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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話

合流

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漸く準備が整った2人は、街の入口に立っていた。

「ハンカチ、テッシュは持ちましたか?おやつは500円までバナナはお弁当に含まれますからね」

「………………何いってんだよ」

メガネをクイッと上げて言うスイに、 呆れながらファーレンが答えた。
うふっと笑うスイは、

「この格好なら言ってみたいじゃない?先生っぽいでしょ?」

「…………どこが」

ふいっと視線を逸らして答えるファーレンをスイは覗き込むと、顔を押し返され距離を取られた。
むにゅっと頬を潰され唇が突き出されたまま睨み付ける事10秒。

「ス、スイさん……………?」

「あ、リィンさん!!」

顔を赤らめてこっちを見てるのはリィンだった。
脱兎のごとく走りよりスイの両手を掴むリィンは顔を真っ赤にしている。

「なっ!なんて格好をしているんですか!!」

「え?シャツとスカートですけど…」

「む!胸元開きすぎです!!お腹も!冷えちゃいますよ!!あ、あ、あ、足だって!!」

「…………おちついてー」

リィンの慌てようは凄かった。
パタパタと手を動かし、ストレージからカーディガンを取り出してスイに着せようとしていた。
ゲームでお腹は冷えません。


「………あ、リィンさんも服変わってますね可愛い」

「え!?…………あ、ありがとうございます」

ピタッと手を止めてモジモジとお礼を言うリィン。
水色のエプロンドレスに、同じ色のケープには真っ白なフリルがふんだんに使われていた。
リボンがついている編み上げブーツは膝下の丈で生地が柔らかく動きやすい。
低めのヒールも歩きやすいだろう。
髪はエメラルドグリーンのリボンでひとつに纏めていて、 スイとお揃いのヘアアクセサリーはケープを結ぶ紐のチャームになっていた。

実はスイの色に合わせたエメラルドグリーンのリボンをチョイスしているのはリィンだけの秘密である。

今回の巨兎族訪問、当初は二人で行く予定であった。
しかし、フィールドの敵が強くなっている為レベリング中のリィン、 そしてクリスティーナに声をかけたのだ。
やはり、 回復と攻撃職が欲しい。
2人は笑顔で了承してこの街の入口で待ち合わせをする事にしたのだった。

結局動きにくいからとカーディガンをリィンに返し、 それを渋々しまうリィンは息を吐き出した。

「スイさん、 もう少し危機感持ちましょう。 いくらゲームでも危ないですよ」

「…………ダメですかね?」

『心配しすぎよ! リィンちゃーん!!お待たせみんな!!』

「「「ぶっふぉ!!!」」」

どう?私も装備変えてみたの!
いつも聞く声に振り向き、 うふっ!と笑うクリスティーナを見た3人は仲良く吹き出した。
リィンまで珍しく吹いている。

『スイったらセクシーハレンチだったから、私も着たくなっちゃってー』

クネクネする度にマキシ丈のレーススカートがふわふわ揺れる。



クリスティーナが新しく変えた装備はこうだ。

ムキムキの胸を覆う淡いピンクのチューブトップ。
その上から胸のアンダー位置まで、 白のレースのトップスが筋肉で出来た小さなお胸を優しく包んでいる。
キラッキラのムキムキ腹筋をこれでもかと見せつけていて、 その下にはチューブトップと同じくピンク色の一部丈パンツがキュッと引き締まったお尻を包んでいる。
おしりも綺麗に引き締まっていて、一部丈パンツ姿を綺麗に見せていた。
おしりの下の部分がパンツから見えているのがチャーミングらしい。

その上からマキシ丈のスカートを履いている。
腰紐で結ぶタイプのスカートらしく、 横から紐が垂れ下がっているのだが先には蝶々のアクセサリーが着いていてキュートだ。
後ろは無地の白だが、 前は蝶々をモチーフにした白レースでふわふわと風に靡く。
このスカートは、 人魚姿になった時消えないで尻尾の周りにふわふわと広がるらしくクリスティーナのお気に入りだ。

靴はシャラシャラと音が鳴るたくさんの飾りがついた原色のピンク色のサンダルで、 真っ赤な髪は高い位置でポニーテールにしてクリーム色のターバンをつけている。



『洋風アラビアンな感じかしら!やっぱり乙女はピンク色かなって思ったの』

くるりと回って見せる視覚の暴力に耐性のあまりない周りのプレイヤーがバタバタと意識を刈り取られている。 合掌。

『…………あら?私の魅力に当てられちゃったのかしら?可愛いって罪よねぇ』

「クリスティーナ……あのさ?」

『なぁにー?』

ご機嫌なクリスティーナはニコニコニコニコと笑っている。
いたくお気に入りのようで、 スイはそれ以上何も言えなかった。

「うん、似合うよ(棒読み)」

『いゃぁん!ありがとう!知ってる♡』

早くタクさんに見せたいわぁ!と恋する化け物人魚はハート乱舞している
そんなクリスティーナをファーレンが

「…………………ナズナちゃんとは違った意味で機能停止しそう」

「ファーレンっ!シッ!!」

「ダメですよファーレンくん!聞こえちゃいます!!」

ボソッと言ったファーレンに、 スイとリィンが後ろに引っ張って注意した。

服装だけならAFO世界で違和感なく可愛いのだ。
着ている人物がムキムキっとした筋肉女子なだけで。
なんだか筋肉が更に増した気がするのは気の所為だろうか。
リアルのあかねが着たら物凄く可愛いだろう。
着る人の外見でこんなに変わるのか、 とクリスティーナを見てしみじみと思ったスイだった。


『ねぇスイ!!タクさんが私を見て襲ってきたらどうしよう!!全然問題ないんだけどね、 やっぱり心の準備はいるじゃない? 部屋に薔薇の花かざろうかな? いい匂いのアロマとか用意してみて!薄暗い部屋の中で2人は…………きゃーーー!!
あ!!薔薇の花弁を浮かべたお風呂とかもいい!!………クリスティーナ、 君のこの筋肉から目が離せないよ………とか言われちゃって!!いやぁぁぁん!!破廉恥ぃぃ!!』

「…………あんたの頭の中を見てみたいわ。」

「日本語だよな……………」

「クリスティーナさんが破廉恥です」

「てか、1番に筋肉見られて嬉しいんかあんたは」


3人はむしろタクの身の危険を感じたのだった。









♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

「よし、行くか」

クリスティーナが落ち着いた所でファーレンが言うと、 全員が頷き歩き出す。
スイは隣にいるリィンを見た。
ふわふわとした可愛い服を着て、 風が吹いたらちょっと声を上げながらスカートを抑える。
そんなスイよりもよっぽど女子力の高いこのリィンが男なんて、 見ても見ても信じられない。
スイの視線に気づいて顔を上げたリィンは笑いながら首を傾げた。

「…………………まるっきり美少女」

「え?」

確かに胸の丸みはないが、 言われないと男だなんて本当にわからない
それくらい完璧な美少女を中の人はしているのだ。

チカさんすげぇ……
いや、チカさん結構乙女さんだったしな

そう思いながらリィンをガン見するスイに、 クリスティーナが

『私も見てぇー!』

とフリフリ腰を振った。
そんな3人のちょっと後ろを歩くファーレンは、 小さな丸薬を3つ手のひらに乗せて見ていた。
実はこれ、 今回ログインした際に運営から渡されたものであった。










真っ白な病室で伸びをした少年は、 ベッド柵を掴みながら上半身を起こした。
最近はとても調子が良く何年ぶりだろう退院が決まったのだ。
体力もだいぶ着き、 感染症の心配もかなり無くなったと医師から言われ嬉しさで泣きじゃくったのは数日前のこと。
最後の検査を明後日に控え、 問題がなかったら退院である。
両親や妹も泣きながら喜んでくれた。

そしてもう1つ、 体力や感染症などの理由で出来なかった義足の話をされたのだ。
これから形を作り作成、 リハビリにまた沢山の時間を要するが自分で歩くことが出来る希望を貰った。

「…………頑張ればいい事もあるんだな」

ゲームでも仲間と打ち解けれるようになってきた。
少年にとってはいい事づくめである。
嬉しい嬉しい、 そう思いながらオーバーテーブルに置かれたギアを被り横になった。

「よし、今日もゲームしよ。 巨兎族に行くんだよなぁ。俺どうしても弱いから何とか強くなりたいなぁ」




ゲートオープン






意識が刈り取られ、 浮遊感に身を委ねた少年はファーレンとしてゲームに降り立つ。
第3の街の噴水広場に行くはずだった。

「……………え?」

しかし、目を開けたファーレンは真っ暗な室内にいる。
ログイン失敗した!? と慌てたが直ぐに運営が現れたのだ。

«やぁ、プレイヤーネームファーレン。いきなりここに呼び出してごめんね»

ゲームマスターが現れた!!

「えぇ!?なんで………」

«うんうんびっくりするよねわかるよー»

パッ!と椅子を出してファーレンを座るように促したゲームマスターは、 重要な話があって呼んだんだ、 と話し出した。

«今回呼んだのはね、 前回公式イベントと一緒に説明したギアの体の数値を計測してゲームに反映される話の事で呼んだんだよ。…………簡単に言うとね、 手術などで体に医療器具が組み込まれている人はその症状に合わせてだけど、 その医療器具が体の1部としてデータに反映されてたんだ。»

「…………そう、 なんですか。なんでそれを俺に?」

じゃあ、スイってかなり手術とかしてるってこと?
と一瞬頭をよぎったが、 何も言わず話を促すファーレン。

«うん、 全プレイヤーの数値を調べ直したら君は逆だったみたいだからね、 その救済処置できたんだ。»

「…………え?」

«うーん、ごめんね先に謝る。………君は足が無いよね?数値的にそうでないと合わないんだ。»

「…………………………………」

急に言われた言葉にファーレンは眉を寄せながらも、 時間を掛けて頷いた。

«うん、本当にごめん。 ………でね、 ギアが数値測定した時に足の測定があまりにも低くてステータスに反映されていないんだ。レベリングからなる数値と、 防具なんかの数値しか君には脚力が無いんだよ。 実は盾職の君がこの数値でやってたのが運営一同びっくりしたもんさ!»

「俺が弾かれてたのって……」

«うん、 踏ん張り効かなかったってこと!»

それでこれ! と3粒の丸薬を差し出された。
それを受け取ったファーレンは運営をじっと見る。

«これは脚力強化の丸薬。 通常と同じくらいの脚力まで上げてくれるからこれを飲んで。 ゲーム始まったらストレージに入るからね»

「…………わかりました」

«ぜひ、 ゲームを楽しんで欲しい。 その足で地面を踏み締めて風をきって走って欲しい。…………………身体的なハンデがある人が自由に動ける、 これもこのゲームのコンセプトでもあったんだ。 それなのに一番大事な体の数値を把握していないのは物凄く恥ずかしく、 申し訳ない事なんだけど。……………楽しんでください、ファーレンくん»

「………あり…がとうござい…ます」

俯き小さく礼を述べたファーレンは目が熱くなっている。
ジワジワと溢れそうな涙をグッ!と拭ってゲームマスターに向けて笑った。







こうして脚力強化の丸薬を手に入れたファーレンは、前で話している女子3人(笑)を見てから口に入れた。

「っっ!にっが!!」

「「『ん?』」」

口を抑えてしゃがみこむファーレンに、 クリスティーナがあらあらあら! と近づきバナナミルクを渡してくれた。
すぐにそれを飲み、 はぁ……と息を吐き出す。

「なんか食べたの?」

「まぁ……それよりこれなに?」

『え? バナナミルク?』

「バナナミルクって言うのか……美味いな!」

『あらやだ!ちょっとキュンとしちゃったじゃない!元気っ子もいいわね!1番はタクさんだけど♡』

鼻息荒く言うクリスティーナに、 笑いながらちょっと離れたファーレン。
スイとリィンは苦笑だ。

「さぁ、行きましょうか」

「ああ」

リィンの言葉に立ち上がり歩き出したファーレンは目を見開いた。
足が軽い、 疲れない。 羽のような感じだ。

「……………俺、今までこんなに脚力無かったのか……」

困惑と感動をごちゃ混ぜにしながら、 前を歩く3人に向かって走りよった。



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