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珍念再び
しおりを挟む珍しく雪が止み、地面が見える日の事。
芽依は休憩と庭先にある 椅子に座り、テーブルには暖かな紅茶とパウンドケーキ。
見える位置にいるからと、今は1人タイムを楽しんでいたのだが、膝に感じる温もりに目線を下げる。
「まぁま」
「え、あれ? 珍念? 」
2月の害獣で来たばかりのイタチが芽依を見上げている。
芽依の庭に来たイタチのうち、1番芽依に懐いていた珍念。
相変わらずの坊主頭でにっこり笑っている。
「え、どうしたの? 」
両手で頬を挟んでモチモチとすると、きゃー! と楽しそうに叫んでから独特の笑い声を上げた。
ぎゃはぎゃは!と濁ったような笑い方が芽依の笑いを誘う。
「ふ……ふふ……かぁい」
モチモチしていると、嬉しいのか体をくねらせている。
「まぁま」
「なぁに? 」
「たべりゅ」
「お腹すいた? 」
「ん! 」
空腹で庭に来たのだろうか? と首を傾げながらパンを出すと、目をキラキラとさせる。
膝によじ登った珍念は、ジャムがたっぷり入ったパンに齧り付くと、口周りにべっとりジャムをつけた。
「………………かっわ」
くっ……と口を抑えるが気付いていない珍念はあむあむと食べ続ける。
箱庭からプロセスチーズを取りだし、5つコロリとテーブルに置くと、さらに目を輝かせてイチゴジャムがついた手を伸ばした。
すかさずおしぼりで拭く。
「開けてあげようか? 」
「やー、できる! 」
パンを芽依に持たせてチーズを開けようと四苦八苦する。
だが、珍念には難しかったようで、振り向き芽依に渡した。
「できれなぁぁぁい……」
「できれないかぁぁ、そっかぁぁ」
あー、かわい! と見ながらチーズを開けると、フェンネルが収穫したばかりのネギの箱を落としてこちらを凝視していた。
お、とフェンネルを見ると、ますます目を見開いていく。
「…………な、なんで……なんでイタチが?! メイちゃん?! 」
「遊びに来たみたいー」
「イタチが遊びに来るわけないよね?! どうやって庭に来たの?! 」
「おじゃましまーす、じゃない? 」
「いやいやいやいや!! 庭には侵入禁止の魔術が!! 」
「え? でも、2月の害獣でしょ? 」
勝手に入るよね? と言うと、フェンネルは倒れ込んだ。
「なぁんでぇぇ? どうなってるのぉ? 」
通常、2月の害獣はその時にしか現れない。
他は何処でどう生活しているのかは分からず、姿を変えているのか、はたまた眠っているのか生態は分からなかった。
そんな2月の害獣のイタチが、今芽依の膝に座ってチーズを貪っている。
これにはフェンネルの体の力が抜けて倒れ込むのも仕方がないだろう。
「ねえ、ほら。猫ちゃん」
「にゃんこー」
猫の形をしたチーズに目を輝かせる珍念が可愛い。
お腹に腕を回して、もっちゃもっちゃとチーズを食べる珍念の頭に頬を擦り付けた。
「あー、可愛い。ジョリジョリしてる、可愛い」
坊主頭に頬を寄せると、1ミリの髪がジョリジョリする。
痛いくらいのそれが、また可愛いのだ。
『………………頭いてぇ、なんだこの光景は』
同じく収穫して戻ってきたメディトークが頭を抱える。
可愛くチーズを食べる珍念は、チラリとメディトークを見るが、すぐにチーズに夢中になった。
「新しいうちの子、珍念です」
『違うわ、放ってこい』
「無理無理!! 」
こうして現れた珍念は、2月もすぎ3月になっても芽依の庭に頻繁に現れるようになる。
害獣襲来ではなく幼児らしい悪戯して遊び、芽依をまま、シュミットをぱぱと呼び慕う。
いつの間にか耳の長いウサギのぬいぐるみを持って現れる姿が日常に溶け込むようになった。
「まぁま」
「はぁい」
子供用カトラリーを握りしめ、子供用の食器を前に座る珍念はニコニコしていた。
ハラハラと振る雪の中、メディトーク特性お子様ランチを食べる珍念はとにかく可愛かった。
「やー」
『人参ちゃんと食え』
「人参やー」
『ほれ、食ったらプリンやるよ』
「………………たべりゅ」
ぱぱ不在が多い庭では、メディトークによる食育がなされている。
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