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個人の自由という名の押し付け
しおりを挟む害獣についてや、終わったあとの3月の販売状況の予想や対策をして会議は終了した。
オルフォアに変わってから、いらない時間を全て排除している為会議も早く終わる。
庭関連の移民の民が集まり、害獣対策に必要な物品や購入薬液、その個数や、何が出るかの予想をする為に話し出した時だった。
ティアリー厶が近付き話しかけてくる。
「あの、庭で色々作っている方達ですよね? お話があるのですが」
ピンクのドレス姿が様になっているティアリー厶は、握りしめる手に力を入れていた。
全員が振り向きティアリー厶を見る。
豊かな茶色の髪は美しく普段から手入れが行き届いているのがわかり、一般人じゃないのかな……と今更ながらに考えた。
「あの、害獣が来たら市場が高騰して領民が大変なんですよね? だから、3月は皆さん無料配布という形にしたら如何でしょうか? 飢える人が居ては困りますし、沢山作って豊かにしていけばいいわ! 」
当然のように言うティアリー厶に、芽依だけじゃない全員が剣呑な表情をする。
その理由がわからないティアリー厶は首を傾げた。
「勿論、わたくしも出来ることは手伝います。皆んなが幸せなドラムストを目指すのはとてもいい事だわ」
ふふ……と笑うティアリー厶を見てから伴侶のガーリオンを見ると疲れ果てていた。
既に制御不能で、無理やり押さえつけた時には悲鳴を上げて怯えるので、どうにも出来ないとお手上げ状態のようだ。
「……やりたいなら自分でやってね。私たち慈善活動じゃないから。簡単に沢山作るって言っても、害獣で庭はめちゃくちゃになるし、収穫量だって多いわけじゃないわ」
庭を作る女性が、呆れながら言った。
それにキョトンとするティアリー厶。
「え? ええ、ですから勿論わたくしも指示を出して動きます! 」
「…………指示? 」
「これでも経営には自信があります! 以前はジュエリーショップを三店舗経営していましたから。大丈夫ですよ」
胸を張って言うティアリー厶に疑心暗鬼になっているなか、芽依はもしかして……と口を開く。
「……もしかして、貴族? 」
「そのとうりですよ。よく分かりましたね」
うふふ、と笑うティアリー厶は、ティアリー厶・メイトスと言う伯爵令嬢だった。
広大な領地を持つ伯爵家の娘で、父を見て育ったティアリー厶は領民は守るべき民草として常に支援するべきだと思っている。
だが、実際に父がしている仕事や、守られるために民が何をしているのかまでは考えない生粋のお嬢様だったのだ。
綺麗な服を着て、周りからかしずかれる。時には伯爵よりも位の高い爵位の令嬢や令息に頭を下げて自ら名乗るティアリー厶。
彼女の言葉は誰もが聞いてくれた。
それは彼女が伯爵令嬢であり、使えるべき主の娘だから。
やりたいと言ったジュエリーショップも、実際は別の人がしっかりと管理していてティアリー厶は良いところだけを見ている、ご令嬢なのだった。
だから、必死に庭を作り生活費を稼ぎ、時にはアリステアに献上している庭持ちの大変さもわからないし、ティアリー厶が言うのだからするのが当然と思っている。
芽依は、なるほど……と頷いた。
様々な貴族はカテリーデンでも見てきた。
中には外見や中身で芽依の大切な家族を迎え入れる我儘を言う令嬢や令息も見てきたのだ。
それに酷似しているティアリー厶。
「…………良し、無視だ」
こういう考えの人には、同じ場所で生きる人にしか話は合わない。
だが、ティアリー厶は異世界に来て伯爵令嬢という自分の存在意義を失った。
彼女が芽依達の所まで落ちてきて、足を泥で汚すような生活をするようにならなくては、まともな話は出来ないだろう。
そして、貴族でもない彼女にこの世界の貴族は見向きもしない。
移民の民としての価値としてしか見ないだろう。
ガーリオンの手を取った時点でティアリー厶のこの世界での立ち位置は既に決まっていたのだ。
芽依は完全にティアリー厶から顔を背けていた。
だが、ハストゥーレの小さな声が聞こえて振り向くと、シュミットの時のように手を握られている。
芽依は、今駄目なのだ。ハストゥーレに手を出すのはいけない。
「まてメイ、まて」
「大丈夫だよ、ほらシュミットが助けてる」
ゴボウを出して振りかぶる芽依をメディトークとフェンネルにより止められた。
すぐにシュミットによって芽依の隣にきたハストゥーレの胸に顔を埋めて抱き着くと、慌てるハストゥーレが抱き締め返している。
「…………どうしたの、なんかあった? 」
「うん、ちょっとねぇ」
いつもよりも敏感に反応する芽依に、ユキヒラがフェンネルに聞くが、縛りの魔術で内容は話せない為、言葉を濁す。
しかし、全員が芽依やハストゥーレに気を使っているのは見ていてわかる。
「…………まずは、皆さんのお庭を見させていただき、それから……」
「え? いやよ。私部外者を自分の敷地に入れるの許可してないから」
「え? 」
「あなた、何同然のように全員従うと思ってるの? 」
「だって……そうした方が絶対いい……」
「だからね、個人の自由だから貴方は好きにしたらいいのよ。施したいならどうぞお好きに。でもそれに私たちを巻き込むような迷惑はやめてよね」
断られるなんて思ってもみなかったのだろう。
メロディアを呆然と見ている。
そして、目が合ったフェンネルの方にふらりと近付くと、小さく何かを呟いたフェンネルとティアリー厶の間に透明な壁が出来た。
「えっ……」
「来なくていいよ、僕、君に興味も関心もないから。僕はメイちゃんだけのものだから、他人の言う事なんか聞かないよ」
ハストゥーレにしがみついている芽依の頭を撫でるフェンネルに、ティアリー厶は気付かないほどに顔を歪ませた。
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