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第2章 水の都アクアエデンと氷の城

もふもふ日記

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仕事が終わり、疲れきった体をベッドに横たわらせた翠は手探りでスーツを脱ぎ出す。
皺になるが、床にぽいぽいと
スーツを投げ捨て、なんとかVRを手繰り寄せた。

「………やっと終わった1週間、明日から2連休ぅぅ…今行くよ、もふさーん!」

ゲートオープン!!










「…………ん、まぶしい」

どうやらゲームでは朝のようだ。
広めのベッドに横になっていると、近くから息遣いが聞こえる。

「…え?」

横を見たそこには…………

「なんでそこにいるの?」

ふは!と笑って言った、目線の先にはヘレヘレと舌を上下させるもふもふ。
ベッドに上がりスイの顔の前に座り、目をキラキラしながらスイを見ていた。
部屋の隅に置かれたもふもふ用のお部屋、ケージを見ると、扉が少し空いていて体がギリギリ通るくらいの隙間があった。

………むりやり出てきたなぁ
ヘレヘレヘレヘレあむ

「ぶは!」

良い顔してから、鼻を噛む。
甘噛みするもふもふをひっぱり抱きしめると、お腹を出して横になった。
ふわふわ暖かいもふもふに、ゲームの中だが眠気が誘う。
更にはりんごのほのかな香りがして更には眠気が増した。
お腹を撫でる手が少しずつ遅くなりはじめた時、もふもふは起き上がり、またスイの鼻を齧った。

おきてー、お腹空いたー、おきてー

みゃうみゃうと鳴くもふもふにあわせて、スイは起き上がり伸びをした。

「おはよー」

もふもふの顔を両手で挟むように抑えてぶちゅー
必死に耐えて耐えて耐えて耐えて………

「………………全力で倒れなくてもいいじゃないの」

手を離した瞬間に座っていたもふもふが、こてんと倒れた。
手足をだらんと投げ出して、ポテッと横になっているのだ。
薄目を開けてチラとスイを見る、そんなもふもふも可愛い。
そして、そんなもふもふを一発で起こす魔法の言葉がある。

「……………お腹空いたなぁ」

ベッドにだらりと預けていた頭を凄い勢いで起こしてスイをキラキラと見つめる。
急いで起き上がり、ベッドから助走なしでジャンプ!!

「わぁ!!あははははは!!!」

顔までジャンプして鼻あむ!!
滞空時間1秒でピンポイントに鼻を噛む、この子の鼻に対する執着はなんなんだろう。
その後はジャンプして胸に飛び込み、そのままヘレヘレとスイを見つめる。

「………あぁぁ!かわいい!!」

ぎゅーっと抱きしめてスリスリ。
ひゃん!と鳴くもふもふはたぶん、ご飯をちょうだいよー!……なんだろうなぁ。

この子にご飯をあげる時、「お腹空いたよね、ご飯だよ」そう言いながらあげていたら
ご飯の言葉もそうだが、お腹空いたの言葉に凄い反応をするようになったのだ。
飛びかかる飛びかかる。





「はい。もふ、ごはんだよ」

お皿にカリカリを出して渡すとすぐに顔を突っ込む。
カリッカリッと音を鳴らしているあいだ、スイも動き出す準備をはじめた。

「シャワー浴びなきゃなぁ」

ゲーム内でも汚れたりする為、シャワーやお風呂は必至。
食べているのを確認しながらシャワーを浴びに向かった。











「……………ん、すっきり」

20分ほどでシャワー終了。
髪を拭きながら出てくると、もふもふはご飯のお皿の横にちょこんと座っている。
お皿の中はあまり減っていない。

「もふ、ご飯たべなよ」

水を飲んで口の周りを滴らせながらもヘレヘレしながらペチャンコの鼻先でお皿を押した。

「……………食べないならさげまーす」

「ひゃん!ひゃぁん!」

「もふさん、わかってますよ。何を望んでるのか。ちゃんと食べなさい」

1粒口元に持っていくと、あむっ!と食べる。
またあげると、あむっ!!
手の平に置いてあげると食べる食べる。

「あとは、自分で食べなさいね」

「……………わふぅ」

甘えたで、スリスリ。ご主人様大好き!!
そんなもふもふはご飯の時パウチや缶詰なんかのご飯を欲しがる。
だから、夕ご飯だけパウチにカリカリを混ぜてあげているのだ。
朝はそれが無いから、仕方なーく食べる。

「食べるスピードが全然違う」

渋々食べるもふもふ、まだスイから手渡しされると食べるが、お皿からだとなかなか進まない。
そんなもふもふも可愛い。

もふもふを抱っこしてお皿を持つと、さっきよりスピードアップ!
抱っこされた!と尻尾をブンブン!

「………ひゃん!(食べた!褒めて!)」

グリグリと頭をくっつけるもふもふに、スイでれでれ。
………………よし、今日はもふもふと過ごそう。
これは、絶対だ!!

そんな感じでダラダラと愛犬と過ごすゲーム日和も、たまにはいいじゃないか。














「あ、スイ。」

「クリスティーナ。」

もふもふを抱っこして食堂に来たスイは、クリスティーナにご飯を頼む。
空腹ゲージが黄色いのだ。

「今日はなんかするの?クエスト」

「今日はもふといるの。ねー?」

「ひゃん?」

「今日も、だねー」

ご飯なんでもいいよね?座ってて
クリスティーナに促されてスイはもふを抱っこしたままペットOKのスペースに向かった。
食堂の端にペット同伴OKのスペースを設けていて、実は食堂でペット同伴OKは意外と少なくフェアリーガーデンは重宝されている。

膝に乗ってるもふもふはこれでもかとくっついていた。
この間の氷の城クエスト中、放置をしていた為に寂しさが爆発中。継続なのだ。



「………………スクショは、禁止されてるよな」
「ダメだよ、禁止」
「おぉ、もふさんが鼻を噛んだ!」
「あ、跡ついてるよ、かわいー」
「ちゅーした」
「ちゅーしたね」
『もふさん倒れた!!』


スイの座る場所から少し離れた場所でデザートセットを楽しむ数名がスイの様子を見ながらホンワカしていた。
彼らは掲示板から発生した【スイ見守り隊】
今はもふもふを含むホンワカスイを見守り、ニヤニヤする集団だ。
ここの約束事は1つ、スイに迷惑をかけない!
これだけである。

だから、今スイがもふもふとイチャイチャしてるのも優しく見守っているし、最近よくリィンと百合百合しく仲良くしてるのも、ご馳走様です!と見守っている。

「はい、おまたせー」

コトリと置かれたのはお盆に置かれたどんぶりに、小皿に盛られた漬物。
3つ綴りの小皿に各種薬味があって、
そして、大きな急須がドドんと存在感を残し、横には小茶碗もある。

「………急須?」

「これさぁ、クイーンの肉を使った肉茶漬けって言ったら、どうする?」

ニヤニヤとして言ったクリスティーナにスイは首を傾げるが、それを聞いた周囲がざわつき始めた。
今では専門店しか対応してない、あのイノシシの肉の料理。
それを、まさかクリスティーナが作ったのか!?

ざわめきの中、スイはどんぶりの蓋を開けた。
ツヤツヤの肉がふっくら抱き上げられたお米の上に所狭しと置かれている。
その量はかなりのもので、露店で買ったら金額もいい値段になるだろう。

「…………美味しそう」

「そりゃそうよ!クイーンのレア部位を使った極上ものなんだから!」

甘だれが絡んでいてそれだけで食欲がます。
もふもふがテーブルに前足を乗せてクンカクンカと匂いを嗅いでいた。

「はい、まずはここに少し入れてそのまま食べて」

小茶碗を渡され、スプーンで移す。
小さくいただきます、と言ってから口に含んだ。

「‼‼‼‼‼‼‼‼」

「どう?」

「なにこれぇ、美味しすぎるぅ」

口の中で蕩けるお肉に、甘だれが絡みお米と一緒に食べることでお米にも味が染みて口の中全体が一気に幸せになる。
蕩ける食べ心地にいつの間にか口の中が何も無くなっていた。

「………なくなった」

「ふふ、じゃ、薬味を入れて」

色とりどりの薬味があり、刻みネギを小茶碗に入れてまた1口

「‼食感がシャキシャキにかわった!それに、別の甘さが…」

ネギが混ざることにより、ネギの甘みも混ざってまた別の風味をもたらした。
蕩ける感覚とシャキシャキが混ざり口の中での存在感が大きくなる。

「最後が……」

どんぶりにミョウガとわさびを真ん中に乗せて、急須に入っているお茶を注いだ。

「タレの甘みとお茶の味、それぞれの薬味のバランス。揃えるの大変だったんだからね」

うふふ、と笑ってスイを促す。
軽くわさびを混ぜて1口

「‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

テーブルに頭を付けたスイにクリスティーナは満足そうに頷いた。
そのままで食べた時の肉の食感がお湯に晒された事でほんの少しだけ硬くなり、歯ごたえが着いた。
お米がお湯についたのに、ふにゃふにゃにはならず甘だれとお茶のゴールデン比率で割られた黄金色の汁にフワリと浮かんでいる。
味はもぅ、絶品の一言だ。

「っっ!美味しすぎるぅぅ!」

「よかった!」

「ひゃん!ひやぁぁん!」

スイの悶絶する姿に、周囲は生唾を飲み込んだ。
もふもふが欲しがるのを抑えて食べるスイの顔はだらしない。
クリスティーナが、小茶碗に入れたもふもふ用スペシャル肉丼を渡すとはぐはぐと食べ出す。
スイとお揃いが食べたいのはわかるが、あなた、さっき、カリカリ食べたよね?

そう思うが、この美味しさは仕方ないか。
食べるもふもふの頭を撫でた。

「…………クイーンの、希少部位…?」

「しかも、クリスティーナ作…?」

一気にざわつきがピークになり、クリスティーナに詰め寄るプレイヤーたち。
その際、スイともふもふのどんぶり確認



ご く り……………………………




『俺にも(私にも)あれを!!!』

「まだメニューにないです♡」


クリスティーナの一言で、プレイヤーは崩れ落ち
打ちひしがれた。

後に、クイーン、キング達の食事はスペシャルメニューとして登場する。


「はい、もふさんお水飲んで」

「ベチャベチャベチャベチャベチャベチャ」
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