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第1章 はじめまして幻想郷
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しおりを挟むフェアリーロード
それは、このゲームの中では有名なクランの中の一つであった。
このAnotherfantasiaのβ版では早くにクランは実装され、その最前線にいたフェアリーロード。
職業に偏りはあまりなく少人数でバランスのよいクランと有名だ。
『みんなで仲良く楽しく』
そう集まったフェアリーロード。
もちろん対人でのゲームだからこそ合う合わないはある為、最初から全てが上手くいく訳ではなかったが今では気の合うメンバーで和気あいあいとゲーム攻略を続けていた。
原則途中参加はお断り、チームワークをなにより大事にして楽しく過ごしていた。
そんなメンバーの中に、グレンとクラーティアがいる。
β版プレイヤーのアバターや道具、装備などは引き継がれるている為その外見でフェアリーロードのクランメンバーであることがわかる。
公式サイトにも、β版最前線クランとしてだされているくらいなのだ。
「さて、そろそろいきましょーかグレン。みんな待ってますよー」
「そうだな、 行くか」
クラーティアがまだ噴水広場に人混みが増えているのを眺めてから口にした。
自分よりも高い位置にあるグレンを見上げながら。
グレンもクラーティアに頷き場所を移そうとする。
「それではまたー」
「またな」
優しく笑って挨拶してくれる2人にスイはペコっと頭を下げてお礼を言った。
また、そう言ってくれた2人に心が暖かくなりながら。
いつかまた会えたら、 一緒に遊んでみたいな。
優しい人たちだったな。
そう、 心がポカポカして自然と笑みが浮かぶ。
それぞれの目的の為に手を振りお互いが歩きだそうとした時だった、 人混みをかき分けて走る1人の少年はプレイヤーにぶつかりながら前へ前へと進む。
焦っているのがよく分かる様子だ。
少年は人混みの中必死に手を伸ばして声を張り上た。
「グレンさん!クラーティアさん!!フェアリーロードの!グレンさぁん!クラーティアさぁん!!」
んん?とクラーティアは振り返り呼ばれた方を見る。そしてグレンの袖を引くと、グレンも振り返り少年を認識した。
少年はようやく前に出て来て真剣な顔をグレンに向けた。
勢いよく頭を下げる少年は大きな盾をしっかりと握り、初心者用の配布される装備と購入した装備を混ぜながら着ている。
まだ息が荒く方を上下させながら、少年は口を開く。
「俺を!フェアリーロードにいれてください!!」
少年を見るグレンとクラーティア。
そしてスイ。
その場を離れる機会を失ったスイは、 この状況を離れて良いものかと考えるが張り詰めた雰囲気に押されてその場に佇んでしまう。
少しでも動いたら刺されるような雰囲気だ。
グレンとクラーティアは2人視線を合わせたあとに
「「断る」」
あっさりと断った。
少年は目を見開き手を強く握りしめて、
「そ……そんな!!!」
愕然と、しかし信じられないと首を横に振った。
そして、グレンとクラーティアの隣に立つスイが視界に入ると、カッと目を見開く。
ワナワナと震える手でスイを指さし
「そいつ、フェアリーロードの人じゃないッスよね……え?そいつは……そいつは入るんですか!?」
グレンとクラーティアを見ながら叫んだ。
スイはそんな少年に困惑するが、 話に入っていい雰囲気ではなく口を噤む。それが少年にとって余計にスイを睨みつける結果となった。
怒り、悲しみ、嫉妬……混ざったその視線をスイに浴びせるのだ。
少年はパッとグレンとクラーティアを見た。
「おれ!盾職です!フェアリーロードには盾職1人ですよね!?おれ!絶対役立ちますから!!」
なんどもお願いしますと頭を下げる少年に、クラーティアは困ったように笑った。
グレンを一瞥するが特に何かを言おうとする様子はないので少し少年に近づく。
「あのですねー、元々募集はしてないのですよー。確かに盾職は今1人ですがね。それでも補充するならみんなで話し合って決めます。私一人では決めれないですよー」
リーダーは別にいますしねー。
クラーティアは少年の肩を叩いて言うと、小さくそんな………と呟いた。
俯く少年に、クラーティアはごめんね?と言うが、少年は泣きそうになりながら顔をあげる。
「どうしても……フェアリーロードに入りたいんです…その為に盾職を選びました。絶対、役に立ちますから!!」
なぜ、こうもフェアリーロードに固執するのか。
まだまだクランは沢山あるし、こんなに必死に頭を下げる必要なんて……
クラーティアとグレンは困惑していた。
あまりに必死なその様子。
フェアリーロードの名前が欲しい、高ランクのプレイヤーと一緒に戦いたい。
沢山、クランに入りたいという人はいたがこんなにも懇願する人はいなかった。
そして、懇願する中で向けるスイへの視線は何処か危機感を感じさせる。
「困りましたねー、更にギャラリーが増えてきましたよー」
「あぁ。(このまま置いて行ったらこの人にも被害が来そうだな)」
グレンは、クラーティアとの間にいるスイをチラリと見てからため息を吐き出した。
あの少年は話を聞かなそうだ。
「クラーティア、行くぞ」
「はーい」
スイの手を握り歩き出すグレン。
え?と目を見開き歩くグレンを見上げるが視線はこちらには向かない。
慌ててクラーティアを見るが、ちょっと困ったように笑顔を向けられただけだった。
それからクラーティアは振り向き俯く少年を見て、
「おいでー、少年」
「ま!待ってください!!」
クラーティアの言葉に顔を上げて慌てて追いかける少年は装備があたりガチャガチャと音を立てながらついて行った。
少年は手を握られるスイをチラッと見てから首を横に振っていたのをクラーティアは見ていた。
まるで考えていることを振り払うかのように。
「わるい、あのまま置いていけなかった。後で解放する。」
小さく言うグレンにスイは驚きながらも、はい…と頷き、後ろをついてくる少年をチラッと見た。
必死に着いていく少年はそんなスイに気付き、目が合い驚いた表情を見せた後、ぎっ!と睨みつけるが視線は弱まり顔を背けた。
…………一体何が起きてて、私は巻き込まれてるんだろう。
よく分からない状況に流されるスイは、 ゲームだし、まぁいいか!と前を向いた。
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