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冬篭りの準備と休日の過ごし方
しおりを挟むカナンクル前後で豪雪が続くと、次に来る春は遅く、豪雪が定期的に来ると言われている。
その為、冬篭りの準備が前倒しになり、売上が例年よりも倍増する。
大振りで新鮮、旨味の強い商品を数多く出す芽依は、ただでさえ常日頃から売上はうなぎ登りなのだ。
この冬篭り用販売は余るくらい準備しても良いだろう。
箱に敷き詰められた野菜をどんどん収納していく。
魔術によって時間が停止出来るので痛む事はないし、冬篭り販売についてはメディトークとハストゥーレ2人がかりで全ての商品に時間停止の魔術を掛けるサービスもしている。
普段よりも長く置かないといけない商品だからこその手間暇である。その分、多少は割増料金。
「……あれ、シュミットさんなにしてるんですか? 」
チーズマン騒動から1時間後、セルジオに送られて庭に来た芽依は豪雪で何も出来ない為に冬篭りの準備をしているメディトーク達に合流する。
室内で広げすぎないように箱に丁寧に詰め込み重ねていっているのだが、シュミットはそれを数えて膝に置いているパソコンに入力している。
「…………聞いたが、売上の確認や在庫管理は全てメディトークなんだろ? なら、それは俺がやるから」
家族に迎え入れられ、別の仕事もしているシュミット。
なのに、なんでもないように在庫管理をすると言うシュミットに芽依は驚き手を止めた。
簡単に言うが、広い庭にある全てを数日で把握管理するのは無理があるだろうと芽依は首を横に振った。
「え、シュミットさん別に仕事もあるし、売上も把握して管理って途方もないですよ?! 」
「……まあ、大丈夫だろ。元々在庫管理は得意だし、後々仕事は縮小するつもりだしな」
「えっ……いいんですか? 」
「………………数日居ないだけで誰かさんが泣き喚くから仕方なく」
チラリと芽依を見てニヤッと笑うシュミット。
数日前、少し遠くの場所で商談があった。
さらに学校での教材納品で4日程庭をあけた事があったのだが、それに芽依が酷く拗ねた。
帰宅した瞬間しがみついて泣きわめき腰にぶら下がっていた芽依の後ろには疲れきったメディトークたち。
シュミットは早々に芽依を連れて自室に引き篭ると、仕事をする為パソコンを立ち上げた。
床に柔らかなクッションを置き、寄りかかりながらパソコンを打ち込むシュミットの膝に芽依が割り込み、乗り上げ仕事の邪魔をする。
ちょい……とパソコンのキーボードを触ろうとする芽依を向かい合わせに座らせて直し、シュミットはそのままパソコンを打ち続ける。
そうすると、目の前に真剣な表情で仕事をするシュミットがいるから、芽依は幸せそうにしがみついてみたり、髪を触ったり頬に触れてみたり。
居なかった4日間を堪能していたのだった。
ちなみに、居ない間の4日間はメディトーク達が犠牲になりずっと絡まれていた。
メディトークにしがみつき、背中に乗り上がり酒が欲しいと叫ぶ。フェンネルに襲いかかり噛みつき庭にフェンネルの悲鳴が響く。
ハストゥーレの頭を抱えて撫でくりまわして、パピナスの暴力的なお胸に合掌。
パピナスは嬉しそうにいくらでもどうぞ……と顔を赤らめ服を脱ごうとしてメディトークに後ろから頭を叩かれていた。
メフィストにはいきなり部屋に行き、外に出ろ! 日光浴!! と嫌がるのを無視して無理やり外に引っ張り出し、サエを抱きしめ振り回してゼノを困らせた。暴君である。
大好きな人が庭から居なくなり数日開けるのは初めてだった。
人外者の相手を束縛したいといった感情が如実に現れ、でも、仕事を理解している芽依が止めるのもおかしい。
芽依のわがままでシュミットの自由を奪いたいわけではないと、芽依は首を振る。
「…………あの、庭に縛り付けたい訳じゃないんです。好きな事をして欲しいんです。ちょっと荒ぶりますけど、我慢して欲しいわけじゃなくてですね……」
しどろもどろに言葉を紡ぐ。
明らかに芽依の言動からの結果なわけで、申し訳なくて仕方がない。
「いや、俺もそばを離れすぎたと思ったからな」
数を数えるシュミットの隣にしゃがみこんでいる芽依の頭を軽くポンと叩くシュミットに真顔になる。
「え、なにそれかっこいい、好き」
「はいはい」
そんな2人を箱詰めしながら見ていたフェンネルがむぅ! と頬を膨らませている。
「何あれ! 堂々とイチャイチャしてさ! かっこいいって言われて! ずるい!! 」
フェンネルはやはりシュミットにはピリピリしやすい。フェンネルは圧倒的に可愛いと言われる事が多いのもプリプリと怒る原因でもある。
だが、それはただの可愛い嫉妬でメディトークに渡された牛乳プリンでコロリと機嫌を良くした。
「…………単純で可愛いヤツ」
メディトークがクックッと笑ってフェンネルの頭をひとなでする。
長い髪は邪魔だと呟くと、緩く結びだしたハストゥーレ。
艶やかな黒髪を綺麗に結ぶハストゥーレの笑みに芽依は思わずよろけてシュミットに抱きついた。
「…………ラッキーすけべをした」
「そういうのは口に出すな」
呆れて芽依を見る紫色の瞳を見返して、うふっと笑う。
大好きな人達に囲まれた仕事のない休日だったはずの1日。
だが仕事人間が集まれば、それでも何かしら動き出す忙しない人たちだ。
元社畜である芽依も、それに習って動いてしまうのだがら仕方がない。
「こういう日の娯楽ってないよね」
「娯楽……な。向こうの世界では何してたんだ? メイが好きなやつってなんかあんのか? 」
振り向いて芽依を見るメディトークに、ん? と首を傾げる。
「え? おさ……」
「酒以外な」
「……………………」
先に釘を刺され閉口する。すでに予想されていたのだろう。
芽依の空いた時間は酒を嗜む以外して来なかった。
社畜なので、空き時間は飲むか寝るかしか時間は取れなかったのだ。
休日? それは学生時代ですか? である。
「…………仕事してからはめっきり遊んだりとかしなくなったなぁ……日付が変わる頃に帰宅とかざらにあったからどこかに行って遊ぶ暇なんて無かったし。お酒飲んで寝てって感じだよね。たまの休日も疲れて寝ちゃうかお酒か……」
抱きついたまま言う芽依を見下ろす紫色の瞳。
シュミットだけじゃなくて、全員が芽依を見ていて、え? とシュミットから離れた。
「な、なに? 」
「………………メイ。来年は色々行くか」
「え、どうした急に」
メディトークが真剣な顔をして芽依を見ると、シュミットはパソコンを机に置いて何か検索をしていて、フェンネルが隣から覗き込む。
ハストゥーレも、メディトークの隣で真剣に芽依を見るが、鋭い雰囲気を醸し出すメディトークの隣にいたら、ただただ可愛いだけである。
「転移なら遠くでも行けるだろ」
「慰安旅行でゼノ達も呼んでキリスラディアの温泉とかもいいんじゃねぇか? 」
「箱庭で庭を監視出来るから助かるよね」
「メディトーク様達がいらっしゃる庭に不法侵入をする強者はあまりいないかと」
「そりゃそうか」
色々案を出す4人を芽依はポカンと見る。
「え……何突然」
「お前、こっち来てから庭にいるかカテリーデンと領主館の往復ばかりだろ? 流石に飽きねぇか? 」
「メディさん達がいて飽きるなんてあるの? 」
「………………相変わらず、お前は……」
はぁ……と息を吐き出すメディトークにシュミットが苦笑する。
可愛らしいフェンネルとハストゥーレは言葉通りに受け取りテレテレとしていた。
「メディさん達がいれば、どこでも楽しいし、庭の作業も1日だって同じ事はないんだから。刺激があっていつも楽しいよ」
「…………欲がねぇな」
「欲だらけだよ?! 」
絶対みんなを離さないし、美味しい物好きだし、お酒浴びるほど飲みたいし、ドレスだって綺麗だと思うし……と指折りながら言葉を続ける芽依を困ったように笑って見る大人組ふたり。
メディトークとシュミットの良く似た眼差しが優しく注がれていた。
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