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箱詰めとお疲れのシュミット
しおりを挟む「んー、可愛い」
ブンブンと雪玉をホームランする雪だるまが描かれているカップに色とりどりのゼリーやプリンが輝いている。
プルンと揺れるゼリーに艶やかなプリン。
この日限定の牛乳プリンが大放出されてちょっとだけフェンネルの特別が削られ不機嫌な様子。
牛乳プリンだけじゃなく、トロトロカフェオレプリンもあって芽依の眼差しは狩人のようになっているがメディトークの厳しい眼差しがつまみ食いを防止していた。
「お前の分は丼で作ってもらうか? 」
「丼は茶碗蒸しがいい」
「………………マジかよ」
まさかの返しにメディトークはポカンとして、フェンネルが笑っている。
芽依の隣に来て腰に腕を回して隣に立つフェンネルが耳元で囁いた。
「僕が作ってあげようか……いっ!! 」
「近い」
いつの間にか帰宅したらしいシュミットがフェンネルの頭を軽く叩く。
そしてコートを脱ぐシュミットの前に立って両手でコートを預かるハストゥーレ。
「おかえりなさいませ」
「ああ」
濡れたコートを預かり微笑むハストゥーレの圧倒的妻感に芽依はバタリと倒れる。
「なにこれ、可愛い……尊い……ありがとうございます」
「…………なにしてるんだ」
眉を寄せてネクタイを緩めながら見下ろすシュミットを見上げる。
下から見るシュミットの少し冷ややかな眼差しに、くっ……と胸を抑えて親指を立てた。
「ネクタイ緩めながらの冷たい眼差しもイイ……」
「阿呆が」
そう言いながらも脇の下から腕を通して持ち上げソファに座らせるシュミットをにっこり笑って見上げる。
「ありがとうございます、おかえりなさい」
「……家族の前でのぐでり具合は予想以上だな」
ポン……と頭に手を置き、ただいまと言ってから芽依の隣に座って足を組む。
ぽふっ……と音を立てて寄りかかりシュミットの腕に腕を絡めると、メディトークがチラリと見てきた。
その手にはカフェオレボール。
カフェオレプリンとはまた味が違う完全に芽依の好みに寄せられた非売品。
「メディさんアーン」
「自分で食えよ、甘えた」
そう言いながらも、口の中に入れてくれるメディトーク。
噛み砕いた時に溢れるカフェオレの美味さに酔いしれると、唇についたカフェオレを指先で拭ってくれた。
鋭い眼差しに見つめられ、芽依はツイ……と視線を外す。
「………………いや、自分で拭くし……」
「……あ? なんだよ照れてんのか? 」
「っ!……そういうのは! 蟻の時にして!! 」
「…………ぜってぇ、嫌」
「っ!! 」
ニヤリと笑ってからパッケージに詰める作業に戻ったメディトークを真っ赤にした顔で睨み付ける芽依。
すぐさま膝立ちになり、シュミットの緩められた襟元を引っ張って首筋に噛み付いた。
「おまっ……照れ隠しに噛み付くな! 」
「んー!! なんか! 悔しい!! 」
「なにがだよ……おい! 」
ソファに押し倒して馬乗りになりシャツを脱がそうとする芽依を抑えるシュミット。
それを生暖かい眼差しで見るフェンネル。
「あー、客観的に見るとあんな感じなんだねぇ」
「…………私はまだ噛まれていません」
「よしよし」
箱詰めをしながら、ボタンを外そうとする芽依を抑えるシュミットを見る3人。
フェンネルで耐性がついているため、誰も慌てないし熱烈な告白をした芽依だからこそ、まあ、そうだよね。くらいの感覚。
明らかにおかしいのだが、誰も何も言わない芽依達の独特の空気感である。
「……お前な」
「……わかってたけど、シュミットさんは筋肉質……おー、凄い……」
はだけたシャツから見える筋肉に覆われた胸元を凝視した芽依は、遠慮なしにムニッと胸元を両手で触る。
それを見てショックを受けるのはフェンネルだ。
フワフワボディのフェンネルには一切筋肉がない。
モチモチと肌質を楽しむ芽依だが、シュミットは張りのある筋肉質で、これはこれで好きだ……とサワサワする。
「……これだけで酒がいける」
「撫で回すな、やめろ」
諦めたようにソファに頭を預けて、はぁ……と髪をかきあげる。
そんな様子をメディトークは小さく笑ってからシュミットに悪魔の囁きをした。
「メイが気に入ったら常に狙われるから気をつけろよー」
「……………………はぁ」
サワサワサワと撫で回す芽依の頭をグイッと胸に押付け阻止すると、今度は頬擦りする。
その温かさと体にかかる重みに次第にシュミットの瞼が下がってくる。
それに気付いたハストゥーレが毛布を持ってきて、そっと芽依に触れると、起こさないように静かに離れた。
「……寝ちゃったね」
「2日間仕事で飛び回ってたんだろ。寝かせてやれ」
「うん。おやすみなさい」
シュミットの頬を優しく撫でると、暖かな毛布がシュミットの体を覆う。
ハストゥーレと顔を見合せて笑いあってから芽依も箱詰めに戻ったのだった。
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