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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話
ミニイベント終了後
しおりを挟む「……………はぁ」
ギアを外した翠が起き上がり伸びをした後また倒れ込んだ。
柔らかな布団が翠の体を包み込んで気持ちよく目を瞑った。
「つかれたぁ、それにしてもまさかの告白イベント!しかも玉砕!!」
まじかー…わかるけど恋愛って人を変えるんだなぁ…
人じゃないけど。
モグラだけど。
起き上がりパソコンを立ち上げる。
すると今回のミニイベントについて掲示板が賑わっていた。
イベント内容や温泉、モグラについてや今までいなかった巨兎族という種族について熱く語られていた。
また、温泉が直ぐに使えない不満も書かれている。
それに目を通していたら、ある文章を見つけた。
掲示板に書かれたイベントを見ていた人の投稿、
第3陣の奏者なんだけど、実際にしてみてわかった。
完全後衛型の楽器は持てないしあんな動きも出来ない。
なんか裏技とかあるわけ?チートなの?
なんかあるなら知りたい。
同じく奏者。持てないから比較的軽いのにしたけどバフ効果が薄いってパーティが冷たい。
解決策教えろください。
奏者してる。
やっぱり使えねーって奏者に対してのプレイヤーが辛辣。
ジョブチェンジしようかな
奏者です。
わたしも完全後衛型。私は守られながらだけど、ちゃんとバフはかかってる。
意外と使い方しだいかも。
でも改善策は欲しい。ランカーのスイさんスキルとかなに取ってるのか知りたいな
だれもが不思議に思っていたスイの楽器を持ち移動出来る力。
そして楽器を使った立ち回りについて様々な考えや希望が書かれている。
肯定的なのや、否定的なもの色々あったが、こうしてしっかりとチートなのか、との疑問を掲示板でぶつけているのは初めてだ。
やれチートだ
やれ運営と繋がってるだ
そんな批判的な中にも擁護した者もいたが、信憑性は一切なく言い負かされている。
結局信憑性がなく憶測だけが飛び交う会話を見て翠は頭を抱え、静かにシャットダウンした。
「……………こっちが聞きたいわ」
もー!!甘いの食べたい!!
全く感知していない場所で自分の話をされるモヤモヤに翠は立ち上がりあかねに電話をかけた。
『はいはーい!あなたの愛しのあかねちゃんでーす』
ワンコールで出たあかねに、翠は噛み付くように言った。
「甘いの!!食べたいの!!」
『へあ?』
受話器越しに間抜けな声が返ってくるが翠はふんすふんすと駅前に集合!今から5分後に!!
じゃあね!!
そう言って一方的に切った翠は準備を始め、あかねは切られツーツーツーとなる携帯を見つめながら
「えぇ?急だな…しかも5分後とか無理でしょ。飛ぶ気?今は飛べませんよー」
そう言いながらも買ったばかりのワンピースを取り出し着たかったんだよねーと鏡の前で服を体に当てていた。
♢♢♢♢♢♢
「はい、おまたせー!」
「あかねー!!甘いの食べよ!あと、私の愛しのあかねってなんだ」
「えぇ!今それを言うの?」
遅い!地団駄を踏んで言うあかね。それを冷静に見る翠にあかねはもっと反応してよ!!と頬を膨らませた。
そして2人は歩きだす。
ふんわりワンピース、腰の横に大きなリボンを付けたあかねが女優が使う様な真っ赤なつば広帽を被っている。
「どう?今日は女優風!」
「うん、可愛い可愛い」
「えぇ!?ちゃんと見てないよね?心こもってないんですけどぉ!」
下唇を突き出して言うあかねに、翠は思わず吹き出した。
「ブサイクな顔してる」
「!!失念な!かみました!!」
「知ってる!!」
お互いキリッと見つめ合って言ったあと、笑いだした。
「今日の翠も可愛いね」
「はいはい、ありがと」
「本心なのにー」
歩き出した2人はケーキバイキングに向かっている。ちょうどメニューの入れ替え時期で新作がでているのだ。
黒のパンプスと、白のスニーカーサンダルを履いて風を切るようにスタスタと歩いていた。
あかねはちらっと翠を見る。
春らしいピンクのマキシスカートに、エンジ色で肩が出ているトップス。
薄いとはいえ手首までくる長袖が暑そうだ。
しかし、こんな服装の時翠の体に不具合が起きているのをあかねは知っていた。
何食わぬ顔であかねは口を開く。
「ねえ翠?痛いの?」
「ん?うーんちょっとね。夜雨降るかもよ」
「マジか!傘もってきてないのにー」
冷えると事故の後遺症が痛み出す。
暖かくても冷房はダメだし常にカーディガンは持ち歩いている翠。
今日みたいに暖かい日なのに体を覆う服を着ている時は余計に具合が良くなかった。
しかし、翠自身痛みがあるだけで元気なので、万が一の痛み止めを持ち歩くが普段通りにやりたいことをやっている。
「次病院いつだっけ?」
「明日だよー、だから明日は有給とった」
「あら明日か。休みいいなー」
「いくないよー、半日以上は潰れるんだから!」
ケーキバイキングに到着するまで2人は他愛もない話に花を咲かせていた。
「はぁぁぁぁぁああん!おーいしぃ、ほっぺたおちるぅぅ」
「口に入れたら無くなるよぉぉ!たまらなぁぁい!」
「次はこれ作ろうかなぁ、色々試さなきゃ!あぁ…タクさん食べてくれるかなぁ」
「あかねはタクさんの事ほんとに好きだよね」
「理想的!好みど真ん中!!」
ケーキバイキングに到着して、テーブルに案内されてすぐに2人は動き出した。
キラキラ光っているようなケーキを前に2人は胸の前で手を組み、更には拝んでから選んでお皿に置いていく。
新作のトロトロプリンが2種類あり、翠とあかねはそれぞれ1つずつ取る。
他にあかねはイチゴのミルフィーユ、翠は抹茶ムースを取りテーブルについた。
2人でプリンを1口、幸せの悲鳴をあげる。
そしてタクの話になり立ち上がり力説するあかねはフォークを高く掲げる。
それを見ていた翠はテーブルに肘をつき頬杖。
頬がむにゅりと歪んだまま、とりあえず座ったら?と言った。
「翠は?好きな人………は、居ないかぁ」
「いないねぇ、誰かいないかなぁ…」
「お、恋愛には前向き!」
「婚期逃してたまるかぁ!!」
2人は相変わらずだった。
全力で今を楽しんでいる。
「ねぇ、ミニイベント終わったし次は何する予定?」
「あぁ、堕天使のクエストの続きしようかなって思ってるよ。あかねは?」
「あー、なるほど。あたしは第3の街の名物とか食材の情報収集するつもり」
「あ、たのしみ」
「うん、作りたいのあるからね!がんばるよ!!」
パクリとスプーンを口に入れてあかねを見る。
それにあかねは首を傾げて自分のプリンを翠の口元に持っていった
あむっ
「…………うまっ!」
「でしょ!!」
じゃなくて。
「作りたいのって材料あるかわかるの?」
「あぁ、高い確率であると思うんだよね。」
「…ふぅん?ちなみに、何を作るの?」
「お餅料理だよ!海苔巻きとか色々作りたいなぁ。海苔から探さないとだけど。」
「餅、あるのかな?」
翠が首をかしげると、あかねはにっこりと笑った。
「たぶんあるよ!だって街の名前覚えてる?」
「えっと……ホワイトライスケーキ、だっけ?」
「そう!そのホワイトライスケーキってさ、白いお餅って意味だよ」
もう一口、今度はイチゴのミルフィーユを翠の口に入れながら言ったら、翠は口をモゴモゴとさせながらお餅!?とたいそう驚いたのだった。
「…………まじか、盲点」
「マジマジおおまじ。それ見た時からお餅レパートリーがわんさかよ。」
「ふっ…楽しみにしてる」
「まかせといて!」
2人でまったりのんびりお茶を飲みケーキを食べて楽しむ休日。
幸せだなーって翠は胸を暖かくさせた。
「あ、公式イベントまた始まるね。またペット習得あるのかな、次もあったら迷うなぁ」
「あー、言ってたねそんなこと。どんなイベントなんだろ」
「さぁ、わかんないけど……………内容的にろくなもんじゃないとあたしは思うわけよ、翠さん」
2人は初めてのイベント雪合戦を思い出していた。
確かに通常思いつかないイベントだった為次の予想がしづらい。
しかし、プレイヤー間では既にイベント予想がされていて掲示板が賑わっている。
どうやらサバイバルがダントツで予想されているようだが、好みが含まれているのがよくわかる。
結局は運営からの情報待ちである。
「まぁ、全力でやるだけだよね」
「そうよねー」
うんうんと頷くあかねはジュルジュルと音を立ててアイスレモンティーを飲み干した。
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