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口裏合わせ(挿絵あり)
しおりを挟む部屋の片隅で、ハストゥーレは鎖に繋がれていた。
小さく体を縮こませて押さえつけられている芽依を見ている。
「なんて無茶をしやがる……本当に! もしハストゥーレじゃなかったらお前も危ねぇし、俺達はハストゥーレの体を斬っていたんだぞ!! 」
「……ごめんね」
「ごめんねじゃないの! 粛清対象になるんだよ!なんって危ない事するの! だめっ!! 」
「もう大人しくしてくれ……」
三者三様に芽依に叱りつける家族たち。
しゅんと小さくなる芽依の肩や腕の様子を見て手当をするシュミット。
エグれている肩や腕、そこから溢れる花の香りはいち早くベールを掛けられ遮断された。
真っ白な包帯が、芽依の体を覆っていく。
そして、まだ完全に安全ではないハストゥーレは隔離されている。
同じ室内にいるが、隣には鎌をハストゥーレに向けているニアが立っていて一切視線を外さない。
(挿絵はイメージです。 黒服で髪も隠れているのに、何回作ってもならなかった……)
「…………いや、まさかだろう」
パーシヴァルが頭を抑えてため息を吐き出す。
あれ程止めようとしていた反魂を別の人物が気付かない間にあっさりと実行しているのだから。
しかも、限りなく成功に近い。
「…………ご主人様……」
「ハス君! 」
「だから、そっちに行っちゃダメだって! 」
「今から調べるから少しまて」
立ち上がる芽依の襟を掴んで動きを阻止するシュミット。
このまま放置も出来ないし、普通なら問答無用でハストゥーレは粛清されている所だ。
だがしかし、やはりニアにも思う所がある。
それなりに仲良くしていた。粛清屋として私情を持ち込むのは言語道断だし、それをしない為に人との付き合いを遮断しているのに、ニアは芽依達と懇意にしている。
だからこそ、この現状に苦心していた。
「…………そうだな、まず……森の妖精ではなくなってる」
シュミットとメディトークがハストゥーレの前でしゃがみ体内のさらに奥を見るように観察を始めた。
「…………森と収穫の妖精……収穫付けんなよメイ」
「いや……えぇ……」
「多分……山菜系が採れやすくなるんじゃないか」
「山菜系……今ないなぁ」
「増やそうとすんじゃねぇ」
静かに座って眉尻を下げているハストゥーレがメディトークやシュミットを見ている。
「魂に変わりは無いだろう。だが……そうだな、1度離れた体に無理やり戻しているから定着がちゃんとされていない」
「どうしたらいいの? 」
「………………」
芽依の質問にハストゥーレを含む家族達は口を閉ざした。
言いたくないとでも言うように。
しかし、答えを待ってる芽依の視線に負けたのはフェンネルで。
「…………定着の為に食べさせたでしょ」
「え? あぁ……」
「……あと数回か数十回か……したら……定着するよ」
「なるほど……ハス君どーぞぉ」
「どーぞぉじゃねぇ! ハートを飛ばすな!! 」
「よくわかったね……」
ビックリしながらメディトークに言うと、深いため息を吐かれた。
「……そうだな、定着が足りない以外は今までのハストゥーレと変わりはない……ことも無いか。位が上がってるな上位に近い中位だったのが俺たちに限りなく近付いてる」
「……………………」
シュミットの言葉にニアは静かに鎌を降ろした。
そして芽依を見てから全員を見る。
「……僕からの提案」
「ん……? 」
「まずは、ハストゥーレを粛清す」
「だめ! 」
「…………るか、そこのと同じく監視対象とするか。色々と規格外なんだけど、反魂で本人が蘇った症例がほぼないから……データ収集に来るかもしれないけど」
「少年……」
「但し、危ない様子があったらすぐに粛清するよ……ハストゥーレが死んだ時にいた人数が少ないから出来る事。縛りの魔術で全員の口を縫うことになるけど……いい? 」
「こっちはかまわねぇよ」
すぐに返事をするメディトーク。
ハストゥーレが生き残れる道があるなら、それにかけるしかない。
メディトーク達だってハストゥーレを死なせたい訳では無い。
安全性がクリア出来たなら今まで通りに過ごしたいのだ。
そんなメディトークをハストゥーレが見上げた。
「…………こちらは助けられたからな、文句は言わないが……あー……たまに貸してくれねぇか? 」
「誰が貸すか!! 」
「……じゃあ、口を縫ってこの話は口外禁止とするよ」
元々居たのはセルジオにミカにアウローラ、パーシヴァルに公王、そして庭の家族達とさらに減らされた数人の魔術師と騎士だけ。
助けられた公王も、悩みに悩んでから頷いた事で、全員が縛りの魔術を受けた。
ハストゥーレが死亡後、反魂により蘇った。
それによる全ての情報漏洩を禁止するという内容で、本当に魔術の糸で口を縫われた。
すぐに糸は溶けて口は自由になったが、その後ハストゥーレに関する内容が話せなくなり、上手く口が回って嘘を真実のように話すのだ。
これで筆記にしても何にしても伝える事が不可能となった。
「………………私の事で煩わせてしまい申し訳ありませんでした」
鎖をジャラリと鳴らしながら頭を下げるハストゥーレにやっと全員がホッと息を吐き出し体の力を抜いた。
ハストゥーレは反魂の術を使われて疲れもあり疲労感をにじませながら謝罪を述べる。
こんな奇跡的な事が続くなんて……と身体を震わせるハストゥーレを見て、フェンネルがおもむろに近付き、見上げるハストゥーレに手を上げた。
パァン! と頬を打つ音に室内は静まりかえる。
「………………フェンネル様」
「僕だってね……僕だって死んだなんて信じたくなかった! メイちゃんを守る為だし、動けなかった僕が言うのは矛盾してるけどハス君が死ぬのは僕だって許さないからね! 君に武器を向ける僕達の気持ちも考えてよ! 」
「ご……ごめんなさ……」
「……心臓が止まるかと思ったじゃねぇか」
「帰ったら傷の手当てをすぐにするからな」
はぁ、とシュミットが頭をガシガシとかいて言うと、芽依もにっこりする。
「奥さんが無事で良かったねぇ」
「嫁じゃない」
はぁ……とため息を吐いて呟いた。
たぶん、疲れていたのだろう。
「嫁ならお前を貰う」
「…………お……おぉ、突然のデレ……襲った方がいい? 」
「その前にお前は反省しろ! 」
バシンと叩かれた芽依はメディトークを涙目で見上げて小さく謝ったのだった。
「……僕が担当だった事に感謝してね」
ニアの言葉に芽依はハッとする。
そもそも来たのがニアでなかったら、ここに芽依もハストゥーレもいない。
無表情ながらほんわかとしているニアに、芽依は音も立てずゆっくりと土下寝をする。
土下座じゃ、足りない。
「ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁ…………私の天使ぃぃ」
「こんな時くらい真面目にやれや!! 」
「ハス君、体調は大丈夫かな? 」
「はいご主人様」
「よかった」
「…………痛くは、ないですか? 」
深夜、既に寝静まった室内で芽依はハストゥーレに声を掛ける。
本当はハストゥーレと芽依を同室にするのも反対されたが、皆がいることを条件に同室で寝る事にしたのだ。
芽依はハストゥーレのベッドに乗り上げ、まだ眠っていないハストゥーレに話し掛けた。
ハストゥーレの少し冷たい指先が芽依のえぐれた肩や腕に触れる。
包帯の上からも、ボコボコしているのがわかった。
「痛くないよ……どうなってるんだろうね、もう肉が盛り上がってきてるの」
えぐれた肉は盛り上がり晒されていた骨ももう見えない。
すこし血が混じる肉々しく生々しい腕は不思議と痛みは無いのだ。
「…………信頼する相手から食べられる時、痛みはないのです。そして、伴侶に食べられ人外者の力を上げる為になのか移民の民の体は……元に戻るのです」
「…………わぉ、ゾンビかな。まあ、ハス君の為なら腕だろうが足だろうが目だって全部あげるよ……全部、食べていいよ。約束、守るから」
「……ご主人様……」
「繋ぎ止めていられるなら、いくらでも食べて」
「………………大好きです」
「うん、私も」
「次からは痛くありません……怖い思いをさせてすみませんでした」
「……いいの。痛くても怖くても……帰ってきてくれてありがとうね」
ギュッ……と暗い部屋の中で抱きしめ合う2人の密やかな会話を眠るふりをして布団に入っている3人が静かに聞いていた。
長かった一日が、これでようやく終わった。
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