美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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パール公国、復興への第1歩

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 夜間を通して芽依に伝える事なく監視のために起きていたメディトーク達3人は、同じベッドで抱き合って眠る芽依とハストゥーレを見てため息を吐いた。

「……心配していたのが馬鹿らしくなるな」

「アホずら晒しやがって」

「まあ、安心して良いんじゃない? 」

 眠っていて意識のないハストゥーレが無意識に動き出すことも無い。
 ハストゥーレの人格の陰に隠れて誰かが潜んでいる可能性も無さそうだと、穏やかな寝顔を見せるハストゥーレを見て3人は安堵した。

「しかし、今後はメイを食うのか」

「ハス君……上手に食べれるかなぁ」

「昨日はほぼ器の状態に近ぇからメイの中の何かがハストゥーレと認識しなかったんだろう。次からは痛みはねぇだろうな。メイにしてもハストゥーレにしても……お互いが好きならなおのこと」

「あれだけ取り乱してハス君を呼び戻したんだもん……好き以外ないよね、メイちゃん……ねぇ、僕でも同じ事してくれた……? 」

 頬を撫でながら言うフェンネルの手を、眠っていた筈の芽依が掴む。 
 そのまま口元に持っていき、唇に当てたまま話し出した。

「そんなの、当たり前でしょ? フェンネルさんだって、メディさんだってシュミットさんだって……同じ状況になったら何度でもするよ」

「やめろ阿呆」
  
「お前は学習能力がねぇのか! 」

「いたっ!! 」  

 メディトークによって頭を鷲掴みされ痛がる芽依の隣で、目を覚ましたハストゥーレが無意識に守るように、芽依の腰に腕を回して軽く引き寄せる。
 お……と目を丸くすると、ポヤポヤしていたハストゥーレが目を見開いた。
  
「す……すみませっ……」

「かーわーいーいー天使っ!! 」

「あっ……」

 ガバリと抱きつき押し倒す芽依。
 支えきれず倒れたハストゥーレは、芽依の肌に触れないように手を空中で泳ぐようにフラフラと動かす。
 パッと離れて、倒れているハストゥーレの上で馬乗りになりながら輝かしい笑顔を浮かべる芽依。

「おはよう、だいすき! 」

「………………恥ずかしいです」

 恥ずかしさに真っ赤に染った顔を両手で覆い隠すハストゥーレ。首まで色が変わっている。
 そんな可愛い様子だが、フルリ……と身体を震わせた芽依は、ハストゥーレの手首を掴んで無理やり顔から離した。
 
「……見せて、可愛い」

「…………ごしゅじん……さま……」

「…………うわぁぁぁぁ、おはようのちゅーしたい」

「少しは煩悩を隠せ」

 シュミットが、頭を抱えて言うと、へへ……と笑う。

 抱き着いていた体を離してから、ハストゥーレの腕を掴んで引っ張り起こそうとするが、全く動かない。
 細身な体だがやはり男なのだ、ハストゥーレは。

「…………うぐぐぐ……」

「あっ……ご主人様……起きますので……」

 両手を掴まれて起き上がれないハストゥーレ。
 更には足にも芽依が座っているから余計に起きれないのだ。
 困惑しながら話し掛けるハストゥーレに、でれっと笑み崩れる。

「……どうしよう、ハス君がいるのが幸せでたまらないの」

「まあ、昨日あんなの見ちゃったらね。わかる! 」

「わぁ! 」

 フェンネルも飛び掛ってきて、白い髪と緑の髪が混ざり合いサラサラと揺れるているのを見る。
 そこにはいつもの幸せな朝の様子が変わらずあった。



「よし、みんな来たな」

 昨日はパール公国の城に泊まった芽依たち。
 ハストゥーレとアウローラの体調を見る為にドラムストに帰ることなく一日置いて様子を見る事になった。
 起床後モダモダと話をしてからパーシヴァルの執務室に行くと、既にセルジオ達は集まっていて芽依待ちだったようだ。

 今パーシヴァルの執務室にいるのは芽依達とセルジオ達昨日のメンバー。
 魔術師や騎士の人達の半数は先にドラムストに帰り事の顛末をアリステアに報告する事になった。
 この人達は他の貴族たちの抑止に駆け回った人達なので、ハストゥーレの反魂の魔術は知らない人達だ。
 
 今回の隊を引き連れているセルジオの指示に従い縛りの魔術を受けた魔術師に騎士たち。
 本来ならアリステアの指示を受けなくてはいけないのだが、指揮する最高位精霊がそれを認め、その周りの高位人外者やパール公国の王族が認めた事に否とは言えない。
 なにより、ニアからの漏らせば殺す……という圧が凄まじい。
 元よりこれが仕事だから仕方ないのだが。
 天使様なニアが、この時ばかりは堕天使に見えた芽依である。

「まずは、昨日はパール公国の事に巻き込んで済まなかった。ティムソンのしたことは……許される事では無い。アウローラ……すまなかった」

 少し回復してミカの隣にいるアウローラにパーシヴァルは深々と頭を下げた。
 それにミカが繋いでいる手に力を込める。

「…………いえ。ミカを守り続けてくれてありがとう。私にはそちらの方が重要だったわ」

「アウローラ……」

 ミカが眉尻を下げてまだ傷跡が残っているアウローラを見上げた。
 にっこり笑って見てくるアウローラに胸がギュッとなっているのか胸元を握りしめている。

「今後は、父王を主軸にパール公国復興に立ち上がろうと思う。そちらの……シュミット様、から買い受けた薬で劇的に体調は改善している。今は俺が代わりに動くが、後々には……」

「……そうか。アリステアも安心するだろう」

「セルジオ……支援や今回の兵についても……本当に助かった。父王に変わり感謝を」

「……アリステアに伝える」

「日を空けてではあるが、礼をしに行かせてもらう」

 セルジオにも深々と頭を下げ、そして芽依達を見た。
 こちらには何も言わず、ただ静かに頭を下げる。
 言葉には出来ないからだ。

「パール公国はこれから復興か……」

「上は腐りきってる……骨が折れるな」

 聞けばティムソンにうまく踊らされていた国の中枢や貴族は、王の体調不良は暗躍する為の偽装と伝えられ、現状を上手く利用しパール公国を潰そうとしていると話していたようだ。
 あと数日遅かったら、王を弑逆する為に動き出す所だったという。
 そこには、パーシヴァルも含まれ反魂の為にミカは拘束する予定だったとか。

 1番良い状態での救出だったようだ。

「状況の整理をしてから、アリステアの事だ復興の手伝いを言い出すだろうな」

「…………助かる」

 ふっ……と息を吐き出して言う疲れた様子のパーシヴァルは、ハストゥーレの前に立って、両手を引っ張り背中からハストゥーレが抱きしめる位置でくっつく芽依を見る。

 昨日のハストゥーレの衝撃が抜けきらない芽依が、ハストゥーレの体温を感じるように傍にいるのだ。

「…………今すぐの支援っていりますか? 私には食事提供くらいしか出来ないけど」

「ああ……凄く助かる」

 自ら言う芽依にメディトークとシュミットがチラリと見る。
 そんな視線を受けて二人を見た芽依は、ハストゥーレの手を強く握った。

「無条件で縛りの魔術を受けてくれたからね、少しは役にたとうかと。これには感謝しかないから」

 誰か一人でも否と言ったらハストゥーレはここには居ない。
 ニアに粛清されてただろう。
 例え高位の人外者に囲まれ否が言えない状態だといっても、心の底から感謝してる。
 だから、芽依にできる賛辞をこの形に変えて。 



 こうして、パール公国の復興が開始した。
 賢王と言われていた王は、病床に伏しているとはいえ、みるみるうちにパール公国の内情を変えていく。
 芽依からの絶えない食料支援が続き国民は落ち着きを取り戻したことにより、体調が戻り次第ミカとアウローラによる庭作りが再開する事になった。
 元々人任せだった公国民は、王の自国のことを他国の移民の民に任せるのか! という鶴の一声で重い腰をあげた。
 海が近い為塩害を受けやすい庭に効率的な食を探る為に芽依が走り回り調べる事数日。

「塩害に強い作物をセイシルリードさんに確認して貰ったら、以外と葉物野菜が良さそうです。あと、特産になりそうなのがきのこ類。傘の大きな大ぶりのきのこが、かなり昔だけど特産としてこの場所で栽培されていたらしいですよ。パール公国が出来る前らしいです。えっと、土作りはこちらから蛟を貸し出します。巨大な……蛇? なんですけど、庭の土を栄養満点でふかふかにするので良いお庭が出来ますよ。パール公国の現状を伝えたら庭の範囲や場所を厳選して作り直した方がいいかもって言ってました。当面はこの地方の担当さんに来てもらって実際に見てもらった方が良いとの事でした。食材関係が他国からの輸入一辺倒なので、今後は自給自足から他国に販売出来るくらいに発展させるように、と言っていました」

「…………そうか」

 王の私室で、芽依とメディトークは椅子に座り静かに報告する。 
 通常だったらミカがするべき事だが、アウローラの事を鑑みて芽依が変わりに走り回った。
 ミカが手に入れたかった情報をいとも簡単に集めた芽依に顔を俯かせていたが、これは仕方がない。 
 庭関連マスターが芽依の傍にはいるのだ。しかも複数人。
 すぐさま相談出来るセイシルリードも夫のそばに居るブランシェットも、地域が違うなか、話を聞いてくれる。
 芽依は本当に環境に助けられていたのだ。

 パール公国の問題にぶつかりアウローラがいないミカに出来ることは限られていた。
 むしろ、良く動いた方だ。

「よく、調べてくれた。ありがとう」

 あまり話していないからか、しゃがれた声が優しく響く。
 初めて会った時は、体を起こす事すら出来ないくらいだった王は、クッションに体を預けて座っている。  
 毒物が体から排出されて、体が軽くなったと話していたようだ。
 力強く戦場を駆け抜けていた王は弱り人外者が離れた事で著しく寿命を減らしたが、それでも今は生命力に溢れているように見える。気力があるのだろう。

「パーシヴァル、国民はどうだ? 」

「さらに支援が届き、食料供給に不安感が無くなった為皆穏やかさを取り戻しています」

「…………そうか」

 ふっ……と息を吐き出した王の疲れを感じ取ったパーシヴァルは、隣に行きクッションを外して横にさせる。

「…………今までもこれからも、世話をかけるな」

「何言ってるんだ……親子なんだから当然だろ」

「……親子、か」

「どんな経緯でも、俺はあんたの子供だ。そうだろ」

「………………ああ、そうだな」

「もう寝ろ」

 バサッと乱暴に布団をかけるパーシヴァル。
 ティムソンが抜けた穴は今、パーシヴァルが埋めて動き回っている為まだしっかりと話し合いがされていない親子はギクシャクしていた。
 長らく会うことすら出来なかったのだから仕方ないのだが。
 だが、時期にゆとりが出来るだろう。
 体調が戻り、酒を酌み交わしながら夜に話す時間が来るまであと少し。

 こうして、復興への第1歩を踏み出したパール公国。
 
 ドラムスト以外の他国には、今まで通り不作による国内の乱れからくる内乱が起きそうだったが、ドラムストの援助により回復傾向と伝わった。
 担当の庭販売員が直接見に来て、復興に力を貸したことにより、少しずつ庭から作物ができるようになる。
 大ぶりのきのこが出来るまでもう少し掛かるが、様々なきのこ栽培が成功。 
 葉物野菜も上手くでき始め、まだ輸入に頼り切りではあるが作る魅力に取り憑かれ始めたパール公国の国民は楽しそうに庭へと向かっているという。

 肝心の国の中枢はといえば、王やパーシヴァルへの不信感はなりを潜めているが、何を考えているかわからないようだ。
 この状況で復興などうまくいきようがないと、辛い体をむち打ち立ち上がる王。

 パール公国の様子を知った離れていった人外者達が続々と戻り始め、さらにきのこ好きや葉物野菜好きな人外者が集まり王を支持し始めた。 
 彼は、人を集め動かす素質がある。
 兵を率いて勝利を幾度となく収めたのだ、それは当然の事だった。
  
 多数の人外者に支えられ、加護を受けた王は反乱分子となりえる人を追放。 
 そこから劇的にパール公国は生まれ変わった。

 小さいながらも豊かなきのこの特産地となり、他国からの購入が後を立たなくなる。
 庭を広げ、対応に苦心しはじめたころ、上位の人外者も集まり国造りはさらに上手くいき人外者に愛される国へとパール公国は変わっていく。

 そこまでになるまでまだ数年が掛かるのだが、それに至るまでドラムストや芽依たち、そしてミカとアウローラの支援が絶え間無く続くのだった。
 
   
 
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