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第2章 水の都アクアエデンと氷の城

緊急イベント

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 ようこそ、わが勇者のパ―ティ―へ!私の名前はテセラと言います。

 今回はなんのご入用でしょうか、依頼ですか、それとも用心棒のご相談?私の元に来たということは、ご依頼ですよね。

 困ったことや解決していただきたいことがあれば、何でもどしどしお申し付けください。

 どんな難関クエスト過酷な試練でも解決しますし、厄介な聖獣でも女神でも魔神でも魔王でも、なんでも討伐してみせましょう。

 他にもこの前お受けしたものをあげると、無能な天使の代わりに聖教会で天使長への昇格試験を代理で受け、合格するといった例がございました。天界から苦言を呈されても大丈夫、ご安心ください。そこのところは織り込み済みなので、なにか言われてもこちらがすべて暴力にものを言わせて、黙らせて差し上げます。心配の必要はございません。我々のバックにはあの最強勇者が着いておりますので!お客様に危害は及びません!

 他にも、目障りな奴らも種族問わず跡形も塵も残さず消しつくすことも可能です。

 報酬次第では護り神だって抹消してみせましょう。それをあなたが望むなら。事実、これまでも魔族の方に何度か依頼を受け、達成した実績もございます。世の中金金、金なんです。

 その他の例としては、悪魔の業火の炎とやらで燃やし尽くされた森や、永遠に解けない封印を施された遺跡の封印解呪も承っております。そんなのおちゃのこさいさいです。赤子の手をひねるようなものです。ぜひともお近くの昔の神殿も、封印を解いて荒らしまくってあげてください。

 そういえば魔神と女神の戦争が勃発した際、勇者の力で一瞬で両国の将軍を暗殺し、双方を黙らせ沈静化することもありましたね。もちろんとんでもないブ―イングを受けましたが、文句言うやつはぜ―んぶ力で消し炭にしました。

 これも全て皆さまがわたくし共にお金を積んでくださった善行のおかげです。ね、お金の力って素晴らしいでしょう?お金様様、万々歳です。

 …ん?

 いかがなされましたお客様?

 えっ、依頼をしに来たのではないと?それはそれは大変失礼いたしました。

 ならばギルドの勧誘でしょうか、まさか警吏団体の取り締まり?

 それなら生きて返すわけには行きませんが。



 ………………………え?



 ………………………仲間になりたい?

 あァ、それはそれは。



 ご存知の通り、わたし達は勇者のパ―ティ―です。

 毎日のように命に係わる案件は発生しますし、辛い思いをすることも当然ありますので、あまりお勧めはしませ……

 エ?なに?アヤトが守ってくれるから大丈夫?

 だから戦わなくても平気だし、アヤトの隣にいるだけでいい?

 どうせあなたもそうなんでしょって?今、そう言いましたか?

 …ええ、はい、そうですか。よく分かりました。

 ならちょっとこちらに来ていただきましょうか。

 ナ―ニ、チョットチクットスルダケデスカラ、ナニモコワイオモイヲスルコトモアリマセン。アンシンシテクダサイ。デハ、サヨナラ。



「…デスフリ―ザ―」

「こぉら―――――ッ!!何をしておるテセラ!!お主なに隠れて普通の一般人を氷像にしようとしておるのだ!さあ、お主もさっさと路地裏から逃げるのだ!すまぬが今後絶対テセラと二人きりになるでは無いぞ!」

「チッ、出たかリッドと同じお邪魔虫!!」

 部外者の登場に私が歯軋りすると、アルバ―トはいやいやいやと手と首を振った。

「いやいやいや、お邪魔虫もなにも、我輩一応祈祷師という職業なのだが!」

「逆に祈祷師って何するの?あれでしょ?どうせ暗闇でお祈りと言う名のゴキブリ退治してるんでしょ?あじしおの代わりにゴキブリスプレ―まいてるんでしょ?」

「何故そうなるのだ!まあ、我輩も最近はゴキブリに手をこまねいて…って違う!そんな話では無い!なぜ罪なき少女たちに、このようなことをしておるのだ!まさか常日頃から、こんな惨殺を繰り返していたわけではあるまいな!?貴様も勇者の仲間だろう!」

 私はやれやれと呆れて首を振ってみせる。

「面倒ダメ、ゼッタイ。害悪、タネから、むしり取る。アヤトの力借りれば、トラブル消滅、証拠も隠滅、少女も消滅。これで問題起きない、すなわち一石二鳥。オ―ケイ?」

「ほほう、なるほど…ではなくて。我輩、新参者の身の故リッドという男にはまだあったことが無いのだが…奴の苦労が分かった気がする。逆に聞きたいのだが、何故テセラはそこまで過激に仲間を作りたがらぬ?新参者の我輩がいうのも癪だが、何故そこまで聖少女を毛嫌いするのだ?」

「…借金よ」

 ぶるぶると握った拳を震わせ、血を吐くような声音で睨め付けると、アルバ―トは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。

「…借金があるのよ!それも山のように、あの頭すかすかの勇者とか言う脳内お花畑野郎のせいで!!次々仲間を増やすから!」

 そう言って、私がダンと地面に足を叩きつけて睨めば、アルバ―トは意外そうな表情を浮かべた。

「何?借金だと?勇者のパーティなのに借金なんぞしておるのか?」
「えっ、あんた知らなかったの!?そうよ、とんでもない借金があるのよ!」

 そう、借金があるのだ。大国にあるお金を全て集める程度では生温い、恐ろしいほどの額が。それもこれもあれもすべて、どこぞの馬鹿勇者がその身一つでこさえた負債の嵐なのだけれど。

 あの脳みそスポンジの勇者様は、それこそ国家予算なんてくだらないほどの想像できないほどの額を、たった一晩で拵えてきたこともある。あの時は確かに私も未熟だった。

 勇者がまさかそんな悍ましい悪にまみれた疫病神だと、つゆほども思っていなかった、純粋で若い頃の自分である。
 勇者だからお金持ち?
 勇者だから毎日ぜいたく三昧?
 勇者だから全部が全部思いのまま?
 馬鹿馬鹿しい。そんなものはまやかしだ。

 ああ痛い痛い、耳が痛くて仕方がない。

 アヤトが負債を作り、アヤトが連れてきた仲間がまた出費を増やす元になる。まさに逃げ場なき史上最悪の悪循環。これでどうして美女も豪華な料理もいっぱいの、夢のウハウハライフなんて送れるか。

 もっとも、このようなことをアルバートに当たっても仕方がないのだが。この行為が、何の意味も生まないことは分かっている。

 一応はアルバートも、パーティーではかなりの稼ぎ頭で唯一の常識人で、やたらアヤトに甘い以外は色恋沙汰にも興味が無く、その他経理などの点に置いても優れているから、私もある程度、に重きを置いている。信頼を寄せている。

 どうすればあの、美女ときゃっきゃっウフフしてばかりの、頭フラワーガーデンのパーティーピーポーの暴走止めることができるのか。

 本か?本を出せば良いのか?
【勇者の真実~パーリーピーポーの暴走~】という題の書籍なら、皆きっと手に取ってくれるかもしれない。そして勇者も社会的爆死、一滴残らず干されて私は印税ガポガポ一石十鳥。

 それとも、アヤトを鎖に繋いで飼う?

 今度から犬小屋に住まわせて、人間の言葉も聞くのも喋るのも禁止した上で、ご飯もドッグフードドッグだけにして、芸でも仕込めば大繁盛、魔王も倒れず世界はきっと平和になる!…私疲れてるのかな。

 私は真剣な表情でアルバートと向き合った。

「アルバートも分かったでしょう?このままだと、どんどん苦しくなるだけなの。私、もしも自分が死を迎えるなら、餓死と焼死だけは絶対勘弁なんだけど。どうすんの?」

 冒険を始めて最初の方こそ、次々とパーティーに入ってくるうら若き少女たちを渋い面持ちながらも認めていたが、流石にもう我慢の限界だ。そろそろ年貢の納め時ではないか。

 ここで無職達を一人残らず刻んでサラダにしたりしない、寛大で広大な私の心を褒め称えて欲しい。

「そ、そうか………そのようなことがあったとはな……まったくもって理解が及んでおらなんだ。それは悪いことをしたな、すまない。だがなテセラ、だからと言って我輩はかような少女たちに罪があるとは思えんのだ、ただアヤトを信じ、かの光に触発され、聖なる道に歩もうと決意した少女は、むしろ讃えるべきではないのか。この物騒な世の中、自分の我が身可愛さが先走り、悪を憎み、魔を払う勇者についていこうと思うものは少ないのだ。むしろ魔族に身を落とすよりは………おいテセラ。聞いておるか?………テセラ?」
「もしもし、あっ裏社会の帝王デスザダークさん?ちょっと買い取って欲しい美少女がいるんですけど…600人くらい?全員見た目だけは無駄に完璧ですので、いくらぐらいになるでしょうか。全員冷凍便で送るから、受け取った後は好きにしていいですよ。はい、ではそれでお願いします!」
「こらーっ!奴隷商法に手を出すのはやめたまえ!!」




 その後。
 アヤトの基地に帰って来た私とアルバートに、病床に伏せるリッドはポツリと呟いた。

「えっ?………アヤトなら、王国のコロシアムで開催される武闘大会に行ったぞ」
「今晩の夕食はリッドの丸焼きね」
「なんでだよ!」
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