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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話
秘湯の発見、ただし水
しおりを挟むタクが回復に必要とした時間はおおよそ30分ほど。
それ程までにナズナの破壊力は増していたのだ。
目覚めたタクはおおぉぉぉぉ……と地を這いずりまるでゾンビのようで、リィンは思わず回復して、
「…………ああぁぁぁ、ありがとうリィンちゃん!君は天使か!!」
這いずるタクがリィンの足に縋り、ヒィ!と叫び声を上げさせていた。
ちなみに、リィンは半分天使です。
戦闘以外で回復してそんなに喜ばれたのは初めて…と苦笑しながらも、内心タクを不憫に思う。
タクとリィンを横目に、カガリが腕を組み、
「それにしても、だ。」
蜘蛛が指示す方向を見る。
特に代わり映えのしない普通の森であるが、動物や昆虫など人間には気づかない何かが訴えているのだろうか。
「…………行ってみるか?」
「行き先も決まってないし、いいんじゃない?」
「よし、決まりだな。お前ら遊んでないでいくぞ」
カガリの言葉に全員が頷いたあと、リィンにしがみついたままのタクと、困っているリィン。
そして、タクさん!なんか食べたら元気になるかも!と、話しかけるクリスティーナに言い放つ。
タクが顔を上げカガリを見て、
「遊んでねーよ!お前らも受けてみろよ!!」
「「「いや、結構」」」
「声合わせんな!ちくしょー!!」
カガリ、グレン、ファーレンが手を振りながら同時に否定した事で、地面を叩きながら泣き真似をした。
蜘蛛がワサワサと歩き進んでは振り返り着いてきているか確認する。
見ては歩き、見ては歩きして着いた場所は琥珀色で、太陽に反射して光る湖だった。
周りはきれいな花が咲いていて、近くには小屋もある。
「……………わ、湖?」
どうやらここはセーフティエリアのようだ。
透き通る湖は底が見えていてとても綺麗で、近づき覗きみると鏡を見ているように自分を写していた。
すぐ近くには立て札があり何かが書いてある。
スイは近づき読み出すと、クラメン達は顔だけを向けてきて、
「ええっと、なになに?[琥珀温泉 効能:精神の疲れや穢れを浄化する…………………温泉!?」
歓声が湧き上がり全員がスイにしがみつくようにして立て札を見た
その文章をそれぞれ読んで喜ぶが、
「おぅ!つめって!」
タクがお湯に触れるがそれは冷水であった。
慌てて手を出し振ると、水しぶきがナズナに掛かり無言でいつもより優しめに蹴られた。
今回は尻である。
しかし、優しめとはいっても有名なタイキックを受けるあの様子をタクは再現していた。
唸り叫び、お尻を抑え力の限りのたうち回る。
その尋常ではない様子に無意識に溜まる生唾を飲み込んでナズナを見た。
可愛く首をかしげて笑うナズナを。
「………………ナズナは女の人には無害」
ふわりと笑うナズナに、男性陣は戦慄を覚えた。
花畑にレジャーシートを引いて全員が座り休憩するが、お互いから来る匂いに少々げんなりしてしまう。
「……………とりあえず、どうするよこの後」
「どうするも何もプレイヤー10パーティ揃わないと何も出来ないんでしょ?」
「というか、温泉イベってその10パーティでするってことなんすかね?」
「さーなぁ、そうなったら限定的になりそうだがな」
出されていたハンバーガーを全員で食べながら湖を眺める。
幻想的でとても綺麗だ。
微かに香る硫黄の匂いも何故か心を穏やかにさせる。
「……………………カガリさん、今の空いている時間にスズメバチさんの所に行きませんか?場所は、わかるかな?」
スイは腕にしがみついてレタスをシャクシャクと食べている蜘蛛を見ると、ピタっと動きを止めてからそーっとスイを見上げる。
少しずつ汗なのか、液体を出してからそっと食べかけのレタスを渡してきた。
許してください、といった感じだろうか。
だが、この様子でどこに居るのか気付いたカガリが蜘蛛を見て、
「よし、案内な」
凶悪な顔をして笑った。
宿を使えない、シャワーを使えない。
その状態で最初に試そうとしたのがスイの称号での街の移動だった。
しかし、
「…………………10人までぇぇぇ1人足りないぃぃぃ」
四つん這いで悲しむスイに、そっと肩をポンポンと叩くアレイスター。
その悲しみは計り知れなかった。
自分を含んだ10人まで移動が可能であり、クランメンバーは11人。
足りないのだ。
こんな所で1人置いていく事はもちろん、クールタイムの3時間を待たせるなんて論外だった。
「…………みんなで行って、称号貰いましょうね?」
「………アレイズダァーさぁぁぁぁああん!!!」
こういった経緯があった為、スイ達はスズメバチを目指す必要があった。
上手く空いた時間を有効活用してスズメバチを探す提案をしたが、
《探す!探すから!!水浴びでいいからさせてぇぇ!とりあえず!入りたい!!臭い!!》
首を横に振り泣きそうに言うクリスティーナ。
イズナはてくてくと立て札まで歩き、ジッと見つめて
「えーっと……………[冷えてしまった温泉のお湯。効能は消えてしまいただの琥珀色した温泉の出がらし。]………………だって」
《もうそれでいいからぁぁぁぁ!!》
表示されていない温泉の内容を最近取ったばかりの鑑定で見た。
クリスティーナは一心不乱にそう言う。
その姿は珍しくもあり、全員は顔を見合わせたあと頷くのだった。
「………ん、やっぱり冷たいわね…」
「しかたないのですよー、だって出がらしですもの」
「でも、気持ちいい」
「…………匂い、やっぱり消えないかぁー」
スイにセラニーチェ、クラーティアにクリスティーナ
イズナ、ナズナにデオドール
女性陣が先に冷たい温泉へと入っていった。
近くにあった小屋が着替えをする場所のようで、ちゃんと男性用、女性用とに別れている。
「……ここって混浴なんですかねー」
空を見上げて言うクラーティア、その時頭までしっかりと潜って泳いでいたクリスティーナが水しぶきを上げながら出てきた。
さながら人魚のように。
あながち間違ってはいないが、どうしても頷きたくない。
「混浴じゃないかしら、別れている様子はないわよねぇ」
ちゃぷちゃぷと尾を揺らして言うクリスティーナに、珍しくセラニーチェすらも顔をそむけて肩を揺らした。
破壊力満点!うふっ!と頬に手を当てて笑うクリスティーナにクラーティアが気絶した!!
スイの豪快な救出にクラーティア、空を舞う。
「わぁ!クラーティア!!」
イズナが慌てて立ち上がったが、クラーティアは無情にも湯に落下していく。
しかし、湯に直撃する瞬間、光るセラニーチェのバリアによりダメージ半減!
全裸で立ち上がるセラニーチェが握る杖も輝いている。
「ごふぅ!!」
そして顔面からの綺麗な着水にスイは慌てて近付きクラーティアに謝り倒したのだった。
水の冷たさにサッと上がったスイ達は小屋で着替えをしていた。
冷えた体を備え付けの真っ白なタオルで拭くが、暖まらず体を揺する。
ちなみにタオルは無限に湧いて出ていて、新しいタオルの山が無くなるそばから出来ていた。
スイはそのタオルを使って髪を拭いていたが、外していたヘアアクセサリーをじっと見つめ、
「…………良かったのでしょうか、リィンさん」
そう、ぽつりと呟いた。
リィンは入浴の時、申し訳なさそうに入浴を1人でしたいと言い出したのだ。
「んー、仕方ないと思うのですよー。セーフティエリアですから危険もないですし」
「いくらゲームでも入浴系イベントだし、気にする子は居るんじゃないかな?」
「そうですよねーゲームによっては下着は外れないよーとか有るけどこれは全部脱げるわけですしー」
「そんなのまであるんですね」
皆から聞く情報にスイは目を白黒させる。
特に、1番最後の下着については考えた事も無かったと目からウロコだ。
「この脱げるシステムの必要性がわからないわ」
「イズナちゃんはまだ未成年だったものねー、なら年齢制限にも引っかかるし、気にしなくてもいいと思うのですよー」
「……………少しは気にした方がいいと思いますよ、デオドールさん」
「あらあらあらあら」
スイは見ていた。
真っ白なタオルで体を拭いているデオドールの胸を後ろから現れたナズナがニヤニヤと笑いながら手をまわしているのを。
回されたその白くふわふわな胸をイズナはむにゅりと握る。
「………デオドール、いつも最高」
うっとりとくっ付いて言うナズナへと視線を向ける為に体を捻るデオドール。
それでもフワフワと笑うデオドールに、イズナは驚いてナズナを引っ張り離す。
「もぅ!何してるの!デオドールさんすいません!!」
「あら、私はいいのだけど」
「きゃぁぁぁあ!!」
「イズナちゃん、ナズナちゃんが触りそうよ…………って遅かったわねぇ」
顔を真っ赤にして体を隠すイズナがナズナを見るが、無表情なナズナの一言が繊細なイズナの心をピンポイントに抉った。
「………………ぺたんこ…ここまでリアルに再現しなくてもいいのに………「ナァァァズゥゥゥゥナァァァァァァァァァ!!」…………………きゃー」
「……………みんな元気ねぇ」
「私はクリスティーナに突っ込んでいいか迷うわ」
「あら?可愛らしいでしょ?うふっ!」
貝殻に座っているクリスティーナは胸元が小さな貝殻で隠されていた。
筋肉ムキムキだから、胸元もガチガチである。
女性らしい丸い胸はなく、筋肉質の胸元にちょこんと薄ピンクの貝殻が乗っていたのだ。
「これも人魚のセットよ!これで水に入ると全ステータスにプラス値が付くんですって!まだ試してないからそろそろしたいのよね」
「…………………そして、全員のステータスが瀕死になるのよね、わかってる。」
「えぇ?もうスイったら何言ってるのよー」
何度も言うが、リアルは可愛い女の子なのだ。
実に勿体ない。
「………………女性陣は賑やかですね」
「…………はぁ、早く終わんねーかなぁ」
「女の子は長風呂好きよー?」
「おい、水だぞ?」
「あははは………」
「スイちゃんの!ふろぉ!!」
男性陣はクリスティーナが用意したクッキーを摘んでいる。
待機しているレジャーシートでのんびりと次の入浴の順番がくるのを待ってるのだ。
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