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カテリーデンでの家族たち
しおりを挟むご機嫌ななめのシュミットは、あれから仕事で移動をするまで芽依に構い倒されていた。
やめろ、と言葉では言うが本気で払い除けることはしないシュミットが座るすぐ足元に座り、組んだ足に腕を回している。
早朝の仕事を終わらせてきたフェンネルとハストゥーレが部屋に戻ってくると、軽く頭を叩かれ指を指すシュミット。
「謝ってこい」
「あ、はい」
パタパタと走りよりフェンネルとハストゥーレに頭を下げた芽依は、無言でチラリと腹部を見せて微笑むフェンネルに更に頭を下げた。
「あ……あははは……ごめんなさい」
無数の噛み跡や歯型が柔らかい腹部や腰にビッシリとついていた。
言ってしまえば、服に隠れた身体には、まだ歯型がついている。
よく見たら首にも着いていて、バタリと倒れた芽依。
「あの後も情熱的に僕を襲ってたよ? 」
「私、埋まりたい」
流石にやりすぎだと自分に引く芽依は、流れてくる髪の毛を集めて顔を覆い隠した。
そんな久しぶりの飲酒後の朝、相変わらず酒で失敗する芽依は全員に謝り噛み跡だらけのフェンネルを労わってからカテリーデンに行く準備をした。
噛み跡だらけなのに、相変わらず首元が緩い服を選ぶフェンネル。
奴隷紋は勿論噛み跡や、歯型がしっかりと着いていて、芽依は首元を隠せる服を持ってフェンネルの周りをウロウロする。
「ねぇ……こっち着よう……ね? 」
「え? 僕首元しまる服苦手だよ」
「知ってるけど……でも……ほら、新しいクラバットもあるよ」
「あ、それいいね! 次の夜会に使おうかな」
「…………あ、うん」
にっこり笑うフェンネルは、薄い水色のトップスを着ていた。
2枚重ねてきているように見えるデザインで、全体的にゆったりした服。
白色の多いフェンネルは何色も似合うが、淡い色は特に似合うと芽依は思う。
だが、今日はダメだと、ネックウォーマーは? と見せるが、それも首を横に振って拒否される。
「僕はメイちゃんのって、わかりやすくて良いでしょ? 」
「やめてぇぇぇぇぇ…………」
ニコニコで見るフェンネルに崩れ落ち四つん這いになる芽依。
どんな事でも芽依がしてくれるのは嬉しいフェンネルは、見せびらかせるように首元を晒す。
どんなに言ってもフェンネルは首元を隠すことなくカテリーデンに向かった。
「………………あああぁぁぁ、いたたまれないぃぃ」
ブースで販売準備している家族達と、メディトークの背中に張り付き落ち込む芽依。
それもそうだろう、カテリーデン入口からここまで来る間にフェンネルへの驚愕の視線はこれでもかと集まっていた。
恥ずかしがることもなく堂々と歯型を見せるフェンネルと、魂が抜けたような芽依。
そんな様子を見たら、犯人などすぐに分かる。
「メイちゃん、準備しないの? 」
『……重症じゃねーか』
「ううぅぅぅぅ」
「メイ様、私の背中に乗っても大丈夫ですよ? 」
「四つん這いで待機しないで?! 」
フェンネルの首元が凄いことになっている以外に特に変わりがない芽依達に、客や売り子が困惑していた。
聞いていいのかどうなのか、顔を見合わせる客達はメディトークが並べる惣菜に目を見開いた。
色々な新しい情報に頭がいっぱいになっている間に、芽依はメディトークから降りてフェンネルを見る。
「どうしたの? 」
「……ううん、なんでもない」
6種類の惣菜に、2種類の弁当。
全て出来たてを保っていて、暖かい物は保温カップに入っている。
ヨーグルトのカップよりも大きく惣菜サイズをメディトークはちゃんと探し出してくれている。
「…………まあまあまあまあ!! お惣菜?! 」
相変わらずのおば様が食いついてくる。
並ぶのは唐揚げにエビフライ、ポテトサラダ、煮魚にキンピラ、コロッケが並んでいる。
どれくらい売れるかが分からないから6種類を出してみて様子見である。
「今回からお惣菜も販売を始めました! お夕飯にいかがですか? 」
原材料もほぼ庭で用意出来るため、原価はかなり安くなっている。
その為、販売価格も抑えて購入しやすい金額を提示。
惣菜自体を売っている場所が無いため、他を気にして金額設定をする必要がないのだ。
この世界に来る前、一人暮らしで家事能力の無い芽依はコンビニ弁当やスーパーの惣菜に大変お世話になっていた。
勿論自炊をする方が安いのは当たり前だから、芽依のお給料は大体酒と食べ物で大半が消えていた。
だからこそ、安価提供で芽依は惣菜販売をしたかったのだ。
それは、この世界に来て庭を持ちカテリーデンで販売を始めた当初からの目標だった。
「ずっと、ずっと販売したかったんです。やっと夢が叶いました」
目を細めて嬉しそうに笑う芽依。
ベールで隠れているが、その嬉しそうな姿は誰もがわかるものだった。
自動販売機にも、今日から惣菜が並んでいて、既に売れ行きが上々。
手を組んで喜ぶ芽依の隣にいるフェンネルが笑って芽依の腰に腕を回す。
ん? とフェンネルを見ると、蕩けるような眼差しを向けられた。
「良かったね、メイちゃんが来た時からずっと作りたかったもんね」
「ね、嬉しい。みんながいないと出来ないものだから」
芽依の希望を全員で現実にする今、この世界に来る前では考えもつかなかった。
家族が増えて、素直に甘えられる人が傍にいる今を芽依は噛み締める。
「メイ様、売り始めますか? 」
惣菜始めました、メディさんレシピうまうまご飯!
と書かれたポスターをパピナスが貼りながら聞く。
今日もふくよかなお胸を晒し、ボディラインがわかるドレスを着たパピナスが微笑んで芽依を見る。
マーメイドラインのドレスの裾を足で捌いて歩くパピナスの動きは優雅で、その立ち振る舞いは人間の気品とはまた違う上品さがある。
「メイ様、こちらは如何しましょうか? 」
新しく作ったコーンスープは保温カップに入っていていい香りがする。
カップも暖かく、触ると冷えた手がじんわりと温まっていき、香りと温かさで心が解ける心地だ。
「うん、これはまだ試作段階だから売り物じゃないよ」
「あ、申し訳ありません」
「ううん、一緒に置いてたから。ごめんね」
売り物にしては個数が少ない。
味や濃さ、中に入る具材や量など少量ずつ作っている。制作段階だ。
どれも美味しいが、メディトークからのいい反応がでない。
「あとでお腹すいた時に飲もうね」
芽依がにっこり笑ってパピナスに言うと、嬉しそうに笑った。
基本的に飲食禁止ではあるが、小腹がすいた時や水分補給は許可されている。
座ってしっかりお弁当を食べるのはダメだが、パン等をササッと食べるのは大丈夫なのだ。
だから、芽依特性肉まんやチーズマンを堂々と食べる。
線引きが緩すぎないか? と思わなくもないが、人外者も多く出入りするカテリーデンに締め付ける規則はいらない。
『それなぁ、4種類あるから食べ比べしてみてくれや』
「はーい」
ちょうど芽依にフェンネル、ハストゥーレにパピナスがいる。
4種類食べれるだろう。
4人でどれ食べようか、と楽しそうに話す姿を客や、売り子はフェンネルの噛み跡なのか、新しい惣菜なのか、試作品のコーンスープなのか、はたまた、たわわなパピナスのお胸なのか。
注目する物が多すぎて情報量に頭がパンクしそうになっていたのだった。
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