえりと言いかけたまま固まる。

「ハーヴェイ!!伝染ってたのかい!?」

「まぁ、 それは今いいから」

「いい訳ないじゃろ!!誰か回復魔法出来るやつ!!」

エイファンはハーヴェイの腕を掴んだまま言うと、 ハーヴェイはか細い声で「伝染るぞ……」と言った。

「伝染らんわい!わたしゃ200年前に既に伝染ってるんじゃ。1度伝染ったらもう感染せんのじゃ。
それより、 お主らは大丈夫か伝染っとらんか?」

ハーヴェイを簡易の椅子に座らせながらスイ達を見る。
そういえば、 散々触れていたのに病気が伝染っている様子はない。
プレイヤーには伝染らないのだろうか。

「スイさーーーん!!」

「リィンさん!!………………なんか光ってません?」

「え?あ、 光ってま………すぅぅぅう!?何ですか!!その腕!?」

「えぇ?ああ今ないんですよ」

「何照れてるんです!?ちゃんと説明してください!一体どうしたのですか?痛みはないんですか?あ、 あと、 疫病の回復方法どうでした?私たちやっぱり第4段階以上は……」

『まって、 まっーて! ちゃんと話すからそんなに一気に聞いても答えられないわ。 それよりも……』


パタパタとエプロンドレスを靡かせながら走るリィンは、 何故か神々しく光り輝いていた。
微笑みながら帰りを喜ぶのもつかの間、 スイの腕がない!?と驚く。
いやぁ……と頭をかくスイにリィンは怒涛の質問をしようとするが、 クリスティーナが慌てて止めた。

流れる汗を腕で軽く拭いながら、 はぁ……と息を吐いたリィン。
そしてハーヴェイを見る。
クリスティーナが促し治療を頼んだのだ。
リィンは袖をめくったハーヴェイの腕をじっと見る。

「…………症状がかなり進行してますね。でも、 今なら大丈夫です!今治します!」

リィンは片手で掴んでいる杖を動かす。
ハート型に動かした杖の軌道はキラキラと輝き宙に浮かんでいる。




「«キラキラ煌めく夜空のお星様、 私の思いをお星様に乗せてあなたに届け!この思い!!ダークフェアリーライト!!»」





「「「『…………………………え?』」」」


ダークフェアリーライト!!
そう言ったリィンは杖で描いたハートをコツンと叩くと、 そのハートはふよふよとハーヴェイの胸に吸い込まれていく。
そして吸収された。
ハーヴェイの体はみるみるうちに回復していき、 病で失った体力以外全て元に戻った。
アザの跡すらない。

「リィンさん…………今のは?」

「ダークフェアリーライトです」

「……………あの、 夜空のお星様って……」

「ダークフェアリーライトです、 スイさん」

「…………恥ずかしく、 ない?」

「「『(聞いたーーーーーー!!!)』」」

クリスティーナ、 ファーレン、 ハーヴェイの心がひとつに重なる。
恐る恐る聞いたスイに、リィンは満面の笑みを浮かべて答える。

「50人程癒し続けていた頃には、 わたしの羞恥心は破壊されました。 えぇ、 ものの見事に粉々です」

笑顔が、 よけいに、 こわい……………

「お………お疲れ様…………です」

「スイさん」

「は、はい!」

「全て終わったら、 この粉々に砕けた私の心を癒してくださいね」

「え?」

「………………ね?」

「は!はい!!」

凄んで言うリィンにスイは姿勢を正しながら滑舌よく返事を返した。
リィンは満足そうに笑うが、 その後ろでクリスティーナとファーレンが手を取り合って震えている。
そんな2人をリィンはにっっっっこりと見たのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

左遷でしたら喜んで! 王宮魔術師の第二の人生はのんびり、もふもふ、ときどきキノコ?

みずうし
ファンタジー
旧題:左遷でしたら喜んで! 〜首席魔術師、念願の辺境スローライフを目指す〜 第二回次世代ファンタジーカップ大賞受賞作  王宮魔術師。それは魔術師界のトップに位置し、互いを蹴落とし合い高みを目指すエリート集団である。  その首席魔術師でありながら、利益重視な上層部にうんざりしていた主人公は、ついに訳あって上司に頭突きをかまし、左遷されることになってしまう。  ......が、金や出世に別に興味もない主人公にとっては逆にありがたく、喜んで辺境に向かうことにした。  左遷?それって辺境でのんびり研究し放題ってことですよね?  これはそんな左遷魔術師が、辺境の村で変わり者を介護したり、魔術を極めたり、もふもふと戯れたり、弟子を取ったり、エルフと交流したりする話。

処理中です...