Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷

くみたろう

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第1章 はじめまして幻想郷

あるクランでの出来事

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Anotherfantasia、 略してAFOは本日昼過ぎに新しくアップデートされた。

ほとんどのプレイヤーはログイン時間をまだかまだかと待ちわび、 時間になった瞬間にはやる気持ちを抑えて嬉しそうにログインをする。
仲のいいメンバーが集まっているのだ。

今回実装されたクラン設立にはクランハウスが必要で、 多くのプレイヤーは仲間たちと集まりお金をかき集めクランハウスを買う、または借りてクランを立ち上げようと話し合っている。
とは言っても、安いものでは無いのでこれから金策にでなければ!!と意気込むプレイヤーも多く存在していた。

待ちに待ったクランの実装にプレイヤー達のテンションはうなぎ登りだ。




そんな中の事、上手い具合に金を集めることが出来、ある酒場をクランハウスに購入できたクランメンバーのうち、1人がため息を吐き出した。
まだ購入したばかりの真新しい酒場のひとつのテーブルにぐったりと体を預けて座っているのだ。

「どうした?アーサーため息なんかついて」

エールと呼ばれる飲み物をジョッキに並々とついで持つ男性が話しかけながら近付いてきた。
テーブルにジョッキを置き、 アーサーと呼ばれた男性の隣に座る。
2つあるうちの1つジョッキをアーサーに渡すように置いてからエールを煽った。

「………サンキュ」

小さくお礼を言ったあと一気に半分ほど飲んだエール。
キンキンに冷えたエールは炭酸が強く口の中で弾けて爽やかさをもたらす。
ふう……と息を吐き出すと、 目の前にはウィンナーなどの盛り合わせが現れた。

「ほら、ツマミ持ってきたよ」

真っ赤な燃えるような髪をポニーテールに結ぶ女性が豪快にテーブルに置きアーサーの向かいに座った。
同じようにエールを口に含む女性は、少し乱暴にウィンナーをフォークで刺し口に入れたアーサーを見ている。
あちっ!とはふはふしながら食べるアーサーはこの間ログインした時と余りに様子が違っていたのだ。
ニコニコ笑っていたアーサーは、 一転して項垂れテンションが低い。
やっと自分たちのクランが出来てクランハウスも手に入れ纏まってきた。こんないい時にだ。
クランリーダーの元気の無さに2人はどうした?と聞くことにした。

「ため息なんてついてどうしたんだい?せっかくのクラン創設って時にさ」

エールを口に含み飲み込んだ女性が尋ねると、 一瞥したアーサーがため息を吐き出す。
そんなアーサーに、女性は眉をひそめた。

「人の顔見てため息なんて、失礼だね」

「そうじゃないよ」

「わーってるって!」

慌てて言うアーサーにフォローするように言った男性が、バンッ!と手甲の付いた手でアーサーの肩を叩く。
衝撃で少し前のめりになりながらも男性をじろりとみたアーサーがまたため息を吐き出した。


ここはクラン英雄の箱庭。
人数は30人ほどの最前線攻略を目指すプレイヤーの集まりだった。
そのリーダーであるアーサー、 このプレイヤーは現実世界での宏である。
エールの入っているジョッキをテーブルに置いてアーサーはチラリと隣の男を見る

「お前、彼女いる?」

「おい、ここは非リア充の集まりだろ!」

「なんだ、好きな女の子でも出来たのか?」

ガッデム!!とテーブルを叩く男性を一瞥すると、 前に座る女性は体を前に傾けてアーサーに聞きに行く。
ニヤニヤと楽しそうに笑う女性は足を組みテーブルに片腕をつけた。

「………ふられた」

「「はぁ?」」

「だから!ふられた!の!」

バンッとテーブルを叩いていうアーサー。
2人は目をぱちくりとしてから首をかしげた。
そして女性はアーサーの後ろにいる別の女性を一瞥。
他のクランメンバーの女性プレイヤーと話をする栗色ショートボムの可愛い女性だ。

「アリアにか?」

「違う!リアルの話!」

「お前……彼女居たのかよ!?」

女性はアリアと呼ばれた女性を指さして言うと、 それに気づいた女性プレイヤーが首をかしげている。
そして話をしていたプレイヤーに一言告げてからこちらに近付いてきた。
途中ジュースを買っている様子が見られる。

「呼んだ?イリア」

さらりと茶髪を揺らして笑う女性はアーサーの隣に立ち赤髪の女性イリアに声をかける。
それに苦笑して軽く手を振った。

「あー、いや。ちがうんだ悪いね」

「そう、 なの?呼ばれた気がしちゃった」

そう笑うアリアは髪を耳にかけて答える。
そっと、アーサー肩に手を添えているアリアを見て、 イリアとアーサーの隣に座る男性は目で会話をしていた。

(後で詳しくきこうぜ)

(もちろん、今はさすがに聞けないからね)

2人で頷きあっているとき、 アリアはアーサーの隣の男性に手を合わせてお願いしながら言った。

「ねぇねぇ、噴水広場見た?」

そのお願いを聞いた男性は椅子を立ちイリアの隣に座り直すと、 空いたアーサーの隣の椅子にポンッと座ったアリアが頬杖を付いてニコニコしながら聞いてきた。

「あー、インした時にみたね」

イリアが上を見ながらごったがえしている噴水広場を思い出しながら言うと、アーサーは首を傾げて男性を見た。

「何?なんかあるの?カンザキ知ってる?」

「あー、あれだろ?スカウトマン」

アーサーの質問にエールを飲みながら言うと、アーサーはスカウトマン?…と繰り返す。

「そう!すごい人数だったよ!」

「スカウト………なんの?」

「クランのね」

頷き言うアリアは興奮しているようだ。
アーサーはまだ分かっておらず聞き返すとイリアがあっさりと教えてくれる。

「新規ユーザー獲得して足りない職業埋めるって躍起になってるんだよ。僧侶はやっぱり人気らしいね」

クランが開始されて立ち上げる人がいる中、人数不足でメンバー集めに奔走するプレイヤーも多くいた。
また金が足りずに作れず人数だけ確保する人と始まりの街の噴水広場は人がごった返している。

サポート職、特に回復中心の僧侶は開始1ヶ月で大体どこかのパーティを入ってしまっている事が多いため僧侶不足。 野良僧侶は少ないのだ。
同じく、盾職や魔術師なども今は人気である。

だから、まだ始めたばかりの新規ユーザーであるプレイヤーを開始早々クランへと引き入れるのに躍起になっているプレイヤーは多くいた。
現れる噴水広場に、先にゲームを開始しているプレイヤーが待ち伏せして勧誘をしているのだ。

スイに話しかけていたのも、それが原因だった。


「なるほどなぁ…」

「でも、新規を囲ってもすぐには動けないだろうに。勧誘も出来て2人が限度だろ?」

イリアがそう言うと全員が頷ずく。 レベルが伴わないからだ。
弱いプレイヤーが多いとそれだけで強くなるどころかクラン自体が弱体化するだろう。
新規の方が多くなるのだから。

「今回で大きく4つがアップデート後に変更になってるからなー、 今後の公式イベントがどうなるか楽しみだ」

カンザキがニンマリと笑い言う。
まだまだ始まったばかりのAFO、 これから公式イベントなども沢山始まるだろう。

「ね!待ちに待ったアップデートだよー!ね、アーサー」

アーサーの腕に腕を絡めて体をくっつけるアリア。
嬉しそうに満面の笑みを浮かべるアリアに、歪んだ笑みを返したアーサー。
そんなふたりの指にはペアリングが光っていた。

「結婚システムねぇ……」

嬉しそうなアリアに、イリアは小さく呟いた。







今回のアップデートで新しくなったのは

・クランハウスとクランの実装

・新規ユーザーのレベル5になるまで死亡ペナルティの免除

・空腹ゲージの実装

・婚姻の制度の実装


クランハウスについて

プレイヤー同士でゲームを楽しく進める為に作られたクラン制度。
クランハウスが必須となり、 購入か借りるかは選ぶ事が出来る。
クランを立てることで様々な恩恵が得られる。
クランハウスを使用してのお店の経営や、 クラン単位で出来るクエストの出現など。



新規ユーザーについて

第1陣が既に作り始めているだろうクラン実装により、クランへの参入、移動などが今後多くあると予想される。
新規ユーザーがいち早くゲーム、及びクランに慣れる為の措置となっていてレベリングの手助けとしてLv5までは死亡ペナルティなしとなる。

空腹ゲージについて

ステータスに表示される空腹ゲージは時間経過と共に減少していく。
食べないとどんどん空腹が増してきて、 食事をしないと極限の空腹状態になる。
行き倒れ体力や魔力ゲージが減っていき、 死に戻りする。
定期的に確認して食事をとりましょう。

そして婚姻について

今回のアップデートで新しく追加された婚姻はゲーム内恋愛を楽しんでいるプレイヤーの為のものだ。
これは多くのプレイヤーからの希望があったため新しくアップデートされたもので、 婚姻の仕方至極簡単。
お互いにペアリングを付けて教会で誓いを立てる。

これだけである。

しかし、その恩恵はお互いの道具袋の使用
戦闘時、パートナーが非戦闘員や戦闘から外れている場合に限り、経験値の3分の1を受け取ることが出来る。

となっていた。
なかなかの恩恵である。
しかし、 ここで気を付ける事はこの婚姻が実装された事で不倫や浮気は犯罪となりペナルティの対象となることだった。
ペナルティと言っても、 不倫したプレイヤー2人からされたプレイヤーに金銭を半分渡し気の済むまでビンタが出来る、 というものだ。
もちろん離婚もできる。






どうやら、アリアとアーサーは婚約中らしい。
このアップデート後に落ち着いたら教会に行くとアリアは嬉しそうに笑い、ウエディングドレスとタキシード用意しなきゃ!とはしゃいでいる。
レンタルがあるのだ。
そんなアリアと現在温度差のあるアーサー。
リアルで翠に振られたためそんなにテンションを上げて喜ぶことが出来ず、イリアとカンザキはやれやれと首を振った。

「…………はぁ」

「なに?アーサーどうしたの?」

「…………なぁアリア……」

「うん?」

ニコニコと笑ってアーサーを見るアリアに、アーサーは困ったように笑うのだった。









翠、会いたいなぁ
ゲーム、してるんだろうか
一緒にやりたいんだよな


アリアの笑顔を見ながら、アーサーは翠の事を考えていた。


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