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第1章 はじめまして幻想郷

熊、グリズリー

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「ボス戦だー!!!」

ファーレンが両手を上げて叫んだ。
場所は噴水広場だから目立つ目立つ。
リィンがあわあわと手を振りファーレンを止めようとするがファーレンのわくわくは止まらず、その場でクルクルと回っている。

「……恥ずかしい」

そんなファーレンを見てナズナが一言。
自分よりも小さな見た目の子に言われて、動きを止めた。
ここに居るのは回復のリィンに、盾のファーレン、前衛のタクに、中衛のナズナ
そして、後衛奏者のスイだ。
本当はグレンかクラーティアの魔法も来るはずだったがどちらも用事が出来てしまい来れないらしい。
クラーティアとグレンに謝られたがスイ、そしてファーレンは首をブンブンと横に振った。

「よーし!倒すぞー!!!」

盾でガンガンと地面を叩いてヤル気を見せるファーレンはチラッとスイを見た。
リィンと話すスイの胸を無表情でムニムニと触るナズナ。
はっ!っと気づいた時には頬ずりされていてひゃー!と叫んでいる。

「…………なんだよ」

不満を漏らすファーレンはブスっと不機嫌な表情を晒して顔を背けた。



なんだよあいつ。
ゲーム自体初心者とか言ってたくせにあんなすごい戦闘してるし
何より、フェアリーロードに入る時だってリィンさんとは知り合い?グレンさんとクラーティアさんにだって庇われて贔屓かよ!
カガリさん達も最初はアイツのこと職業で嫌がってた筈なのに今では受け入れてるし!
そりゃ!凄かったよ!!
地雷職の支援だったのに、ちゃんと全員支援しながら攻撃までして!!
俺には出来ないよ!!あんなの無理だ!!

…………………………なんなんだよ
………………………………なんなんだよ!!




       なんで俺、置いていかれた気分なんだよ




ファーレンが手を握りしめて俯いているのを全員が見ていた。
顔を見合わせ心配そうにファーレンを見る。
最初から危うい所が露出していたファーレン、スイに向かい攻撃的なところがあって全員思う所もあるが、やはり仲間だから。
知らない人では無いから、落ち込んでいたら心配する。

全員がいっせいにファーレンの方へと駆け寄り肩を組んだり腕をとったりとそばに寄り添った。

「ほら、何した向いてんだよ!ボス戦行くんだろ?」

「サクッと倒してサクッと次に進む」

「ドンドン回復しますから!怪我でもなんでもしていいですからね!」

「いや、リィン怪我をすすめるなよ」

突然集まった皆にファーレンが目を見開くと、スイは嬉しそうに笑って袖を軽く引いた。

「………………ボス戦、がんばろ?」

「……………………わかってるよ」

ふいっと顔を背けて言ったが、初めてファーレンがスイに怒鳴ることなく話をした。
そんな様子にリィンとタクは顔を見合わせて小さく笑った。

ファーレンに心境の変化が起こり始めていた。
頑なにフェアリーロードに固執して、スイに複雑な感情を持っていたファーレンは揺らいでいる。
それがファーレンにとって、そしてフェアリーロードにとって、どのように変わっていくのか
今後のファーレンのフェアリーロード在籍に関わってくる。
ただ、まだ葛藤しているファーレンの答えが優しい答えならとみんなが見守っていた。








ボス戦、森のボスは熊名前はグリズリー
そう、熊。

「……………………くま?」

「きゅ?」

スイたちの前にいるのは小さな小さなうさぎだった。
赤い目がうるうるとしていて草をあむあむと口に入れている。
小さな両手が草を抑えて食べる姿はとっても可愛い。

「…………これっすか?」

指さして言うファーレンに、スイ以外が深く頷いた。
スイとファーレンがじっと見るが、やはりもきゅもきゅと音を立てて草を食べるうさぎ。
でも、うるうるおめめはじっとスイ達を見ている

「………………グリズリーですよね?熊ですよね??」

スイの言葉にファーレン以外が頷く。

「……………………混乱」

「同じく」

もきゅもきゅする可愛いうさぎがもう食べ終わる。
タクとナズナが武器を構えてリィンが杖を持ち上げた。

「スイちゃん!ファーレン!!構えろ!!」

「戦闘、始まる」

ファーレンが盾を構えて、スイはリィンの隣まで下がり演奏を始める。
一気に上がるステータスに全員はニヤリと笑った。

「ほんっと、スイちゃんは強烈だなぁ!!」

「スイ、すごい」

「ありがとうございます!てれる!!」

うさぎの体が赤く光りムクムクと体が大きくなっていく。
どんどん熊に変わって行く姿、何故か垂れ耳とうるうるつぶらな瞳だけは残った奇妙な熊の姿だ。


ガオオォォォオオオオ!!!!!


腹の底から吠える声に地面は轟き揺れる。
それぞれが何とか体勢を保ち立ったままの状態を熊、グリズリーは眺めていた。
ちなみに、ここで転んだらその人がグリズリーのファーストターゲットとなる。
手を振り上げて引っ掻く動作をするグリズリー、遠い為直接当たりはしないがその衝撃が刃となって全員を襲った。

ボス戦のはじまり。
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