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パール公国と取引について
しおりを挟むメディトークに抱えられて雪崩込むように庭に入ってきた芽依たち。
庭先に出してあるテーブルにパソコンを置いて眺めながら煙草を吸うシュミットは、顔を上げた。
「…………なんだ、随分早かったな」
ふっ……と吐き出される水色の煙に思わず見とれる。
良い香りが芽依まで届き、ふらりとシュミットの側に寄っていき手を伸ばすと軽く叩かれ煙草を芽依から離された。
「煙草……吸うんですね」
「たまにな……で、どうした。随分早くないか? 」
「うん、常連客からパール公国の情報が持ち込まれてね。ちょっと……まずいねぇ」
「………………公王の事か? 」
まだ手を伸ばす芽依の腕を抑えながら煙草を吸う。
1回吸ってみたい、良い香りがするからこの世界なら害はない筈! と持論を持ち出す芽依を押さえつけてメディトークを見る。
『何か知ってるのか? 』
「最近仕入れたばかりの情報だがな。それ関係で仕事を持ち込まれたことがある」
フーッと芽依の顔に煙を吹きかける。
水蒸気のようなもので害はなく、ただ花のような香りの風が掛かっただけだった。
ちょっとむせ込みつつも、やはり煙草を見ている芽依。
あれ程慌てていたというのに、今ではシュミットの煙草に興味津々である。
メディトークが芽依の襟首を掴み引っ張ってプラン……と手足を揺らしている。
たまにわざとプラプラと揺すられているが、上手に持っているため苦しくは無い。
『どんな情報だ? 』
「仕事については言えんぞ」
『………………』
取引をする仕事だ、守秘義務は大切だからこそ簡単に情報を吐いたりしない。
睨み合いになっていると、ハストゥーレが芽依の揺れる手を心配で握りながらシュミットを見る。
「シュミット様……パール公国はドラムストと国を通しての直接的な関わりはありませんが、アリステア様を含めご主人様も協力をしております。もし何がありましたらご主人様にも火の粉が降り掛かってしまいます……どうか……」
潤む眼差しに見つめられ眉を顰める。
可愛さが振り切れている真剣なハストゥーレの隣には揺れる芽依がいて、いまいち集中出来ない。
「…………何を言っても仕事についての漏洩は無理だ。なにより、何を聞きたいんだ? 抽象的で何を知りたいのかわからん」
「…………ティムソンさんが何をしたいのか、とか? 」
いきなり本質を言ってきた芽依をシュミットは煙草を吸いながら見る。
目を伏せてから、空に向かって煙を吐いた。
「…………ああ、それの事か」
さも知っているといった反応に3人がシュミットをじっと見る。
「知ってるの?! 」
「まあ……情報も武器だからな。それは知っているよ。今のところドラムストに脅威はない。もし……お前に何かがあるなら……流石に放置はしないけど」
プラプラと揺れている芽依を見てから視線を外したシュミット。
情報の宝庫。
シュミットをそう呼ぶ人は一定数存在する。
様々な取引に使われる商品に関わる情報を世界各地から集めているシュミットは様々な出来事を頭に蓄えているのだ。
そんな情報すらも商品とするシュミットは芽依たちをじっと見ていた。
「……あ、シュミットさん。じゃあ、取引先として情報を買うって言ったら? 」
「まあ、及第点だな」
ニッと笑って足を組んだシュミット。
肘置きに腕を乗せ、その指先には少し短くなった煙草が挟まり煙が揺らいでいる。
芽依も満足そうに笑った。
「スペシャル肉まん沢山作るね」
「…………足りないな」
「じゃあ、応相談で」
「狡い支払いの仕方覚えるなよ」
小さく笑ってから庭の玄関の方を見ると、ピンポーン……と響くインターホン。
ハストゥーレがメディトークに確認するように見ると、ひとつ頷かれたので玄関へと向かっていった。
「シュミット、誰が来るかわかんねぇからコイツ抱えてろ」
ペイッと投げ捨てられた芽依は、座っているシュミットの膝に着地したのを確認してから玄関に向かうメディトーク。
シュミットは、放り投げられた芽依を片手で支えて煙草を吸う。
そんなシュミットを見上げ、また煙草に手を伸ばすと今度はフェンネルに止められた。
「そんなに欲しいなら、ほら、これあげる」
渡されたのは煙草の箱によく似たものだった。
首を傾げながらフィルムを外してパコっと開けると、煙草によく似た何か。
「……よく似たのを私知ってる」
煙草によく似た形の駄菓子だ。
ポキッと折れるそれは見た目が白いのにカフェオレの味がした。
流石に見知った駄菓子とは違い、口の中で折れたその駄菓子はまるで綿飴のように溶けていった。
「うっわ、うま」
「色んな味があるよ」
苺にチョコレートに、マスカットでしょ? と指折りながら教えてくれる。
フレーバーは豊富らしい。ちょっと気になるなぁ……と思いながら新しいのを取り出して指に挟んでみる。
そして、シュミットの口元に差し出すとお菓子を引き抜き箱にしまわれた。
「…………外で何やってるんだ」
「あ、じゃあ次はシュミットさんのお部屋でします」
「そうじゃない」
はぁ……とため息を吐いたシュミットにフェンネルは楽しそうに笑う。
シュミットに慣れてきたら、その性格ゆえに人前での触れ合いを極力減らそうとしているのが分かり何だか面白くなってしまう。
本当は構いたくて仕方がないのだろう。
小さな抵抗で、芽依の腰に回っている腕は解かれることはない。
「…………やっぱりメイちゃんって罪作りだよねぇ」
「私は極悪非道ではありません」
「ほぉ……襟を血まみれにするくらい噛み付くやつが極悪非道ではないと……? 」
「え、なにそれ詳しく」
サッと顔を逸らした芽依を楽しそうに見ているフェンネルの頬にとりあえず噛み付く事にした。
※雷刃様の煙草風景の案を頂きました。
ありがとうございました!
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