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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話

秘湯の発見、ただし水 4

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カガリ達が入浴を終えレジャーシートに戻ってきた。
寒さに震えるカガリ達を見かねてクリスティーナが暖かいコーヒーを、ファーレンにはココアを入れている時、リィンが立ち上がり入浴に向かおうとした。
そうしたら?アレイスターも立ち上がり、リィンに向かってにっこり笑い、

「時間短縮に一緒に行きましょ!あたし小屋の前で待ってるわ」

「でも……いいんですか?」
 
「もちろんよ」

いつもと同じく綺麗に笑うアレイスターに、リィンは頷き2人で向かっていった。

「…………………大丈夫かな」

「なにがだ?」

「なにがって、リィンさんよ!リィンさん!!アレイスターさんあれでも男性よー?」

2人の背中を見ながらクリスティーナが言うと、その心配はクリスティーナだけではなかった。
スイを含めて何人かのクラメン達もリィンとアレイスターがどんどん小さくなって行くのを見守る。

「や、やっぱり止めた方が良かったですかね!?」

ファーレンがカガリを見て言うと、眉間に皺を寄せながらブラックコーヒーを飲むカガリが、


「……大丈夫だろ」

と答え、隣にいたグレンがサッとミルクと砂糖を渡してきた。

「無理するな」

「む!無理してねぇ!!」

「眉間に皺よってるぞ」

「……………………………………」

グレンはカガリを見ないで自分のコーヒーを口にしながら言う。
ちなみに、ブラックだ。
小さく舌打ちしながらそれを受け取りコーヒーに入れ混ぜる。
ほどよい甘さになったそれを1口口にすると体を温める優しい味わいのコーヒーへと変わっていた。

「……………サンキュ」

「いいさ」



小屋へと向かう道中での事。
花が咲き乱れる綺麗な湖畔、風が吹いてリィンの髪を揺らした。
ソッと手で抑えた時に触れた、鈴が着いたチョーカーを軽く握って引っ張るがチョーカーはビクともしなかった。

「リィンちゃん、小屋あれよね?」

「あ、そうですね!」

「………………リィンちゃん、アタシも一緒に入ってもいいかしら?」

「……………え?」

にっこり笑って言ったアレイスターに、最初意味がわからなかった。
リィンはポカンとアレイスターを見上げ、言葉の意味を噛み砕き理解して、

「…………一緒に、ですか?」

「ええ」

聞き返した。
一緒に入るってことは、服を脱ぐってことで
それはこの体をアレイスターさんに見られるって事で……
でも、それはさすがに……
いくらアレイスターさんだって

俯きリィンが考え込んでいる間に、アレイスターはリィンの手を繋ぎサクサクと小屋へと歩く。
そしてそのまま中へと入り、おもむろに服を脱ぎ出した。

「まだ暖かいから寒さは感じないわねぇ、みんなの様子を見る限りはかなり冷たいのかしら」

いやーねー。といいリィンを見ると、リィンは目を見開きアレイスターを見ていた。

「あら、さすがにそんなに見られたら恥ずかしいわ」

「す!すみません!!……あの、アレイスターさん?」

「なぁに?」

パッとアレイスターから顔を背けるが、その後チラッとアレイスターを見て、


「………………アレイスターさん、もしかして」

「リィンちゃんがみんなに言わなくて、そうね、多分カガリちゃんが知っている事を、アタシも知っているのかしら?ってこと?」

うふふと笑ってリィンを見たアレイスターに、もう気付いているんだ、とリィンは苦笑した。

「セラさんとグレンさんも、知っています」

「あら!それは知らなかったわ!」


弓を引く為か、意外と筋肉のある腕が動き、頬に手を当てる。
服がない為アレイスターの細い肢体に均等に着いた筋肉のしなやかさをこれでもかと見せつける。

「この腕がちょっと恥ずかしのよねぇ」

「…………とても素敵ですよ」

「あら!ありがとう!リィンちゃんも素敵よ」

ハート乱舞させながら言うアレイスターは残りの服を脱ぎ、置いてあるバスタオルで体を隠してからリィンを見た。

「さぁ、行きましょ……あら、リィンちゃん大丈夫よね?アタシったらちゃんと聞く前に脱いじゃったわ」

「………………はい」

困ったように笑ってから、スイとお揃いのヘアアクセサリーを外してカゴに入れた。
ふわふわの服を脱いだリィンの髪をアレイスターがまとめあげる。
温泉に髪をつけるのはマナー違反なのよ、と言いながら

「そう、なんですか。知りませんでした」

「まぁ、知らないわよね」

ふふっと笑ったアレイスターが見たリィンには、女性特有の柔らかさはなかった。
ふわふわと靡く髪や可愛い顔はそのままなのに、小柄だが、男性の体をしているそんなリィンのアンバランスに違和感がある。
ちゃぷん、と水音を鳴らしながら冷たい水に体を沈ませると、冷たさに眉を寄せる。

「…………なにも聞かないんですか?」

「うん?わたしにとっては男だろうが女だろうがリィンちゃんはリィンちゃんよ。もちろん、リィンちゃんが話したいなら聞くわよ、いくらでもね…………冷たいわね」

うふっと笑ったアレイスターに、リィンは水に水滴が落ちる様子を黙って見ていた。



「……………実は、ですね」

「なぁに?」

普段の対応と全然変わらないアレイスターに、リィンは安心しながら口を開いた。
これは、ベータ時代の話だ。



ベータテスターは限定されたアイテムや武器など引き継ぎと共にアバターも引き継がれる。
その為、リィンはベータの時から今の姿だった。


「…………キャラメイクの時と今の姿は違うんです。本当の初期はちゃんと見た目も男性アバターだったんです。」

「え!?そうだったの?」

「………………はい。」









「どうしようかな、茶色の髪ならリアルと一緒だしどうせなら絶対しないピンクとかにしようかな」

ガッツリ短めのピンク色な髪型。
体型はほぼリアルのままで回復特化にしたリィンは、その時名前をチャームと付けていた。

回復職、僧侶は当時から引っ張りだこだった。
協力ゲームを推しているだけあり、それぞれが力を合わせなくては進めないゲームで、チャームは初日からあるパーティに出会い攻略する事にした。
あいにくチャームの回復量もそれなりにあり周りをよく見るチャームの回復の仕方は魔力の消費を抑えた立ち回りだった。
その為、連戦でもチャームはしっかりと回復を続けていた。
初期にしては、チャームはほかの僧侶よりも1つ頭の飛び抜けた上手さを見せていただろう。
しかし、当時そこにいたパーティ達はチャームの回復が少ない、もっとガツガツ回復しろよ!と最初は控えめに、だが、変わらないチャームに次第に不満は募り厳しい言い方へと変わっていく。
後半持たないよ、何度も言ったのにパーティたちの希望は変わらずであった。

そして、パーティメンバーは他に僧侶を探し出してチャームを追い出したのだ。

協力ゲームであるAnotherfantasiaに、僧侶が放り出されて続けれるはずがない。
チャームは途方に暮れゲームを辞めることも考えた。
そんな時だった。


「何してんだ?お?僧侶じゃねぇか」

「……………え?」

カガリ、セラニーチェ、グレンに出会う。
こうして初期フェアリーロードが集うのだった。








「……………流石のオネエさんもびっくりだわぁ、それで?どうなったの?」








「あー、いるよな超火力が神ってやつ。協力ゲー推しってわすれてんじゃねーの?」

「回復いないと回らないのにな」

「正直回復は複数いると助かるわよね」

「まぁ、前衛火力欲しいけどな」

「確かに、今は壁に回復に魔法ってバランス悪いからな」

「ねぇ、そんなやつ忘れてうちで遊びましょうよ!まだゲーム始まって5日よ?諦めるなんて勿体ないじゃない!ね?」

「そう、ですね…私はチャームです、よろしくお願いします」


こうして、アンバランスなメンバーでのゲームが始まった。
盾がしっかりタゲをとれず後ろに敵が行き全滅
火力の高いグレンが火属性ばかりで、火耐性のある敵には無力
セラニーチェとチャームが回復について喧嘩
など、今でこそ有り得ないゲーム初期ならではの喧嘩をしながらもチャーム達は楽しくゲームをこなしていた。



そんな時だった。


レイドボス戦でチャームはレアドロップを引く。
それは鈴が付いたチョーカーだった。


僧侶限定アイテム[癒しの鈴]
僧侶限定アイテム、回復量の増加(大)クールタイムの減少(-15秒)固定キャラ[リィン]

その時のアイテムの説明はここまで見ることが出来た。
後に、このアイテムを使用後に鑑定屋で見てもらった結果これとは違った説明が書かれていた。

「回復量増加ですって、いいわね私も欲しいわ」

「使ってみます!………固定キャラが気になる所ですが」

首にチョーカーを付けてみたリィンは、ちょんちょんと鈴に触れる。
すると、煙幕のように煙がどんどん上がり充満させて行く。

「チャーム!?」

「なに!?煙!?」

「大丈夫か!?」

パーティ達の声が聞こえるが、チャームは突然感じた全身の痛みに体を硬直させていた。
ゲーム設定で痛みは軽減されているはずなのに、こんなに痛みが強いなんて一体何が起きてるんだ!?
チャームは困惑しながらも自分自身を必死に抱きしめ痛みに耐える。
すると、ピンクの短髪だったはずの髪が頬に掛かりしっかりとふわふわな髪が視界に入ってきた。

「………え?髪が…」

そして呟いた声が高く少女の様になっている。

「……………え?え??」

手を見るといつもよりも小さくふにふにしている。
ちょうど良かった筈の服はズレ落ち体が小さくなっている事に気づいた。
煙幕がそのうち収まると、カガリ達の前に座り込んでいたのは今のリィンだった。
服を胸元で抑え、カガリ達を見上げている。

「…………だれ?」

「チャームどこいった!?」

消えたパーティメンバーに、突然現れた少女。
カガリ達はまさか……と呟くと、

「……………私、チャームです。一体私どうなってしまってるんでしょうか……」

困惑して首を傾げる美少女になっていた。









「…………まさかのアイテムだったのね。ここの運営もやること派手よねぇ」

寒さに震え小屋に戻ってきたリィンとアレイスターは素早く体を拭き保温する。

「寒いぃぃぃ」

「早く着替えて暖かい飲み物貰いましょ!!」








あれからリィンになったチャームは変わらずカガリ達とゲームを続けていた。
回復についてセラニーチェと喧嘩は頻繁にあったが彼らの仲は変わらなかった。
見た目が変わった、言葉使いや細かな動きなども最初は強制力があり女性的になった。
それでも彼らはリィンへの態度を変えることは無い。
ただ、一緒に行動する様になったプレイヤー、後にクラン結成後仲良くなったプレイヤーには言えないでいた。
それは、バレたり話したりした際の心無いプレイヤーの発言があった為だった。

え?男?
まじで!?俺好きだったのに!騙したのか!
女子力!ウチらよりあるんですけどーw
え、嫌じゃねーの?いくらアイテムだったにしてもキャラデリしたら?

キャラデリはリィンだって考えた。
でも、カガリ達とのコンビネーションも出来たし何より愛着があった。

「変える気は起きませんでした。何を言われてもこれで続けるって決めたんです」

まぁ、クランの人達に何か言われるのは流石にこたえますが…
苦笑したリィンに、アレイスターは笑って

「大丈夫よ、あの子達もね!オネエさんが言うんだから間違いなし!よ♡」

アレイスターの自信満々な様子に、リィンはいつもの笑顔を取り戻した。














「これ、見て貰えますか」

「……………どれ、……………これは呪いのアイテムだね。よく見つけたね」

「の、呪い」

後日、鑑定屋に行き癒しの鈴を見て貰った。


[癒しの鈴(呪)]
昔大賢者リィンが使用していた回復量調整の為の鈴。亡くなる時その血を多く吸い込みリィンの気持ち(怨念)を閉じ込めた。使用者には回復量調整、増加の加護と共に大賢者リィンの体や話し方仕草がトレースされる。なお、性別の変更はされない。
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