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第3章 ホワイトライスケーキと疫病の話
第3の街 ホワイトライスケーキ
しおりを挟むスイ達フェアリーロードは体力的なものより精神を削られる気持ちで倒した第2の街のエリアボス。
これは、エリアボス倒せない人も出てくるんじゃないのかな、と思われるエグさがあった。
「………………何かがごっそり消耗したわ」
「わかる……」
セラニーチェの言葉にため息を吐き出しながらグレンが答えた。
あのボスを倒した後真っ直ぐに進むと次第にマッピングが増えていった。
第3の街に近い森に入った証拠である。
「……………早く休みたいわぁ」
「ほんとに、なにより…………」
「「「「「お風呂!入りたい!!」」」」」
実は、あのカメムシの臭いがまだ染み付いていて消えないのだ。
時間経過で消えると思っていたスイたちはなかなか消えないこの臭いに、まさかお風呂入らないとダメなやつかな……とため息。
そう、時間経過で体が汚れてお風呂が必須なシステムと同じ感じなんだなと全員が肩を落としていた。
「街に着いたらすぐに宿屋よ!これだけは譲れない!!絶対によ!!いいわよね!?」
「「「お、おぅ」」」
クリスティーナの勢いに男性陣は押されるように返事をした。
愛の料理人であり乙女なクリスティーナにこれは許されないようだ。
貝殻の水が、濁っているのである。
なんだかゾワゾワするわ!と泣き言を零した。
それから40分程歩いたら森から出て草原に着く。
ここの森はレッドウルフやホワイトベア、ゴブリンが多く、草原にはラット等のげっ歯類が多く蔓延っていた。
スイの頭にいる蜘蛛は糸を伸ばして森にいた幼虫や虫をつかみ口にしていたが、ちょっとグロいのか勝手にモザイク処理されていて妙にシュールだった。
草原を抜けると舗装されていない道が出てくる。
街へと続く道だ。
スイ達はホッとしながら歩く。
「…………なんだか変な匂いしませんか?」
「え?カメムシですかー?」
「違います!嫌ですよー!」
リィンの言葉にクラーティアが返事をするが、それは嬉しくない返事だった。
「やぁ、お兄ちゃん達!第3の街ホワイトライスケーキにようこそ!!…………………」
ここもまた違った綺麗な街だった。今までの街よりはちょっとごちゃごちゃしている印象ではあるが。
そして、リィンが言った変な匂いもしている。
リィンはクンクンと気にしている様子だ。
スイ達が街に着いた時、予想通り住人に話かけられる。
第1の街、第2の街では少女だったが第3の街では少年の様だ。
真っ白な顔にぷくぷくとした頬。
可愛らしい笑みを浮かべているが、少年はすぐに眉を寄せた。
「…………………お兄さん達、なんか臭いよ」
「「「「「でしょうね!ちくしょう!」」」」」
カメムシの襲撃により全身にまとわりつく悪臭に少年は我慢できずに言った。
「ここに来る御使い様はみんなこんな臭いさせて来るのはなんでぇ?」
少年は涙目になりながら言う。
そして、聞き捨てならない言葉を言ったのだ。
「今この街や付近の温泉が出ないからお風呂も入れないもんねぇ」
少年はうんうん、と頷きながら言った。
「ちょっと今は入れないけど、ここは温泉が有名な湯治だよ!この街も楽しんでいってね!」
少年は手を振って引き攣った笑顔で走っていった。
心做しか足早に去ったのは臭いからなんだろうか……
「…………この匂いは硫黄の匂いなんですね、凄く薄いですけど」
リィンは1人納得していた。
あのエリアボスの場所までまだ数名のプレイヤーしか到達しておらず、敵の特徴的に討伐は更に困難だろう。
しかも後から気づいたのだが、もれなくカメムシ臭が悪臭のバッドステータスを付けている。
お風呂じゃ落とせないやつだ。
それに気付いたカガリはなんだこれ!?と叫び崩れ落ちた。
効果が街の住人の好感度ダウンである。
これは……と他クラメンがコクリと喉を鳴らした。
そう、こんな感じにバッドステータスが効果を発しているのだ。
「いらっしゃ……………い、ませ。お客様ごめんなさいね全室満室なのよー」
うふふ、と笑って言う宿屋のカウンターに立つ女性。
これ、この街で3箇所目である。
宿に行ってもこの凶悪な悪臭の為にやんわりと断られるのだ。
せめてシャワーをと宿屋に行ったのに、顰める顔を必死に笑顔に変える女性に全員がなんとも言えない感情に支配された。
これも全て、バッドステータスからなる住人の好感度が下がったせいだろう。
ちょっと下がるとか生易しい感じじゃなさそうだ。
3件連続とか、意図的以外に考えられない。
「……………宿借りれない、お風呂入れない、住人の好感度下がってどこのお店も使えない……しかも、有名だって言う温泉もダメ…………どうしろって言うのよー!!」
「第2の街に帰ったらフェアリーガーデンでお風呂入れますけど、その為には……………」
「……………あたし嫌よ、またカメムシからのゴキブリは」
ため息を一斉に吐いた。
なんて、なんて鬼畜仕様なんだ。
「…………でもこのままじゃゲーム進まないな」
「……………前から思ってたけど、運営はプレイヤーを見て笑ってるのかしら……」
「私達より先に来たプレイヤー、どうしてるんでしょうね」
スイは考え込みながら言ったが、今は自分たちだなと、発狂しそうなクラメンたちを見た。
[7パーティが第3の街に到達致しました。到達パーティが10パーティになりますとミニイベント温泉が開始されます。]
温泉!!!
全員の目の色が変わった。
今回は更に厳しい条件下の中でのゲーム攻略であると思っているスイ含む第3の街にいるプレイヤー達。
その誰もがこの悪臭に悩まされ森に潜んでいた。
「……………この際水浴びでもいいからしたいわ」
「体が気持ち悪いですよね」
「ん?どうしたの?」
セラニーチェがしみじみ言うとリィンがため息を吐く。
その二人を見ていたら、スイの頭の上に居た蜘蛛が糸を使いスルスルと降りてきてスイを見上げる
ちなみに、エリアボスとの戦闘ではこっそりスイの足にしがみついて糸でグルグル巻きにしていた。
蜘蛛は肩に降りてきて足をワサワサと動かし、スイから見て左を指すように動かしていた。
「左?」
「なんかあるのかー?」
タクは横に来て蜘蛛を見てると思わせつつ、破れた服から見える腰をガン見していた。
「「ギルティ」」
「ギャァァァァア!!!」
流石にこれはイズナも無視できないとナズナと一緒に口を揃えた。
ちなみに、殺戮天使様は最近天罰を与える時に歌を歌うみたいだ。
その歌もトラウマ並だし、何より歌う殺戮天使様はかなり危険である。
空高く打ち上げられたタクを見ながらクリスティーナが貝殻の中から腰をひねらせて頬に手を当て上を見上げる。
「私だったら遠慮なく見てくれていいのにぃ」
「………………これも新たなてんば……」
「だめナズナ!シッ!!」
天罰、そう言おうとしたナズナの口をイズナが塞いだ。
クリスティーナにはそんなつもりはないのだ。
だからこそ、本人には気付かれないようにとイズナの心遣いである。
「…………………ぁぁぁぁぁああああああ!!」
どさぁぁぁぁぁぁ!!!
土煙を上げて落ちてきたタクは白目を向いてぴくぴくとしている。
全員、無言。
「……………ナズナ、お前なんか蹴り方変えたか?」
「ん、蹴りスキルまた上がった。抉るように蹴りあげて回転かけてる」
グレンの質問にナズナはピースして答え、それを聞いたクラメンは黙ってタクに向かい合掌した。
「……………タク、お前の事は忘れない」
「おいグレン止めろ縁起でもねぇ………矛先こっちに来るだろうが」
「!!タクさん!生き返って下さい!俺達の為に!!」
グレン、カガリ、ファーレンが必死に声を掛ける。
危険性の少ないアレイスターだけがあらあら、とデオドールと見ていたのだった。
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